兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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131 スキャバーズ

 

 セブルス・スネイプが姿を現した瞬間、室内の空気が張り詰めた。

 ハーマイオニーは悲鳴を上げ、ハリーは飛び上がり、ブラックは即座に立ち上がって敵意を剥き出しにする。

 

 

「暴れ柳の根元でこれを見つけましてね」

 

 

 セブルスは、杖をまっすぐリーマスの胸元に突きつけたまま、透明マントを床に投げ捨てた。ハリーは拳を固く握りしめ、奥歯を噛みしめる──自分が落としたせいだ。

 

 

「ポッター、なかなか役に立ったよ。感謝する……」

 

 

 セブルスの顔には、勝利の色が浮かんでいた。目はブラックに釘付けで、興奮を抑えきれない。

 リーマスは冷や汗を浮かべながら、この場をどうやって収めるべきか思考を巡らせていた。

 

 しかし、セブルスはそんなリーマスの考えを読んだかのように一歩彼に進み寄り、杖先から威嚇するように火花を散らした。リーマスの額に、嫌な汗が流れる。

 

 

「我輩がどうしてここを知ったのか、諸君は不思議に思っているだろうな?

君の部屋に行ったよ、ルーピン。今夜、例の薬を飲むのを忘れたようだから、我輩がゴブレットに入れて持っていった。持っていったのは、まことに幸運だった……我輩にとってだがね。君の机に何やら地図があってね。一目見ただけで、我輩に必要なことはすべてわかった。君がこの通路を走っていき、姿を消すのを見たのだ」

 

 

 得意げに喋るセブルスを前に、誰もが息を呑んだまま動けずにいるなか、ノアだけは違った。

 

 セブルスの語り口に、ノアは一歩引いた場所からじっと目を細める。──冷静ではないな、と一目で見抜いた。いつも冷ややかな彼が、今は歓喜に満ち、昂揚を隠そうともしない。

 よほど、リーマスとブラックへの憎しみに燃えているらしい。

 

 

「セブルス、」とリーマスが何か言いかけたが、セブルスはまるで聞こえなかったように話し続けた。

 

 

「我輩は校長に繰り返し進言した。君が旧友のブラックを手引きして城に入れているとね。ルーピン、これがいい証拠だ。いけ図々しくもこの古巣を隠れ家に使うとは、さすがの我輩も夢にも思いつきませんでしたよ──」

「セブルス、君は誤解している」

 

 

 リーマスが切迫詰まったように言う。リーマスは何故今ここにブラックがいるのか、誰が犯人なのかを説明したかった。しかしセブルスは自分の言葉に聞く耳を持たない。──リーマスは何かこの場を収めるきっかけはないか、と視線を巡らせた。

 

 ──その視線の先に立っていたのは、ノアだった。

 

 ノアは手を背に組んだまま、リーマスの必死な視線を受けるとひとつ瞬きをして、しばらく黙った。その後「まぁいいか」と言うように表情を変えると小さく頷き、静かに言葉を差し込んだ。

 

 

「セブルス先生」

 

 

 その瞬間、空気が変わった。

 セブルスの視線が、リーマスからノアへと移動する。怒りと狂喜の残滓を宿した目が、ノアの若い顔を鋭く見下ろす。

 

 だが──ノアはまったく怯まなかった。

 にこり、と柔らかな笑みを浮かべ、あたかもこの場の全権を握っているかのように、悠然と続けた。

 

 

「セブルス先生。残念ですが間違ってます。シリウス・ブラックは俺のペットだったんで、城に堂々と紛れ込んでましたよ。話、どこから聞いてました?」

「──……何?」

 

 

 セブルスの眉が僅かに動いた。

 興奮に支配されていた思考が、ノアの声に、言葉に──わずかに撹乱される。いつもより乱れた呼吸が、上下していた肩が、ゆっくりと落ちる。

 

 ノアは一歩も動かず、ただその場に立ったまま、柔らかく落ち着いた声で続けた。

 

 

「ほら、手配書と比べて小綺麗だし、健康的でしょ? いやぁ、ダンブルドア先生もシリウスと会ってたんですけど、気づかなかったんですよね。セブルス先生も、廊下で見かけなかったですか?シリウスは、かなり頻繁に寮から脱走──一人で散歩してて」

 

 

 セブルスは黙った。

 確かに、セブルス自身もシリウス──ノアの犬が一人で歩いているのを何度か見かけていた。苦情があればすぐにダンブルドアに報告するつもりだったが、あの犬は生徒達から友好的に受け入れられていた。ノア・ゾグラフのペット、という肩書きがあるからだろう。と深く考えていなかったが、今思えば教師全員が、シリウス・ブラックを目の前にして気付かなかったのは──少々問題ではないだろうか。

 

 

「まあ、俺も気付かなかったんで仕方ないですよ」

 

 

 笑いながら言い、ノアは一拍置く。

 

 

「それに──」

 

 

 言葉を止めたその一瞬。

 セブルスは苛立ちながらノアを見下ろし、視線で「なんだ」と問うていた。ノアは目を細め愉快そうに焦らす。

 

 そんな二人を見て、リーマスとブラックは目を見張った。あのセブルス・スネイプが、ただ一人の少年の言葉に耳を傾けている。それも、誠実とは言い難い言葉遣いで、彼は、セブルスが本来嫌悪する人種であることは間違いないはずだ。しかし、セブルスの態度は──ノアを対等な関係として認めているようだった。

 

 ハリーとロンとハーマイオニーは、ノアがセブルスにも遠慮せず他者と同じように話しかけると知っているため、それほど驚きも困惑もない。──何せ、セブルスは一時的にノアの後見人だったのだ。

 

 

「──今からクライマックスですよ。……セブルス先生は、誰がハリーの両親……ジェームズとリリーを殺したのか、知りたくありませんか?」

 

 

 その一言で、スネイプの顔が凍った。

 眉間に深い皺が刻まれ、ノアを睨むその目は、怒りとも苦しみともつかない感情で濁っていた。

 

 ノアはわかっている。──セブルスにとって、リリーは特別な存在だと。だからこそ、あえてこの場で名前を出したのだ。

 

 ハリー達全員が、学生時代の愚かな悪戯が原因でシリウスとジェームズの事を憎んでいるのだと思っている。だがノアだけは、全てを知っていた。セブルスの願いも、悲劇も、──愛も。

 

 

 部屋に静寂が落ちた。

 セブルスの感情が乱されたのは確かで、ノアはそれを見逃さない。

 

 

「今まで聞いた話をまとめると、リーマス先生とブラックはロンのネズミのスキャバーズが、ピーター・ペティグリューのアニメーガスだと思っているそうです」

「くだらん」

 

 

 セブルスは吐き捨てた。だが、杖先が僅かに迷うように下に逸れていた。

 

 

「そうですか? 俺は、あり得る話だと思いましたけどね。シリウス・ブラックは俺のペットだった。……なら、ピーター・ペティグリューがロンのペットだったとしても不思議じゃない」

 

 

 ノアはゆったりとした動作で、部屋の中央に一歩踏み出した。立ち位置が変わる。それだけで、場の空気もまた移り変わるようだった。──この場を支配しているのは、間違いなくノアだった。

 

 

「そういえば、ブラックはなんでスキャバーズがピーターだと思ったんだ? アズカバンに居たはずなのに」

 

 

 ノアは部屋の中央で手を後ろで組んだままくるりと振り返り、不意にブラックを見た。

 ブラックはセブルスを警戒したままノアを見る。

 

 そういえばそうだ。何故ブラックはスキャバーズの事を知ったのか──それは、ブラックを信じているリーマスも疑問に思っている事だった。

 

 ブラックは彼らの視線を受けたままローブの中に片手を突っ込み、皺のよった紙を一枚取り出した。皺を伸ばし、ブラックはそれを突き出してみんなに見せた。それは去年の夏、日刊預言者新聞に載ったロンと家族の写真だった。ウィーズリー一家は幸せそうに笑っている。──ロンの肩に、家族のような顔をしてスキャバーズが乗っていた。

 

 

「去年、アズカバンの視察に来た時ファッジがくれた新聞だ。ピーターがそこにいた。……一面に、この子の肩に乗って……俺はすぐにわかった。……こいつが変身するのを何回見たと思う? 写真の説明には、この子がホグワーツに戻ると書いてあった……ハリーのいるホグワーツへと……」

 

 

 ブラックの目がハリーの方へ向く。ハリーはまだブラックの言葉を信じられず、ただ居心地悪そうに視線を逸らした。

 ノアは新聞の写真を見て納得したように頷くと──ふと、思い出したように口にした。

 

 

「なるほど。……俺の住んでた孤児院に来たのは偶然?」

「ああ。……ホグワーツに行く前に、ハリーを一眼見た後、暑さから逃れようと、偶然──ノア、君のことは知っていた」

「え? そうなんだ」

 

 

 ノアは意外そうな顔をした。どこで知ったのだろうか、アズカバンにも自分の名が広まっているのか、と首を傾げていると、ブラックは低い声で笑った。

 

 

「二年ほど前、アズカバンに来ただろう」

「ああ! 仕事のやつか。へぇ、気付かなかったなぁ」

 

 

 アズカバンでプロモーション撮影をした時のことを思い出す。あの時、牢屋にはたくさんの囚人がいて、皆が等しく汚れ痩せていた。ノアは誰がブラックだったのか分からなかったが、ノアが出した守護霊に反応した囚人こそが、シリウス・ブラックだったのだ。

 

 ノアは納得したが、今ブラックが自分のペットになった経緯の詳細は話さずとも良いだろうと思い直し、視線をブラックからロンへ向けた。

 

 

「それで──ロン。スキャバーズって、何歳だっけ?」

 

 

 突然話を振られたロンは、「えっ!?」と間の抜けた声を上げた。それでも、ノアの柔らかな視線に促され混乱する事なく、スキャバーズを両手で抱えたまま、必死に記憶を辿る。

 

 

「た、たしか……十二歳くらい……」

 

 

 ロンは答えた瞬間、息を呑んだ。

 自分の言葉が、何を意味しているかに気づいたからだ。今まで長寿なのはよく世話をしたからだと深く考えていなかったが、今この場では、その十二年という歳月は異なる意味を持つ。

 

 

 十二年。

 部屋の空気がガラリと変わる。リーマスとブラックは確信をもってスキャバーズを睨み、セブルスでさえ、暗い目でロンの手の中にいるネズミを凝視している。

 

 

「でも、それは、僕たちが丁寧に世話をしたからで──」

「ロン。──もう役者は揃ってる。そろそろ答え合わせの時間じゃないか?」

 

 

 ノアの酷く優しい声が部屋に響く。

 スキャバーズがキーキーと叫びながら、いっそう暴れ、ロンの手を引っ掻き出した。

 

 

「スキャバーズは、ただのネズミだ! そ、そんなことしたら、その──何か──」

「大丈夫だって。スキャバーズが本当にただのネズミなら魔法を受けても何の影響もないはず」

 

 

 ノアはロンの元に近づく。そのまま、にっこりと笑って手を差し出した。ロンはそれでも躊躇していた。──信じたくない、認めたくない。スキャバーズは、十二年間家族だったんだ。

 

 

「でも──ブラックが、秘密の守人だったって、あの時、三本の箒で──」

「──そうだ!」

 

 

 ロンが苦し紛れに言った一言に、今まで流れを見守っていたハリーが弾かれたように声を上げた。

 

 

「ブラックが秘密の守人だったんだ! ブラック自身が、ルーピン先生が来る前に、僕の両親を殺したと言った!」

 

 

 ハリーはブラックを指差した。

 全員の目がブラックを見る。ブラックはゆっくりと首を振り──酷く後悔を滲ませた。目には、うっすらと涙を湛えて。

 

 

「ハリー……俺が殺したも同然だ」

 

 

 かすれた声。

 その弱さに、ハリーは一瞬、言葉を失う。

 

 

「最後の最後になって、ジェームズとリリーに、ピーターを守人にするように勧めたのは俺だ。ピーターに代えるように勧めた……俺が悪い。

 たしかに……二人が死んだ夜、俺はピーターのところに行く手はずになっていた。ピーターが無事かどうか、確かめにいくことにしていた。──しかし、ピーターの隠れ家に行ってみると、誰もいなかった、しかも争った跡がない。不吉な予感がして、すぐ君のご両親のところへ向かった。そして、家が壊され、二人が死んでいるのを見た時──俺は悟った。ピーターが何をしたのか、俺が……何をしてしまったのか」

 

 

 シリウスは唇を震わせ、顔を背けた。

 ハリーの口元もまた、震えていた。

 

 

「嘘だ……」

 

 

 小さな声が漏れる。信じたいものと、信じたくないものの間で揺れていた。

 

 

「ハリー、嘘かどうかはすぐにわかる」

 

 

 ノアの声は優しかった。

 それでも、情けは微塵もなく、ロンとハーマイオニーは肩を震わせた。

 

 ノアはリーマスとブラックとセブルスを順に見ながら指を立て、ロンに何気なく向けた。

 

 微かに微笑み、手のひらの中に持っているものをゆっくりと見せるように、ノアは指を綻ばせる。ロンは「あっ」と小さな声を上げた。自分の指が、自分の意思とは関係なく動き開いていく。ノアは目を細め口角を上げると、指を折り、スキャバーズを引き寄せた。

 

 スキャバーズは見えない手に摘まれているように宙に浮かんでいた。ノアの手が柔く手繰り寄せるたびに、ふわふわと、部屋の中央へ移動する。スキャバーズは激しく鳴き喚き、毛が散り、目は飛び出すほどに見開かれていた。

 

 

「大丈夫。スキャバーズには痛みも苦しみもない。ただのネズミならな。

──さて、誰が解除しますか? リーマス先生? セブルス先生? それとも、ブラック?」

 

 

 三人の視線が、同時に宙に浮かぶスキャバーズへと向けられた。

 リーマスは迷うようにブラックを見やり、ブラックは黙って立ち上がった。

 セブルスは一度、忌々しげにブラックを睨んだものの──次の瞬間、ほんの半歩、身を引いた。彼らが不審な動きをしないか鋭く観察し、杖を下すことはなかったが。

 

 

「じゃ、ブラックは俺の杖を使えばいいよ、リーマス先生が持ってるし」

「ああ……」

「シリウス、三つ数えたらだ。ノア、数えてくれるかい?」

「いいですよ」

 

 

 リーマスとシリウスは進み寄り、杖を強く握った。ハリーとロンとハーマイオニーは混乱しつつも、固唾を飲んで見守る。

 後数秒で、全てが白日の元に曝け出されるのだ。

 

 

「いきますね──」

 

 一拍の間。

 

「いち──」

 

 空気が凍りつく。

 

「に──」

 

 ブラックとリーマスが杖を構える。

 

「さん!」

 

 

 ノアの場違いなほど楽しげな明るい声が合図となり、ブラックとリーマスは杖を振り下ろした。青白い光が二本の杖からほとばしり、スキャバーズは一瞬、動きを止めた。

 

 小さな黒い姿が激しく捩れ、ロンが叫び声をあげた。──ネズミは床にボトリと落ちた。もう一度、目も眩むような閃光が走り、そして──。

 

 それは、木が育つのを早送りで見ているようだった。頭が床からシュッと上に伸び、手足が生え、次の瞬間、スキャバーズがいたところに、一人の男が、手を捩り、後ずさりしながら立っていた。

 

 

 

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