兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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ホグワーツ六年目
137 新しい家族


 

 

 天井から差し込む柔らかな朝の光に目を細め、俺は眠いまま腕を伸ばした。眩しさにうっすら呻き声を漏らしたところで、扉を軽くノックする音が響く。「どうぞー」と言えば、返事と同時に扉が開き、銀のトレイを抱えたクィレルが入ってきた。

 

 

「おはようございますノア様。本日の紅茶はハロッズのブレンドです。夏らしく柑橘系の香りが爽やかでして」

「ん」

 

 

 にこやかに微笑むクィレルはベッド脇の卓にトレイを置き、優雅にポットを傾ける。琥珀色の液体から立ちのぼるレモンめいた香りに、俺は「ふわ」と欠伸を噛み殺した。

 

 

 夏休みが始まって一週間。

 クィレルは毎朝こうして執事のように紅茶を運ぶ。頼んでいないが──本人が嬉しそうだから止める理由もない。

 

 指を軽く振れば寝巻きはラフな服に変わり、浮かぶブラシが勝手に髪を梳き始める。大きな楕円形の鏡がふわりと飛んできて、俺の前にお行儀よく止まった。それを見ながら襟首にかかる銀髪を手で払い、鏡に映る自分を眺めて小さく鼻を鳴らした。

 

 

「……かなり伸びたな。鬱陶しいけど……似合いすぎるんだよなぁ……」

 

 

 何年経っても絹のように滑らかでツヤッツヤの髪だし、切るのもったいなくてそのままにしていたら、毛先は背中の真ん中くらいに差し掛かっていた。いつもはおろしたままだけど、そろそろ結ばなきゃ鬱陶しい。けど、この長髪が俺の顔面と最高にマッチしてるのも事実。

 

 

「──どうぞ」

「ありがと」

 

 

 髪を摘み、まじまじと見ながら差し出された紅茶を飲む。

 

 

「なぁ、リボンかゴムってある?」

「ヘアアクセサリーですよね? ありますよ」

 

 

 嬉しげに頷いたクィレルが杖を振った。ドレッサーの引き出しが静かに開き、光沢のあるリボンや大ぶりのクリップが次々と宙を舞った。数十はあるしなんか宝石ついているものもあって、どれも高級そうだ。

 

 

──いやいや、なんであるんだ?

 

 

「聞いといて何だけどさ、なんであるんだ?」

「必要になると思いまして。少しずつ集めました。もちろん私の個人的な収集物ですので、私のお金で揃えました。ノア様の金庫には手も触れていません」

「……いや、いいけどさ。じゃあこのリボンにしようかな」

 

 

 光によって紫がかって見える黒のリボンを指差すと、リボンは嬉々としてくねくね動き、髪に飛びついた。ブラシと息を合わせ、見事にまとめ上げる。

 

 おー、首元が涼しい。屋敷の中は空調魔法が効いてるから快適だけど、外出たら暑いし髪括るのも悪くないかも。雰囲気もいい感じだし。

 

 

「今日仕事あったっけ?」

「いいえ、ございません。──休みが一週間、その後は連日仕事の予定ですね」

「了解」

 

 

 紅茶を飲み干したカップを受け皿に置き、ベッドから出る。靴を履きつつ、机の上に置かれているいくつかの封筒から、見知った名前の物だけを手にしながら部屋から出た。

 

 クィレルは紅茶セットを運びながら俺の少し前を歩き、ドアマンのように扉を開けて待ってくれている。

 

 

 手紙は、セドリックとハリーからだった。

 ハリーはこれで何通目かわからない。よっぽど暇なのか毎日──返事が届いていなくても──手紙を送ってくる。

 

 

『ノアへ

 

 相変わらずダーズリー家はひどいよ。

「魔法は禁止!」って口を酸っぱくして言われてるし、ちょっとでも杖を見せたら怒鳴られる。

ダドリーがまたダイエット中だから、昨日なんてグレープフルーツだけだった! 信じられないよね。

 毎日同じことの繰り返し、リスみたいな食事に同じような顔。──退屈で仕方ない。

 

 でも、昨日ちょっと面白いことがあったんだ。

 ダドリーが隠れてアイスを二つも口に詰め込んでさ。バレてごまかそうとしたら言葉が全部ぐちゃぐちゃになって、口からアイスが飛び出して……ペチュニア叔母さんは真っ青になってて──でも僕は笑いをこらえきれなかったよ。

 

 本当なら今ごろ、君と一緒に外を歩いたり、遊んだりできたのに。

孤児院にいた時は、すぐそばに君がいてくれたのに、今はすごく遠くに感じる。

寂しいよ、ノア。

 

 いつ会える? 家にいつ呼んでくれるの? お父さんにいつ紹介してくれる? 約束したよね? 僕、ずっと楽しみにしてる。

 早く君と会えますように。

 

ハリーより 』

 

 

 

『ノアへ

 

 もうすぐクィディッチ・ワールドカップだね。僕も父さんと観に行く予定で、今からすごく楽しみにしてるよ。

ただ……一緒に観戦できないのはやっぱり残念だな。ノアとなら、試合のことをあれこれ言い合いながら、もっと楽しく観られると思ってたから。仕事は仕方ないけどね。

 

 それでなんだけど、夏休みの間、少し遊べたりしないかな? 前に言ってた「家に来てもいい」っていうの、本当に大丈夫?

 ……もし本当なら、すごく行きたい。きみの同居人の様子も気になるし。

 

 もちろん、君が忙しいのは分かってる。仕事も大事だしね。でも、宿題もちゃんとやるんだよ。ノアはすぐ後回しにするからね。今年は泣きついたって見せないからね!

 

また返事を楽しみにしてるよ。

 

セドリックより 』

 

 

 ハリーは相変わらずの内容で、セドリックは「本当に俺の家に行っても良いのか?」という打診混じりの内容だった。

 二人とも家に来たいみたいだし、ハリーとの約束は破れないし。日程合わせないとなぁ。

 

 

 読みながらクィレルが開いた扉の先にあるのはダイニングで、食事はいつもここでとっていた。パーティ用の広い食堂もあるけど──流石に四人が食べるには広すぎる。

 ダイニングの天井は高く、豪華なシャンデリアが淡く魔法の光を揺らめかせている。八人は座れそうな長机は丁寧に磨き上げられていて、艶がある。

 長細い窓にはおしゃれなレースカーテンが付いていて、少し開けられているのかふわり、と揺らめいていた。部屋の奥には、重厚な作りの暖炉がある。夏だから火はいれてないけど。

 

 

 長机にはすでにリーマスがいて、俺を見て読んでいた新聞を下ろし、にっこりと微笑んだ。

 

 

「おはようノア」

「おはよう。……あれ、シリウスは?」

「バックビークに餌をやりに行ってたよ」

 

 

 そうか、と頷きながらリーマスの向かい側に座る。俺のそばにいたクィレルはいつのまにか台所の方に向かっていて、朝食の準備をしていた。

 

 手紙を繰り返し読みながら時間を潰していると、扉が開き、軽快な足音とともにシリウスが入ってきた。一年間健康的な食事と適度な運動ができていたからか、体つきもしっかりとして、長かった髪も切りさっぱりとしている。歳を重ねた精悍な顔立ちは、俺とは違う系統のイケメンで──笑顔は犬のように無邪気だ。

 

 

 「おはよう、ノア!」

 

 

 駆け寄ってくるシリウスを見て──今は黒犬の姿じゃないのに、何故かぶんぶんと振られた尻尾の幻覚が見えた気がする。

 

 

「おはよ」

「お、それハリーからの手紙か? 何が書いてあるんだ? 俺のこと書いてるか?」

 

 

 身を乗り出して覗き込み、目を輝かせる。俺は封筒を持ち上げて軽く振った。

 

 

「いや、早く夏休みが終わってほしいって書いてる」

「そうか……」

 

 

 しゅん、と肩を落とすシリウス。

 犬耳まで垂れてそうな顔だが、シリウスも夏休み始まってから二通はハリーから手紙が来てたはずだ。

 

 

「まだハリーは、シリウスがここにいるって知らないから俺の手紙には書かれないって」

「……それもそうか」

 

 

 俺の言葉にシリウスは少し元気を取り戻し、リーマスが置いた新聞を手に取った。

 

 

 そうこうしているうちに、クィレルが音もなく現れた。魔法で浮かせた朝食のプレートを一人ずつの前に滑らせ、さらに新しい紅茶のカップを俺の前へ恭しく置き、自分も空いた席に腰を下ろした。

 

 四人揃っての食卓。

 トーストに目玉焼き、ソーセージとビーンズ、マッシュルームのソテー。ダージリンの香りとともに口に運びながら、俺は対面の二人を眺めた。リーマスもシリウスも、夏休み初日とは違い、もうすっかりこの家の空気に馴染んでいるようだ。

 

 

 

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