兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
長い夏休みが終わり、俺は犬姿のシリウスと共にキングズ・クロス駅に立っていた。
『こっそり侵入するなよ?』
『わかってる。……まあ、ダンブルドアは俺が家で大人しく待っているのを望んでいるらしいからな』
わかってる、と言いつつ、どう聞いても納得してなさそうにシリウスは答えた。
ハリーの危険に備えて、シリウスは今年もノアの利口なペットとして滞在したがっている。とダンブルドアに手紙を出したが、答えは『NG』だった。
確かに今年は他の学校の生徒や教師、関係者が多く訪れるが、そのため警備もしっかりしているしダンブルドア自身も危険がないよう目を光らせているとのこと。
それに──こっちが重要なんだと思うが──俺が“大型の黒犬”を連れてくることにより、他の生徒も競うように“大型の黒犬”を連れてくる事に繋がりかねないため。らしい。
去年、確かに“俺の”ペットであるシリウスに対してのラブレターなんてものも来ていたし、ダンブルドアの心配はまあ、あながち外れてはいない。
渋々折れたシリウスは家に残ることになったが、見送りとハリーとの再会くらいは、と犬の姿でここまで来ている。
マグルに気取られないよう指をひらりと振り、落とした荷物に人々の注意を逸らせる。その隙に俺とシリウスは九と四分の三番線へと滑り込んだ。
紅色の蒸気機関車が白い煙を吐き出し、プラットホームにはたくさんのホグワーツの生徒や保護者がいる。みんな暫くの家族との別れを惜しむ中、シリウスはキョロキョロと辺りを見回した。
すぐにハリーと、ウィーズリー一家の集団を見つけると耳と尻尾をピンと立てて「わん!」とひと吠えした。
「シリウス!」
「わんっ!」
ハリーが目を丸くして振り返る。驚きはすぐに喜びに変わり、満面の笑みを見せた。シリウスは後ろ脚で立ち上がり、ハリーの肩に前脚を乗せてぶんぶんと尻尾を振っている。
アーサーやモリーも驚いたものの、シリウス、という名前の黒犬が俺のペットだということはハリー達を通して聞いていたのか、シリウスを追い払ったりすることはない。
カートを転がしゆっくりと近づけば、ハリーは期待に目を輝かせた。
「もしかして、今年もホグワーツに来れるの?」
「いや、許可は出なかった。見送りに来たんだって」
許可が出なかったとわかると、ハリーは残念そうに「そっか」と呟き眉を下げた。シリウスはハリーが残念がってくれている、それだけで多少は苛立ちが落ち着いたのか、尻尾をぶんぶんと振っている。
その時、汽笛が鳴り俺たちは汽車の中に飛び込む。荷物を空いているコンパートメントに入れて、ハリーは一度汽車から降りてシリウスの首元あたりに抱きつく。シリウスは耳をピンと立てたまま、片脚を上げハリーの肩を抱いた。
「行ってきます!」
「わんっ!」
汽笛に追い立てられるようにしてシリウスから離れたハリーは汽車に乗り込む。それでも扉のすぐそばで身を乗り出して手を振っていた。シリウスは列車に並行して走り、何度も「楽しんでこいよ!」「気をつけてな!」と吠えていた。
俺はコンパートメントの窓枠に頬杖をつきつつそれを見る。
ウィーズリー一家がそれぞれ別れを惜しむ声に混じって車輪が擦れ回る音が響く。汽車は速度を上げ、笑顔で手を振るモリー達の姿が白煙に混じって消えかけた時、モリー達は姿くらましをして消えた。最後に遠くから遠吠えをする声が聞こえ、シリウスの声も聞こえなくなってしまった。
少ししてフレッドとジョージが俺のコンパートメントに入ってきて空いている席に腰を下ろす。顔は何か納得いっていないような、不機嫌そうな顔だった。
「ちぇっ! 母さんもビルも結局教えてくれなかったな」
フレッドとジョージは自分たちの兄や両親が知っている“何か”が気になって仕方がないらしい。まあ、確かに「今年は面白くなる」「いっそ休暇でもとって見物にいこうか」「規則が変わってよかった」と匂わされたら気になってしまうな。
「ホグワーツで起こることってなんだ? ノア、知ってるか?」
「ん?」
知ってるか知ってないかで言われたら、もちろん知っている。
しかし、俺はにんまりと笑い、「さあ?」と言葉尻を上げて肩をすくめた。
その反応に二人は目を見開き、すぐに「知ってるな?」「教えてくれよ!」と文句を言ったが、俺がニコニコするだけで何も話さないとわかると「ちぇ!」と小さく不満をこぼし、諦めた。
教えてもいいけど、やっぱサプライズの方が楽しいだろ?
そのあと、俺たちは簡単にクィディッチ・ワールドカップで起こった事件のことを話し合い──話は自然とその流れでクィディッチの事になった。俺はあんまり外国の選手も戦法も知らないし、話の中には入らずただ二人が熱をこもって話すのを聞いていただけだけど。
昼間には昼食のカートがやってきて、二人はお菓子や大鍋ケーキを、俺はサンドイッチと糖蜜パイを買った。
少しして監督生としての仕事が終わったセドリックが昼食の包み片手に現れ、俺の隣に座る。その顔は俺を見つけてほっと安心したような、そんな表情だった。
「ノア、新聞見たよ。……怪我がないようで安心した」
「たいした奴らじゃなかったしな」
サンドイッチを食べながら言えば、セドリックは苦笑し肩をすくめて「大人と戦闘なんて、僕は絶対やりたくないよ」と呟く。
昼食を食べながらセドリックも交えてクィディッチや、今年ホグワーツであるらしい何かについて三人は顔を突き合わせて熱心に話していたが、話がひと段落した時、思い出したようにフレッドが話題を変えた。
「そういやさ。今年、ドレスローブもってこいってあっただろ? あれはなんだ?」
「さあ? 父さんも母さんも、クリスマスに楽しいことがあるから、としか教えてくれなかったな……ドレスローブなんてパーティでしか着ないし」
「まさかホグワーツでパーティでもするのか?」
ジョージが怪訝な顔で首を傾げる。
フレッドも同じような顔をしながら「たかがパーティで、あんなに大袈裟に期待させるか?」と言った。
「……パーティがあるとしてさ、だいたい踊ったりするだろ? ……お前らは踊りたい相手とかいるのか?」
なんとなく気になって、三人に聞いてみれば三人とも口を閉じて互いに視線を交わし──座席に深く座り直した。……そして沈黙する。
「……え。……なんだよこの沈黙……」
「いやあ……そういうきみは誰かいるのかい?」
ジョージが言葉を濁しながら俺に振った。フレッドとセドリックも俺が誰を“仮に”だとしてもパートナーに選んでいるのか気になって身を乗り出しニヤニヤと下世話な表情をした。
「うーん……いないんだよなぁ。ってか、俺が選んだら面倒そうだろ……色々」
「まあ、世界的に大人気のノアが選んだ、ともなれば翌日の日刊預言者新聞は大盛り上がりだろうな」
むしろ。暴動が起きる可能性がある。
誰だって著名人──それも見た目で売ってるモデルの恋愛事情なんて知りたくないし、夢を見ていたいものだ。
「だろ? 絶対踊らなきゃいけない。ってなると……お前らの誰かを女装させて踊るしかないな」
冗談混じりで言えば、フレッドは「まあ!」と変に高い声で叫び、頬を両手で包み込んだ。
「恥ずかしい──でも、ノア様に言われたら断れないわ」
「フレデリカ! ノア様の瞳に合わせたドレスを新調しなきゃ!」
「そうよジョディ、宝石も忘れずに!」
フレッドとジョージの即興茶番に、セドリックは盛大に紅茶を吹き出し、げほげほと咳き込んだ。
「ぜ……絶対に見たくない……」
悪寒に震えるセドリックを見て、双子は肩を寄せ合い、さめざめと泣きながら「酷い男ね」と嘆いてみせる。
そんな三人のお決まりのコントのような流れを見つつ──本気でこの問題は、どうにかしなきゃなあ、と考える。
俺が話す女子生徒って、ハーマイオニーくらいしかいないし。でもハーマイオニーはクラムと踊るだろう。ってか、今回のダンスパーティって子供達の中で結構重要なイベントだから、俺が適当に決めたことで大きく未来が変わっても嫌なんだよなぁ。
やっぱ、ダームストロングかボーバトンの名もなき生徒が一番無難、なのかなあ……。
……せっかく最高級の外見を持ってるのに、このままずっと童貞とか本気で嫌だ!とはいえ、やっぱ原作キャラと「穴兄弟」になるのも避けたいし。卒業してから、別の場所で誰かと出会うしかないのかなあ。
「……俺って、まじで青春送れないのか……」
思わずこぼした声は、車輪の音に紛れて誰にも聞かれなかったらしい。フレッドたちは「ん? 何か言ったか?」と首を傾げたが、俺は「なんでもない」と手を振ってごまかした。
外はあいにくの大嵐だったが、ホグワーツの大広間は例年のように学年始めの祝宴に備えて見事な飾り付けが施され、暖かく俺たちを迎え入れた。
この日だけ使用される金の皿とゴブレットが並び、宙には何百という蝋燭が浮かんで幻想的な世界を演出している。上級生ともなれば例年通りの変わり映えのない見慣れた光景にさして感動はしないが、“帰ってきた感“はある。
各寮の長机には寮生が並び、久しぶりに会えた友人達と楽しく話に花を咲かせている。
上座にある机には生徒達に向かい合うようにして教師陣が座っている。居るはずの新しい顔は無く、目敏く気づいた生徒がどうしたんだろうかと首を傾げていた。
その時、両扉が開く音が響き、生徒たちはお喋りをやめて音のしたほうを振り返る。
マクゴナガルを先頭に、緊張し強張った表情の一年生が一列に並び大広間の奥へと進んでいく。皆が口をきゅっと結んでいて、大広間の雰囲気に圧倒されていた。
組み分けはいつものように始まり、滞りなく終わった。
ハッフルパフに選ばれた一年生たちは、皆嬉しそうに頬を赤く染め、喜びに手を震わせながら空いている席に座る。その時、どの子もちらちらと俺を見て、目が合うと茹蛸のように真っ赤になり縮こまってしまっていた。
組分けが終わり、ダンブルドアが立ち上がる。腕を広げ茶目っ気たっぷりに言った「思い切り、掻き込め」を合図に祝宴が始まり豪華な料理が皿の上に現れた。
暖かく美味しい料理が生徒たちの腹の中に消え、甘いデザートもすっかり食べ終えたあと、ダンブルドアは再び立ち上がった。
大広間を満たしていたガヤガヤというお喋りがほとんど一斉にぴたりと止まり、ダンブルドアを見上げる。
「さて!」 と、切り出し、ダンブルドアは笑顔で全員を見渡した。
「みんなよく食べ、よく飲んだことじゃろう。いくつか知らせることがある。もう一度耳を傾けてもらおうかの。
管理人のフィルチさんから皆に伝えるようにとのことじゃが、城内持ち込み禁止の品に、今年は次のものが加わった。『叫びヨーヨー』、『噛みつきフリスビー』、『殴り続けのブーメラン』。禁止品は全部で四三七項目あるはずじゃ。リストはフィルチさんの事務所で閲覧可能じゃ。確認したい生徒がいればじゃが」
ダンブルドアの口先が笑うように震えた。禁止品を閲覧したい生徒なんて、それこそ……もう卒業したパーシーぐらいじゃないか?
「いつものとおり、校庭内にある森は、生徒立ち入り禁止。ホグズミード村も、三年生になるまでは禁止じゃ。
寮対抗クィディッチ試合は今年は取りやめじゃ。これを知らせるのはわしの辛い役目でのう」
この知らせにどよめきが走りどこからか息を呑んだような小さな悲鳴まで聞こえてきた。隣にいるセドリックを見れば目を見開き口を少し開いて呆然としているし、グリフィンドールの方でもハリーとフレッドとジョージが、スリザリンの方ではドラコが同じような顔をしている。
ああ、そういやクィディッチなかったな──忘れてた。
「これは、十月に始まり、今学年の終りまで続くイベントのためじゃ。先生方もほとんどの時間とエネルギーをこの行事のために費やすことになる。
しかしじゃ、わしは、皆がこの行事を大いに楽しむであろうと確信しておる。ここに大いなる喜びを持って発表しよう。今年、ホグワーツで──」
耳を劈く雷鳴と共に、扉が大きな音を立てて開く。生徒たちは驚いて振り返り、ダンブルドアは続く言葉を飲み込んだ。
一人の魔法使いが立っていた。
長い杖に寄り掛かり、黒い旅行用マントを纏っている。深く被ったフードのせいで表情を見ることはできず、マントの端からぽたぽたと雨水が垂れ水溜りを作った。
見慣れない不審な男に、扉近くの生徒たちは不気味がって身をすくめ体をこわばらせていた。
天井を走った稲妻がその姿を照らす中、男はフードを脱ぎ、長いまだらなダークグレーの髪を振るい雫を飛ばすと、教職員の机へ向かって歩き出した。一歩踏み出すごとに、こつっ、こつっ、と鈍い音が響く。教師たちは少ししかめ面をして男を見ていたが、その表情に警戒の色はなく、杖を抜いてもいない──見知った人ではあるのだろう。それに気づいた生徒たちは身を寄せ合いつつもじっとその男を観察していた。
蝋燭と雷光により照らされた男の顔に、間近で見た何人かが息を呑む音がここまで聞こえる。顔は傷痕に覆われ、鼻は大きく削がれていた。片方の黒い目は小さく、もう片方の目は不釣り合いなほど大きく、鮮やかな青色で上下左右絶え間なく不気味に動いている。
ダンブルドアはその男と挨拶をすると、低い声で言葉を交わす。俺がいたところは後ろの方だから何を言っているのか聞こえなかったが、ダンブルドアは男の言葉に頷き、自分の右手側の空いた席に誘った。
男が椅子に座ったのを見て、ダンブルドアは少しだけ微笑むと不安げな表情をする生徒たちを見回す。
「闇の魔術に対する防衛術の先生を紹介しよう。──アラスター・ムーディ教授じゃ」
ダンブルドアは明るい声で言い、拍手をした。ハグリッドも拍手をしたが、他の教師や生徒たちは誰一人として拍手しない。
あまりに寂しいパラパラとした拍手で──不気味な人だとはいえなんかちょっと可哀想だな、それに俺にとってはまあまあ好きなキャラだし、と思いながらパチパチと拍手をする。その拍手は静寂の中、思った以上に大きく響いてしまった。
生徒の中から唯一上がった拍手に、ムーディは黒目と青目で俺を見た。
ムーディだけでなく、教師や生徒も俺を見て──パチパチと拍手が漣のように伝染していき、ムーディは口を歪ませ眉間に皺を寄せながら、青い目を動かさずにどこか不服そうに鼻を鳴らした。
その拍手が終わると、ダンブルドアが咳払いをして「先ほど言いかけていたのじゃが」と切り出す。
「これから数ヵ月にわたり、我が校は、まことに心躍るイベントを主催するという光栄に浴する。この催しはここ百年以上行われていない。この開催を発表するのは、わしとしても大いにうれしい。今年──ホグワーツで、三大魔法学校対抗試合を行う」
その発表に、フレッドが「ご冗談でしょう!」と叫び、ムーディが現れていた緊張が急に解け、そこかしこで笑い声が上がった。フレッドも、ニヤリ、と口先を上げている。ダンブルドアも雰囲気が戻ったことに安堵したのか、絶妙の掛け声を楽しむように明るく笑った。
「ミスター・ウィーズリー。わしは決して冗談は言っておらんよ。──さて、三大魔法学校対抗試合が如何なるものか、知らない諸君もおろう。そこで、とっくに知っている諸君にはお許しを願って、簡単に説明するでの。その間、知っている諸君は自由勝手に他のことを考えていてよろしい」
そう話し出したダンブルドアは何人かの「ぎくり」とした生徒たちに意味深な視線を向けつつ、三大魔法学校対抗試合がどんなものなのかを説明始めた。
ホグワーツとボーバトンとダームストラングの三校から一名が学校の代表として魔法競技を競う。死者が出ていたこの試合は長い間中止されていたが、今年は国際魔法協力部と魔法ゲーム・スポーツ部の協力のもと、生徒の安全を第一に考え開催されることとなった。
もちろん、死者が出ないようにするつもりで。
試合の選考はハロウィンの日に決められるが、参加には十七歳を迎えたものだけという、年齢制限がある。
それには大広間がざわめき至る所でブーイングが起こった。特に六年生だがハロウィンの日までに誕生日を迎えられない者は、憤りを露わに机を拳で叩いていた。──ま、確かにたった数ヶ月の差だもんな。
ダンブルドアも生徒たちが不満を訴えるとは百も承知であり、手を広げ生徒の不満を押し留めると、声を少し大きくした。
「このことは、我々がいかに予防措置を取ろうとも、やはり試合の種目が難しく危険であることから、必要な措置であると、判断したがためなのじゃ。六年生、七年生より年少の者が課題をこなせるとは考えにくい。年少の者がホグワーツの代表選手になろうとして、公明正大なる選考の審査員を出し抜いたりせぬよう、わし自ら目を光らせることとする。
じゃから、十七歳に満たない者は、名前を審査員に提出したりして時間のむだをせんように、よくよく願っておこう」
その後はダームストラングとボーバトンの代表選手が十月に到着し、ホグワーツで過ごすことになると言われ、まだ興奮と混乱が残る中解散となった。
「代表選手か……」とセドリックがぽつりと呟く。その声は憧れと強い興味が表れていて、俺の視線に気づくとすぐに興奮したように目を輝かせた。
「凄いよね! 三大魔法学校対抗試合、どんな選考なんだろう……」
「立候補するのか?」
聞けば、セドリックは少しだけ「うーん」と悩み、まだ決めかねているのか首を振った。──それでも目は輝いている。
「ノアは──誕生日、一月だもんね」
「そうだけど、俺は立候補するつもりだぜ?」
「えっ?」
俺は立ち上がり、手をポケットに入れながら笑う。セドリックは驚き目を見開いたが──俺がホグワーツ創設者の年齢線を突破したことを知っている。ダンブルドアが対策を練ったとしてもきっとあっさりと突破するのだろうと思い苦笑した。
「今回は規則を破るつもりも、ねじ曲げるつもりもないからな?」
「じゃあどうやって──」
セドリックは不可能に思えるその方法を聞き出そうとしたが、もう一人の監督生の子に名を呼ばれ言いたい言葉を飲み込んだ。
俺が「早く行け」というように手を振れば、セドリックは後ろ髪を引かれる思いで俺をチラチラと見ながらも──監督生としての仕事を疎かにする事はできず、一年生の案内へ向かった。
さて、セドリックも行っちゃったし、俺も寮に行こうかな、と立ち上がった瞬間、左右から肩に腕を回されがくり、と体が前につんのめる。
「うぉっ!」
「ノア! ひどいよな?」
「俺はエントリーするぞ! 止められるもんなら止めてみろ!」
「フレッド、ジョージ、重い!」
俺に体重をかける二人はしかめ面で口先を尖らせながらダンブルドアを睨みつけていた。
そうか、確かこの二人も四月が誕生日で立候補できないんだよな。
「何かいい魔法ないか? ノアも立候補するだろ?」
「ああ、俺もするつもりだけど。俺の魔法はハイレベルだぜ?」
「それなら老け薬だ! 俺たちならほんの数滴で良い。これから作れば十分に間に合うしな」
「はいはい。とりあえず出ようぜ。俺たちが最後だ」
まだダンブルドアを睨み続ける二人に言えば、二人は頑固な表情を崩さないまま渋々頷く。俺の肩に回した腕を外さず歩き、左右からはぶつくさとした文句が絶えず流れていた。
扉近くにはハリーとロンとハーマイオニーの三人が待っていて、俺たちに合流するとダンブルドアがどうやって十七歳未満のエントリーを阻止するのかと議論し始めた。
「代表選手を決める公正な審査員って誰だろう?」
とハリーは俺たちに問う。ハーマイオニーは「教師ではないと思うわ。主観が入るもの」と早口で言うが、フレッドはまだ腹を立てているのか鼻を鳴らし「知るかよ」と言った。
「だけど、そいつを騙さなきゃいけないな、なあ?」
フレッドは俺とジョージに同意を求める。ジョージはすぐに深く頷き、俺も「そうだな」と軽く答えた。それだけでハリーたちは俺もエントリーするつもりなのだと気付き、驚きながら口を開く。
「でも、ダンブルドアは三人とも十七歳未満だって知ってるよ」
ロンは興味半分不安半分で俺に言う。プロフィールが良く雑誌に載る俺はともかく、ただの生徒の誕生日なんて覚えてるか?──まあ、大広間でめちゃくちゃ反応しちゃったからそれでバレてはいそうだな。
「ああ、でもダンブルドアが代表選手を決めるわけじゃないだろ?」
「そうそう。バレなきゃいい。──ノア。また話し合おうぜ」
「オッケー、またな」
フレッドとジョージはようやく俺を解放し、企み顔で笑う。俺はひらひらと手を振り、彼らと別れてハッフルパフ寮へと向かった。
寮に入ればセドリックが一年生に談話室での過ごし方や、これから七年間過ごすルームメイトとの付き合い方を説明し終わったところらしく、一年生たちが顔を興奮と期待、少しの不安で彩りながら部屋へ向かっていくところだった。
セドリックは俺に気づくと女生徒の監督生に声をかけて手を振り、すぐに俺の元に駆け寄る。
「ノア! さっき言ってた事だけど──」
「部屋に行ってから、な?」
しーっ、と声を顰め、唇に指を当てて言えば、セドリックは言葉を詰めらせ、こくり、と小さく頷いた。
部屋に入ったセドリックはベッドのそばに自分の荷物があるのを確認してくるりと振り返る。その目にはまるで、「ちゃんと説明してよ」と書かれているようだった。
「十七歳以上しかエントリーできないんだろ?」
「うん、そう言ってた」
「だから、俺は参加できるんだよ」
「……」
あっさりと告げたその言葉に、セドリックは形のいい眉をきゅっと寄せて怪訝な顔をした。
「どういう意味? まさか……誕生日間違ってる、とか?」
「いや、あってるぜ。一月十一日だ」
「なら、なんで……?」
誕生日が一月なら、どう考えても十六歳だ。とセドリックは困惑し首を傾げる。
俺はその理由を伝える気は無く、「それは秘密」と軽く笑った。
その途端、セドリックは腕を組み、拗ねたような口調で少し刺々しく言った。
「……ノアって案外秘密主義だよね」
「共犯者になってくれるんなら教えるけど?」
モデルの仕事で鍛えられた、小悪魔的な笑顔で笑い、目を細める。
セドリックは器用に片眉をあげると、指先で腕をトントンとノックする。
「それって、何点減点くらい?」
「んな甘いわけないだろ? 魔法省介入レベルだ」
「なっ──本当に?」
「本気のやつ」
唖然とするセドリックに、「だから聞かない方がいいぜ?」と笑いながら言い指をパチンと鳴らす。ベッドのそばにあったトランクケースの中から収められていた私物がふわりと飛び、棚や引き出しに行儀よく収まっていった。
セドリックはいい子ちゃんだし、ここまで言えば引き下がるだろう。
そう思ったが──。
「……わかった。共犯者になるよ」
一度深呼吸したセドリックは、俺をしっかりと見て真剣な声でそう言った。
──驚いた。セドリックがここまで食い下がるのも珍しい。
なんだろ、そんなに気になったのか? それとも、やっぱり本気で試合に立候補したいし、フェアな闘いと条件を求めているのかな。
俺はふっと笑って、服の下にあるチェーンを引き出した。
セドリックは俺の指に摘まれて揺れる物をじっと見る。
「これさ──」
これが何なのか、どういう物なのかを言えば、セドリックは暫く首を傾げたままだったが全てを理解した後──目を丸くし、ぱかりと口を開いた。
「ほ、本物?……本気の、魔法省介入レベルだ……」
「ははっ! 最高だろ?」
掠れ声で出たのはその言葉で、俺は何だか面白くて笑ってしまった。