兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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150 ホグワーツ代表選手

 

 次の日の夕食時の話題はもちろん、代表選手に誰が選ばれるかだ。立候補した生徒たちは期待と興奮から、いつもよりそわそわと落ち着きがない。準備されたいつもより豪華な食事の味をゆっくり堪能した人が、果たしてどれくらいいたのだろうか。

 

 いつもより残されたデザートが終わり、金の皿がきれいさっぱりと消えた時、大広間の喧騒は一段と大きくなっまが、ダンブルドアが立ち上がると一瞬にして静まり返った。

 ダンブルドアの両脇に座っているカルカロフやマクシームも、みんなと同じように緊張と期待感に満ちた表情だ。

 

 かく言う俺も、いつもよりも心臓の音がうるさいし、握った拳がじわりと汗ばんでいる気がする。

 もし、原作通りセドリックが選ばれたら──セドリックが死のレールに乗りかねない。最終試験は特に、原作の流れを守ったまま、セドリックを守るのが難しくなる。あの墓場に行くのがセドリックじゃなく俺なら、いくらでも生き延びることは出来るし。

 

 頼む、俺が選ばれますように──!

 

 

「さて、ゴブレットはほぼ決定したようじゃ」

 

 

 ついに、その時が来た。

 みんな身を乗り出して、組み分け椅子の上に置かれているゴブレットを見ている。

 

 

「わしの見込みでは、あと一分ほどじゃの。さて、代表選手の名前が呼ばれたら、その者たちは、大広間のいちばん前に来るがよい。そして、教職員テーブルに沿って進み、隣の部屋に入るよう。そこで、最初の指示が与えられるであろう」

 

 

 ダンブルドアは教職員テーブルの後ろにある机を示し、杖を振った。

 ハロウィン飾りのランプや、天井の蝋燭の火が一斉に消え、大広間は殆ど真っ暗になる。炎のゴブレットが燃やす青い炎だけが輝き、キラキラと揺れている。

 

 じっと、息を詰め、その炎が揺れるのを見つめる。

 青い炎が突然赤くなり──火花が飛び散り始めた。次の瞬間、炎が宙高くへと燃え上がり、炎の舌先から焦げた羊皮紙が一枚、はらりと落ちてきた。

 

 全員が固唾を飲み見つめる中、ダンブルドアはその羊皮紙を捕らえ、再び青白く燃える炎の明かりに近づける。

 

 

「ダームストラングの代表選手は──ビクトール・クラム!」

 

 

 大広間中に拍手と歓声が上がる。クラムは俺たちハッフルパフのテーブルから立ち上がり──その時、俺と目があった──堂々と肩で風を切るように生徒の間を通り、ダンブルドアの元へ向かった。満足気に手を叩き見送るカルカロフに軽く会釈をしたクラムは、教職員テーブルの前を通り隣の部屋と消えた。

 

 数秒後、再びゴブレットの炎が赤く燃え上がり、二枚目の羊皮紙が吐き出された。

 

 

「ボーバトンの代表選手は──フラー・デラクール!」

 

 

 フラーが胸に手を当て優雅に立ち上がる。その表情は自信に満ちていて、シルバーブロンドの長髪を後ろに流しながら颯爽と歩く。フラーもまた、マクシームに丁寧にお辞儀をすると隣の部屋へと向かった。

 

 そして、ついにまたゴブレットの炎が赤く燃える。溢れるように火花が飛び散り、中から羊皮紙が飛び出した。

 

 

 

──いよいよだ。

 

 

 俺は、ぐっと奥歯を噛み締める。隣ではセドリックが緊張と期待で硬い表情をしながら炎を見つめていた。

 

 ダンブルドアが羊皮紙を捕らえ、ゆっくりと開く。その目はかすかに細められたが、瞬き一つでいつものような飄々とした表情に戻っていた。

 

 

「ホグワーツの代表選手は──ノア・ゾグラフ!」

「──っ!!」

 

 

 その言葉に、隣のセドリックが強張っていた力を抜いたのがわかった。

 俺が立ち上がった瞬間、ハッフルパフ生が総立ちになり、叫び、手を狂ったように叩き、足を踏み鳴らしていた。「ノア!」「ノア様!」と、まるでもう勝利が確定したかのような興奮に満ちた声が溢れ、そこかしこから俺の名が叫ばれている。

 セドリックも残念そうにしていたが、俺に笑顔を向けて手を叩いた。──本当に、よかった。

 

 

「おめでとう、ノア」

「ああ。ありがとう。──ごめんな、お前の出番奪っちゃって」

 

 

 セドリックは首を振って笑った。選んだのはゴブレットだから、仕方がないよ。というように。体の成長を調節する、という──ある意味ズルをして選ばれたとしても、セドリックはそれで俺を幻滅することはなかった。

 ……本当に、出番を奪ってごめんな。でも、セドリックはもっと別の場所で輝ける。これから、ずっと。

 

 

 

 俺は声援に促され、軽く手を上げながら生徒たちのテーブルの間を通る。ダンブルドアもまた、柔らかく俺に拍手を送っていた。

 寮監のスプラウトなんて、今にも泣きそうなほどの笑顔で俺を見ていた。まあ、選ばれたからにはもちろん手を抜かずに優勝を目指すけどな。

 

 教職員テーブルを過ぎ、隣の部屋に行く。

 そこはあまり広くない部屋で、魔女や魔法使いの肖像画が壁一面に並んでいた。肖像画の置き場所なのかな?

 入り口の向かい側には暖炉の火が轟々と燃えさかり、その前にフラーとクラムがいた。

 

「や」と手を挙げれば二人は目を開き嬉しそうに駆け寄ってきた。

 

 

「ノア! そうか、三人目はきみか!」

「まあ、素晴らしいです!」

「ああ、代表同士、頑張ろうぜ」

 

 

 なんとなく互いに知り合い──というか、交流があるし、全く知らない人よりはライバルになるとはいえ気が楽なんだろう。二人とも強張っていた表情を緩めていた。

 

 

 

 その時、かちゃ、と扉が開く音がして俺たちは振り返る。蒼白な顔で入ってきたのは──予想通り、ハリーだった。

 

 

「どうかしまーしたか? わたしたちに、広間にもどりなさいと、いうことですか?」

 

 

 ハリーが伝言を伝えにきたのかと思ったらしく、フラーは髪を後ろに払いながら首を傾げる。クラムは「今来たばかりなのに?」と不思議そうな表情をしている。

 ハリーは扉の前に突っ立ったまま、フラーとクラムを呆然と見上げていた。口がかすかに開いているが、言葉が出ていない。その目が、救いを求めるように俺を見て揺れた。

 

 

「ハリー、どうした?」

「僕──僕、違う──違うんだ……」

 

 

 今にも泣きそうに瞳を揺らしたハリーは、震える唇でそれだけを言った。フラーとクラムが怪訝な顔をした時、ハリーの背後で扉が開きバグマンが勢いをつけて飛び込んでくると「すごい!」と叫びながらハリーの腕を掴み、俺たちの前に突き出す。ハリーはよろめき、ふらつきながら自分の腕を掴むバグマンを引き攣った表情で見る。

 

 

「いや、全くすごい! みなさん、ご紹介しよう──信じ難い事かもしれんが、四人目の、三校代表選手だ」

 

 

 興奮し盛り上がっているのはバグマンだけで、ハリーは「消えたい」と願うように途方に暮れた蒼白な顔をして震えているし、クラムとフラーは重く沈黙した。バグマンを見て、ハリーを見る。その目はまだバグマンの言葉を──当然だが、信じきれていない。

 

 

「まあ、それはジョークでしょう? おもしろーいですね」

「ジョーク? とんでもない! ハリーの名前がたった今、ゴブレットから出てきたのだ!」

 

 

 痛いほどの沈黙と視線がハリーを射抜く。ハリーは縮こまり、誰よりも当惑していた。

 

 

「でも、何かの間違いにちがいありません。 このひと、競技できませーん。このひと、若過ぎます」

「さよう……驚くべき事だ。しかし、知ってのとおり、年齢制限は、今年にかぎり、特別安全措置として設けられたものだ。そして、ゴブレットからハリーの名前が出た……つまり、この段階で逃げ隠れはできないだろう……これは規則であり、従う義務がある……ハリーは、とにかくベストを尽くすほかあるまいと──」

 

 

 バグマンは顎を撫で、ぶつぶつと呟く。

 その時、背後の扉が再び開き、それぞれの学校の校長と、セブルス、スプラウト、マクゴナガル、クラウチが──全員険しい表情をして入ってきた。扉の向こうで、生徒たちが不満を叫んでいる声が聞こえた。

 

 

「マダム・マクシーム! この子が、競技にでる? 本当ですか?」

 

 

 フラーは憤慨しながらマクシームに近づく。マクシームはフラーの肩を優しく抱き撫でながら、厳しい目でダンブルドアを見据える。胸を張り、大きな背をさらに大きく見せて──威嚇するように。

 

 

「ダンブルドア、これはどういうことですか?」

「私もぜひ、知りたいものですな、ダンブルドア?」

 

 

 マクシームに賛同するように、苦い顔をしたカルカロフが腕を組み、クラムの隣に並びながら言った。マクシームも、カルカロフも、自分の生徒を守るように立っている。

 俺のそばには──ダンブルドアは来ない、その代わり、唇をきゅっと一文字に結んだスプラウトがつかつかと歩み寄って、俺とハリーを離すようにその間に入った。

 その途端、ハリーの目に絶望が滲む。

 いや、まあ、俺の立場的にはこっちだけどな。ハリーのその顔は心が痛む……から、ちょっと肩をすくめてみせる。怒ってないよ、と示したつもりだが、ハリーには伝わったかな?

 

 

「ホグワーツの代表選手が二人とは? 開催校は二人の代表選手を出してもよいとは、誰も伺っていないようですが──私の規則の読み方が浅かったのですかな?」

 

 

 カルカロフは嘲笑し、堂々と皮肉る。マクシームも「ありえないことですわ」と吐き捨てた。

 

 

「ホグワーツが二人も代表選手を出す事は、できません。それはとても、正しくないことです」

「我々としてはあなたの年齢線が、年少の立候補者を締め出すだろうと思っていたわけですがね。ダンブルドア。そうでなければ、当然ながら、我が校からも、もっと多くの立候補者を連れてきてもよかった」

 

 

 マクシームとカルカロフがダンブルドアを攻め立てる。ダンブルドアは目を閉じ、じっとその言葉を受け止めていた。──深く、思案しているようだ。

 

 沈黙し何も言葉を返さないダンブルドアの代わりにセブルスが低い声で「カルカロフ。誰の咎でもない、ポッターのせいだ」と意地悪げに呟く。

 これって、セブルスはハリーがダンブルドアの年齢線を騙せる魔法使えると思ってるのかな。かなり優秀じゃないと無理そうだけど。……いや、ハリーの評価下げたいだけだな。

 

 

「ポッターが、規則は破るものと決めてかかっているのを、ダンブルドアの責任にすることはない。ポッターは本校に来て以来、決められた線を越えてばかりいるのだ──」

「もうよい、セブルス」

 

 

 まだ言足りてなさそうなセブルスの言葉をダンブルドアがきっぱりと止める。セブルスは黙って引き下がったが、その目はまだハリーを睨み見ていた。

 静かに目を開けたダンブルドアの瞳は、少しも笑っていなかった。いつもの輝きを持つ青色の瞳が鋭くハリーを見下ろし、ハリーはぐっと息を詰めた。

 

 

「ハリー、君はゴブレットに名前を入れたのかね?」

「いいえ」

「では、上級生に頼んで、ゴブレットに名前を入れたのかね?」

「いいえ」

 

 

 ハリーはぎゅっと握った拳を震わせながらも、しっかりとした口調で答えた。

 自分入れてないし、頼んでもない。そう断言したハリーだったが、マクシームが「この人、嘘をついています!」と非難めいた声で叫ぶ。セブルスは口元に薄ら笑いを浮かべ不信感をあからさまに示す。

 

 

「この子が、年齢線を越えることはできなかったはずです。その事については、みなさん、異論は無いと思いますが」

 

 

 マクゴナガルが硬い表情できっぱりと言った。きっとみんなで年齢線の魔法をかけているところでも確認したのだろう。カルカロフとセブルスは苦虫を噛んだような顔をしたが、マクシームだけは「ダンブルドアが間違えたのでしょう!」と認めようとせず憤慨した。

 

 

「もちろん、それはありうることじゃ」

「ダンブルドア、間違いなどないことは、あなたがいちばんよくご存知でしょう!」

 

 

 ダンブルドアが頷いた途端、マクゴナガルは怒ったように一歩ダンブルドアに近づく。ダンブルドアはただ微かに微笑むだけで、何も言わなかった。

 

 

「まったく、バカバカしい! ハリー自身が『年齢線』を越えるはずはありません。また、上級生を説得して代わりに名を入れさせるようなことも、ハリーはしていないと、ダンブルドア校長は信じていらっしゃいます。それだけで、皆さんには十分だと存じますが!」

「ということは──」

 

 

 教師たちだけがヒートアップしていたから、なんとなくみんな考えているだろうが、考えないようにしている事を口に出してみた。

 

 全員の目が、一斉に俺を見る。

 

 

「成人済みの誰かがハリーの名前を勝手に入れたって事になるんですよね」

「そういう事になるでしょう」

 

 

 マクゴナガルは片眉を上げて頷いた。

 俺は後ろで手を組み、ダンブルドア、マクシーム、カルカロフをゆっくりと見る。俺を見返す目の色は、三人とも違っていた。

 

 

「制約が絶対だとしたら。ゴブレットは一校につき、一人しか選べない。……なら、誰かが三校対抗試合じゃなくて、四校対抗試合だとゴブレットに思わせたってことになりますよね。事実四人選ばれたわけですし。

 ……それってホグワーツ出身者を勝たせたかったのか。──それとも、まだ四年生のハリーを危険な目に遭わせたかったのか。ただの愉快犯ならいいんですけど……そういえば、この夏に闇の印が上がったりしましたねえ」

 

 

 俺は話しながらダンブルドアを見た。

 ダンブルドアとは夏休みに、「こういう事があるかもしれない」と手紙のやり取りをしている。ダンブルドアは、死喰い人やハリーに害をなす者は入れないと言っていたが──まあ、残念ながらあっさりと侵入を許している。ダンブルドアは、苛立ちも怒りも動揺もなく、全てを見据えるキラキラとした青い目で俺をただ、見返していた。

 

 

 俺の言葉に、マクゴナガルとセブルスは厳しい表情で黙り込んだが、他の何人かは「馬鹿な」「あり得ない」と一蹴した。

 まあ、これまでハリーに何度もヴォルデモート関連のやばいことが起きていた。なんて、他の校長は知らないだろうし、突拍子もない言葉に聞こえたのだろう。

 

 尤も、カルカロフは他の人と少し反応が異なってきた。彼は顔色をさっとなくし、唇を戦慄かせている。無意識なのか、左腕を強く押さえて。──闇の訪れを感じているのかもしれないが、それでも認めたく無いのか「あり得ない」と振り払うように首を振り、バグマンとクラウチに向き合う。──俺から背を向けて。

 

 

「お二方は、我々の──中立の審査員でいらっしゃる。こんな事は異例だと思われるでしょうな? 四人目など、認められないでしょう?」

 

 

 バグマンは困り顔でクラウチに視線を向ける。クラウチは、暖炉の灯りの輪の外でじっと立ち、俺たちを観察するように見ていたが──ゆっくりと首を振った。

 

 

「規則に従うべきです。そして、ルールは明白です。『炎のゴブレット』から名前が出てきた者は、試合で競う義務がある」

「いやぁ、バーティは規則集を隅から隅まで知り尽くしている!」

 

 

 バグマンはこれで結論が出た。というように──空気が読めないのか──にっこりと笑い、カルカロフとマクシームを見る。……もちろん、カルカロフとマクシームは、そんな一言で納得できなかったようだ。

 

 

「私のほかの生徒に、もう一度名前を入れさせるように主張する。『炎のゴブレット』をもう一度設置していただこう。そして各校二名の代表選手になるまで、名前を入れ続けるのだ。それが公平というものだ。ダンブルドア」

「そうです、私の子たちもそうします」

 

 

 カルカロフの言葉にマクシームが同調するが、バグマンが困ったように額に浮かんでいた汗をハンカチで拭きながら「それは無理だ」と、困り顔で言う。

 

 

「『炎のゴブレット』の火ら消えた。次の試合まではもう、火がつくことはない──」

「──次の試合に、ダームストラングが参加することは決してない!」

 

 

 カルカロフは怒りを爆発させ、奥歯をぎりぎりと噛み締めながら唸るように言う。

 

 

「あれだけ会議や交渉を重ね、妥協したのに、このようなことが起こるとは、思いもよらなかった! いますぐにでも帰りたい気分だ!」

 

 

 まあ、ルール違反はルール違反だし、今までの会議なんだったんだろ。とはなるよな。

 

 

「はったりだな。カルカロフ」

 

 

 突然、扉の近くから低い声が響いた。ムーディが部屋に入ってきたようで、コツ、といつもの音を立て足を引きずりながらカルカロフに近づく。

 

 

「代表選手を置いて帰ることはできまい。選手は競わなければならん。選ばれたものは全員、競わなければならんのだ。ダンブルドアも言ったように、魔法契約の拘束力だ。都合のいいことにな。え?」

「都合がいい? なんのことかわかりませんな。ムーディ」

「わからん? カルカロフ、簡単なことだ。ゴブレットから名前が出てくればポッターが戦わなければならぬと知っていて、誰かがポッターの名前をゴブレットに入れた」

「はっ! 馬鹿馬鹿しい。ムーディ、あなたまでもあの若造と同じことを言う。どうせ誰かがホグワーツの勝率を上げたかったのだろう!」

「その通りでーす!」

 

 

 カルカロフははっきりとムーディを軽蔑したような言い方で吐き捨てる。マクシームも何度も頷き、カルカロフはわざとらしく丁寧にマクシームに頭を下げた。

 

 

「若造?」と、ムーディが怪訝な顔をした。──まさか、自分と同じ推量ダンブルドアではない誰かがすでに言ったとは思っていなかったのだろう。カルカロフは「やれやれ」とばかりに俺へ視線を向けた。

 

 

「もう一人のホグワーツの立候補者ですよ。……魔法界の有名人は、さすが、どこか夢見がちであられるようで」

 

 

 ……あれ。なんか敵対心持たれてる?

 そんなに闇の印云々は受け入れられなかったのか。

 ムーディの青い目はぐるぐると色んな人を見ていたが、最終的に俺を舐め回すようにじっくりと見つめている。もう一つの目も俺を厳しく見つめ──微かに口先を歪めて笑った。

 

 

「ほう、ゾグラフ。きみはどう思ったのだ?」

「ゴブレットを欺くにはどんな魔法使えばいいのか知らないですけど……そんな強力な魔法を使える魔法使いが、わざわざハリーの名前を入れた。って事は、ホグワーツの勝率を上げたいっていうよりも、まあ……普通に考えて、試合の難易度を利用してハリーを殺したい、もしくは重傷を負わせたいとかじゃないですかね。

……俺は夢と虚像を売る仕事をしているんで、まあぜーんぶただの勘違いかもしれないですけど」

 

 

 と、少しカルカロフに向けて言って、にっこりと完璧な営業スマイルを見せる。カルカロフは迫力ある俺の笑顔に「うっ」と言葉を詰まらせ一歩下がった。

 

 

「勘違い? 夢? いや、ゾグラフ。それは、わしの考えに近い……何気ない機会をとらえて悪用する輩はいるものだ」

 

 

 ムーディは俺を褒めるように、頷きながら言う。しかし、カルカロフは馬鹿にしたような視線をムーディに向けたまま、大きくため息をついた。

 

 

「皆さんご存知のように、ムーディ先生は朝から昼食までの間に、ご自分を殺そうとする企てを少なくとも六件は暴かなければ気が済まない人だ。

 聞くところによると、誕生祝いのプレゼントの中に、バジリスクの卵が巧妙に仕込まれていると思い込み、粉々に砕いたとか。ところがそれは馬車用の時計だと判明したとか。これでは、我々があなたの言うことを真に受けないのも、ご理解いただけるかと思いますが?」

 

 

 ムーディの狂人っぷりは、大人ならば全員知っている。昔は優れた闇祓いも、引退した後全てを警戒し続け疑心暗鬼に陥り狂ってしまったのだと、彼らは本気で思っている。

 カルカロフ達は「妄想だ」と本気で思っているようで、まるで気狂いを見るようにムーディを見た。

 

 しかし、ムーディは怒り狂うことはなく、ムーディは薄い唇をめくり、静かに、不気味に蔑み笑った。

 

 

「闇の魔法使いの考えそうなことを考えるのがわしの役目だ──カルカロフ、君なら身に覚えがあるだろうが……」

「──アラスター!」

 

 

 ムーディの言葉を遮り、ダンブルドアが警告するように強く呼びかける。ムーディは口をつぐんだが、それでも怒りに顔を歪ませるカルカロフの様子を楽しむようにな眺めていた。

 

 

「どのような経緯でこんな事態になったのか、我々は知らぬ」

 

 

 ダンブルドアは、誰の言葉も肯定しなかった。

 ただ静かに集まった全員に話しかける。

 

 

「しかしじゃ、結果を受け入れるほかあるまい。ノアもハリーも試合で競うように選ばれた。したがって、試合にはこの二名の者が──」

「ああ、でもダンブルドア──」

「まあ、まあ、マダム・マクシーム。何か他にいいお考えがあるのなら、喜んで伺いますがの」

 

 

 ダンブルドアは優しく微笑んでマクシームの言葉を待ったが、マクシームはただダンブルドアを睨むばかりで何も言わなかった。マクシームだけではなく、カルカロフも──もはやどれだけ文句を言っても変えられないのだと理解し、額に青筋を立てながら黙り込んだ。

 

 怒りと困惑と、少しの疑心で満たされる中、バグマンだけが何故かウキウキと楽しげに「さあ、それでは開始といきますかな?」と明るく言い、部屋を見回した。

 

 

「代表選手に指示を与えないといけませんな? バーティ、主催者としてのこの役目を務めてくれるか?」

「フム──よろしい。最初の課題は、君たちの勇気を試すものだ」

 

 

 クラウチは、俺たちが言い争っていることなど興味も関心も無いようだ。ただ、仕事を終わらせたいだけなのか──どうも心ここに在らず、というか。……そういえば顔色も悪い。

 

 

「ここでは、どういう内容なのかは教えないことにする。未知のものに遭遇したときの勇気は、魔法使いにとって非常に重要な資質である……非常に重要だ……。

最初の競技は、十一月二十四日、全生徒、ならびに審査員の前で行われる。選手は、競技の課題を完遂するにあたり、どのような形であれ、先生方からの援助を頼むことも、受けることも許されない。選手は、杖だけを武器として、最初の課題に立ち向かう。第一の課題が終了の後、第二の課題についての情報が与えられる。試合は過酷で、また時間のかかるものであるため、選手たちは期末テストを免除される」

 

 

 ハリー、クラム、フラー、俺を見ながら淡々と説明したクラウチは、最後にダンブルドアを見上げて「アルバス、これで全部だと思うが」と形式的に確認した。

 

 

「わしもそう思う」

 

 

 ダンブルドアの頷きを見て、クラウチはまた押し黙る。その顔色は暗がりの中とはいえ悪く、皮膚の弾力も無い、まるで病人のようだった。

 

 

「バーティ、さっきも言うたが、今夜はホグワーツに泊まっていったほうがよいのではないかの?」

「いや、ダンブルドア、私は役所に戻らなければならない。いまは、非常に忙しいし、きわめて難しいときで……若手のウェーザビーに任せて出てきたのだが……非常に熱心で……実を言えば、熱心すぎるところがどうも……」

 

 

 クラウチは、小さくため息をつき方を下げた。

 それから話題は意図的にハリーの件から逸れていき、もう誰もその事を蒸し返す事はなかった。

 ダンブルドアもダンブルドアで、空気が読めないところがあるから、あれだけブチギレてギスギスしているカルカロフとマクシームに寝る前の一杯に誘ったりするし。

 もちろん、マクシームとカルカロフはそれぞれフラーとクラムを連れて無視して部屋からすぐに出て行った。

 

 

 残ったのは、ホグワーツの教師達とダンブルドアと俺とハリーだけだ。

 

 

「ハリー、ノア。二人とも寮に戻るがよい。グリフィンドールもハッフルパフも、君たちと一緒に祝いたくて待っておるじゃろう。せっかくドンチャン騒ぎをする格好の口実があるのに、だめにしてはもったいないじゃろう」

 

 

 ハリーは俺をちらりと見た。その目にはまだ困惑や不安が多く残っている。俺とムーディが言った事を気にしてるんだろう。……まあ、今まで色々あったし。

 

 

「ダンブルドア先生。……やっぱり黒犬連れてくるべきでしたね。番犬に」

 

 

 肩をすくめながら言えば、ハリーは隣でこくこくと頷いた。だが、ダンブルドアはにっこりと微笑み──ハリーの肩を優しくぽんぽん、と叩いた。

 

 

「ノア、ハリー。心配せずとも、ホグワーツの先生方は常に闇に目を光らせておる。今は代表選手となった事をしっかりと受け止め、誇りに思うがよい」

 

 

 ダンブルドアはセブルス、マクゴナガル、スプラウト、ムーディを信頼の目で見つめ、彼らは神妙に頷いた。──性善説を信じるあまりに、内に入られたら弱いんだよなぁ、ダンブルドアは。

 

 

「頼みますよ。今回俺はハリー守れないですし….一応ライバルなんで」

「えっ! ああ、そっか……はぁ……ノアに勝てるわけないのに……」

 

 

 ハリーは肩を落とし、口の奥でもごもごと呟く。ダンブルドアはにっこりと笑ったまま「なにも、心配しなくていい」と再び断言した。

 ハリーはダンブルドアがそう言ってくれるのなら、と少しは励まされたようで、とぼとぼと扉へ向かう。俺もその後をついて行き、二人揃って部屋を出た。

 

 大広間はもう誰もいなかった。消えていた天井の蝋燭も灯っていて、ぼんやりと明るい。

 

 

「ノア、僕、本当に入れてないんだ。本当に……僕を──殺すために誰かが入れたのかな……」

 

 

 ハリーの声は震えて、最後は消え入りそうだった。緑の瞳は揺れて、恐怖と疑念が絡み合っている。

 胸の奥で必死に否定したいのに、言葉にしてしまえば現実味を帯びてしまう──そんな葛藤が滲んでいた。

 殺すため──ではないんだけどな、たしか。なんかヴォルデモートの復活のため、だっけ。

 

 

「まあ、ダンブルドアもちゃんと見てるって言ってたし、ただの愉快犯……だといいな」

「……ノア、実は……言ってなかった事があるんだ……」

 

 

 不安で目を揺らしたまま、ハリーはぽつぽつと話し出した。

 夏休み中に額の傷痕が痛んだ事や、去年、占い学の試験後、トレローニーの様子がおかしくなり──奇妙でいて、真に迫るような予言を言った事。傷痕が疼いた時に見た夢で、ヴォルデモートが自分を殺す計画をペティグリューと立てていた事──。

 全て話し終えたハリーは、足を止めて俯く。

 

 

「どうして、こんなことに──」

「……」

「僕は、普通にしたいだけなのに」

 

 

 それは、英雄ハリー・ポッターではなく、ただの十四歳のハリーの本心だった。ハリーは、勇敢で優しいから校則を破り危険に飛び込む。

 だけど、それはあくまで友達のためや、正義のためであり、自分のためではない。自分の評判をあげようなんて一切思っていないんだ。

 

 

 なのに──運命がそれを許さない。

 

 

 しかたないよなあ。

 ここは、ハリー・ポッターの世界だ。

 主人公がドラマも山場もなく退屈な一年を過ごす話なんて面白く無いしな。

 

 でも、今俺の目の前にいるのは、小説の中のハリーじゃなくて幼馴染のハリーだ。

 

 不穏な予感と恐怖に気が重いのか、ハリーの肩は落ち不安げに表情は翳っていた。

俺はふっと笑いかけ、肩を軽く叩いてやる。

 

 

「ま、はっきりしない事が多くて怖いのは当たり前だ」

 

 

 わざと軽く言って、ハリーが顔を上げるのを待つ。

 不安げな緑の瞳と視線が合った瞬間、俺は少し顎を上げてにやっと笑ってみせた。

 

 

「でもな、安心しろよ。お前がどんなに不安がっても、ヴォルデモートだろうが死喰い人だろうが、俺の敵だと思うか? 二年前はトム・リドルを倒したし、夏には何人もの死喰い人と戦って無傷だったんだぜ?」

 

 

 冗談めかして肩をすくめてやれば、ハリーの表情にかすかな羨望と、安堵が浮かんだ。

 

 

「……うん、そうだよね」

「そうそう。ハリー、お前が心配するのは対抗試合の内容だけでいい」

 

 

 隣に並び、肩を組む。ハリーは驚いたように目を開き、すぐにふわりと嬉しそうに緩めた。

 

 

「俺が勝つかもしれなくても魔法の練習して、頭も使って、ロンとかドラコとかハーマイオニーとかの力借りてさ。いい試合にしようぜ?」

 

 

 ハリーは少し黙ったが、こくり、と小さく頷く。

 

 

「うん、頑張る。……本当は観客からノアを応援したかった……何も考えずにね」

 

 

 肩をすくめて溢したその本音めいた言葉に、俺は思わず笑ってしまった。

 ハリーも少しだけ笑い、照れ隠しのように視線を逸らして頬をかいた。

 

 

「俺はハリーと競えるの嬉しいぜ?」

「うーん……ノアに勝つ想像ができないなぁ」

 

 

 肩を組みながらゆっくりと歩き出す。

 ハリーの歩調はまだ重いけど──少なくとも、さっきの不安や恐怖は無くなったようだった。

 

 

 

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