兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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135 暗躍

 

 

 医務室にロンを預け、マダム・ポンフリーが手際よく処置を始めるのを見届けた俺は、静かに廊下に出た。

 リーマスは森の中。セブルスはハリーたちの捜索中。ペティグリューは逃げた。──俺は、とりあえずダンブルドアを探さなきゃ。

 

 

 けど、今日のホグワーツには、魔法大臣が来てるんだった。

 バックビークの処刑を見届けるって言ってたし、それだけで帰ったりはしないだろう。今ごろは校長室で紅茶でも啜ってるかもしれない。となると、校長室に入って「ペティグリューが生きててシリウスは無実なんです」なんて話をするのは、さすがにまずい。ファッジが話を聞く前に反射的に吸魂鬼を連れて来てしまいそうだ。

 

 でも、伝えないわけにはいかないしなぁ。どうしようか。

 

 

 そう考えながら校長室への階段を上ると、ちょうど扉の前で足音が聞こえた。

 扉が開いて、銀のティーポットを片手にしたダンブルドアが現れる。いつものように涼しい顔をしていたけれど、目元の皺が少し深い気がした。

 

 

「──おや、ノア。こんな時間にどうしたんだね?」

 

 

 どうしたのか、と聞く割にはダンブルドアは特に驚いてもいないし、こんな時間に出歩く俺を咎めるわけでもなさそうだった。

 ……ダンブルドアって何をどこまで予想してるんだろう。

 

 

「先生、今お時間いいですか?」

「おお、かまわんとも」

 

 

 そう言ってダンブルドアは微笑んだ。俺は周囲に誰もいないことを確認してから、声を少しだけ落として話す。

 

 

「短くまとめます。信じてください。──ペティグリューが生きていました。ペティグリューが裏切り者で、シリウスは冤罪です」

 

 

 ダンブルドアの目の奥が、ほんの一瞬だけ鋭く光る。

 

 

「全て、ペティグリューの仕業だったんです」

「……証拠は?」

「ありません。逃げられました。残念ですが、証人は未成年四人と、セブルス先生とリーマス先生です」

 

 

 俺の言葉に、ダンブルドアは長い髭を撫でながらわずかに頷く。

 

 

「では、セブルスは?」

「今、シリウスと──ハリー、ハーマイオニーの捜索に。詳しくはセブルス先生から聞いてください。リーマス先生は森の中です。少し危険な状態で」

 

 

 ダンブルドアは窓に視線を向け、満月であることを確認すると目を閉じて、ゆっくりと頷いた。

 

 

「……状況は理解した。ありがとう、ノア。君はこれからどうするつもりかね?」

 

 

 俺は一拍おいてから、真っ直ぐに答えた。

 

 

「俺は、ペティグリューの痕跡を追います。もう逃げ切られている可能性が高いですが、何か手がかりがあるかもしれない」

 

 

 今、俺がこの言葉を言うことに、違和感はないはずだ。

 

 

「ふむ……」

 

 

 ダンブルドアはキラキラとした目で俺を見た。数秒見つめ合っていたが、ダンブルドアはふっと表情を和らげた。

 

 

「今夜に限って、夜の森への立ち入りを許可しよう。──フォークスを連れていきなさい」

 

 

 ダンブルドアは柔らかく杖を振った。

 杖の先から、熱を帯びたような光が波紋のように広がる。空気がかすかに焦げるような匂いを残しながら、揺れる歪みの中からフォークスが姿を現した。

 

 フォークスはダンブルドアをじっと見つめ、ダンブルドアは優しい眼差しで「ノアを頼んだぞ」と低く言った。フォークスはダンブルドアが伸ばした指先を甘噛みすると、俺の肩に止まった。

 

 

「ありがとうございます。──では」

 

 

 肩にフォークスの重みを感じながら軽く頭を下げて、夜の廊下を走る。

 

 

──よし、これで俺の役割は終わりだ。

 

 

 多分、もう全て終わっているはず。逆転時計を使ったハリーとハーマイオニーは、もう柳の近くにいるだろう。一応、確認しに行かないとな。

 

 

 

 玄関ホールを降り、石段を駆け下りると、ちょうどセブルスが帰ってきたところだった。担架に乗せたシリウスとハリーとハーマイオニーを浮遊魔法で浮かばせ、引き連れている。

 厳しい顔をしているセブルスに駆け寄る。三人は蒼白な表情で気絶していた。

 

 

「セブルス先生! ハリー達、大丈夫ですか?」

「命に別状はない。……校長には?」

「最低限だけ伝えました。詳細は先生からお願いします」

 

 

 セブルスは短く「わかった」と言い、俺に視線を向けた。

 

 

「……君はどうする?」

「俺は……ペティグリューの痕跡を探してきます。それと、リーマス先生の居場所も。もしホグズミードとかに行ってたら大変なので」

「……あぁ」

「セブルス先生、シリウスはどうなると思いますか?」

 

 

 俺の問いに、セブルスは一瞬だけ顔を背けた。

 

 

「──我々の証言だけで法が動くなら、とっくに世界は変わっている」

「そうですよね。……ま、あとは頼みます」

 

 

 セブルスはわずかに眉をひそめた。しばし俺を見つめ、何か言いかけたが、結局それを飲み込んだようだった。

「……無茶はするな」とだけ言い残し、医務室の方へと歩いていった。黒いローブの裾が、風を切って消えていく。

 

 

 俺は視線を夜空に向けた。満月の光が俺の影を長く伸ばしている。後数十分もすれば、目を覚ましたハリーとハーマイオニーがダンブルドアから何があったのかを聞くだろう。

 

 

 透明化の魔法をかけ、フォークスには森の入り口で待機するよう指示を出す。そして、シリウスが幽閉されている部屋──えっと、たしかフリットウィックの部屋だったはずだ。その部屋が見渡せる場所へ移動した。

 

 

 俺の予想では──原作通りに進み、シリウスは証拠不十分のまま幽閉されるはずだ。

 

 シリウスの無実を証言できる人物は限られている。そして、その中で魔法省に一定の信頼を持たれているのは、セブルスだけだ。

 だが、それでも十二年間もアズカバンにいたシリウスが、今さら「何の罪もなかった」として無罪放免になるとは思えない。魔法省としての体面もあるだろう。明確な証拠がなければ、簡単には動かないはず。

 

 とはいえ、ダンブルドアはハリーとセブルスの証言を信じるだろう。

 子どもたちの証言が錯乱ではなく、ペティグリューが確かに生きていて、すべての罪をなすりつけていた──そう判断するはずだ。

 

 でも、ファッジの目をごまかすには、それだけでは足りない。結局、原作通り──ダンブルドアはシリウスを逃がす、そのためにハリーとハーマイオニーに逆転時計を使わせるという選択を取るはずだ。

 

 その場に俺がいたらちょっと──厄介だから、こうして不自然じゃない程度に離れなければならない。

 あのままいたら、俺は透明化の魔法をかけて幽閉されてるシリウスを助け出して、アニメーガスに変身させて、『ペットのシリウス』として何食わぬ顔で寮に戻ることになっただろう。

 そうなるとシリウスは救えるけど、バックビークは処刑されてしまうしな。

 

 

 叫びの屋敷に行く前に、ハグリッドのかぼちゃ畑に繋がれていたバックビークが処刑されずに消えていた。その事を考えても間違いなくハリーとハーマイオニーが動いて過去を改変している、はず。

 

 

──どうかそうであってくれ!

 

 

 と半分祈りながらその時を待っていた。

 

 

 変に緊張しながらしばらく待っていると、どこか遠くから羽ばたく音がした。ハッとして空を見上げれば、満月の光を浴びた黒い影が空に一つ。

 

 

──来た!

 

 

 空を悠然と飛んでいるのはバックビークだ。その背には、二つの小さな影──ハリーとハーマイオニーがいた。

 

 バックビークは翼を大きく広げ、夜風を切るように一気に上昇した。

 城の八階の窓、幽閉されているシリウスのいる部屋へ向かう。翼が月明かりをかすめ、白銀の光が一瞬だけ羽毛を照らしていた。

 

 

 俺は物陰からその光景を見上げ、そっと胸に手を当てる。緊張と不安でうるさかった鼓動が、ようやく収まりそうだ。

 

 

 よかった。以前から思っていたが、この世界はある程度決められた道筋に向かおうとしている。世界の修正力、とでもいうのか、そういう未知の力が動いている。

 俺の手で運命が変わった人もいる。だが、本質的には──変えるのが難しいのか、それとも代わりにどこかで何かが犠牲になっているのか。

 

 

 空を見上げる。バックビークが窓辺をかすめ、驚いても言葉が出ないシリウスの姿が見えたような気がした。

 シリウスはすぐにバックビークに乗り、彼らは天文台の塔への方へ飛び上がって見えなくなってしまった。

 

 

「はぁ……よかった」

 

 

 小さく呟きながら、俺は今度こそ森の方へと向かった。ペティグリューはとっくに消えているだろうし──探すつもりはない。

 

 やっぱり、リーマスを探さないとな。間違えて城に来てもやばいし、ホグズミードに行ってもやばい。朝が来るまで森の奥で過ごしてもらわないと行けないし。

 

 透明化を解いて森へ踏み込めば、ほのかに金色に輝いているフォークスがふわり、と俺の前に現れた。

 

 

『フォークス、夜の森は危険だから俺から離れるなよ?』

『ええ、わかってるわ』

 

 

 フォークスは優雅に羽ばたき俺の隣を並走する。杖を振って探知の呪文を放つ──が、光は定まらず、くねくねと揺れている。

 

 本来ならこの光は探し物への最短ルートを示す。その対象が動かなければ、見つけやすいが、リーマス──人狼のようにうろうろしていたら光の方向が定まらない。

 

 

『フォークス、人狼の居場所わかるか?』

『上から探してみるわ』

 

 

 夜空へ高くふわり、と飛んだ。

 フォークスの体はほのかに発光しているし、光の残滓のような物が尾を引いていて夜の森でも見失う事はない。高い場所を飛んでいたフォークスは、木々の隙間から『居たわ! 二時の方向ね』と声を落とした。

 

 そのまま先導するフォークスについて行き、森の奥へと向かう。時々木々が薙ぎ倒されていたり、幹に鋭く深い爪痕があったりした。どれも切り口は真新しいし、リーマスがやったものだろう。

 

 

『ノア。──すぐそこよ』

 

 

 気をつけて。とフォークスの硬い声が降ってくる。

 

 フォークスに言われずとも、森の中の青臭い匂いとは別に──夜の風に乗って獣臭と血の匂いが漂っていた。

 

 

 

 フォークスが前方の木の枝に舞い降り、静かに翼をたたんだ。いつもはあれだけ柔らかく鳴くのに、今は一言も発さず、ただ金の瞳で奥を見つめている。

 

 

 その視線の先──闇の中、影がうごめいた。

 

 

 低く喉を鳴らすような唸り声とともに、草むらの奥から現れたのは、黒く長い体毛に覆われた巨大な黒い狼だった。

 人間だったころの面影は無く、鋭い牙を打ち鳴らし、肩で息をしながら、低く背を丸めていた。太い鉤爪と牙がきらりと月を反射する。

 

 俺の姿を見たその瞬間、人狼の動きが止まった。金色の目が俺を射抜くように見つめてくる。

 しばらく、呼吸音だけが続いた。空気が張りつめる。

 

──そして、地面を蹴った。

 

 咄嗟に走る、というより、本能に突き動かされるように襲いかかってきた。風を裂いて、黒い影が一直線に俺に向かってくる。

 

 だが、俺は逃げなかった。

 恐怖心はない。

 

 一歩、前に出る。

 

 そして、手を伸ばし、静かに、しかし強く、思いを込めて言った。

 

 

「──座れ」

 

 

 その瞬間、空気がぐぐっと重たくなる。

 風が止まったように感じた。木々の葉が微かに震え、魔力が空間を塗り替える。

 

 人狼の動きが止まる。目を見開き、前脚を持ち上げたまま、膝を地に落としかける。がくがくと脚が震えていた。

 

 

 座らなければならない。それでも、本能が命じる。「噛め」「襲え」──だが、足が動かない。

 

 

 人狼は喉の奥から低い唸りを漏らし、抗うように歯を剥き出した。片膝を地につけながら、全身を震わせていた。目は俺を睨みながら、それでも微かに恐れている。

 

 

 俺は少しだけ近づいて、目を合わせた。

 

 

「俺に牙を向けちゃ──ダメだろ?」

 

 

 その言葉は、呪文ではなかった。ただの声。──でも、魔力をしっかりと込めて命じた。

 

 

 人狼は膝をついたまま、その場に崩れ落ちた。四肢を震わせながらも、もう襲いかかる気配はない。

 動けないのではなく──動かない。敵わないと、理解したように。

 

 

 ぴたりと膝をついたまま、人狼は低く唸りを上げ続けていた。鋭い牙を剥き、喉の奥から鳴るような音が絶え間なく漏れている。

 

 

 軽い動作で近づき覗き込むが、人狼は唸るだけで俺を襲う事はない。──うん、本当に人間の部分はないな。理性もほとんど残ってなさそう。

 

 俺は目をそらさず、少しだけ声を低めて問いかけた。

 

 

 

『リーマス・ルーピン。──俺の言葉がわかるか?』

 

 

 一瞬、耳がぴくりと動いた。

 

 唸りが止まったわけではない。だが、確かに何かが引っかかったようだった。

 

 次の瞬間、風のような、ノイズのような、ひどくかすれた声が漏れた。

 

 

『ゎ……し……わた……しは……』

 

 

 引き裂かれたような、弱い声。

 意識の奥にわずかに残ったリーマスが、答えようとしていたのかもしれない。

 

 けれど、それ以上はなかった。

 

 人間の姿を前にした人狼は、理性を保つことができない。魔法動物のように扱えるかと思ったが、それも難しそうだった。

 ただ、俺の力が人狼を圧しているだけだ。……獣としての本能や上下関係があるからか、俺の力で使役はできそうだけど。友好的な関係になれるかと言われたら微妙そう。

 

 

 俺はひとつ息をついて、そっと歩み寄った。ゆっくりと、足音を立てないように。

 

 

『ノア! 危ないわよ!』

 

 

 フォークスが枝の上から焦ったように声を落とした。羽を広げ、今にも飛び出しそうな気配を見せる。

 

 だが、俺は首を横に振った。大丈夫、と目だけで伝える。

 

 

 人狼は牙を見せた。ぐるぐると喉を鳴らし、筋肉を硬直させる。目の前の獲物に襲いかかる、その直前の姿勢。

 

 俺はその距離を詰め、静かに手を伸ばす。

 

 毛並みはごわついていて、荒れている。冷たい汗と、血の匂い。皮膚の下にはまだ熱がこもっているのが、指先から伝わってきた。

 

 頭の上──ちょうど額のあたりに、手を置いた。

 

 そして、ほんの少し、撫でながら囁いた。

 

 

「──眠れ」

 

 

 人狼の目が細くなる。唸り声が次第に静まり、牙を引き、体の緊張が抜けていく。

 

 ふ、と吐息のような声をひとつ上げたあと、巨体がぐらりと揺れ、俺の足元に横たわった。

 

 人狼──リーマス・ルーピンは、静かに眠りについた。

 

 

 森は再び沈黙を取り戻す。

 

 

 上の枝から、フォークスがそっと舞い降り、俺の肩に止まった。その体温が、夜の空気の中でひどく温かく感じられた。

 

 

 木々の合間から、満月がのぞいていた。

 

 雲ひとつなく澄んだ空。静寂のなか、まるでこちらを見下ろすように、まんまると光っていた。

 

 俺は一瞬だけその月を見上げ──そして、また地面を見下ろす。眠るリーマスの寝息が静かに続いていた。

 

 

 

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