兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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134 逃げ出したネズミ

 

 ハリーはペティグリューを生かす、という決断をした。慈悲をかけたわけではなく、シリウスとリーマス──父親の親友がペティグリューのために人殺しになるのを望まないと思ったからだ。

 ペティグリューを城まで連れて行き、吸魂鬼に引き渡す。そうすれば今まで冤罪で服役していたシリウスは日の元を歩けるようになるだろう。

 縛られ、猿轡をかまされたペティグリューは、床に膝をつきながら嗚咽を漏らしていた。

 

 

「しかし、ピーター、もし変身したら……やはり殺す。いいね、ハリー?」

 

 

 シリウスが俺の杖をペティグリューに向け、唸るように言った。ハリーは床に転がっている哀れなペティグリューに見えるように頷き「いいよ」とあっさりと答える。

 

 

「よし。ロン、わたしはマダム・ポンフリーほどうまく骨折を治すことができないから、医務室に行くまでの間、包帯で固定しておくのが一番いいだろう。──フェルーラ!」

 

 

 リーマスが場を仕切り、ロンの足を杖で軽く叩く。添木で固定した包帯がロンの足に巻きつき、ロンはリーマスに支えられながらおそるおそる立ち上がった。少し痛みはあるようだったがかなりマシになったようだ。

 うーん、骨折。治せないわけではないけど切り傷より難しいんだよな。

 

 

「ロン、痛みだけ取っとくか」

「え。そんなことできるの?」

 

 

 ロンの期待がこもった視線を受けつつ足を撫でる。白く光ったかと思えば、ロンの顔色はみるみるうちに良くなり「痛みが消えた!」と弾む声で言った。体重をかけて足踏みする様子に「骨折が治ったわけじゃないからな」と忠告すれば、ロンは肩をすくめ、バランスを取りながら片足で立ってみせた。

 

 

「誰か二人コイツと繋がっておかないと」

 

 

 シリウスが足でペティグリューを小突きながら言う。ペティグリューは啜り泣きをしながら縮こまり、いっそう惨めさが滲み出ていた。

 

 

「私が繋がろう」

「僕も」

 

 

 リーマスとロンが進み出る。

 シリウスは頷くと杖を壊れた棚に向かってくるりと回し重い手錠へと変化させると、ペティグリューの左腕とリーマスの右腕を繋げ、右腕とロンの左腕を繋げた。ロンの表情は険しく、口を真一文字に結んでいる。きっと、スキャバーズの正体を自分への屈辱かのように受け取ったんだろう。

 

 

 準備が終わると、クルックシャンクスがベッドの上からひらりと飛び降りる。にゃあと短く鳴くと、まるで「ついてこい」と言わんばかりに先頭を切って部屋を出ていった。リーマス、ロン、ペティグリュー、シリウス、ハリー、ハーマイオニー──一行がぞろぞろとそれに続いていく。

 

 さて、俺もそろそろ行こうかな。と思った時──。

 

 

「ゾグラフ」

「ん?……なんですか?」

 

 

 呼び止めたのはセブルスだった。

 腕を組み、わずかに眉根を寄せながら、黙って俺を見下ろしている。先に行ったハリーとハーマイオニーがこちらを振り返る。呼び止められた俺が気になる様子だったが、シリウスが不機嫌そうにセブルスを睨んで「行こう」と促した。

 

 ドアの向こうからは、移動する人数相応の足音が響いていた。手入れの行き届かない古い叫びの屋敷では、床板の軋みも一際大きく、ぎしり、と長く引きずるように響いた。

 

 セブルスは扉の向こうにしばらく目をやっていたが、ハリーたちが抜け穴を通ったと見え、やがて音が遠ざかると、ようやく俺に視線を戻した。

 

 

「……お前は、本当に、あの犬がブラックだと気づかなかったのか?」

 

 

 静かな声だった。セブルスの目は細められ、俺を探るように見ている。

 俺は、ほんの少しだけ目を見開いて驚いたような表情を作り、それからゆっくりと頷いた。

 

 

「ただの犬だとばかり」

「……ふん」

 

 

 納得しているようには見えなかったが、鼻先で笑うと、俺に向けて無言で杖を一振りした。ふわ、と首元に爽やかな風が吹き、襟首を引っ張ってみれば、べっとりとついていた血痕が消えていた。

 

 

「ありがとうございます」

「……行くぞ」

 

 

 セブルスはローブを翻し部屋の外へ向かう。

 ……ん?俺にあのことを聞くためだけに残っていたのか?あんなの、別にみんなの前で聞いてもよかったのに。

 俺にとってはシリウス達と少し離れることが出来たのは、むしろ好都合だったけど。

 

 セブルスの背中は先程までの不機嫌さが少し軽減されている気がする。彼としては、リリーをヴォルデモートに売った真犯人が判明した事は良かった事だろうしな。……それはそれとして、シリウスを捕まえてアズカバンにぶち込みたかったという感情はありそうだけど。冤罪だろうがなんだろうが気にしなさそう。元々犬猿の仲だし。……ん?

 

 

「……もしかして、シリウス達と一緒に戻るのが嫌だったんですか?」

 

 

 屈みながら進むセブルスの背中に問いかけると、彼は何も答えなかった。 ──が、一瞬、空気が揺れた気がした。

 

 

「リーマス先生曰く、学生時代色々あったみたいですしねー。セブルス先生の学生時代見てみたかったなぁ、仲良しの友達とかいたんですか?ルシウスさんは先輩なんですよね?」

「ゾグラフ」

「はい?」

「ハッフルパフ十点減点と、罰則だ」

 

 

 途中で振り返ったセブルスは、暗い目をして容赦なくそう言った。

 

 

「はっ!? なんでですか!?」

「時間外に寮から抜け出すのは禁じられている」

「そ、れは──まぁ、そうですけど」

 

 

 なんで俺だけ!

 っていうかどう考えても学生時代の事をバラされて蒸し返された八つ当たりだろ!!

 むっとして沈黙していると、セブルスは満足そうに鼻で笑い、その後は黙って長いトンネルを進んで行った。

 

 

 

 長かったトンネルの終わりが近いのか、天井が低く、ぬかるんだ土壁が肩をかすめる。湿った匂いに混じって、遠くから草の匂いが漂い、どんよりと重かった空気が軽くなる。

 

 

 そのとき──遠くから、何かの叫びが聞こえた。

 

 

 セブルスはすぐさま表情を変え、沈黙のまま駆け出した。暴れ柳の根元へ手をかけ、木のコブに触れて暴れ柳の動きを止め、地上へと這い出す。──そこにハリー達の姿はなかった。

 

 

「何が──」

 

 

 言いかけたセブルスの視線が、数歩先に倒れたロンを捉える。彼は駆け寄って仰向けにし、呼吸と脈を確認した。俺も後を追い、覗き込む。ロンはとろん、とした目でどこか遠くを見ていて、口元も緩い。

 

 セブルスは顔をしかめたまま、眉間に刻まれた皺をさらに深めた。喉の奥で小さく呪文を唱えると、そっとロンの額に杖先を当てる。その瞬間、ロンのまぶたが静かに降りて、規則的な寝息を立て始めた。

 ロンの手には手枷が付いているが、その先にペティグリューはいない。セブルスは険しい表情をして暗い森を見た。

 

 

 そのとき、ガサガサと芝が揺れ、何かがこちらに走ってきた。セブルスはすぐに杖を音のした方に向けたが──飛び出したのはクルックシャンクスだった。クルックシャンクスはまっすぐ俺に飛びついてきて、俺は思わず両腕を広げてその重みを受け止めた。

 

 

『大変よ! あなた、言葉わかるのよね?!』

『ああ、どうした?』

『ルーピンが、人狼になってしまったの! それで、あのネズミ男が逃げてシリウスが追ったけどどうなったのかは──ハリーとハーマイオニーも森に行ったわ!』

『そうか──わかった、ありがとう』

 

 

 クルックシャンクスは頷くと、俺の手元からするりと抜け出てロンの側に寄った。セブルスを見れば、説明されなくともなんとなく状況を察したのだろう、苦い表情で俺を見ていた。

 

 

「リーマス先生が人狼に。ペティグリューは混乱を利用して逃げ出したそうです。シリウス、ハリー、ハーマイオニーが追いかけたらしいですが、消息は不明です。……吸魂鬼が来なければいいんですが」

「……チッ」

 

 

 俺の言葉に、想像以上に最悪な事になっているとわかったセブルスは少しだけ沈黙した。ロンと森に視線を向けた後、俺の名を短く呼ぶ。

 

 

「ノア。──ウィーズリーを連れて戻れ。我輩はポッター達を探す」

「わかりました──あ、ちょっと待ってください」

 

 

 森に向かいかけたセブルスの背を呼び止める。セブルスが振り向いた瞬間、俺は杖を振った。杖先から放たれた白い光がまっすぐに走り、森の奥へと消えていく。

 

 

「この先にハリーがいるはずです」

 

 

 セブルスは光の軌跡を目で追い、小さく頷く。そのまま何も言わずに森の闇の中へ滑るように走っていった。

 

 俺はその背が見えなくなるまでじっと見つめ、ふうと息を吐いた。

 

 

「……さて、なんとかなったな」

 

 

 ペティグリューは逃がさなければならなかった。辻褄を合わせるため。未来を、正しい形で導くため。そうしなければ、いろいろと──困る。

 ハリーとハーマイオニーがバックビークとシリウスを救う流れも、維持しなければならない。

 

……後少しだけ、頑張らないとな。

 

 

 俺はゆっくりと杖を振り、浮遊するロンの体を宙に浮かせる。心配そうに見上げているクルックシャンクスと共に、城へと歩き出した。

 

 

 

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