兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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143 不穏な

 

 

 あのあとすぐ俺のテントに様子を見に来たファッジが、不安そうな顔をしながら死者は居ないし、俺の知り合いはみんな無事だと教えてくれたが──こっそりと開心術をかけて何があったのかを調べてみると、原作通りハリー達が闇の印が上がったその付近にいて、軽く取り調べられたらしい。

 

 それから俺は事態がどう収束したのか確認する暇もなく、メイソンによる付き添い姿現しで事務所に帰った。

 

 

 事務所には仮眠室があり、俺はそこで寝て、メイソンはソファで寝ていた。家に帰ってもよかったが──深夜に帰ってシリウス達を起こしたら悪いしな。

 

 翌朝、メイソンにまた起こされ、メイソンが用意したパンを食べつつフクロウが届けた日刊預言者新聞を読む。

 

 

「おお……」

 

 

 モノクロの写真と、見出しを読んだ俺はつい声を漏らしてしまった。サンドイッチを食べていたメイソンは隣から覗き込み、大きく目を見開き「……社長が喜びそうだなぁ」と苦笑混じりでぼやく。

 

 

 見出しには『クィディッチ ・ワールドカップの恐怖 若き英雄ノア・ゾグラフ』と書かれ、写真の中の俺は死喰い人達を魔法で吹っ飛ばし、マグル一家を救っていた。

 

 本文は──

 

 

『昨夜、クィディッチ・ワールドカップ終了後のキャンプ場において、仮面をつけた死喰い人の一団が突如出現し、マグル一家を襲撃する前代未聞の事件が起きた。燃え広がるテント、逃げ惑う観客、そして空に掲げられた不吉な「闇の印」──現場は一時騒然となった。

 

 しかし、この惨劇を食い止めたのは、魔法省役員でもなく、死地を潜り抜けた闇払いでもなく──たった一人の若者であった。

 

 ノア・ゾグラフ。

 イギリスの魔法界ではその名を知らぬ者はいない、イギリスの宝石と名高い五千年に一人の美貌を持つ天才魔法使いが、死喰い人の群れに単身で立ち向かい、彼らを圧倒的な力で退けたのだ。

 彼はクィディッチ ・ワールドカップで優勝杯を手渡すという大役をするために訪れていたという。

 

 目撃者によれば、ゾグラフ氏は防御壁一つで死喰い人の呪文をはね返し、片手の一振りで数人を吹き飛ばしたという。さらに宙吊りにされたマグル一家を安全に救い出し、火の海と化したテントを数秒で鎮火・修復した。

 

 彼の姿を見ていた観客は皆、口々にこう語った。

「まるでマーリンが現れたようだった」

「ノア・ゾグラフがいなければ、もっと多くの命が失われていた」

 

 一方で、魔法省の体たらくは見るに堪えないものだった──』

 

 

 後はどれだけ魔法省が杜撰な警備をしていたか、民間人の不安に応えることなくあしらったかなどが大袈裟に書かれていた。死喰い人を一人も捕まえることができず取り逃がした事も何度も書かれている。

 

 最後はこう、締められていた。

 

 

『──今後、魔法省は責任を追及されることになるだろう。だがひとつだけ確かなのは昨夜、混乱と恐怖の只中で、人々を守り抜いたのは魔法省ではなく、ノア・ゾグラフというただ一人の若者だったという事実である。』

 

 

 大きく嘘はついていない。

 魔法省への苦言が大きく、少しオーバー過ぎるしわざと読者が感じる印象を操作している気がするが、まあまああっている。

 

 今後、昨日のことを追求されるのはちょっと面倒だなぁと思いつつ、パンを紅茶で流し込み立ち上がる。

 メイソンも社長への報告や、メディアへのインタビューが増えると少し憂鬱そうな顔で新聞を見ていた。

 

 

「じゃあ、帰るわ」

 

 

 朝ごはんも食べたし、ここに新聞が届いてるってことは家にも届いてるはず。シリウス達が心配してそわそわしているだろう。

 立ち上がれば、メイソンは新聞から顔を上げて頷いた。

 

 

「うん、気をつけて──え、でも姿現し──」

 

 

 その続きを聞く前に、俺はちらりとメイソンに目をやり、ニヤッと笑ってから姿を消した。

 メイソンは俺が姿現しできないと思っていたんだろう。残されたメイソンは、きっとぽかんと口を開けたまま、俺が消えた場所を見つめているんだろうな。

 

 

 

 

 姿現しをした俺は、自分の家──舞台裏の前に立ち、扉を開ける。

 

 ぎい、とかすかに軋む音が家の中に響いた途端。遠くで扉が開き駆け寄る足音が聞こえた。

 

 

「ノア様! お怪我はありませんか?」

「うん、大丈夫だ」

 

 

 最初に飛び出してきたのはクィレルだった。蒼白な顔のまま俺に駆け寄り、怪我がないとわかるや否や、ほっと肩を落とす。

 

 

「ああ、よかった……。いえ、ノア様が死喰い人如きに負けるとは思っておりません。ただ──その美しい肌に傷がついたのではないかと、気が気ではなく……」

 

 

 大袈裟だな、と笑って肩を竦める。

 リビングに向かおうと廊下に足を進めた途端──奥から複数の足音が駆け寄ってきた。

 

 

「ノア!」

「無事か!?」

 

 

 飛び込んできたのはシリウスとリーマスだった。二人とも寝起きのはずなのに、すっかり目が冴えた様子で、手にはぐしゃぐしゃに握られた日刊預言者新聞がある。

 

 

「……大丈夫かい? 新聞を見たよ。とんでもないことだ」

「昨夜のキャンプ場にいたんだろう? 記事にはきみの名前が大きく……」

 

 

 声を潜めつつも、二人の声には動揺が滲んでいた。

 

 

「平気だって。ほら、傷ひとつないだろ」

 

 

 両手を広げてみせれば、二人は同時に安堵の息を吐いた。それでも完全に安心はできないのか、まだ落ち着かない様子で俺を見つめている。

 

「それに──」と、シリウスは眉を寄せたまま続けた。

 

 

「ハリーは? ハリーもあそこにいたはずだ。無事か?」

「大丈夫。巻き込まれたけど、ちゃんと帰ってる」

「巻き込まれたのか!? け──怪我は?」

「無事だって」

 

 

 きっぱりと答えると、シリウスは深く息を吐き、胸に手を当てて俯いた。新聞を読んでからずっと不安で仕方なかったのだろう。

 

 

「廊下で立ち話もなんだし、リビング行こうぜ」

 

 

 そう言うと二人は頷き、開きかけた言葉を飲み込む。クィレルは「紅茶を」と言い残し、足早に台所へ消えていった。

 

 

 

 

 リビングのソファに腰を沈めると、ようやく一息つけた。

 机を挟んで向かいに腰かけたシリウスとリーマスは、俺が話し出すのを待つように沈黙している。──クィレルが戻ってから、と空気を読んでいるのだろう。

 

 しばらくして戻ってきたクィレルが、銀の盆を両手に抱えてやってきた。

 

 

「お疲れでしょう、ノア様。どうぞこちらを」

 

 

 盆の上には紅茶と、高級ミルクチョコレートと、宝石のような砂糖菓子がずらりと並んでいた。クィレルにしてはどれも甘めのチョイスだな。

 

 

「……甘いやつ多くない?」

「はい、疲労には糖分が最も効果的ですので。ノア様のためなら、いくらでも」

 

 

 恍惚とした目で告げるクィレルに、シリウスとリーマスは揃って呆れたように顔を顰める。俺は肩をすくめながら一口つまみ、「まあ、美味いけどな」と笑えば、クィレルは嬉しそうににっこりと笑った。

 

 

 俺は三人に何があったかを簡潔に話した。

 といっても、あくまであの場で見たり聞いたことしか言えないし、あれから魔法省がどんな声明を出すのかとかはわからない。

 

 話終わって甘いチョコを摘む。

 話し終えると、またチョコをつまむ。リーマスは難しい顔でチョコをかじり、シリウスは腕を組んでソファに深く沈み込む。クィレルは俺のカップに静かに紅茶を注ぎ足したが、その手は僅かに強張っていた。

 

 

「……ヴォルデモートが復活したわけではないだろう」

 

 

 長い沈黙を破ったのはリーマスだった。低く落ち着いた声。その言葉にシリウスもクィレルも、重く頷いた。

 

 

「おそらく、キャンプ場を襲った死喰い人と、闇の印を上げた死喰い人は別の思惑で動いている。闇の印を見てすぐ逃げ出したということは、過去、ヴォルデモートが消えた時に保身のために手のひらを返した連中だろう」

「ああ、問題は印を打ち上げた奴だ。ただ単に怖がらせようと思ったのか、あるいは──真に忠実な下僕か」

 

 

 シリウスが唸るように言う。

 アズカバン行きを免れた連中は、結局ヴォルデモートに忠義を誓っていたわけじゃない。ただ権力や純血の利得を利用していただけ。だから彼が消えた時、あっさりと「操られていた」と言い訳をした。

 そんな奴らとは違う、ヴォルデモートに忠義を誓った献身的な魔法使いがアズカバン行きを逃れてひっそり暮らしていたのだろうか?

 いつかヴォルデモートが復活すると信じ、その時を待っている。そんな魔法使いは、魔法界に暗雲をもたらす可能性がある。

 いつか、ヴォルデモートを復活させてしまうかもしれない。

 

 シリウスたちはそう思っているのか、深刻な表情で黙り込んでいた。

 

 

「もっとも、復活は容易ではないはずです」

 

 

 クィレルが静かに言葉を差し挟む。

 

 

「最後に見たときは実体がなく……ゴーストと呼ぶのも難しい存在でした。私も命じられて肉体を得る方法を探しましたが、見つからなかった。仮に今も存在しているとしても、非常に稀有で闇深い魔法でしか……」

「まあ、ヴォルデモート一人で復活は無理だろうな。……だけど、献身的な部下がいたら、可能性はあるんじゃないか?」

 

 

 俺の言葉に三人とも黙り込んだ。

 シリウスとリーマスは、脳裏にピーター・ペティグリューが浮かんでいるんだろう。

 シリウスは歯ぎしりをし、苛立ちを隠さず低く唸った。

 

 

「……くそっ!」

 

 

 足を荒く叩いて、苛立ちを露わにする。

 

 

「ピーターだろう。あいつは今、ご主人様に縋るしか生き延びる道はないからな」

 

 

 苛立ちを隠さず、暗い声でシリウスが呟く。

 リーマスはカップの琥珀色の水面をじっと見つめ考え込みながら「いや」と呟いた。

 

 

「……ピーターが自ら姿を現して印を掲げるとは思えない。生きていることが露見すれば命取りになる。……最低でももう一人、奴を支える者がいるはずだ」

「ヴォルデモートの盲信者は揃ってアズカバンにいる。もし、今まで全てを欺いているやつならば……ハッ! とんだ蛇だな」

 

 

 シリウスは鼻で笑うと、ソファに深く沈み込んだ。片腕を背もたれの上に投げ出し、長い脚を大きく組んで押さえきれない苛立ちを身体ごとさらけ出す。指先で背もたれをトントンと叩きながら、視線だけは鋭く宙を睨みつけていた。

 

 

 ヴォルデモートの脅威を過去の物にしないために、闇の印を打ち上げた魔法使い。

「闇はここにある」そう示したかったのだろうか。

 

 

「……ヴォルデモートが復活したとして、狙いがハリー・ポッターなのであれば──今年は特に──厄介ですね」

 

 

 クィレルは紅茶を一口飲みながら、淡々とつぶやく。その一言に、シリウスは鋭く身を乗り出した。

 

 

「なんだって? 何か知っているのか?」

 

 

 問い詰める声は硬い。クィレルは落ち着いた様子で頷き、ローブの内から一通の封筒を取り出し、俺に差し出した。

 

 

「ホグワーツからの、保護者への手紙です」

「へえ? ──『三大魔法学校対抗試合について』……なるほどね」

 

 

 そこには今年、特別に三大魔法学校対抗試合が開催されることとなったと書かれていた。どんな試合が行われるのか、参加基準はなんなのか、そのあたりは詳しく書かれていないが、この行事を通じて、ホグワーツの生徒たちが海外の同年代と交流を深め、国際的な友情を育む事が目的、らしい。

 交流を深めるためにクリスマスにダンスパーティもあるからドレスローブを持参させてほしい事と、ついでに生徒達──つまり子どもたちには秘密にして欲しいと書いてあった。

 

 なるほど、一大イベントだし一応保護者には予め連絡があったのか。

 

 

「今年は部外者が多くやってくるから、残党死喰い人がこっそり紛れ込みやすいな」

 

 

 手紙を見ながら呟けば、シリウスは舌打ちをし、天井を仰ぎ見た。

 

 

「ダンブルドアも、十分に対策を練るとは思うけれど。ハリーに警戒を怠らないように言った方がいいかもしれない」

 

 

 リーマスも頷きながら言う。シリウスは頭を掻き、唸るように「やっぱり……」と呟いた。

 

 

「今年もペットとして侵入しようか……ダンブルドアなら事情を話せば理解してくれると思わないか?」

「さあな。ダンブルドアって俺を特別視はしてないから……ま、手紙出して聞いてみるか?」

「ああ、頼む」

 

 

 ダンブルドアは俺を本心で信頼はしてない、とは思う。何か変な事があったら割と厳しい目で見てくるし。

 けど事情が事情だから、もしかしたら許してくれるかもしれないし、手紙くらいは渡していいだろう。

 クィレルに視線を向ければ、クィレルは笑みを深めて「すぐに送ります」と胸に手を当てて言い、立ち上がった。

 

 

「頼む。名前は俺にしといて」

「かしこまりました」

 

 

 クィレルは頭を下げて、足音を立てずに部屋から出ていく。

 シリウスも今はダンブルドアの判断を仰ぐしかない、とわかっているのか──それでもすぐにハリーのために行動できないのが不満そうだったけど──少し緩くなった紅茶を飲みながら、皺が寄った新聞を読む。

 チョコを食べていたリーマスはふと、俺を見つめた。

 

 

「……そういえば、ノア。まだ未成年だよね。……大丈夫かな」

 

 

 心配そうな顔をするリーマス。シリウスも新聞を下ろし「本当だ。魔法省から警告がくるんじゃないか?」と眉を寄せた。

 

 

「うーん、大丈夫だろ。だってあの時成人済み魔法使いはいっぱいいたし、魔法省は気づかないだろ?」

「……いや、バッチリ写真に撮られてる」

 

 

 シリウスが新聞を俺に向ける。

 ……確かに、写真の俺は堂々とした態度でニヒルに笑い、杖を振っている。

 

 

「……身の危険がある時は未成年も魔法を使っていいはずだし、もし警告が来るなら使ってすぐ来るんだ。今来てないってことはセーフって事だな」

「へえ、そうなんだ。……もしかして、警告来た事あるのかい?」

「ああ。一年生の夏休みのとき。うっかり退学になりかけたけどなんとかなったぜ」

 

 

 ニヤリ、と笑うとシリウスは俺と同じような顔で笑い「流石だ」と喉の奥で言い、リーマスは少し呆れたような顔をしつつも肩をすくめるだけだった。

 

 未成年が魔法を使えば、魔法省に知られる。

 それは未成年には“におい”があり、十七歳の誕生日までそれが消えることはない。

 

──だから、いくら正当防衛だとしても魔法省から警告が届くはずだ。

 

 

「そういえば、クリスマスのダンス・パーティなんてすごいね。きみのパートナーになりたいっていう女子は多そうだ」

 

 

 リーマスが場の空気を変えるために、明るく、茶化すようにそう言った。確かに、俺はめちゃくちゃ人気だしパートナーになりたいっていう子は多いだろうな。

 

 俺だってダンスパーティはイベントとして楽しみだ。ダンス踊れる気しないけど!

 この美貌で生徒から大人気だとしても、なぜか女の子が近くに全くいないけど!

 

 

「でもさ。……俺と踊る自信がある子っていると思うか?」

「あー……」

「うーん……」

 

 

 シリウスとリーマスは苦笑し言葉を濁した。

 

 そうなんだよな。俺が美しすぎるから、恋愛対象というより観賞用というか……雲の上の存在すぎると思われているし。

 

 いまだに、女の子と付き合ったことないし……。この外見だったら取っ替え引っ替えできると思っていたのに!

 

 

「あのさ……俺まだ誰とも付き合ったことないんだよ。どうやったら付き合えるんだ?」

 

 

 カップを机に置いて、真剣な顔でシリウスとリーマスに聞けば、二人は紅茶を吹き出しそうになり、軽く咳き込みながらも──口先がひくひくと痙攣するように震えていた。

 

 

「えっと?」

「な、んだって?」

「……シリウスもリーマスもモテただろ?」

「それは──そういうのはシリウスに聞いてくれ。私はモテてない」

「はあ? まあ……俺はモテたのは確かだが、学生時代はジェームズ達と馬鹿やる方が楽しかったしな……誰かと付き合ったりはなかったし」

 

 

 え。もしかしてこの外見で、シリウスもリーマスも俺と同じで童貞──?

 

 

「ど、童貞なのか?」

 

 

 少し期待を込めて聞いてみたら、二人は顔を見合わせ──大人っぽく、ニヒルに笑った。

 

「想像に任せるよ」とリーマス。「ノーコメント」とシリウス。

 

 ……そりゃ、童貞なわけがないよな! 特定の恋人がいなかっただけで!

 

 

 ムッとしてソファに深く背を預ければ、二人は面白そうにくすくすと笑った。

 

 

 

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