兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
闇の魔術に対する防衛術の授業は毎年教師が変わる。そのため授業の進め方も教師により変動するのはもちろん、“ハズレ”の教師にあたればその一年間はかなりつまらない授業になる。
去年のリーマスの授業がかなり面白かったため、今年の教師──つまり、ムーディには誰も期待していなかった。
というか、第一印象が最悪だったしな。昔のムーディはすごい闇祓いだったと知っている生徒たちも、今のムーディは全てが敵だと思い狂ってしまったと囁かれていることを知っている。
どんな授業なんだろうか、と俺たちハッフルパフの六年生たちは、伺うようにして教室の中に入る。
一番初めに入った生徒がほっと肩を下ろし「まだ来てないみたいだ」と言えば、みんながぞろぞろと扉をくぐる。
前に座るのは、なんとなくあの青い目に射抜かれそうで嫌だ──その思いが透けて見えている生徒たちはみんな真ん中から後ろの方に座った。
俺とセドリックは一番前──ではないが、前の方の真ん中に座る。
「どんな授業なんだろうね。去年みたいな実戦授業があればいいけど」
「元闇祓いなら板書よりはありそうだけどな」
セドリックは不安げに眉を寄せた。教師が“当たり”か“外れ”か、一発目で大体わかる。ここで自習勉強が増えるかどうかが決まると思えば、気が重いのも無理はない。
始業のベルが鳴る。
その時、遠くからコツ、コツ、と特徴的な音が響き、自然と俺たちは扉の方に視線を向ける。
ぼさぼさの髪、不機嫌そうな顔、そして、ぐるぐると上下左右に動く青い不気味な目。ムーディはしかめ面をして義足を引き摺るようにして現れた。
扉に近い生徒が用意していた教科書や筆記具を見ると、ムーディはフンと鼻を鳴らした。
「教科書はいらん。しまえ」
教壇に向かいながら放たれた言葉に、生徒たちはチラリと顔を見合わせ──鞄の中に戻した。
ムーディはそれを見る事もなく出席簿を取り出すと生徒の名前を読み上げ始める。普通の目は出席簿の上をなぞっていたが、青い目はぐるぐると教室中を見回し──たかと思ったが、俺を見つけ出すとずっと見てきた。
……この魔法の目、不気味だけど便利だよなぁ。透明マントの中も見れるとか、それってある意味、死よりも凄いって事じゃないか?
「よし、それでは──」と、ムーディは出席簿を教壇の中に片付け、切り出した。
「ルーピン先生から手紙をもらっている。去年は五年生が学ぶべき呪文の取得や簡単な模擬戦闘が中心だったようだな。戦闘は相手を傷をつけないものに限る。そうだな?」
俺たちが頷いたのを見て、ムーディは鼻を鳴らした後、真剣な表情になった。
「しかし、本当の戦闘になれば……相手を傷つけない、そんなことは不可能だとわかるな? 相手も、自分も怪我をする事なく無力化する事は至極難しい。それに──呪いや闇の魔術について、今まで隠されていた部分を知るべき時だろう」
何人かがごくり、と生唾を飲んだ音が聞こえた。ムーディの語り口調は低く、淡々としていてリーマスとは全く違う──それでも、歴代の教師の中ではまだ“まとも”かもしれない、と誰もが思い始めていた。
「三つの許されざる呪文。磔の呪文、服従の呪文、死の呪文……既に教科書では習っているはずだ。論理やいつ禁じられたなんぞ今は知る必要がない。──この三つの魔法を見たことがある者はいるか?」
その言葉に、少し不穏なざわめきが広まった。
そもそもその三つの魔法は人間に使ったら一発アウトなくらいやばいもので、戦争を直に経験していない子どもたちは勿論見たことなんてない。
ムーディは教室内の静かな動揺を見回した後、近くの机の引き出しを開けて中から瓶を取り出した。瓶の中には一匹の蜘蛛が入っている。
……あ、もしかして実践か?……どの学年にも見せてるのかな。
ムーディは瓶に手を入れ、蜘蛛を掴み出すと手のひらに乗せみんなに見えるようにした。今から何をするのかを察した生徒たちは興味を覗かせ身を乗り出す者、嫌そうに見をすくめる者──様々だった。
隣にいるセドリックは、蜘蛛の哀れな未来を察し、少し気分が悪そうに眉を寄せ沈黙していた。
「──インペリオ!」
杖を振り、低い声で呪文を放つ。
呪文に射抜かれた蜘蛛は、ムーディの手のひらの二本の足で立ち上がり、残りの足はふらふらと踊るように揺らした。滑稽な姿だったが──教室内は冬が来たかのように凍りつき、誰もが沈黙している。
ムーディは俺たち意味のある沈黙を知り、少しだけ満足したように目を細めた。
「完全な支配。──これを滑稽だと笑うことのないマシな思考で良かった」
低い声でそう言い、ムーディは俺たちを褒めるように少しだけ口先を緩めたが──それは瞬きする間には消えていつもの不機嫌そうな顔になった。
服従の呪文の恐ろしさを全員が理解しているとわかると、ムーディは杖を蜘蛛から離した。蜘蛛はぴたりと動きを止め、どことなく不思議そうにしている。
……これ、蜘蛛でよかった。もし動物だったら──まじでグロッキーだった、見た目もだし、俺は言葉もわかっちゃうし。
「次は──クルーシオ!」
その魔法が放たれた瞬間、何人かの生徒が怯えたように肩を震わせた。
ムーディの手のひらの上にいた蜘蛛は脚を胴体に引き寄せるように内側に折り曲げてひっくり返り、痙攣し始める。きっと、鳴き声を出せる生物なら悲鳴をあげているだろう。
数秒クルーシオをかけた後、ムーディはまた杖を離す。蜘蛛の脚がはらりと解けたが、逃げ出す力が残っていないのだろう、脚を小さく動かすだけだった。
「磔の呪文。これが使えれば、拷問に他の魔法は必要なくなった。何よりもの苦痛。それこそ何度もつければ精神が崩壊するほどの苦痛だ」
説明の声は、淡々としていた。熱も何もない、ただ事実を述べているだけのような。
「最後は──アバダ ケダブラ!」
突然の大声に、息を呑むのを失敗したような悲鳴がそこかしこから上がる。
呪文と共に目も眩むような緑の閃光が走り──蜘蛛は動かなくなった。
「……死の呪文だ。この呪文の恐ろしいところは、反対魔法が存在しない。防ぎようがない。──はずだ。たった一人の例外を除いて、だが」
ムーディは蜘蛛の死骸を瓶の中にいれながら、低い声で呟く。最後に付け足された言葉が誰なのかをムーディは言わなかったが──誰もがハリーを思い浮かべただろうな。
「……これで三つの“許されざる呪文”を見せたわけだ」
ムーディは視線を巡らせた。初めて見る三つの呪文に、教室内はお通夜のように誰も口をきけず、空気は固まっている。
その沈黙を切り裂くように、ムーディは突然杖を振り上げた。
「だが、脅威的な呪文はこれだけじゃない! ──コンフリンゴ!」
杖先から爆ぜる閃光。壁際に置いてあった空の木箱が轟音とともに弾け飛び、木片が壁に突き刺さった。生徒たちが一斉に悲鳴を上げ、椅子をきしませる。
「見たか! 爆破呪文だ。これは初歩的な攻撃呪文に数えられるが──相手の胸元で炸裂したらどうなる? 骨も肉も粉々だ!」
淡々と告げる声に、誰かがごくりと喉を鳴らした。ムーディは構わず、くるりと身を翻し、窓の方へ杖を振るった。
「ラカーナム インフラマリ!」
火の玉が噴出し、カーテンが一気に燃え上がる。近くに座っていた生徒は悲鳴をあげ、慌てて机の下に潜り込んだ。
「グレイシアス!」
炎が大きくなり、このまま火事になるのではないか──と思われたが、ムーディが放った凍結魔法が燃え盛るカーテンと近くの窓や壁を一瞬で凍らせた。
恐る恐る机の下から顔を出した生徒の髪に霜がおりて白くなるほどであり、近くにいた生徒は腕を擦りながら離れた。
ムーディは無言で杖を何度か振る。そうすると氷は消え、焼け焦げて穴だらけになったカーテンはもとに戻り、木箱も逆再生をするように壁の側に鎮座した。
「対象を燃やす魔法と、凍らせる魔法だ。薪に火をつけるだけのものではないことはわかるな? アイスクリームを作るだけのものじゃないと知ったな? ……覚えておけ、どんな呪文も簡単に命を奪う“脅威”になりうる」
ムーディの声は低いが、教室中に響き渡るように重かった。
「闇の魔法使いと戦うとは──こういう魔法が飛び交う場所に立つということだ。相手は手加減しない。切り裂き、火を放ち、爆破し、骨を砕く。お前たちがもし杖を握って立ち向かうなら、備えがなければ一瞬で死ぬ。なにより、常に、絶えず、警戒する事の訓練が必要だ。忘れるな──油断大敵!」
──バシン!
と、ムーディが強く教壇を拳で叩いた。その瞬間、ムーディの演説に聞き入っていた生徒たちの肩が震える。
去年、リーマスが教えたのは守りながら戦う方法だったが、ムーディは死に触れる現実を見せてきた。──ま、確かに本当の戦闘なら死がチラつくもんだしな。
授業はその後、許されざる呪文や攻撃魔法への対抗策をノートに書き写す形で進み、ようやく終業のベルが鳴った。黒板の文字が杖の一振りで一掃されると、誰も笑わず、声を潜めて教室を後にした。
俺も片付け終わり、教室から出ようとしたが──コツ、コツ、というあの足音が近づいてきた。
「ゾグラフ」
「……はい?」
近くで立ち止まったムーディは、椅子に座ったままの俺を見下ろしていた。魔法の青い目が俺を凝視し、ときおり周囲をぎょろぎょろと探る。
義足だと何か支えがなければ長時間立っているのがキツイのか、ムーディは机に寄りかかっている。隣ではセドリックが石像のようにじっと固まっているのが感じられた。
「去年、実践練習の助手をしたようだな?」
「……はい、まあ」
俺が頷くと、ムーディは企むような、何かを測るような目を向けた。
「なら、今年もわしの助手を務めてもらおう」
うわ、絶対こうくると思った!
いや別にいいけど。……この人はあくまで“ムーディ”を完璧に演じているし、授業中にうっかり殺される事はないだろうし。
「いいですけど、リーマス──先生から俺を使う条件も聞きましたか?」
「条件?」
そっちは聞いてなかったらしい。抉れて半分ほどしかない片眉を器用に上げて、ムーディが怪訝な顔をした。
俺はふっと息を吐くように笑い、立ち上がる。立ち上がれば、俺よりもムーディの背は低かった。美しい銀髪を後ろに流し、ムーディを見下ろして小首を傾げる。
「俺のお願いを一つきいてもらう事──ですよ」
「……フン、いいだろう」
「なら、助手をしますよ」
ムーディの目は「何を考えているんだ」と訝しんでいたが、拒絶する事はなかった。この人は俺の実力を知っておきたいに違いない、俺の力量を知らなければ、今後この人の計画に支障がでそうだし。
「本当は全てのクラスで助手をして欲しいが──ダンブルドアに相談せねばならん。詳しい事はまた後日話そう」
「はーい」
ムーディがふと、俺を両方の目で見据える。
傷痕で歪む薄い唇が少し捲れ上がり、笑みの形を作るとゆっくりと開いた。
「……死喰い人を無傷で退けたその腕前、期待しておこう」
そう言うと、ムーディは脚を引き摺りながらゆっくりと教室から出ていった。
隣で気配を殺して固まっていたセドリックがようやく息をつき、気の毒そうに俺を見た。
「今年も大変そうだね……」
「ムーディ先生とのシャッターチャンスだし、頑張らないとな」
「えっ……写真、欲しいの?」
「そりゃもちろん」
「……変わってるね…」
セドリックは「僕はお願いされても嫌だなあ」と小さく呟き、肩を落とした。