兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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148 ボーバトンとダームストロング

 

 

 

 十月も終わりに近づいた頃、玄関ホールの掲示板に『三大魔法学校対抗試合』についての告知が貼り出された。

 一週間後の十月三十日午後六時に、ボーバトンとダームストラングの代表団が到着する。そのため授業は三十分繰り上げで終了し、生徒全員は城の前に整列して出迎えること──とある。金曜の最終授業は……魔法史か。

 

 

 俺とセドリックが掲示を見ていると、周りにいる生徒がチラチラと俺たちを見てきた。

 たまたま目が合ったハッフルパフのまだ幼い少年が、頬を赤くして俺とセドリックに「あのっ」と声を裏返しながら声をかける。その少年の友達らしき何人かが隣で狼狽している。「ノアさんに話しかけるなんて!」ってとこだろう。

 

 

「どうしたんだい?」

 

 

 セドリックは優しく首を傾げる。少年はローブの袖をぎゅっと握り、「あ、あの、」とどもりながら見上げた。

 

 

「た、対抗試合に立候補しますか?」

「え?」

 

 

 セドリックは驚いたように目を開く。掲示板の周りに群がっていた生徒たちは、セドリックと俺が何と答えるのか気になっているようで、今まで楽しげにしていたお喋りを止めちらちらと様子を伺っていた。

 

 

「うん、そのつもりだよ」

「そうなんですね! ノ、ノアさんは──」

 

 

 ぱっと表情を明るくした少年が俺を見上げる。俺が答えようとした時、人混みの中から「ば、馬鹿なこと聞いちゃダメよ!」と小声で牽制するような声が響き、少年の隣から、少年に似た──多分姉だろう──グリフィンドール生が少年の口を手で覆った。

 

 

「むぐっ──」

「す、すみませんノアさん! この子、あなたの誕生日を知らないみたいで……教えておきます。ほら、行くわよ!」

「あー……俺の誕生日知ってるんだ?」

 

 

 俺に話しかけられると思っていなかったのか、少女は真っ赤な顔でこくこくと頷き、少年の口を手で塞いだまま目を輝かせた。

 

 

「もちろんですっ! 本当はノアさんに代表選手になって欲しかったです。私だけじゃなくて、みんなそう思ってると思います!」

 

 

 その言葉に、周りからも同調するように何人かが頷く。

 

 

「そっか。……俺、立候補するつもりなんだ。もし代表になったら応援してくれよ」

「え──は、はいっ!」

 

 

 にこりと笑い、セドリックの手を引いて生徒たちの人混みから抜け出す。後ろから「えっ、誕生日は一月じゃ……」という疑問の声と「すごい!みんなに教えなきゃ!」と言う興奮の声が混ざり、大きな騒ぎとなっていた。

 

 

 

 

 それから一週間、どこへ行っても三校対抗試合の話で盛り上がっていた。ダームストラングとボーバトンはどんな学校でどんな生徒なのか、という話や、それぞれの寮から誰が立候補するのかという話、ノア・ゾグラフが誕生日前だが立候補するらしいという話も、勿論話されていた。

 噂が噂を呼び、尾鰭が付いたりつかなかったり。最終的に俺の本当の誕生日はハロウィンより前だが、孤児院に来る前にわからなくなったのではないか、孤児院に来た日が誕生日となり長く間違えられていたのではないか──とかいう話が出ていた。

 俺に直接聞く度胸のある生徒は居なかったし、ハリーたちは俺が何らかの方法で年齢を誤魔化すつもりだとフレッドとジョージとの会話で察している。

 何度かハリーとロンとドラコに「どうやるんだ?」と聞かれたが、「内緒」と秘密にし続けた。

 

 

  三十日の夕方、最後の授業が終わり、俺たちは指示通り鞄を部屋に置きに戻り、身支度を整え玄関ホールへ向かった。

 それぞれの寮監が先頭にいて、集まった生徒を並べている。一年生から順に整列させられているのを見て、俺とセドリックは後ろの方に並んだ。

 

 大体の生徒が集まると、ハッフルパフの寮監であるスプラウトが「さあ、ついてきなさい」と俺たちに声をかける。一年生から順番に正面の階段を下れば、すでに他の先生やダンブルドアが正面に続く馬車道の前で待っているのが見える。どの先生たちも期待と楽しみで表情が綻んでいた。

 

 

 空は晴れているがもう薄暗くなっている。

 禁じられた森の上には白い月が輝き始めていた。

 

 六時になり、誰もが興奮して目を輝かせひそひそと「もう来るかな」「どうやって来るんだろう」と囁き合う。しかし、目の前の馬車道はしんとしているし、相変わらず暗くひっそりとしている。

 どうやら、少し焦らせて期待と興奮を最骨頂にするのはどの国でもお決まりらしい──そう思った時、ダンブルドアが愉快そうな声を上げた。

 

 

「ほほう! わしの目に狂いがなければ、ボーバトンの代表団かが近づいてくるぞ!」

「どこ?」

「何にも見えない!」

 

 

 生徒たちがばらばらな方向を見る中、「あっ! あそこだ!」と誰かが森の上空を指差して叫んだ。

 そっちを見れば、濃紺の空に黒い何かが浮かんでいるのが見えた。それは次第に大きくなり、ぐんぐんと近づく、呆気に取られる生徒たちの前で、黒い影が森の梢をかすめた時、それはホグワーツ城の窓灯りに照らされ姿を現した。

 

 現れたのは大きな館ほどの馬車だった。十二頭の巨大な天馬に引かれ飛んでいる。

 馬車が高度を下げ、着陸態勢に入る──が

かなり近づいていて、前の方に並んでいた一年生達は慌てて後ろに下がった。

 ドン、と鈍い衝撃音と共に天馬の蹄が地を蹴り馬車が着陸する。巨大な車輪が軋みバウンドし、砂埃が舞う。止まった天馬は金色の尻尾を一振りし、火のように赤い目で俺たちを見た。

 

 淡い水色のローブを来た少年が馬車から飛び降り、馬車の下から金色の踏み台を引き出す。恭しく一礼をしながら杖を振り馬車の扉を開けた時──中から子どもようのソリほど大きな黒いハイヒールが片方現れた。──殆ど同時に現れた女性は、巨大な馬車や天馬、ハイヒールも納得の大きさで、多分ハグリッドと同じくらいだろう。

 ダンブルドアがにこやかな笑顔で拍手し、呆気に取られて巨大な女性を見ていた生徒たちもそれにつられて一斉に拍手をした。女性は表情を和らげ、優雅に微笑む。

 ダンブルドアに近づき、パールの指輪が輝く片手を差し出した。ダンブルドアは手を取り、軽く唇を鳴らす。

 

 

「これはこれは、マダム・マクシーム。ようこそ、ホグワーツへ」

「ダンブリードール。おかわり、ありませんか?」

 

 

 女性──マクシームは柔らかな深いアルトで答える。その言葉はどこかたどたどしく、何人かがちらりと視線を交わしあった。どうやら英語は堪能ではないらしい。

 

 

「おかげさまで」

「よかったです。──私のせいとです」

 

 

 マクシームが手の片方を無造作に後ろに回し、ひらひらと振った。十数人の男女学生が馬車から現れマクシームの背後に並ぶ。みんな薄いローブを着ているだけで寒そうに震えて、どこか不安気にマクシームを見上げている。ボーバトンがどこの国にあるのか知らないけど、英語が通じるかどうか不安なのかもな。

 

 

「カルカロフはまだきませーんか?」

「もうすぐ来るじゃろう。外でお待ちになって出迎えなさるかな? それとも城中に入られて、ちと、暖を取られますかな?」

「あたたまりたいです。でも、馬は──」

「こちらの『魔法生物飼育学』の先生が喜んでお世話するじゃろう。別の、あー──仕事で、少し面倒があってのう。片づきしだいすぐに」

「私の馬は、力いります。とても強い……」

 

 

 マクシームは巨大な天馬を任せられるのか不安に思っているようで言い淀む。だが、ダンブルドアは「ハグリッドなら大丈夫、やり遂げましょう」と言って微笑んだ。

 ダンブルドアが言うのなら、とマクシームは軽く頭を下げ、威厳たっぷりにボーバトンの生徒たちを「おいで」と手招きする。

 

 ホグワーツ生の列が左右に割れ、マクシームと生徒たちが通れるように道を開けた。マクシームは階段を自然と一段飛ばしに上がり、生徒たちは身を寄せ合い凍えながら後ろを歩く。先頭の生徒が俺で目を止め、隣の生徒に何やら興奮した表情で耳打ちした。一人の女生徒が、俺の方を見た。

 あー。この女の子。多分あれだな。

 

 その子は、かなり目を引く美しさだった。

 驚いたように目を丸める相手に、目を細め、少しだけ笑ってやる。するとその子は寒さに凍えていた白い頬をぽっと染めたが、それでも取り乱すことなく完璧な微笑を浮かべた。細くて白い手をひらり、と振り、俺の方に来かけたが──後ろの生徒に押されるようにして階段を上がっていってしまった。残念そうにこっちを振り返っているのが見える。

 

 

「……すっごい美人だったね……」

「そうだな」

 

 

 セドリックは驚きまじりに呟く。

 あれ絶対フラー・デラクールだな。生徒全員の顔は見えなかったけど、どうみても滅多にいないくらいの美女だったし。俺と雑誌の表紙で並べる程度には美人だったなあ。モデルとかしないのかな。

 

 

 

 そんな事を考えていると、突然何かがごぽり、と噴出するような音が聞こえ、近くの湖が波打ち出した。黒い水面がぼこぼこと泡立ち波が岸に打ちつけた。そして──湖の中心から、長い帆柱が現れ、ゆっくりと、堂々と、月明かりを受けて船が水面に浮上した。

 それは引き上げられた難破船のように不気味で、丸い船窓から仄暗い霞んだ灯りがちらちらと見えていた。大きな水音を立てて船全体が姿を現し、水面を波立たせる。浅瀬に錨を投げ入れる音が聞こえ、船と岸を繋げる階段のような

スロープのようなものが下された。

 船から人影が降りてきた。全員が暖かそうなもこもことした分厚い毛皮のマントを着ているが、先頭で生徒を率いる男だけは他とは異なる滑らかな銀色の毛皮だった。

 

 

「ダンブルドア! やあやあしばらく。元気かね?」

 

 

 毛皮と同じ銀髪の男は朗らかに愛想良くダンブルドアに歩み寄ると手を差し出す。ダンブルドアはその手をしっかりと握り「元気いっぱいじゃよ。カルカロフ校長」と挨拶を返した。

 

 

「懐かしのホグワーツ城」

 

 

 カルカロフの声は愛想が良く、耳に心地いい。城を見上げて微笑むその目は、笑っているのにどこか冷たくも見えた。……そういや、卒業生……ってか死喰い人なんだっけ。

 

 

「ここに来れたのはうれしい。実にうれしい……ビクトール、こっちへ。暖かいところへ来るがいい……ダンブルドア、かまわないかね? ビクトールは風邪気味なので……」

 

 

 カルカロフが一人の生徒を招いた。集団の中から現れたのは、クィディッチワールドカップで見た顔であり、すぐ隣でセドリックが感激と興奮を抑えきれない声で「クラムだ!」と囁いた。

 セドリックだけじゃない。クラムはクィディッチワールドカップで目立った選手であり、まさに時の人でもある。誰もが色めき立ちその姿を一目見ようと爪先立ちになって左右に揺れていた。

 

 

「もちろんだとも。さあ、中にどうぞ」

 

 

 ダンブルドアは笑顔でダームストラングの生徒たちを案内する。再びホグワーツの生徒が左右に割れ、ボーバトンの時と同じように彼らを通した。ホグワーツ生達は教師に続いてその後を追い、玄関ホールに向かう。

 

 

「うわー! まさかクラムがいるなんて! サインもらえないかなぁ?」

「後で言えばくれるんじゃね?」

 

 

 セドリックはそわそわと落ち着かない様子で大広間の入り口にいるダームストラング生を見る。先頭にいたはずのカルカロフはいつの間にか姿を消していた。そう言えばホグワーツの先生たちの姿も見えない。先生たちで打ち合わせでもあるのか?

 

 先に大広間で暖をとっていたボーバトンの生徒はレイブンクローの机の後ろにまとまって座っていたが、ダームストラングの生徒たちはどこに座ればいいのか指示されていなかったようで──忘れていたのか、それとも自主性に任せているのか──不安気に身を寄せ合っていた。

 

 

 横を通り過ぎる時になんとなく見ていると、ばちり。とクラムと目が合う。むっつりとしていたクラムが「あ」と小さく声を漏らし「ノア・ゾグラフ」と漏れ出たように呟いた。クラムの周りにいたダームストラングの生徒たちが一斉に俺の方を見て、見るからにざわめき浮き足だった。

 目が合って無視もなんだし、と思って、足を止めてクラムに近づく。隣でセドリックがはっと息を呑んだ。

 

 

「クラムだよな? 俺、この前の試合の時に会ったんだけど覚えてる?」

「あ、──ああ、うん」

 

 

 学友に小突かれて、ようやく返事をするクラム。雑誌に載っていたスター選手らしい威厳は影を潜め、どこか年相応の呆然とした顔だった。

 

 

「今、俺の名前呼んでたよな。俺のこと知ってるのか?」

「も、勿論! あなたは僕たちの国でも有名だ。むしろ、僕を知ってくれて嬉しい。あの時は話せなかったし。……その。クィディッチのキーパーとしても凄いって雑誌に書いてあったけど本当に? よければ今度一緒に空を飛ばないか?」

 

 

 クラムは堰を切ったように話し出した。お、意外と話す奴なんだ。クィディッチの雑誌のインタビュー記事ではあんまり話してるイメージないしいつも仏頂面してたけど。と思っていると、クラムの隣にいる魔女がツン、とクラムの肩を突く。

「クラム! 英語じゃなきゃ伝わらないわよ」と小声で嗜められ、クラムは「あ、」と慌て出した。クラムってブルガリア代表だったし、英語はあまり得意じゃないのかも。なんか、原作でもそんな感じだった気がする。

 でもダームストラングってスウェーデンとかノルウェーあたりじゃなかったっけ?いろんな国から生徒集めてるのかな。

 

 

「いや、伝わってるから大丈夫」

「! ゾグラフ、きみ、ブルガリア語を話せるのか? 凄いな……」

「まあな。俺の事はノアでいい。……座るところを探しているなら、こっちこいよ」

「あ、ああ!」

 

 

 俺が今話しているのが何語なのかはわからないが、クラムは小声で他のダームストラング生に「ノアがこっちおいでだって!」と弾む声音で言い、嬉しそうに俺の後をついてきた。

 ハッフルパフの後ろにダームストラング生が座る。ハッフルパフ生は快くクラムやダームストラング生を歓迎し、他の寮の生徒たちは羨ましそうに首を伸ばしてこちらを見ていた。

 

 

「初めまして。僕はセドリック・ディゴリー。ようこそハッフルパフへ。君たちに会えてとても嬉しいよ!」

 

 

 セドリックはクラムをはじめ、ダームストラング生全員に声をかける。ダームストラング生はみんな「どうせクラムにしか興味ないんだろうな」と考えていたようで、セドリックの分け隔てない誠実さと歓迎の言葉に驚いたように目を瞬かせたが、すぐに嬉しそうに笑っていた。

 

 毛皮のコートを脱いだ彼らは天井を見上げ、星の瞬きを映す大広間を物珍しげに眺める。セドリックはそわそわとクラムを窺い、ついに声をかけた。

 

 

「クラム。僕もクィディッチをしてるんだ。その──ハッフルパフチームのシーカーなんだ」

「シーカー。同じ、ですか。セドリック?」

 

 

 多分、今クラムが話しているのは英語なんだろう。さっきの俺との会話と比べて辿々しい妙な敬語だったが、セドリックはそれに触れず、名を呼ばれた喜びを隠さずに笑った。

 

 

「うん! 試合見たよ。本当に凄かった!」

「ありがとうございます」

「セドリックは結構うまいぜ。飛ぶのもだけど、観察眼が鋭い。作戦立てるのうまいし」

「へぇ……それは、良い」

 

 

 クラムが真剣に頷く。その様子にセドリックは「ノアには敵わないけどさ」と照れ笑いを浮かべたがその声色は、どこか嬉しそうだった。

 

 

 

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