兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

141 / 180
141 クィディッチ ・ワールドカップ

 

 

 今日はクィディッチ・ワールドカップの決勝戦が行われる日だ。四年に一度行われるこの大会はクィディッチが好きな魔法族にとっては待ちに待った一大イベントであり、毎回開催国は異なっている。ここ、イギリス開催になったのは三十年ぶりらしい。

 

 世界中の魔法族がイギリスに集結する日、俺は魔法省からの依頼で優勝チームに優勝杯を授与する仕事を任せられた。

 

 夕方に事務所に行き、メイソンと共に魔法省から送られてきたポートキーを使ってクィディッチ・ワールドカップの会場近く、森の中の空き地に俺たちは降り立った。

 まわりは高い木々に囲まれているが、この一角だけぽっかりと開けていて、木々の隙間からは、すぐ近くにそびえる巨大なスタジアムの一部がのぞいていた。

 

 

「テント?」

 

 

 目の前にはひときわ目を引く大きなテントが張られていた。深紅と金の布地に銀糸で紋章が縫い込まれていて、形はテントだが、テント──にしては豪華だ。

 

 このテントはなんだろう。

 と、思っていると、そのテントの扉がさっと開き──にこにこと現れたのは魔法大臣コーネリウス・ファッジだった。

 

 

「やあ、ノア!」

 

 

 ファッジはにこやかに両腕を広げ、すぐさま手を差し出してきた。

 今後のことを考えると、ファッジとは友好にしておいた方がいいだろう。そう判断して俺も笑みを作って手を握り返す。

 

 

「こんばんは、大臣。呼んでいただいて光栄です」

「いやいや、こちらこそ! 今回はぜひ、きみに大役をお願いしたかったのだよ」

 

 

 肩をぽんぽんと叩かれる。恰幅のいい腹を揺らしながら笑う姿は、上機嫌そのものだった。

 イギリス魔法大臣からしても、このイベントは必ず成功させたいし──他の国から来ている貴賓を驚かせたいのだろう。

 俺の名前は世界中に広まっているし、知名度も高い。今やイギリスを代表する魔法使いの一人である、と、俺自身思っている。大役を担うにあたっての不足はない。

 

 

「立ち話もなんだ。さあ、中へ」

 

 

 俺とメイソンは顔を見合わせ、案内されるままテントの中に足を踏み入れた。

 

 内側はまるで高級ホテルのラウンジだった。天井は高く張り上げられ、シャンデリアが黄金の光を落とす。深緑のカーペットが一面に敷かれ、中央にはふかふかのソファセットと、磨かれたローテーブル。壁際には書棚や小さな暖炉まである。──どう見ても「テント」ではなく「邸宅」だ。拡張魔法か、それとも別の場所につなげているのか、よく考えたらすごい魔法だよなぁ。

 

 ファッジが杖を軽くひと振りすると、瓶とグラスが宙に現れ、シュワッと音を立ててスパークリングが注がれる。細長いグラスが三つ、俺たちの前にふわりと並んだ。

 

 

「さあ、どうぞ。緊張をほぐしてくれ」

「ありがとうございます」

 

 

 俺とメイソンは礼を言って受け取り、三人でソファに腰を下ろす。ソファは驚くほど柔らかく、体が沈み込むようだった。

 

 

「ここはきみたちの部屋だ。好きに使ってくれ」

「はい、ありがとうございます」

 

 

 なるほど、ここが今日の宿泊場所ってわけか。

 クィディッチは試合が終わるまで何日もかかることもある。だからこそ、泊まる場所を準備するのは当然だし、ファッジもそう考えて用意してくれたんだろう。──ま、俺はすぐに終わると知ってるけどな。

 

 

「さて──」と、ファッジは胸を張り、切り出した。

 

 

「ノア、君には試合後に優勝杯を授与してもらう。これは非常に名誉ある役目だ。観戦は私と同じ特等席、最上階の貴賓席だ。とても良い席だから期待していい」

「ありがとうございます」

「それと──今日の夜、各国の要人を交えた食事会がある。どうかね、出席してもらえると実にありがたい」

 

 

 ……これは予定外だった。だが、ファッジは期待に満ちた眼差しと、「断られるはずがない」という確信が透けて見える笑顔を向けている。メイソンは静かにグラスを回しながら、俺に任せるという目をしていた。

 

 

「もちろんですよ。楽しみにしていますね」

 

 

 俺も断るつもりはなく快諾すると、ファッジは満面の笑みで手を打った。

 

 

「素晴らしい! ますます盛り上がりそうだ」

 

 

 にっこり笑って掲げたグラスを飲み干すと、彼は立ち上がり、ローブの裾を翻した。

 

 

「また時間になったら呼びに来よう。それまで、ゆっくり寛いでいてくれたまえ」

 

 

 そう言ってご機嫌に去っていくファッジを見送り、俺はソファに体を預けた。

 メイソンは部屋を見渡しつつ、グラスに口をつけながら「すごい部屋だね」と笑いながらこぼした。

 

 

 

 部屋を見て回ったり──ちゃんと客室が二つにトイレ別の浴室まであった──お菓子をつまんだりしていると、遠くの方からゴーンと深く響く音が聞こえた。窓の方を見れば、森の向こう側から赤と緑の光が漏れている。

 

 机に置いてあった今日の試合のプログラムを見ていたメイソンは「始まったのかな」と声を弾ませながら立ち上がり、外の様子を伺っている。

 メイソンも魔法族らしく、クィディッチの事は好きで今日は仕事でもあるが、半分は遊び──のようなものかもしれない。

 

 

 しばらくして、「チリン」とベルのような音が鳴った。

 音がしたのは入口の方であり、よく見たら扉の上に小さな金色のベルがついていて微かに震えていた。窓を見ていたメイソンがすぐに扉へ向かい、扉を開けた先にいたのは──興奮を隠しきれない顔で笑うファッジと、その隣に立つ異国風の壮年の男だった。

 

 

「さあ、時間だ! ノア、メイソンさん。行こう!」

 

 

 勢いよく告げてから、ファッジは慌てて隣の人物に手を向ける。

 

 

「そうだ、こちらはブルガリアの魔法大臣。──ええと、オブランクス? スクラン……ごほん! まあいいでしょう。大臣、こちらがノア・ゾグラフです。ご存じでしょう?」

 

 

 取り繕うように笑うファッジをよそに、ブルガリアの大臣の反応は予想以上だった。

 

 

「ノア・ゾグラフ!」

 

 

 異国訛りの強い声で叫ぶと、彼は目を輝かせて俺の手を両手で掴み、力いっぱい握りしめてきた。ぶんぶん振られるし、握力がやばい。瞳は子供のようにきらきらしていて、まるで旧友にでも会ったかのようだ。

 

 

『私はブルガリア魔法大臣、アンドレイ・オブランスクだ。まさか会えるとは! 我が国でも君の写真集は飛ぶように売れているよ!』

 

 

 ぺらぺらと早口で話す大臣。

 あれ、英語話せるんだ? 話せない──ってか、話せるのに話せないふりをしてると思ってたのに。

 

 

『どうも、ノア・ゾグラフです。知ってくださって光栄です』

 

 

 この人と今後会う事はなさそうだが、向こうの大臣だしそれなりに丁寧に扱っておいた方がいいだろう。営業スマイルを見せて言えば、オブランスクは驚いたように目を瞬かせ──満足気に笑った。

 

 その時、俺とオブランスクを見ていたファッジは目を瞬かせ、「なんと!」と驚きの声をあげた。

 

 

「驚いた! ノア、きみはブルガリア語も話せるのか?」

「え?──ああ、そうなんです。大体どこの国の言葉も話せます」

「素晴らしい! クラウチ並みに優秀なんだね。いつか魔法省にこないかい?」

 

 

 ファッジの言葉に、俺はとりあえず曖昧に笑っといた。

 ……なるほど、俺は魔法生物の言葉だけじゃなくて、どんな外国語でも理解できるのか。聞いた事もない外国語でも、俺の耳には英語のように聞こえたし、俺が話した言葉も英語のつもり──だったんだけど、彼らにはブルガリア語に聞こえたんだろう。

 

 ファッジは俺がブルガリア語がわかると知ると、目をきらりと光らせ上機嫌に頷き、声を張った。

 

 

「さあ、皆さん。私についてきてください。スタジアムまではすぐです!──ノア、ブルガリア魔法大臣にも伝えてくれるかね?」

 

 

 付け足された言葉に、俺は頷き通訳したが──オブランスクはファッジが少し離れたすきに『わかってるよ』と俺に囁き、悪戯っぽい目配せをした。

 やっぱり英語わかってたらしい。わからないふりをして、ファッジがパントマイムしたり慌てているのを見て楽しんでいたのだろう──そう思うとなかなかいい性格してるな。

 

 

 

 俺たちは急ぎ足で森の小道を抜けた。

 遠くからは人々のざわめきと歓声が波のように押し寄せ、緑の木々の合間から金色の壁に囲まれた巨大なスタジアムがそびえ立っているのが見えてきた。

 

 関係者用の入り口に立っていた魔女は、ファッジの姿を認めるやいなや慌てて扉を開いた。だが、その視線が俺に移った途端、ぱちぱちと瞬きを繰り返し、頬がみるみる赤くなる。通りすがりに軽く笑みを返したら──彼女は一歩よろけて扉に縋りついた。横でそれを見ていたメイソンは、肩をすくめて苦笑していた。

 

 扉を抜けると、深紫色の絨毯が階段に沿って敷かれていた。「一番上だよ」とファッジが振り返りながら告げる。俺たちは彼の背中に続き、トンネルのような階段を上っていく。ランタンが等間隔に吊るされ、ぼんやりした明かりが石壁を照らしている。見上げれば、口のように開いた出口から外の光が差し込んでいた。

 

 段数は思ったより多く、ファッジは額に汗を浮かべて息を切らせながらようやく頂上にたどり着いた。俺もその後ろから外に出る。

 

 そこは見晴らしのいい小さなボックス席だった。観客席の最上階、両サイドの金色のゴールポストを真正面に見渡せる位置。紫に金箔の椅子が二列に整然と並び、すでに半分ほどが埋まっている。見覚えのある背中もちらほらあった。

 

 

 特等席に座っている人たちは、ファッジの登場に気づくとすぐに立ち上がり、笑顔で握手を求める。一番初めに気づいたのはアーサー・ウィーズリーであり、その次に跳ね上がるように立ったのがパーシーだ。

 

 アーサーがファッジと握手し挨拶を交わしているのを眺めていた俺に、突然声が飛んできた。

 

 

「ノア!? どうして──」

 

 

 ハリーが驚きに目を丸くして駆け寄ろうとしたが、それを遮るようにファッジが友人に声をかけるような気軽さと大仰な手振りで「やあハリー! 元気かね?」と声を張った。ハリーは慌てて立ち止まり、微妙な顔をしながら握手を交わしている。

 

 貴賓席に座っているのはハリーやウィーズリー一家の面々と、この一大イベントの重要責任者っぽい人たちだ。

 

 ファッジがハリーにオブランスクを紹介している間に、俺は後方で口をあんぐり開けている双子の元へ向かった。

 

 

「ノア! なんだ、これたのか?」

「なんで大臣と一緒なんだ? 仕事じゃなかったのか?」

 

 

 二人同時に叫ばれて、思わず笑う。誘ってくれたのはセドリックだけじゃなく、双子もだった。俺が「仕事だから無理」と断ったから、余計に驚いてるらしい。

 

 

「ちゃんと仕事中。優勝杯を渡す役なんだ」

 

 

 肩を竦めて答えると、二人は同時に「はぁ!?」と声を上げた。

 

 

「ノアが!? じゃあもう国の代表みたいなもんじゃないか」

「おお……我らがノア様は、ついに庶民には届かぬ高みに……!」

 

 

 わざとらしく目頭を押さえて泣くフレッド。その隣でジョージがフレッドの肩をがっしり抱き、「泣くな兄弟、あいつは立派になった」と大げさに慰める。

 

 

「おや? ウィーズリー家の面々も、同じ席にいるようだが?」

 

 

 双子のテンションに合わせてわざと尊大な口調で言ってみせると、双子は顔を見合わせて同時に「なんと!」と叫ぶ。

 

 

「なら俺たちも偉くなったってことだな!」

「今日からは“貴族ウィーズリー卿”と呼んでくれ」

 

 

 二人で勝手に胸を張り合い、笑いながら俺の肩を左右からバシバシ叩いてくる。

思わず吹き出した俺に、二人も声を揃えてニヤリと笑った。

 

 

 

「──ああ、ルシウスのご到着だ!」

 

 

  ファッジの声に、貴賓席の視線が一斉に振り返る。貴賓席は前後二列になっていて、後ろの空いている席に向かってルシウス・マルフォイ、ナルシッサ、ドラコの三人が歩いてくるのが見えた。

 ルシウスは蛇の装飾がついたステッキを打ち鳴らし上品な仕草で薄い笑みを浮かべると、すぐにファッジへと手を差し出した。

 

 

「ああ、ファッジ。お元気ですかな? 妻のナルシッサと、息子のドラコを紹介させていただこう」

「これはこれは、お初にお目にかかります」

 

 

 ルシウスに促されナルシッサが流れるような所作でお辞儀をする。その顔が上がった瞬間──俺を見つけてびたりと固まった。

 氷のように白い頬が、みるみる桜色に染まっていく。……幸運にもファッジはオブランスク魔法大臣を紹介するために目を離していて気づかなかったようだけど。

 

 

「ご紹介しましょう。こちらはオブラクス?──ンスク大臣、ブルガリア魔法大臣閣下です。英語がわからないようでね、私の言っていることもわからんでしょう。そして、彼がイギリスの宝石ノア・ゾグラフです。息子さんとはホグワーツで一緒ですかな?」

 

 

 ファッジが得意げに俺を手招きした。フレッドとジョージから離れて一歩進み、ルシウスに微笑みかけると──彼はほんのわずかに顔を引き攣らせた。対照的に、ナルシッサは両手で口元を押さえ、瞳を潤ませ感激に震えている。ドラコは飛び跳ねそうな勢いで目を輝かせた。ここで俺に駆け寄ってこないあたり、ドラコはルシウスとナルシッサにそこそこ貴族らしい振る舞いを躾けられているのだろう。

 

 

「ええ、まあ。息子のドラコとは──仲良くしているようで」

「この前も、家に遊びにきてくださったんですよ。ノア、またいらしてね」

 

 

 ナルシッサは期待と熱がこもった視線で俺を見る。俺が「もちろん」と頷けば、胸を押さえ感極まった様子で微かに震えていた。

 

 

「それは良い! ほかには誰か──アーサー・ウィーズリー氏はご存知でしょうな?」

 

 

 ファッジは今度はアーサーに向かって手を広げる。アーサーはルシウスを見ると、表情を強張らせたが──それでも無理に笑顔を作って頷いた。

 ルシウスもルシウスで、気まずそうにしつつもファッジの手前、薄らとした笑みを崩す事はない。

 

 

「アーサー、ルシウスは先ごろ、聖マンゴ魔法疾患傷害病院に、それは多額の寄付をしてくれてね。今日は私の客としての招待なんだ」

「それは、結構なことですね」

 

 

 二人はそれ以上、嫌味を言い合う事はなく貼り付けたような笑みを浮かべたままそれぞれの席に座る。

 ドラコはいそいそとハリーとロンの方へ歩み寄り、小声で「どっちを応援する?」と楽しそうに話しかけていた。二人も自然に笑みを浮かべ、プログラムを広げながら肩を寄せ合う。

 その光景に、アーサーとルシウスの顔は何とも複雑だったが──さすがに子供たちの前で大人気なく口を挟む気はないらしい。

 

 今、ドラコとハリーとロンはかなり仲が良い。それを知ってる保護者達は今まで犬猿の仲だったが、とりあえず子どもたちの前で大人気ない行動に出るつもりはないらしい。

 

 

「さあ、もうすぐ開始時刻だ。ノアは私の隣で──メイソンさんと大臣はそちらに座ってください」

 

 

 ファッジが仕切る声に従い、俺たちが席についたちょうどその時、金髪に空色の瞳を輝かせた魔法使いが軽快に駆け込んできた。

 

 

「みなさん、宜しいかな?──ああ! ノア・ゾグラフ! ようこそ、ようこそ! 私はルード・バグマン。今日は試合の解説をするから楽しみにしていてくれ!」

 

 

 丸い顔のバグマンは、白い歯を見せて快活に笑う。「どうも」と軽く頭を下げただけだったが十分嬉しかったのか、頬を薔薇色に染めると胸を張りファッジに向かい合った。

 

 

「大臣、ご準備は?」

「君さえよければ、いつでもいい」

 

 

 ファッジは深く椅子に腰掛け、満足げに言った。バグマンは笑みを深めると、杖をサッと取り出し、自分の喉に当てて「ソノーラス!」と増幅魔法を唱えた。

 そして唇を軽く舌で舐め、咳を一つこぼし喉を整えると、息を大きく吸う。

 

 

「レディース・アンド・ジェントルメン……ようこそ! 第四百二十二回、クィディッチ・ワールドカップ決勝戦に、ようこそ!」

 

 

 満席のスタジアムから湧き立つどよめきに向かって呼びかける。その声は大観衆の上に響き渡り、スタンドの隅々にまで轟いた。

 

 開始の合図に観衆が叫び、足を踏み鳴らし手を打ち鳴らす。何千という国旗が打ち振られ、ブルガリアとアイルランドの国歌が騒音をさらに盛り上げた。

 

 

 ついにクィディッチ ・ワールドカップが始まった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。