兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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136 アズカバン編終了!

 

 

 シリウスは無事にバックビークと共に逃走した。

 俺がそれを聞いたのは、翌日の昼間、ハリーとハーマイオニーからだった。

 流れは俺が予想──というか、想定していた通りで、ペティグリューという証拠がなければシリウスを無罪にする事は難しい。今は酷な事だが罪人として捕らえ、逃走し、機会を待つしかない、というのがダンブルドアの判断だった。

 ハリーはかなり不服そうだったが、シリウスが証拠不十分で再びアズカバン行きにならずに済んだだけで良かった。──と、無理やり自分を納得させていた。

 

 今日はホグズミード行きの日だったが、ハリー達も昨日の夜に起こったことが事だったから行く気がなく、今日はゆっくりして過ごすらしい。俺も、今日しかできないことがあるからホグズミードには行かず──リーマスの部屋に向かっていた。

 

 リーマスは今日限りで退職する事になった。部屋の扉は開いていて、覗き込んでみればリーマスが杖を振りながら引き出しのものを古びたスーツケースに片付けているところだった。

 

 

「リーマス先生」と、声をかけながら開いた扉をノックする。リーマスは驚いたように振り返り、そして申し訳なさそうに眉を下げた。

 

 

「ノア……。昨日はすまない。悔いても悔いきれないよ」

「まぁ……いろいろありましたから」

 

 

 かなり落ち込んでいるし、満月明けで体が怠いのか顔色も悪い。まあ、薬さえ飲んでいればペティグリューを逃す事はなかっただろうしな。リーマスは自分で自分を許せないんだろうな。

 

 

「先生、辞めちゃうんですか?」

「ああ、一度でも薬を飲み忘れたら辞める。そう決めていたんだ。試験ももう終わったし、授業には影響はない。……本当に、誰も襲わなくてよかった」

 

 

 もし、誰かを噛んでいたら。と思うと──とリーマスは掠れ声で呟き、嫌な想像を振り払うように頭を振った。

 

 

「次はどんな仕事をするんです?」

「それは──まだ決まってない。まあ、でも

なんとかなるさ。いつものことだからね」

 

 

 少し暗い表情をしつつ、肩をすくめたリーマスの顔にはどうしよもうない諦めが滲んでいた。多分、人狼だとバレるたびに世間から爪弾きにされていたんだろう。魔法界での人狼の扱いは酷いらしいし。

 

 リーマスは疲れたように笑いながら、洋服ダンスに向かって杖を振り、ややほつれたローブや服をスーツケースに入れていく。入り口に置いてある大きな水槽には今日も水魔が住んでいて、水草の裏で忙しなく部屋を動き回るリーマスを見ていた。

 

 

──今がチャンスだ。

 

 

 俺は、扉を閉めた。

 リーマスはふと手を止めて、「どうしたんだい?」と朗らかに聞く。

 

 

「リーマス先生。授業のお手伝いをしたご褒美に俺の願いを聞く約束──まだ叶えてもらってません」

 

 

 部屋に入り、床に落ちていた羊皮紙を拾いながら言えば、リーマスは一瞬何のことか分からなさそうな顔をしたが、すぐに苦笑した。

 

 

「あぁ……あれか。今の私にできる事なら、なんでも言ってくれ」

「犬の世話を頼みたいんです」

「犬──まさか」

 

 

 リーマスの目が見開かれ、言葉を失う。

 その眼差しに浮かんでいたのは、驚きと、それ以上に──希望だった。

 俺は懐から銀色の鍵を取り出す。青い宝石が中央に埋め込まれた、美しい鍵。

 

 

「養父には今朝一番で文を出しました。……シリウスも、ちゃんと家に帰ってるはずです」

 

 

 鍵を指先でくるくると回すと、リーマスの表情は困惑と期待の間で揺れた。

 

 

「ほ、本当に? しかし、ダンブルドアは、シリウスはバックビークと何処に身を潜めているか分からないと言っていたが……」

「絶対に帰ってますよ、俺の家に」

「……どうしてそんなに断言できるんだい?」

 

 

 それは不審ではなく、純粋な疑問だった。

 リーマスが知るシリウスの性格を考えれば──確かにシリウスは俺に迷惑をかけたくなくて身をくらます、という選択をとりそうなものだ。だけど、そうする事はないと俺は知っている。

 

 

 俺は目を細め、口先を上げる。 

 リーマスは俺の表情を見て息を詰めた。

 

 

 一歩近づけば、リーマスは何故か一歩、後ろに下がった。

 下がりすぎたリーマスの腰が机にぶつかり、がたん、と音を立てる。俺はそのまま距離を詰めて、肩に手を乗せ、背伸びをしてリーマスの耳元に顔を寄せる。すぐに囁かず、一瞬だけ間を置いてから──

 

 

「俺、シリウスと魔法契約を交わしてるんです」

「──えっ?」

「ずっと、俺のペットだって」

 

 

 すっと身を離し、手を後ろに組む。

 ペットは、家に帰るものだ。俺が捨てない限り、シリウスは『帰る』ようにできている。

 契約という鎖に、無意識にでも、シリウスは従っているはずだ。

 

 

「君は──」

「リーマス先生」

 

 

 俺は手のひらに鍵を乗せて見せた。リーマスはその輝きに、息を詰める。

 

 

「──いや、リーマス。俺の家に来い。

部屋は余ってるし、好きに使えばいい。条件は二つ。俺が家の主人ってことと、俺を裏切らない、ということ。仕事は『ペットのお世話』と『稀有な魔法の収集』 給料はホグワーツ以上で毎月脱狼薬つき。こんな高待遇、滅多にないぜ? ……どうする?」

 

 

 リーマスは瞼を震わせ沈黙した。長い間、何かを振り払うように瞼を閉じ、そして──

 俺の手にそっと、手を重ねた。

 

 

「……よろしく頼むよ」

「契約完了だ」

 

 

 手を握り返す。指の隙間から、柔らかな白い光があふれた。リーマスは目を細めながら、その眩しさを見つめていた。

 

 光が収まると、その手には銀色の鍵が残っていた。

 

 

「なるほど、確かに──契約だね」

「うん、俺が解雇するまで続くから」

「解雇されないように頑張るよ」

 

 

 リーマスはふっと小さく笑いながら、鍵を大切そうにポケットの中に入れた。

 

 

「それ、ポートキー内蔵型鍵で、認証キーを言うと家に移動する仕組みだから。──キーは『舞台裏』」

「舞台裏か……まるで私たちのための場所のようだね」

 

 

 舞台裏。

 観客席からは見えない、裏の部分。

 

 

 リーマスが小さく笑った。俺は返事をせず、その笑みを静かに見ていた。

 ふと、背後の廊下から足音が近づいてくるのが聞こえる。軽くて速い、若い足音だ。

 

 数秒後、勢いよく扉が開かれた。

 

 

「先生ッ!」

 

 

 駆け込んできたのはハリーだった。息を切らし、目は真っ直ぐリーマスを見ている。

 

 俺は一歩退いて、入口へと向かった。ハリーとすれ違うとき、一瞬だけ視線が交わる。

 ハリーの目に宿っていたのは、驚きと、悲しみと──少しの困惑。

 

 何も言わず、俺は軽く頷いた。

 

 

「じゃあ、リーマス先生。また」

 

 

 そう言い残して、俺は扉を静かに閉めた。

 扉の向こうから、ハリーの声が震え混じりに聞こえてくる。 

 

 

「今、ハグリッドから聞きました。本当に、お辞めになるんですか?」

 

 

 俺はそれを背に受けながら、ゆっくりと歩き出した。

 

 

 

 なんとか、今年一年もおおよそ俺の予定通りだ。セブルスが予定より早くシリウスの無罪とペティグリューの生存を知ることになったけど、どうせ後一年もすれば知る事になるしそれが早まっただけに過ぎない。

 

 シリウスとリーマスは元々俺の家に住ませる予定だったからうまくいって良かったけど。

 

 

 養父はヴォルデモートに寄生されていた男で、ペットはハリーが一緒に暮らしたくてたまらない名付け親で、居候は尊敬している教師。

 

 

「……夏休み、ハリーが来たらめんどくさい事になりそう」

 

 

 小さな呟きは、誰に聞かれる事もなく風に乗って消えていった。

 

 

 

***

 

 

 

 学期末の前にOWL試験の結果が返ってきた。筆記試験はそこそこだとしても、実技試験で特別加点が得られた科目は優秀な成績だったが。……まあ、魔法史はね。あれは昼寝の時間だから。

 

 寮対抗杯は今年は大幅減点大幅加点もなかったし、いつも通りハッフルパフが寮杯を獲得した。学期末の宴会はハッフルパフ色の黄色と黒の飾りで彩られ、ハッフルパフ生達は嬉しそうに宴会を楽しんでいた。

 

 終業式の翌朝、生徒たちはホグワーツ特急に乗り込み、それぞれの家路につく。

 

 

 俺とセドリックは、珍しく誰も来なかったコンパートメントを二人で使っていた。荷棚に鞄を放り込んで、背もたれの深いシートに体を預ける。

 

 

「今年はまだ平和な一年だったね」

 

 

 対面側に座るセドリックが流れる景色を見ながら軽く伸びをして、ちょっと疲れたような笑みを浮かべた。確かに二年前はトロールが侵入したり、去年はトム・リドルと色々あったりした。今年は吸魂鬼がいて、シリウス・ブラックが侵入した事を除けば──関わりのない生徒からしたら、まあまあ平和な一年だったと言える。

 

 

「そうだな。……なあ、セド。──セドリック」

「え、どうしたの?」

 

 

 俺が「セドリック」なんて呼ぶのは珍しく、セドリックは驚きながら身構えた。

 俺は少し真面目な顔をして、「誰にも言うなよ?」と切り出す。

 

 

「ペットのシリウスの事なんだけど」

「うん」

 

 

 セドリックは何を言われるのかと緊張した表情で頷く。セドリックや周りにはシリウスが突然いなくなった事を、「ちょっと変なもの拾い食いしたから動物病院に行った」と誤魔化した。

 

 

「……シリウスが、シリウス・ブラックだったんだ」

「……え?」

「アニメーガスでさ」

「ちょっ──ノア、大丈夫!? なにもされてない?」

 

 

 勢いよく立ち上がったセドリックが、両肩をがしりと掴んで揺さぶってくる。俺はその手をぽんぽんと叩いて、苦笑交じりに頷いた。

 

 

「何もされてないって。──まあそれで色々あって。シリウス・ブラックは冤罪だとわかったんだ」

「……は?」

 

 

 呆然とした顔で聞き返してくるセドリックに、俺は少し真面目な顔で説明した。

 

 

「シリウスがどんな犯罪したか知ってるよな?」

「う、うん。脱獄した時に新聞で記事が何度も載ってたから……ピーター・ペティグリューっていう魔法使いに追い詰められて、彼ごとマグルを大勢殺したって……」

「別の犯人がいたんだ。そのペティグリューが真犯人で生き延びてて、俺はペティグリューを見た。俺だけじゃなくてハリー達やリーマス、セブルス先生とかもな。ただそいつ逃げられてしまって、証拠不十分でアズカバン行きよりは、このまま逃亡していることにしよう。──ってなったんだ」

「まって。それが真実だとして──嫌な予感が……」

 

 

 表情を変えて、悪戯っぽくニヤリと笑えば、セドリックは表情を引き攣らせた。

 

 

「だから、シリウスはうちにいる。引き続き、ペットとして」

「──やっぱり! 無理があるでしょ!?」

「ついでに職を失ったリーマスも雇用した」

「えぇ!? ルーピン先生、人狼だって……大丈夫?」

 

 

 セドリックは優しい奴だが、やはり魔法界で暮らしていたから人狼の脅威をよく知っている。不安そうにするセドリックに、俺はなんでもないと首を振った。

 

 

「大丈夫、脱狼薬作れるし」

「それなら……うん、ノアがいいなら」

「それとさ」

 

 

 セドリックは「まだあるの!?」と引き気味に呟いた。

 

 

「養父なんだけど。クィレルなんだ」

「……は?」

「覚えてないか?二年前の──」

「お──覚えてるに決まってるだろ! 闇の魔法使いで、ホグワーツにあった賢者の石を奪おうとしてたって……」

 

 

 あ、ヴォルデモートに寄生されて操られていたとかはあの事件に関わった生徒しか知らないのか?

 

 

「そうそう。その時に色々あってクィレルは死にかけて、俺がそれを救ったら──今は俺の狂信者って感じかな」

 

 

 セドリックはぽかんと口を開けていた。

 がたん、と汽車が揺れて、よろめいたセドリックは座席に座り込む。

 

 

「夏休み、もし俺の家に来るんなら知っといた方がいいだろ?」

「……、……キャパオーバーだよ……」

 

 

 セドリックは疲れ切った声でぽつりと呟き、俺はくつくつと笑った。

 

 暫くセドリックは告げられた事実を飲み込むために時間を要したみたいだったが、数分もすれば気を取り直して唇をきゅっと結び、真剣な顔になった。

 

 

「本当に、大丈夫なんだね?」

「ああ。三人とも俺の味方だし、俺の敵にはならないよ」

「……色々心配だけど……うん。今度遊びに行くよ」

「ああ、良いぜ」

 

 

 セドリックはまだ心配な気持ちがありそうだったが、とりあえず飲み込んだようだ。

 そして、ふと何かを思い出したように、目を瞬かせる。

 

 

「そうだ。──来年、クィディッチ・ワールドカップがあるんだよ。父さんがチケットを取れたかもしれないって言っててさ」

 

 

 声色が少しだけ明るくなった。これまでの重い話題から離れたくなったのか、それとも単純に俺に話したかっただけかもしれない。

 セドリックはちょっとだけ照れたような笑みを浮かべながら、ちらと俺の顔を見てくる。

 

 

「もし、よかったら──ノアも一緒にどう?」

 

 

 俺は一拍置いてから、肩を竦めた。

 

 

「うーん、仕事があるな」

 

 

 あっさりした俺の返答に、セドリックは「やっぱりね」と苦笑した。

 

 その仕事はクィディッチ・ワールドカップの仕事だけどたしか契約書に「サプライズゲスト」って記載があった気がするし黙っておこう。セドリックは秘密を簡単に話すような人じゃないけど──セドリックも当日驚かせたいし。

 

 

 俺は窓辺に頬杖をつき、クィディッチ・ワールドカップに出場する選手の事を楽しげに話すセドリックを見る。

 

 窓越しに差し込む夏の光が、ゆるやかにコンパートメントの壁を照らしていた。窓の外では風景が遠ざかっていく。

 

 

 今年も無事に──俺の理想通りに進めることができた。来年から──後、四年間、ここからが本番だ。特に来年はセドリックが死ぬ。

 

 絶対に、死なせない。

 そのために、今年からずっと準備をしていた。

 

 セドリックをじっと見ていると、「どうしたの?」と首を傾げていた。

 

 

「いや、なんでもない」

「そう?──あれ、ネックレスつけてたっけ?」

 

 

 セドリックは俺の首元を見つめる。首に触れれば金の細いチェーンに触れて、服の中に入っているそれを引き出す。チャリ、と音を立てて揺れるネックレスを見せればセドリックは意外そうな顔をした。

 

 

「砂時計型? 珍しいね」

「だろ?」

 

 

 笑いながら指先でそれを軽く弾く。さらさらと銀色の砂がゆっくりと落ちていった。

 

 

 

 

 キングズ・クロス駅に着き、九と四分の三番線から柵を通りマグルと魔法族が混ざる世界へ出る。セドリックとは父親と母親を見つけ、「また手紙出すから!」と言い笑顔で別れた。

 

 

 たくさんの人がカートを押し、それぞれの家族と家へ帰る中、俺はその人混み中で、一際異彩を放ち周りから二度見三度見されているクィレルを見つけて、ふっと笑った。

 

 

「──っ! お帰りなさいませ、ノア様」

 

 

 クィレルは俺を見た感激でパッと表情を明るくさせ今にも泣き出しそうな顔をしたが、すぐにぐっと奥歯を噛み口先を上げて微笑むと胸に手を当て恭しく礼をした。

 

 

「うん、迎えありがとう」

「とんでもございません」

 

 

 クィレルはさりげなく俺の荷物を受け取る。

 そのまま俺の横より、少し後ろを静かに歩いた。

 

 

「シリウスとリーマスは?」

「家でお待ちです」

「ん、よかった」

「バックビークは、庭に。僭越ながら小屋も用意させていただきました」

「ありがとう」

「いえいえ」

 

 

 駅から出て裏路地へ向かう。

 人がいないところでポケットから鍵を出し、クィレルの腕を掴んで口を開いた。

 

 

「──舞台裏!」

 

 

 ぐるり、と世界が回転する。

 周りの景色が飛び、暫くして──足裏が地面を踏み締めた。

 

 一年ぶりの家は最後に見た時と大きく変わらない。

 ただ、広い庭に木で出来た小屋が増えてその中にバックビークが寝ているところだけ違う。

 バックビークは俺に気づくとばさりと羽を広げ、嬉しそうに鳴き声を上げた。

 その声に気付いたのか扉が開く。

 

 

「おかえり、ノア」

 

 

 中から出てきたのはリーマスで、朗らかな表情をして笑っていた。その足元にはアニメーガスとなったシリウスが居て、シリウスは俺の側に駆け寄ると嬉しそうに尻尾を振っていた。

 

 

「ただいま」

 

 

 

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