兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
「いいか?ノア。これは俺たちがつくったクソヘドロガム爆弾だ。これを投げると悪臭とヘドロガムが撒き散らされる」
「きっとすぐフィルチが来るだろうから…」
「俺は、そのヘドロガムを踏むように誘導するんだな?」
「その通り!」
フレッドは手のひらサイズの真っ黒な球を持っている。クソ爆弾とくっつきガムを改良…魔改造して新しいクソヘドロガム爆弾というとんでも無いものを作ったらしい。
その効果の程を、管理人のフィルチで試してみたいんだろう。流石にこの爆弾を談話室や自室で爆発させる事は出来なかったんだろうな。他のルームメイトや寮生に迷惑かけちゃうし。
「いくぞ?準備はいいか?」
ジョージが声を顰めて俺とフレッドを見る。
俺たちはニヤリと笑って頷いた。
「「3──2──1!!」」
フレジョは同時に叫び、それぞれの手に持つ黒い球を遠くに勢いをつけて投げた。
見事な放物線を描いて黒い球はぽーんと扉、廊下の中央に落ちたその球は「バンっ!」と大きな破裂音と共に黒いヘドロガムを四方八方に吐き出した。
「うわっ!くっせえ!!」
「ちょっと凶悪にしすぎたかな?」
「うーん、改良が必要だ」
すぐにとんでもない悪臭が漂い、俺は服の袖で鼻を覆った。フレジョは真面目な顔で柱の影から顔を覗かせながら辺りの状況、ヘドロガムの飛び散り具合などを羊皮紙に書き留めている。
「──あ、ノア!フィルチが来たよ!」
「お、任せとけ!」
ばたばたと足音を響かせ、どう見ても怒っているフィルチが反対側の廊下からやってきた。
すぐに悪臭に気がついたのか、「あの餓鬼ども!!」と叫びながらぎょろぎょろとした目でフレジョを探している。
既に悪戯イコールフレジョと思われている程度に、フレジョはいつも何かやらかしていた。
すぐに俺は柱の影からそっと現れて、何食わぬ顔で──コケたふりをした。
「何のにおい!?く、臭い…!…うわっ!──いたた…フィルチさぁん、俺、足を挫いちゃったかも…手を貸してくれませんかぁ?」
「ゾ、ゾグラフ…?」
俺の少し先にはヘドロガムがべっとりついている。
普通の状態の警戒したままのフィルチなら、安易に進む事なく注意深く廊下を見ていただろう。
だが、しかし。
「お、おお!…良いとも!ちょっと待ちなさい、すぐに私が助けてあげるからねぇ」
目の前に世界一の美少年が居て、目を潤ませながら助けを求めている。助けないという選択肢など、でれでれになっているフィルチには浮かばない!
フィルチは険しかった表情をすぐに緩めてニタニタ笑いながら俺に駆け寄り──。
「うわっ!?──ぐっ!!…な、何だ?」
べったりとしたヘドロガムを思い切り踏みつけ、足の裏が固定されてしまいバランスを崩して前に倒れた。その先にもヘドロガムはあり、フィルチはゴキブリホイホイに捕まったゴキのように床にくっついている。
ねばねばしたものを懸命に剥がそうとしているが、かなりの強度らしくちっとも離れない。
すぐにフレジョの2人が柱の影から飛び出し、立ち上がった俺の隣に並んでにんまりと笑いぽかんとするフィルチを見下ろした。
「「「悪戯成功!」」」
声を揃えて3人で高らかに宣言すれば、フィルチはようやく俺もグルだと気付いたのか、みるみる内に顔を赤くして「このクソ餓鬼共!!!」と口の泡を飛ばしながら叫んだ。
「かなりくっつくな?」
「そうだな、うん、強度は申し分ない!」
「これさぁ、悪臭なくても良いんじゃね?臭いあったら何かあるってバレそうだけど」
「あーたしかに…でも、クソ爆弾だけかもってフィルチみたいに油断するだろ?」
「あ。むしろ…良い匂いにするのはどうだ?ケーキとかがあると思って油断するかもしれねぇし」
「「ノア、ナイスアイデア!」」
俺たちは口々にクソヘドロ爆弾の評価と反省点を真面目な顔で分析する。
わなわなと震えていたフィルチは、へばりついたまま叫んだ。
「罰則だ!!ここの清掃後私の事務室に来い!!」
「はいはい」
「わかってますって」
フレジョはいつものことなのか特に気にしている様子はない。
俺はまぁ久しぶりの罰則だけど事務室もちょっと入ってみたかったしいいや。…忍びの地図ってまだフレジョ持ってない…よな?
「あ、ミセス・ノリスだ」
「なっ…ミセス・ノリス!ここにはきちゃいかん!」
ばたばたともがくフィルチだったが、ミセス・ノリスはご主人の危機にすぐに駆け寄ろうとしている。
フレジョはミセス・ノリスの事も好きじゃないのか顔を見合わせて悪戯っぽく笑ってるだけだ。
「ミセス・ノリス。来ちゃダメだよ」
「…!…でも、あの人が…」
「くっついちゃうから。…ほら、その黒いのは触らない方がいい。…おいで」
黒いヘドロガムの前で悩むように足踏みしていたミセス・ノリスに手を差し出せば、少し迷っていたがぐっと体を低く下げて跳躍し、俺の腕の中に飛び込んできた。
「なぁ、フレッド、ジョージ。このヘドロガムっていつ消えるんだ?」
ミセス・ノリスを抱いたままフレジョに聞いたら、フレジョは目をぱちくりしたまま大袈裟に嘆いた。
「…それがね、中和剤入れ忘れたみたいだ!」
「こりゃうっかり!」
間違いなく、わざと入れなかったんだな。
腕の中のミセス・ノリスは心配そうに「フィルチ!フィルチ!!」って叫んでるし、フィルチもぽかんと俺とミセス・ノリスを見てるし。
中和剤入れ忘れでこのヘドロガムが消えないのなら…ま、俺が消すしかないか。
ポケットから杖を取り出し、円を描くようにくるりと回す。銀色の光がふわりと広がり、この廊下に漂う悪臭やヘドロガムがすっかり消えた。
フィルチはヨロヨロと立ち上がり、服についていた砂埃を払うと俺たちを恨めしそうな目で睨む。
「フィルチ!」
ミセス・ノリスはぴょんと俺の腕から飛び出してフィルチの足元に降り立つとごろごろと喉を鳴らし擦り寄る。
この2人はわりと強い絆で結ばれてるみたいだし、猫は癒しだ。うん、俺は猫派!
「ノア、君、急ににゃーにゃー言い出して猫と喋ってるみたいだったな」
「可愛かったけどな」
ごろごろ言ってるミセス・ノリスを見ていたジョージがふと面白そうに笑いながら俺に言った。
あ、猫の言葉は普通にニャーニャー言ってるように周りからは聞こえるのか。
多分、魔法生物や蛇と喋るよりもあざとらしくて嘘っぽく見えたんだろうな。
「いや。可愛こぶったわけじゃなくてさ。俺猫と喋れるんだよ」
「え?…本当に?」
「へー。珍しいね、たまーに居るって聞いた事があるな」
パーセルタングよりはポピュラーで嫌な印象はないのか、フレジョは珍しそうにしたけど特に驚いて嫌悪感を見せる事はない。
フィルチは猫と喋れる、というのが信じられないのか疑い深い目で俺をジロジロと見ていた。
「ミセス・ノリス。昨日の晩ごはんは?」
「え?…えーと、茹でたササミだったわ。私は白身魚が好きなんだけどね」
「またにゃーにゃー言ってる」と、何が楽しいのかジョージがくすくすと笑ったが俺は気にせず疑ったままのフィルチを見てニヤリと笑った。
「昨日のミセス・ノリスの晩御飯は茹でたササミだったんですね。この子は白身魚の方が好きみたいですよ?」
「…何故、それを…。…本当に、話せるのか」
「まぁね」
フィルチは目を見張り、腕の中にいるミセス・ノリスを見下ろす。ミセス・ノリスは撫でられて嬉しそうに目を細めてごろごろと甘え声で鳴いていた。
「……、…3人とも、来い。罰則を与えねばならん」
フィルチは踵を返すとしっかり胸にミセス・ノリスを抱いたまま俺たちに告げた。
罰則は覚悟の上だったため、特に気にする事なく俺たちは大人しくついていく。
フィルチの事務所は生徒を吊るす為の鎖が壁にかけられ、奥には机があり沢山の羊皮紙やら本が積み重なっていた。
まじまじと見ていると、机の上にある書類棚の引き出しの一つに『没収品・特に危険』と書かれてある箇所がある。
「…おい、見てみろよ」
「…ワオ、素晴らしいね」
フレッドとジョージも没収品が収められている棚に気が付き、小声で囁き合っている。
フィルチが罰則の準備をしていて背を向けている間に、ジョージがポケットから小振の小さな球を取り出しその棚から最も離れた場所に向かって放り投げた。
「──うわくっさ!!」
「なっ!?またか!?」
「あーすみません!落としちゃいました!」
ジョージは全く悪そびれなく鼻を押さえながら肩をすくめる。
狭い事務所にクソ爆弾を投下したせいで、かなり臭いが強くて目まで痛い!
「うぅ、は、鼻が…!」
ミセス・ノリスが苦しむ声が響く。
そうか、猫だし人間よりもこの臭いが辛いんだろう。
「フィルチさん!ミセス・ノリスが苦しんでます!早く窓を開けた方がいいですよ!」
「あ、ああ」
わたわたとフィルチは窓に駆け寄った。
その隙を見逃さずフレッドが没収品の引き出しを開け、一番上にあったものを掴み素早くポケットの中に突っ込んだ。
俺たちは顔を見合わせてニヤリと笑った。
その後俺たちは仲良くホグワーツのトイレ掃除をマグル式でする事になり、バケツとモップを持って廊下を歩いていた。
十分にフィルチの事務所から離れたところで俺たちはすぐに空き教室を探して忍び込んだ。
「やったぜ!…でも、これなんだろう?」
「羊皮紙…だよな?」
「…これ……何だろうな」
何だろうな、とか言ってるがこれはどう見ても忍びの地図である。
一見すると古びた羊皮紙にしか見えず、フレジョは首を傾げて忍びの地図をひっくり返したり振ったりしていた。
「こういうのは大体杖で触って…」
ジョージは机の上に地図を広げ、腕まくりをしながら杖先で地図の上を叩いた。
しかし、当然ながら何も起こらない。
「何か、呪文があるんじゃね?」
「そうかも…うーん。なんだろう。──正体を見せよ!……変わらないな」
「全てを曝け出せ!」
フレジョは杖先で地図に触れながら口々に思い付くままに叫ぶ。だけど、地図はちっとも変わらない。
…流石にあの合言葉を何のヒントも無しで見つけ出すのは難しいよな。俺は勿論、知ってるけど。
ポケットから杖を出して、軽くトンと叩いた。
「──よからぬ事を企もう」
一瞬、地図が淡く、白く光った。
…成程!こうやって少しずつ合言葉まで辿り着けって事なんだな。
「うわ!光った!」
「でも…すぐ消えたな?」
「多分、合言葉が惜しいんだろうな」
「なるほど…ノア、これ俺たちが持ってて良いか?絶対合言葉見つけ出してみせる!」
「ああ、いいぜ」
フレッドは宝物を見つけたように目を輝かせながらすぐにその地図を畳んでポケットの中に入れた。
一ヶ月後。
フレジョは見事忍びの地図の使い方をマスターし、意気揚々と俺に見せてくれた。
広いホグワーツが全て書かれ、沢山の黒い点が動いている。
実物をこうして、見ることが出来るなんて…!
「今度の土日に、この地図を持ってちょっと探検に行こうと思うんだけど、ノアも行かないか?」
フレッドの誘いに、俺は勿論頷いた。
地図には小さな黒い点の上に『ノア・ゾグラフ』と書かれてあって、俺はなんだか安心したような──悲しいような、複雑な気持ちになった。