兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
今日はハリーが俺の家に遊びに来る日だ。
ハリーは俺の家の場所を知らないから、ペットのシロにこの家に繋がるポートキーを持たせて送った。これは普通のポートキーで、一度きりの使用しかできない。もし、認証型ポートキーなんて渡したら──ハリーは毎日来かねないし。
朝から……いや、ハリーが来ると決まったその瞬間から、シリウスはそわそわそわそわして落ち着きをなくしていた。無駄に張り切って屋敷や庭の掃除をして、玄関をうろうろ。まるでクリスマスを待ちきれない子どもみたいだ。実際、シリウスにとってハリーとの再会は、最高のプレゼントみたいなものなのだろう。
約束の時間は十時。けれどシリウス一時間くらい前から玄関ホールを行ったり来たりし、何度も壁かけ時計を見てはその針があまり進んでいないことにため息をついていた。それを見ていたリーマスと俺は顔を見合わせ、思わず苦笑する。
「シリウス、サプライズしたいんだろ? ホールで待ってろよ」
「ああ、わかった」
時間が迫ったころ、そう言えばシリウスは悪戯っぽい笑みを浮かべて頷いた。──あの顔は、何か企んでるな。まあいいか。
外に出て屋敷の大扉を閉める。太陽は高く上がっていて、広い庭の向こうに高い木が並ぶ森が見えている。
扉に背をつけて待つこと少し──突然、庭の片隅に青白い光が走り、空間がぐにゃりと歪んだ。
ふっと現れたのはハリーであり、ハリーは空き缶──ポートキーを握りしめたままよろめき、驚いて地面を踏み締め辺りを見回している。
「ハリー」と、笑って声をかけ、手を上げた。ハリーの視線は俺を捉え──その瞬間、嬉しそうに笑った。
「ノア! このポートキー?ってやつ、すごいね! これがあればいつでもノアの家に来れるの?」
「いや、これは一回きり。片道切符みたいなもんかな」
「そうなんだ。残念だなぁ……。……え、ノア、ここに住んでるの? 豪邸だね……」
「世界的モデルだから余裕」
庭や屋敷を見ていたハリーが目を丸くする。確かに、この広さはどう見ても貴族や大富豪しか住めない。こんな屋敷を見た事が無かったハリーは口を開けて「すごい」と感心していた。
「さ、ハリー。中に入ろうぜ。──今日はちょっとしたサプライズがあるんだ」
「サプライズ?」
「そう。心臓に悪いかもしれないけどな」
意味深に笑って扉を押せば、重厚な両扉は音もなく簡単に開く。ハリーを中へと導けば、玄関ホールの豪華さにまたハリーは目を丸くし「うわぁ」と感嘆の息を漏らす。
……あれ、シリウスは?
玄関ホールで待機していたはずのシリウスがいなくなってる。
ハリーは輝くシャンデリアや、動く絵画を見て久しぶりに魔法に触れられた事に気を取られている。見回してもシリウスの姿も、犬の姿も見えない。──しかし、その変わりに二階からふわりと手紙が踊るように落ちてきて、それはハリーの目の前でぴたりと止まった。
ふわふわと浮かぶ手紙に、ハリーは俺を振り返って「これ、僕に? 読んでいいの?」と目を輝かせながら聞く。なんの手紙かはわからないが──このタイミングって事は、“サプライズ”のつもりなんだろう。
「あれ、宛名が書いてない……」
ハリーは受け取った封筒を確認しながら呟き、開いた。中には一枚の手紙。それを見たハリーは目を見開く。封筒を掴むハリーの指に力が篭り、封筒が歪んだ。
「こ、これ──まさか──」
期待が篭り震えている声。
手紙の中には、犬の足跡が一つ。
「ははっ!」
それを見て思わず吹き出したのと、玄関ホールから続く階段の上から「わん!」と犬の鳴き声が降ってきたのは同時だっただろう。
ハリーがその音に肩を震わせ顔を勢いよく上げて──目を輝かせた。
「シリウス!」
階段の上から黒犬が姿を現した。
次の瞬間、宙に舞ったその姿が人に変わり──シリウスが着地するなり、勢いそのままにハリーを抱きしめた。
「ハリー!」
少年のような笑顔で、ハリーの背を力強く叩くシリウス。
抱き合ったハリーもまた満面の笑顔で、「シリウス……!」と声を震わせる。少しして照れくさそうに離れると、笑いをこぼした。
「びっくりした! シリウスも呼ばれてたの?」
「いや、俺は──」
シリウスは前髪をかき上げ、ちらりと俺を見る。俺は歩み寄りながら笑って答えた。
「シリウスは俺のペットだろ?」
「え、そうだったけど──まさか、ここで暮らしてるの?」
「ああ、お利口なペットさ」
にやりと笑うシリウスは、ぐいっと襟元を引っ張り赤い首輪を見せる。食い入るように見つめたハリーは驚きの中に羨ましさを滲ませながら俺を見た。
「……毎日来ていい?」
「仕事あるからなぁ」
「仕事ない日はいい?」
「うーん……ま、いいぞ」
「やったー! ありがとう、ノア!」
シリウスとの再会に浮かれたハリーを見て、俺は少し笑みを深めた。
「──でもな、サプライズはまだ終わってない。さ、こっちだ」
「えっ、まだあるの? シリウスだけでびっくりしたのに」
「心臓に悪いって言ったろ」
いたずらっぽく片目をつむって先に立つと、ハリーは戸惑いながらシリウスを仰ぎ見た。シリウスはにやにやと笑い、背中を軽く押していた。
扉を押し開けて入ったのは、重厚な談話室だ。陽光を受けてきらめくシャンデリア、深い色の絨毯、──そして中央の丸テーブルには、銀のティーセットと有名店のチョコレート、焼きたてのスコーン、サンドイッチなどの茶菓子が美しく並べられていた。
その用意を整えていた人物に──ハリーの視線がそこで止まる。
「……ルーピン先生!?」
声が裏返り、目を見開く。リーマスは静かにポットを置き、振り返って穏やかに微笑んだ。
「やぁ、ハリー。久しぶりだね」
「ど、どうして先生までここに?」
ハリーは呆然と立ち尽くし、リーマス、シリウス、俺の間で視線を彷徨わせた。シリウスは喉の奥でくつくつと楽しげに笑い、リーマスは困ったように笑みを深めて肩をすくめた。
シリウスのとき以上に混乱しているのがわかる。尊敬する教師が、自分の知らない場所で──しかも、俺の家で当然のようにいるなんて思いもよらなかったに違いない。
「私はノアに雇われたんだ。……少し、この家を手伝っていてね」
「雇われた……?」
「そうだよ。まさか君と、こんなにすぐに会えるとは思っていなかった。だから……嬉しいよ」
その優しい声に、ハリーの表情がようやく揺るぎ、驚愕から安堵と喜びが沸き起こってきたようだ。シリウスとリーマス、親友の二人が一緒に暮らしているのは、とてもいい事のように思っているのだろう。
「……僕もです、先生」
「おや、私はもう”先生“ではないよ」
「あ。──ええっと……リーマス?」
「うん、なんだい?」
呼ばれたリーマスは優しく微笑む。呼び慣れない言い方にハリーは少し気恥ずかしそうにしながらも、シリウスに促されるままソファに座った。
紅茶が注がれ、茶菓子の香ばしい匂いが談話室を満たしていた。
シリウスはサンドイッチを豪快にかじり、「やっぱりこういうのが最高だ」と上機嫌に笑う。リーマスも穏やかな表情でカップを傾け、久しぶりに落ち着いた空気が流れていた。
そんな中で、ハリーがふと真剣な顔になり、俺に向き直った。
「そういえば……ノアの父親になったのは誰? 僕、それが一番気になってたんだ。紹介してくれるよね?」
唐突な問いに、リーマスは目を伏せて紅茶を一口啜り、シリウスは「父親、ねぇ」とわざとらしく口元を歪める。
俺は「勿論」と頷き、机の上の小さな銀のベルを指先で摘んだ。チリリンと澄んだ音が、静かな室内に響き渡る。
「──パパー」
冗談めかして呼んでやると、ハリーは「えっ」と間抜けな声を洩らし、目を瞬かせて固まった。
次の瞬間、談話室の扉がゆっくりと開いた。
現れたのは、背筋をまっすぐに伸ばし、落ち着いた所作で歩み寄る男──クィレルだ。
「お呼びでしょうか、ノア様」
かつてホグワーツで震える声を張り上げ授業をしていた男とはまるで別人のように、淡々とした─けどそれでいて恭しい声音だった。
「ク──クィレル!?」
ハリーは勢いよく立ち上がり、机に置いたカップがガチャンと鳴った。
目を剥き、指先を震わせながら、ハリーは言葉を詰まらせる。
「ど、どうして……!?」
その狼狽ぶりに、リーマスとシリウスはちらりと視線を交わす。だが二人の目はハリーではなく、クィレルを射抜くように見据えていた。──本当にハリーに危険がないのか、冷静に見極めているのだろう。
俺は肩をすくめ、苦笑しながらハリーに向かって言った。
「クィレルが、俺の養父なんだよ」
「…………え?」
ハリーは完全にフリーズした。ぽかんと口を開け、瞬きすら忘れたように固まっている。
一方のクィレルは微かに微笑を浮かべているが、その眼差しにはハリーへの感情は一切こもっていなかった。
「でも、クィレルは……ヴォルデモートに……」
しどろもどろに言葉を探すハリー。
俺は片手を軽く振り、「まぁ、色々あってさ」と笑った。
「今は俺に忠実なんだ。安心しろよ」
「……はい。ノア様のためなら命を惜しみません」
クィレルも、落ち着いた声音で静かに告げる。
その言葉はあまりに真剣すぎて、逆にハリーをさらに混乱させていた。
混乱したハリーを落ち着かせるのに、結局、数十分はかかった。
「クィレルが俺の養父」という一言があまりに衝撃的すぎて、ハリーは最初、カップすら持てずに震えていた。
何度も「クィレルはもうヴォルデモートに操られていない」「俺が救った」「そして今は、契約によって絶対的な忠誠を誓っている」と説明し、クィレルもそのたびに静かに頷き、落ち着いた声で「ノア様のためなら命を惜しみません」と繰り返した。
シリウスとリーマスも横から「契約魔法は裏切れない」と説明した。
それでも──ハリーの表情から、完全に不安が消えることはなかった。
やっとのことで「……わかった」と小さく頷いたが、それは納得というよりも「いやだけど、今は受け入れるしかない」という諦めに近かった。
そんな中で、クィレルは落ち着いた仕草で「追加のお菓子を用意してまいります」と丁寧に一礼すると、静かに扉の向こうへ姿を消す。
扉が閉じ、足音が遠ざかると同時に──ハリーは急に真剣な顔をして、俺たちに向き直った。
「……ノアがそう言っても、僕は……どうしても簡単には信じられない。だって僕は、クィレルに殺されかけたんだ」
その声には怒りよりも、不安と恐怖が混ざっていて、脚の上で握りしめた拳がわずかに震えていた。
「だから……シリウス、リーマス。二人とも、お願いだ。クィレルをちゃんと見張ってて。本当に危なくないか、ずっと……」
シリウスは驚いたように目を瞬かせたが、すぐに頷いて「もちろんだ。ハリーに危害を加えるようなら、俺が真っ先に止める」と力強く言った。
リーマスもカップを置き、落ち着いた声で「安心しなさい。私も見ている。彼がきみやノアを傷つけることは、絶対に許さない」と言い切った。
信頼している大人二人の言葉に、ハリーはようやく少しだけ肩の力を抜き、俺を見た。
「……ごめん、ノア。でも、簡単には……」
「わかってるよ。むしろ当然だろ」
軽くそう返すと、ハリーは少しだけ表情を緩めた。それでも瞳の奥には、まだ警戒の色が消えずに残っている。
ま、ヴォルデモートの命令とはいえ、クィレルがハリーに殺意を抱き殺そうとしたの事実だ。あの時の恐怖は簡単に消えるものじゃないし、信じろって言われても難しいかな。
少ししてクィレルが扉を開けて戻ってきた。手には銀のトレイを持ち、そこには新しいクッキーと、まだ湯気を立てるティーポットが乗っている。
「追加の茶菓子をご用意しました。どうぞ」
背筋を伸ばしたまま、落ち着いた動作で菓子皿をテーブルに並べる。整った所作に乱れはなく、淡々とした声には一切の感情が滲まない。
ハリーはちら、とその様子を盗み見て──無意識に喉を鳴らした。緊張と警戒のせいで、やけに喉が渇いているのだろう。
「ハリーに紅茶を注いでくれ、クィレル」
俺が軽く言うと、ハリーはびくりと肩を震わせ、思わず手を握りしめていた。
一瞬、緊張が走っていたがクィレルは何の迷いもなく「かしこまりました」と頷き、ティーポットを静かに傾けた。黄金色の紅茶が音もなく注がれ、湯気と香りが立ち上る。
カップを前に差し出されたハリーは、ためらっていた。受け取るべきか、断るべきか。シリウスに視線を向け、シリウスがゆっくりと頷いたのを見て──ほんの短い沈黙ののち、ぎこちなく両手で受け取り、唇をきゅっと結んだ。
「…………」
眉を寄せたまま、紅茶の表面をじっと見つめている。間違いなく、「毒入りじゃないか?」と考えているに違いない、そう表情が物語っている。
意を決して、ハリーはほんの少しだけ口をつけた。
先ほどと変わらず、美味しい紅茶だっただろう。
けれど──ハリーはカップを置き、複雑な表情を浮かべたままだった。
味わう余裕よりも、まだ胸の奥に残る警戒心が強かったのかな。
俺はその様子を横目に見て、小さく息をつき、わざと肩を竦めて笑ってみせた。
「安心しろって。ここで出る紅茶と菓子に毒なんか入ってない。──そんなことしたら、まず俺が怒る」
軽口を叩いたつもりだったが、ハリーはぱちぱちと瞬きをして、ぎこちなく表情を和らげた。
その後、ハリーがあまりにも黙り込んでしまったからクィレルには下がってもらい──クィレルは無言で微笑んだだけで、拒絶はしなかった──ようやく空気が落ち着いた談話室で、俺たちは夏休みの話をしていた。
ハリーは紅茶を弄びながら、退屈そうにため息をつく。
「夏休み、暇すぎるよ。ダーズリーの家じゃ魔法も使えないし……本当に、早く終わってほしい」
その愚痴には孤独と諦めの影が滲んでいて、聞いているだけで胸が少し痛む。
するとシリウスがぱっと身を乗り出し、わざと明るい声を張り上げた。
「どこか遊びに行ったりしないのか? 海とかどうだ? 今の季節なら最高だぞ!」
無邪気な笑顔と身振りに、ハリーは苦虫を噛んだような顔で首を振る。
「ダーズリー達と行くくらいなら、あいつらの車を洗ってる方がマシだね」
吐き捨てるような声に、シリウスの眉がぐっと寄った。シリウスとハリーは手紙でやり取りをしてるし、ダーズリー家でどんな扱いを受けているのか察しているのだろう。
本当ならハリーを引き取って暮らしたいが、まだ堂々と大通りを歩けないシリウスは、それが叶わない願いだと理解している。
シリウスは数秒の沈黙のあと、バンッと手を叩いて立ち上がる。
「──よし、決まりだ! バーベキューをしよう! この庭で!」
「バーベキュー?」
ハリーが目を瞬かせる。聞き慣れない言葉に戸惑ったのだろう。シリウスは懐かしそうに目を細め、少年のような笑みを浮かべた。
「ああ、知らないか? 昔、──学生の頃にジェームズの家でやったことがあるんだ。庭で火を起こして、肉を焼いてさ……あれは最高だった」
俺は少し首を傾げる。魔法使いがバーベキュー、ってあんまりイメージが湧かないな。
孤児院近くの庭付きのマグルの家とかでは、夏にやってるの見たことあるけど。
けれど、思い返せば魔法界にもキャンプ用具──というか、魔法のテントも普通に売っているし、庭で食事やパーティをする文化もある。
そう考えれば、別に不自然でもないのかもしれない。あまり見ないのは魔法で火を起こしたりするのを、マグルに見られるわけにはいかないからかな。
シリウスの素晴らしい提案を飲み込めたハリーの瞳が、次第に期待で輝きを帯びていく。
「……やりたい! 近所の人たちがやってるのを見たことがあって、ずっと憧れてたんだ」
そう言って俺を見上げてくる目は、希望でいっぱいだった。俺は小さく笑って肩を竦める。こんな目されて、断れるわけないな!
「──いいじゃん。最高のバーベキューにしようぜ」
「ほんとに!? ありがとう、ノア!」
弾む声と共に、ハリーはぱっと笑顔を咲かせた。
その顔を見て、俺も思わず笑みを深める。
ま、これから色々あるだろうし楽しい思い出作ってて損はないな。
余談だが──次の日、ハリーと同じようにやってきたセドリックは、これまたハリーと同じような反応をしていた。