兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
六年生になって初めての魔法薬学の授業だ。
セブルスは、フクロウ試験で“優”を取った者にしか、六年生の魔法薬学──すなわちNEWT試験に備えた高度な授業を受ける資格を与えていなかった。
俺は実技試験は完璧以上だとしても、筆記は自信が無かったが、成績は優だった。……ま、自信がないって言ってもセドリックに教えてもらったりで平均以上は確かだし、筆記で足りない部分は実技試験の得点がカバーしたのだろう。
俺が持っている上級魔法薬の教科書は、新しいものと──一年生の時、セブルスとの罰則で借りた上級魔法薬の本、つまり二冊ある。
あの後セブルスは何にも言わなかったからそのまま借りパクしてて、今に至る。授業中に広げて、セブルスの反応を確かめたい気持ちはあるけど……自分が昔使ってて書き込みだらけ、やばい創作魔法だらけだって気付いたら焼却処分しかねない。処分されたら将来ハリーの手に渡らない、それはちょっとややこしくやりそうだ。
隙を見て戸棚の中に戻しておかないとな。
魔法薬学の教室がある、暗くてじめっとした地下へ伸びる階段を降りる。
セドリックは「そういえば……」と切り出した。
「ノア、占い学やめたんだって?」
「ああ、もういい加減アプローチ鬱陶しいし、フクロウ試験は終わったしな」
「いいんじゃないかな。僕も占い学は……ちょっとね」
セドリックはそう言って肩をすくめた。
占い学の授業はぶっちゃけ楽だし、フクロウ試験も対して難しくはなかった。トレローニーは俺にメロメロ状態だから、このまま適当に続けてもテストは満点だろう。──だけど、空き時間もそろそろ欲しい、将来に関係なさすぎる科目をだらだら受けるのもなあ。
なんて話しながら教室の扉の前で立ち止まる。
教室の前は少し広くなっているが、去年まではたくさんいた生徒が今は──数名しかいない。
スリザリン生が二人、レイブンクロー生が三人、グリフィンドール生が二人、それと、俺とセドリックで合計九人だ。
名前も知らない彼らは俺を見ると少し驚いたような表情をしたが、すぐに嬉しそうにひらひらと手を振ってアピールした。
軽く手を振りかえし微笑みかけてやればみんな息を飲み頬を赤らめる。
その目には、俺への憧れと好意、そして尊敬の色が濃く浮かんでいた。ここにいるのはセブルスに認められた、選りすぐりの秀才たちだ。それでも──“イギリスの宝石”と名高い俺が、見目だけではなく知性でも群を抜いているとの証明に、さらに陶酔してしまうのだろう。
もしくは、俺と同じ授業を受けられることへの誇り、もありそうだな。
自然と、扉近くにいた生徒は俺に道を譲った。……いや、一番に入りたいわけじゃないんだけど……ま、いいか。
「行こうぜ」
「うん」
セドリックに声をかければ、セドリックはどこか緊張しているような面持ちで息を吐き──ぐっと表情を引き締めて俺の隣に並び、教室に入った。
授業開始のベルと共に扉が開き、セブルスがローブを翻しながら現れる。入った途端、俺たちを一瞥し軽く鼻を鳴らした。
セブルスは無言のまま滑るように歩き、前方の黒板の前に立つ。そのまま教壇に手を乗せ体を預け、ゆっくりと生徒たちを見回す。その目は細められ、微かに口先は上がっていたがどこか皮肉に満ちていた。
「──やっとだ。ようやく、まともな授業ができる」
教室の隅で誰かが息を呑む。セブルスは気に留めることもなく、低い声で言葉を重ねた。
「ここに残った者は、我輩が要求するある一定の水準に達したということだ。フクロウ試験で“優秀”以上を取れぬ愚か者に費やす時間など、無駄でしかない。……お前たちは、その“無駄”をようやく振り落とした。喜ぶがいい」
唇の端が冷たく歪んだ微笑。褒められているはずなのに、なんか褒められていない気がするのは気のせいではないだろう。もうセブルスの授業を六年も受けている俺たちは萎縮することはないが、手を上げて喜ぶこともない。
「今後は、より危険な薬を調合していくことになる。失敗すれば大惨事だ。ゆえに──我輩は期待している。集中を怠らぬこと。命令に背かぬこと。そして……ふざけた真似をする者は、その瞬間から出ていってもらう」
セブルスは扉を指差した。教室に響いた声は今まで以上に冷ややかで教室の空気はぴん、と心地よい緊張感で満ちた。
「大鍋と秤を持ち、前へ」
その声に、俺たちは調合台へ向かう。空いている台に大鍋を置き、机に秤を置く。自然に同じ寮生同士で集まっていた。──まあ、全員で九しかいないけど。
「本日の課題は、『生ける屍の水薬』だ。フクロウ試験を見事パスした諸君たちは、我輩を満足させる薬を完成させることだろう。教科書を開きたまえ」
杖の一振りで黒板の上をチョークが滑り、材料と手順が書かれた。もう一振りで材料棚の扉ガラス戸が開き、中からいくつかの材料が飛び出し俺たちの机の前に並んだ。
どう見ても過剰な材料。多分、あたりの材料とかがあるんだろうな。ちょっと枯れかけてる方がいいとか、こっちは刻みやすいとか。
「一時間半の制限時間を設ける。──始め」
いきなりの開始に、俺はとりあえず机の上に並べられている材料を調べた。
「えーっと、まずはカノコソウの根を刻むのか……これでいいか」
適当に目についたやつを手にして、ナイフで刻む。見た目は固そうな根だったが、豆腐みたいにあっさりと切れるな。あ、よく見たら他の根よりもちょっと白い。
「……うっ……か、硬い!」
セドリックが選んだのは硬かったのか、筋張っているのか、切りにくそうだった。いや、セドリックだけじゃなく他の生徒たちも「全然切れない」と呻き歯を食いしばり体重をかけて必死になって切っている。
あたりを引いたのは、どうやら俺だけだったようだ。
さて、刻むのは微塵切りくらいでいいか。あんまり細かくするのも面倒だし、えーと、次はアスフォデルの球根をすり鉢で粉末状にする。
球根も、いくつか置かれていた。萎びているものや、ハリのあるもの。色が少し黒いものなどなど。うーん、なんとなくハリのあるやつにしとこ。
直感で選んですり鉢の中に落とす。棒で叩いた時に「あ、粉末にするなら萎びてる方が良かったかな」と思ったけど──ハリがある、つまりみずみずしい球根だったのに、何故か強く叩けば砂糖菓子のように崩れた。
逆に萎びている球根を選んだ生徒は、繊維がなかなか千切れず、すり潰すのにまた苦労していた。
催眠豆は、どれも似たようなものだったから適当にいくつか取って、えーとこれは中の汁を使うのか。潰したらいいのかな?
手で押しつぶすには硬いし、すり鉢の底で潰してみれば大量の汁が出てきた。それを掬って鍋の中に入れる。
確認のために教科書を見てみたら、催眠豆は切って液を取ると書いてあった。……ま、使うのは液だし方法はなんでもいいだろう。
黒板や教科書に書かれている通りに作り──うっかり間違えてしまったところもあったが──鍋の中に材料を放り込む。火は弱火。
しばらくして水面がふつふつしてきて、成功らしい色の煙が鍋から上がったのを見て、ぐるぐると混ぜる。
手際よく作っていると、去年と同じく、ゆっくりとした歩みで生徒たちの間を通り薬の進み具合を見たり、ネチネチ文句つけていたセブルスは、俺の鍋にだけ煙が上がっているのを見て黙って近づいてきた。
「……」
無言で覗き込むセブルス。
え、作り方は合ってるはずだけどなぁ。紫色をしてきた鍋を混ぜ──あれ、右回しだっけ、セブルスに気を取られてどっちに回したらいいのか忘れて黒板を見る。……あ、左回しか。一回反対になったけど、大丈夫だろ。
一度止めていた手を動かせば、紫色が一気に薄まり極薄いピンク色になった。最終的には透明になるらしい。
「……ふん」
セブルスは俺の薬の状態を見て、嫌味を言うことはなく、鼻を鳴らして通り過ぎた。言葉はなかったが、これは成功の証だ。
他の生徒はセブルスにちくちく言われていたらしく、額に浮かんでいる汗を拭いながら驚いた顔で俺の鍋を見ている。成功をしめす煙を見て、彼らはいっそう必死に調合に向き合った。
そのままくるくると回していたら、セドリックが「ねえ」と声をかけてきた。
「この豆、全然汁出ないんだけど、どうやったの?」
「すり鉢の底で潰した」
「え。切るってなってるけど……やってみよう」
催眠豆を切っても必要量まで汁がたまらず困っていたセドリックに助言すれば、セドリックも俺と同じように底で押し潰しだした。
ひたすらぐるぐると混ぜ続ける。……あれ、俺今どっち回ししてたっけ……まあいいか、いつの間にか透明になってるし。
火を止めて、セドリックの鍋を見てみれば、まだ鍋の中は紫色だった。長時間混ぜ続けているが、薬の色が薄くなることはなく、額には汗が滲んでいる。大変そうなのはセドリックだけじゃなく、他の生徒も同じだった。どうやら、薬が完成しているのは俺だけらしい。
「──時間だ。手を止めろ」
セブルスの低い声が教室に響く。大鍋からは色とりどりの煙が上がっていて、それを見ただけで優秀な生徒しかいないとはいえ、この薬の難易度がわかる。
セブルスは大鍋を覗き込み、時々匙を上げて垂らしたりしながら点数をつけ、どこが間違ったかなど指導していく。
最後に俺とセドリックの机に来たセブルスは、セドリックの紫色の薬に「催眠豆の汁が足りていない」と伝えた。
俺の薬は殆ど透明になっていて、セブルスは匙を持ち上げて薬をひとすくい。光に透かして、とろみを確かめる。さらさらと流れる液体を見たあと、低い声で一言。
「……悪くはない」
それだけを言うと、少し沈黙し、それから顎をしゃくり上げるようにして言った。
「全員、ここへ来い」
その声に生徒たちは一斉に顔を上げ、互いに視線を交わしながら俺の鍋の周りに集まる。鍋の中を覗き込み、感嘆するように息を呑む声が聞こえた。
「これが、成功した薬だ」
セブルスの声音はぶっきらぼうだが、その場にいた誰もが自分が作った薬とは違う状態を理解した。
スリザリンの女子が「すごい……」と小さく呟き、レイブンクローの生徒が感心したように頷く。みんなの視線が一斉に俺に集まり、尊敬と憧れの色がにじんでいた。
「……ハッフルパフ、一点加点」
セブルスは短く言い放ち、ローブを翻す。
お、加点してくれるのは珍しいな。
ちょうどその時、授業の終わりを告げるベルが鳴った。
「本日の調合は以上だ。薬を前に提出しろ。課題は各自、材料の選別理由や過程を含めたレポートをまとめること。期限は一週間後だ。以上──解散」
生徒たちは自分の机に戻り透明の瓶にできた薬を詰め、それを手にしながら、ちらちらと俺を見ていた。尊敬と憧れ、そして同じ時間を共有できた幸福感が隠しきれない顔。
まあ、ハッフルパフは何故かレイブンクローと共同授業が多くて、スリザリンやグリフィンドール生が俺と同じ授業受けることなんてなかったもんな。
俺とセドリックも薬を提出し、大鍋を片付けて教室を出ようとしたとき、不意に背後から名前を呼ばれた。
「……ゾグラフ」
低い声に、足を止める。
振り返れば、セブルスが腕を組んで立っていた。指先がとんとん、と思案するように腕を叩いている。
「お前は残れ」
短く告げられ、セドリックや他の生徒たちは驚いた顔をして俺を見た。けれど「なんで?」と尋ねる勇気は誰もなく、気まずそうに視線を逸らして教室を出ていった。最後になったセドリックが心配そうに俺をチラチラと見ながらも、ぱたん、と扉を閉める。
え、罰則? 何にもしてないけど。
と、首を傾げつつ、大人しくセブルスの前に歩み出た。
「……なんですか?」
セブルスは少しの間、俺を値踏みするように見下ろしてから、もったいぶるように口を開いた。
「誠に……遺憾なことだが」
出だしから嫌な予感しかしない。
腕を組み、目を細めるセブルスの声は皮肉を纏っていた。
「この学年で最も優秀な成績を収めているのは……どうやら、きみのようだ」
「……は? え、そうなんですか」
思いもよらなかった言葉に、俺はきょとんとして目を瞬かせた。いや、まあ実技は誰よりも上手く調合できてるとは思ってるけど。……なんか、褒められてるような気がしない、セブルスは相変わらず眉間に皺を寄せて不機嫌そうだし、なんだか叱られている気分だ。
「もっとも、我輩としては甚だ気に食わぬ。きみが努力よりも、理解しがたい勘と、神がかり的な偶然に恵まれて成果を出しているように見えるからだ。だが──結果は結果だ。薬が完成すれば、それは事実である」
「……」
褒めているのか貶しているのか、全くわからない。
確かに偶然と奇跡では、あるけど。
「魔法薬学という分野は、選ばれた者の力によって、時に大きく進展する。我輩は……きみのその不愉快なほど天与の才を、無駄にすべきではないと考えている」
……おや? これは一応、褒められてるのか? セブルスの声は皮肉を織り交ぜながらも、どこか熱がこもっていた。
噛み砕きにくい言葉に、俺が首を傾げていると、セブルスは鼻を鳴らし、ついに本題を明かした。
「──つまり、今年一年、我輩の個人授業を受ける許可を与える」
「え。個人授業?」
俺は思わず聞き返す。
セブルスは顎をしゃくり、俺を見下ろしながら指先で腕をトントン、と叩いた。
「我輩が望むのは、より高度な薬の研究と、その成果だ。ホグワーツにおいて許されぬ“危うい薬”も──学術的指導という建前のもとならば、研究が可能になる。……きみの特異な成功率は、研究を前進させる上で……利用価値がある」
あ、なるほど。要するに、俺の名前をダシにすれば、セブルスはやばめの研究ができるってことか。
今まで授業の範囲でしかできなかった薬作りも、個人授業という体で作る事ができる。
これ、もしかしてセブルス先生の好感度アップの大事なフラグじゃないか? だってセブルスの個人授業を受けた事がある奴なんて聞いた事ない。
昔は俺の後見人という建前で、時々会ったりお茶会してたけど、もう今できないもんな。
好感度上げた方が将来的に良いし、どうしようかと思っていたところだ。ちょうど良いタイミングに俺は胸の奥がちょっとわくわくしてきて、思わず笑顔になった。
「セブルス先生に認められるなんて嬉しいです。俺でよければぜひ。──家に、余ってるレアな薬草、持ってきますね」
食い気味の二つ返事に、セブルスはほんの一瞬驚いたように目を見開いた。けれどすぐに、その黒い瞳は柔らかく光を帯びる。口の端がわずかに持ち上がり、ほんの一瞬だけ、冷たさの抜けた笑みが浮かぶ。
「……ふん。そうか」
その声には、満足げな響きが混じっていた。
おお、マジでご機嫌だ……そんなにやばい薬の研究したかったのかな。
「……時間割を見せたまえ」
俺は「はーい」と素直に答え鞄を漁り、折り畳んでいた時間割を取り出す。セブルスはそれを奪うように受け取り、黒い瞳で紙の上をすっと滑らせた。無意識なのか、顎に手を置き指先で撫でている。──あ、薄くなっていた眉間の皺がぐっと深まった。……時間が合わなかったらできないもんな。
「……水曜日、午後六時から八時まで」
ようやく空いている時間を見つけたのか、セブルスはそう呟くと同時に、時間割をこちらへ押し戻す。
「え。……思いっきり夕食の時間に被ってませんか?」
その時間は大広間でみんなが楽しげに食べている時間だ。毎週食べ逃せってことか?とさすがに気になって口にすると、セブルスは鼻を鳴らし、唇をわずかに歪めた。
「だとしたら、なんだ?」
即答。しかも抑揚のない声。
ああ、つまり──「ノア・ゾグラフの夕食など薬より価値はない」と言いたいわけか。
まあいいけど! 俺だって夕食か好感度アップイベントか、と聞かれたら後者を選ぶ。
それにホグワーツのハウスエルフがいる場所知ってるし、作ってもらえるし……。
多分、セブルスはなんか疲労回復薬とか栄養剤とかで済ませるんだろうな。
「……まあ、いいですけどね」
俺は肩をすくめて無理やり納得し、頷いた。
「じゃあ、明後日からですね。よろしくお願いします」
「ああ。……教科書類は我輩が用意する。場所は隣の研究室だ」
「はーい。失礼します」
にっこり笑って軽く頭を下げ、俺は教室を出た。
扉を閉めると、すぐそばの壁にもたれて待っている影が目に入る。
「ノア、大丈夫だった?」
セドリックは俺が何かやらかして罰則でも受けたのかと、心配そうに覗き込んでくる。
俺は思わず吹き出しそうになりながら答えた。
「ああ、なんか特別な個人授業のお誘いだった」
「ええ?! 聞いたことないな……」
セドリックが目を丸くする。
俺は片手をひらひら振って笑った。
「俺も初めて聞いた。俺って想像以上にセブルスのお気に入りだったらしい」
おどけながら言えば、セドリックは「まあ嫌われてはないんじゃない?」と苦笑しながら頷いた。
別に魔法薬学が特別好きなわけでもないし、熱意もないけど、──セブルスの特別な個人授業。
正直、めちゃくちゃ楽しみだ!
鼻歌でも歌い出しそうなほど機嫌のいい俺に、セドリックは「そんなに嬉しいことなのだろうか?」と不思議そうな顔をしていた。