兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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133 ハリーの選択

 

「はっきり言って、ピーター、なぜ無実の者が、十二年もネズミに身をやつして過ごしたいと思ったのかは、理解に苦しむ」

 

 

 リーマスが感情の起伏を示さず言った。

 

 

「怖かった!」ペティグリューが叫ぶ。

 

 

「怖かった!シリウスがいつ、殺し損ねた私を殺しにくるか──怖かった!」

 

 

 ペティグリューは巧妙に、狡猾に嘘はつかなかった。真実は吐かない、吐けない。しかし嘘もつけない。その狭間で、ペティグリューは必死に逃げられる言葉を探していた。

 

 

「は! お前は俺から逃げてただけじゃないだろう?」

 

 

 シリウスが嘲笑を含んだ声で割り込んだ。

 

 

「十二年間、ヴォルデモートの元仲間からも逃げていたんだろう。アズカバンの囚人たちが、お前をどう思っていたか知ってるか? 寝言でも聞こえたよ。『裏切り者がまた裏切った』ってな」

 

 

 ペティグリューが顔を引きつらせる。

 

 

「ヴォルデモートはお前の情報でポッター家を襲った。そして敗れた。だが、残された仲間たちは全員が捕まったわけじゃない……まだあちこちに潜んでる。時を待ってる。悔い改めたふりをしてな」

 

 

 言葉の刃が一段と鋭くなり、ペティグリューを、空気を切り裂く。一歩、また一歩とブラックがにじり寄るたびに、ペティグリューは尻をついたまま這うようにして後退した。

 細い肩が震え、汗まみれの手が床板に指を滑らせる。

 

 

「もしそいつらが、おまえが生きてると知ったら……どうなると思う?」

「な、何を言ってるのか……」

 

 

 ペティグリューはキーキーと喉を震わせたが、誰が聞いても明らかに虚勢だった。

 ブラックが持つ杖先がペティグリューの心臓を捉えたまま離さず、バチッと鋭い火花が散った。

 

 

「ならはっきり言ってやろう。俺は──シリウス・ブラックは、一度だってヴォルデモートのスパイだった事はない」

 

 

 何よりも強い、確かな意志が込められた言葉だった。

 ブラックが堂々と胸を張る。誇るように、皆に見せつけるように。その言葉を告げた瞬間、彼の口元と喉元を皆が見つめた──針は現れなかった。

 

 

「わ、私は……私は──」

 

 

 ペティグリューは引き攣ったように声を絞り出すが、それ以上の言葉にはならなかった。

 

 

「さあ、ピーター。お前の番だ」ブラックは口の端に歪んだ笑みの形を浮かべ、じわじわと追い詰める声で言った。

 

 

「おまえがスパイだということを、なぜ初めから見抜けなかったのか。迂闊だった。おまえはいつも、自分の面倒を見てくれる親分にくっついているのが好きだった。そうだな?

かつてはそれが我々だった……俺とリーマス……それにジェームズだった……」

 

 

 悔しげに呟くシリウスに、ペティグリューは「正気の沙汰じゃない……」と呻きながら脂汗を拭った。

 

 

「ジェームズとリリーが、おまえを秘密の守人にしたのは……俺の提案だった。完璧な目眩ましになると思った。ヴォルデモートはきっと俺を追う。おまえのような弱虫の、能なしを利用しようとは夢にも思わないだろう。……ヴォルデモートにポッター一家を売った時は、さぞかし、おまえの惨めな生涯の最高の瞬間だったろうな」

 

 

 唇を噛みしめるシリウスの眼差しが、炎のように揺れ、空気が一層重くなった。

 

 ペティグリューはうわごとのように、「バカバカしい……狂ってる……」と繰り返していたが、その視線はしきりに窓や扉へと逸れていた。

 

 その挙動を見ていたハリーの隣で、ハーマイオニーが恐る恐る声を上げた。

 

 

「……ルーピン先生。質問、いいですか?」

 

 

 「どうぞ、ハーマイオニー」と、リーマスが丁寧に答えた。

 

 

「スキャバーズ──いえ、この人は、三年間もハリーと同じ寮の同じ寝室にいました。『例のあの人』の手先なら……どうして、今までハリーを傷つけなかったんでしょう?」

「そうだ!」

 

 

 ペティグリューが血走った目で叫んだ。指の欠けた手で、まるで助け舟にすがるようにハーマイオニーを指差す。

 

 

「ありがとう! リーマス、聞いたかい? ハリーには一度も危害を加えてない! そんなことをする理由はあるか?」

「理由を教えてやろう」

 

 

 冷たく切り返したのはブラックであり、リーマスに視線を向けていたペティグリューは顔を引き攣らせ恐々とブラックを見た。

 

 

「おまえは、自分の利益にならないことは絶対にやらない。それだけだ。十二年間、ヴォルデモートは死んだも同然だった。そんな奴のために殺しなんかしない」

 

 

 言葉の調子が、低く、重くなる。

 

 

「おまえは──『あの人』が復活して、また安全に仕える見込みが立つまで、ただ隠れてただけだ。魔法使いの家族に潜り込んで情報を得るために。何かが変わればすぐに寝返れるように……そうやって、また逃げ道を探していた。それだけのことだ」

 

 

 ペティグリューは言葉を失っていた。何度か口を動かすが、もはや喉が音を発することさえ忘れてしまったようだった。

 それは、間違いがなかったからだ。否定もできない、だから、ペティグリューは何も言うことができなかった。

 

 

「あの、ブラックさん──シリウス?」

 

 

 ハーマイオニーがおずおずと声をかけた。

 

 ブラックはわずかに肩を揺らし、驚いたようにハーマイオニーを見た。まさか、先ほどまで怯えていた彼女がこんなにも丁寧に自分の名を呼ぶとは思っていなかったのだ。

 

 

「お聞きしてもいいでしょうか? ど──どうやってアズカバンから脱獄したのでしょう? もし闇の魔術を使ってないのなら」

「ありがとう!」

 

 

 すぐさま、再びペティグリューが飛びつくように声を上げた。激しく頷きながら、ハーマイオニーに向かって叫ぶ。

 

 

「そのとおり! 私もそれを──」

 

 

 だが、リーマスの鋭い視線が彼を黙らせた。ペティグリューは口をつぐみ、リーマスとブラックの影に怯えて沈黙する。

 

 シリウスは一瞬だけ顔をしかめたが、ハーマイオニーの質問自体には不快を示さなかった。ただ、その答えを、自分自身もまだ探しているような瞳をしていた。

 嘘を吐くつもりはない。だが、どのように伝えれば良いのかわからなかった。

 

 

「自分でも、どうやって抜け出したのか、はっきりとは分からない」

 

 

 言葉を選びながら、ブラックはぽつぽつと語り始める。ノアはその語り口に耳を澄ませながら、ほんのわずかに表情を緩めた。

 

──ただの脱獄の話ではない。

 ここにあるのは、魂の底に残った信念の話だ。

 

 

「俺が正気を失わなかった理由は唯一つ、自分が無実だと知っていたことだ。これは幸福な気持ではなかったから、吸魂鬼はその思いを吸い取ることができなかった……しかし、その想いが俺の正気を保った」

 

 

 その声には重みがあった。時折、喉を詰まらせながら、それでも彼は語る。

 

 

「その思いだけが、俺の力を保たせてくれた……だからいよいよ……耐えがたくなった時は……俺は独房で変身することができた……犬になれた。

吸魂鬼は目が見えないのだ……連中は感情の匂いで人を探る。……でも、犬になると、俺の感情は人間のものじゃなくなる。単純で、曖昧で……。それで奴らは混乱した。俺が正気を失った、と片付けて、見逃した」

 

 

 ブラックが喉を詰まらせながら言うたびに、ハリーたちは目を見開き、ペティグリューは小刻みに震えた。だがノアは、ただ静かにその姿を見つめていた。

 

 

「だが、それでも弱っていた。……杖無しには連中を追い払うことはできないと、とても諦めていた……。そんな時、俺はあの写真にピーターを見つけた。ホグワーツでハリーと一緒だということがわかった。……闇の陣営が再び力を得たとの知らせが、ちらとでも耳に入ったら、行動が起こせる完璧な態勢だ……」

 

 

 ペティグリューが微かに震える。だが視線はブラックから逸らせず、まるで催眠にかかったように黙り込んでいた。

 

 

「味方の力に確信が持てたら、とたんに襲えるよう準備万端だ……ポッター家最後の一人を味方に引き渡す。ハリーをさし出せば、やつがヴォルデモート卿を裏切ったなどと誰が言おうか? やつは栄誉をもって再び迎え入れられる……だからこそ、俺は何かをせねばならなかった。ピーターがまだ生きていると知っているのは俺だけだ……」

 

 

 ハリーは、ふとロンの両親の会話を思い出す。

 

──ブラックはいつも同じ寝言を言っているんだ。『あいつはホグワーツにいる』って。

 

 

「まるで誰かが俺の心に火をつけたようだった。──その思いも、吸魂鬼は奪えない。幸福じゃなかったからな。……妄執だった。でも、それが俺の力になった。心が、覚めた」

 

 

 ノアはその言葉に、ほんの一瞬だけ目を伏せる。

 

 妄執。それは時に、幸福よりも深く、強く、人を動かす魔法になる。それは、ノアが何よりもよく知っていた。

 

 

「ある夜、食事を運んできた吸魂鬼が独房の扉を開けた。その瞬間、俺は犬になって、奴らの足元をすり抜けた。

犬の感情は感じ取りにくい。奴らは混乱した。……俺は、骨と皮になるまで痩せてた。鉄格子を抜けるほどに。犬の姿で泳いで島を離れた。疲れ切り、気力を失いかけた……一眼、ハリーを見たかった。記憶を頼りにハリーの元へ向かい、その後ノアに拾われた。……後は、今日までノアの良きペットであり続けた」

 

 

 ブラックが表情を少しだけ和らげノアを見る。ノアは朗らかに笑った。

 

 

 「この前、クィディッチの試合を見たよ。……ハリー、お前は父さんに負けないくらい、飛ぶのが上手い」

 

 

 ハリーの目をまっすぐに見つめて、ブラックは、かすれた声で言った。

 

 

「信じてくれ、ハリー。俺はけっしてジェームズやリリーを裏切ったことはない。裏切るくらいなら、俺が死ぬほうがましだ」

 

 

 ハリーは言葉が出なかった。喉が詰まり、胸が熱くなる。だが、目を逸らさず、確かに頷いた。

 

──ようやく、信じることができた。

 

 

 

「ダメだ!」

 

 

 ペティグリューは、ハリーが頷いたことが自分の死刑宣告ででもあるかのように、ガックリと膝をついた。そのままにじり出て、祈るように手を握り合わせ、這いつくばった。

 

 

「シリウス──私だ……ピーターだ……君の友達の……まさか君は……」

 

 

 今まで罪をなすりつけていた相手にですら、慈悲を願う──ペティグリューは、何よりも浅ましく愚かな存在だった。

 

 ブラックが蹴飛ばそうと足を振ると、ペティグリューは後ずさりした。

 

 

「俺のローブは十分に汚れてしまった。この上おまえの手で汚されたくはない」

 

 

 苦々しく言えば、ペティグリューはすぐにリーマスの方に向き直り、哀れみを請うように身を捩りながら金切り声をあげた。

 

 

「リーマス! 君は信じないだろうね……計画を変更したなら、シリウスは君に話したはずだろう?」

「ピーター、私がスパイだと思ったら話さなかっただろうな。シリウス、たぶんそれで私に話してくれなかったのだろう?」

 

 

 ペティグリューの頭越しに、ルーピンがさりげなく言った。

 ブラックの表情が、僅かに陰る。

 

 

「すまない、リーマス」

「気にするな。わが友、パッドフット。その代わり、私が君をスパイだと思い違いしたことを許してくれるか?」

「もちろんだとも」

 

 

 ブラックの顔にふと、微かな笑みが漏れた。リーマスが袖を捲り上げ、杖を握り直す。それを見たブラックも袖をまくり上げはじめた。

 

 

「一緒にこいつを殺るか?」 とブラックが静かに告げる。「ああ、そうしよう」ルーピンが厳粛に答えた。

 殺す。その言葉にハリーとロンとハーマイオニーは息を呑み、体を硬くした。

 ハリーは、あれほど自分の心に深く沸いていた殺意が薄まっている事に気づいていた。そうだ、もう冷静になってしまっている。──そんな中、ペティグリューを殺すのが正解なのだろうか?

 

 

「やめてくれ……やめて……」

 

 

 ぺティグリューが喘ぎ、両手を振りながらそしてロンのそばに転がり込んだ。

 

 

「ロン……私はいい友達……いいペットだったろう? 私を殺させないでくれ、ロン。お願いだ……君は私の味方だろう?」

 

 

 しかし、ロンは思いきり不快そうにペティグリューを睨んだ。

 スキャバーズは確かに、家族だった。だが、その皮をかぶっていたのは醜い殺人犯であり、親友の両親をヴォルデモートに売った男だ。

 裏切られた怒りと悲しみで、ロンは憎々しげにペティグリューを見ながら吐き捨てた。

 

 

「自分のベッドにおまえを寝かせてたなんて!」

「やさしい子だ……情け深いご主人様……殺させないでくれ……私は君のネズミだった……いいペットだった……」

 

 

 ペティグリューは口先を引き攣らせながらロンに這い寄ったが、ロンは骨折の痛みでいっそう蒼白になりながら体を捩り拒絶した。

 

 ペティグリューは膝を折ったまま向きを変え、前にのめりながらハーマイオニーのローブの裾をつかんだ。

 

 

「やさしいお嬢さん……賢いお嬢さん……あなたは──あなたならそんなことをさせないでしょう……助けて……」

 

 

 ハーマイオニーはローブを引っ張り、しがみつくペティグリューの手からもぎ取り、怯えきった顔で壁際まで下がった。

 

 ペティグリューは震えながらノアに向かった。胸の前で手を組み、祈るように。

 

 

「ああ、美しい人。どうか、どうか私に慈悲を──」

 

 

 ノアは笑ったまま小首を傾げた。

 ノアに、今、ペティグリューを救うという選択はないのだ。

 

 ペティグリューは打ち砕かれた表情でセブルスを見る。「セブルス、どうか──」セブルスは便所裏の塵でも見るような目で見下ろし、軽く鼻で笑った。

 

 ペティグリューは、止めどなく震えながら、跪き、ハリーに向かってゆっくりと顔を上げた。 「ハリー……ハリー……君はお父さんに生き写しだ……そっくりだ……」 喘ぎ、へつらいながらハリーに躙り寄る。

 

 

「ハリーに話しかけるとは、どういう神経だ?」

 

 

 ブラックが怒りながら叫ぶ。

 

 

「ハリーに顔向けができるか? この子の前で、ジェームズのことを話すなんて、どの面下げてできるんだ?」

 

 

 それでもペティグリューは 「ハリー」 と両手を伸ばし、ハリーに向かって膝で歩きながら囁いた。もう、彼は自分が殺されないためならば、どんな醜く哀れな姿を見せたって構わなかった。

 

 

「ハリー、ジェームズなら私が殺されることを望まなかっただろう……ジェームズならわかってくれたよ、ハリー……ジェームズなら私に情けをかけてくれただろう……」

 

 

 その言葉に、ブラックとルーピンが大股にペティグリューに近づき、肩をつかんで床の上に仰向けに叩きつけた。我慢ならなかったのだ。

 激しい音と、痛みにうめく声が響く。ハリーは目の前で無様にひっくり返るペティグリューを見て言葉をなくした。ハリーの肩が、小さく上下する──。

 

 ペティグリューは座り込んで、恐怖にひくひく痙攣しながら二人を見つめた。

 

 

「おまえは、ジェームズとリリーをヴォルデモートに売った。──否定するのか?」

 

 

 ブラックも体を震わせていた。 ペティグリューはついに、わっと泣きだした。

 それはおぞましい光景だった。育ちすぎた、頭の禿げかけた赤ん坊が、床の上ですくんでいるようだった。

 

 

「シリウス、シリウス! 私に何ができたというのだ? 闇の帝王は……君にはわかるまい……あの方には君の想像もつかないような武器がある……私は怖かった。シリウス、私は君や、リーマスやジェームズのように勇敢ではなかった……怖かった……」

「ふざけるな!」

 

 

 ブラックが割れるような大声を出した。

 

 

「おまえは、ジェームズとリリーが死ぬ一年も前から、『あの人』に密通していた! おまえがスパイだった!」

「あの方は──あの方は、あらゆるところを征服していた!」

 

 

 ペティグリューがあえぎながら言った。

 

 

「あの方を拒んで、な、何が得られたろう?」

「史上でもっとも邪悪な魔法使いに抗って、何が得られたかって?──それは罪もない人々の命だ、ピーター!」

 

 

 ブラックの顔には凄まじい怒りが浮かんでいた。 それでもペティグリューは黙る事なく、必死に叫ぶ。

 

 

「君にはわかってないんだ! シリウス、私が殺されかねなかったんだ!」

 

 

 ペティグリューが哀れっぽく訴えた。

 

 

「それなら、死ねばよかったんだ」

 

 

ブラックが吠えた。

 

 

「友を裏切るくらいなら死ぬべきだった。我々も君のためにそうしただろう」

 

 

 ブラックとルーピンが肩を並べて立ち、杖を上げた。

 

 

「おまえは気づくべきだったな」

 

 

 ルーピンが静かに言った。

 それは間違いなく、死刑宣告であり、誰も止めなかった。

 

 

「ヴォルデモートがおまえを殺さなければ、我々が殺すと。ピーター、さらばだ」

 

 

 ハーマイオニーが両手で顔を覆い、壁のほうを向き、ロンは顔をしかめた。

 

 

 殺される。

 ピーター・ペティグリュー。

 父さんと母さんを裏切った人。

 

 

「──やめて!」

 

 

 ハリーは叫んだ。

 駆け出し、ペティグリューの前に立ち塞がり、二人の上に向き合った。

 

 

「殺しちゃだめだ。──殺しちゃいけない」

 

 

 唯一、止めたのはハリーだけだった。

 ブラックとリーマスは衝撃を受けたように表情をこわばらせた。

 

 

 

 

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