兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
代表選手に選ばれた次の日は日曜日で授業は無い。そのため生徒達は大広間や中庭、談話室、図書館で暇をつぶしたり課題をしたりしている。
俺とセドリックもはじめは図書室で課題を──めんどくさいけど──やろうと思っていたんだけど。
朝、談話室に降りた瞬間、いきなり拍手と歓声に包まれた。昨日も祝ってくれたのに、それ以上の盛り上がり方に少し驚いたものの注目されることには慣れてる。
いつものように笑顔で手を挙げ声援に応えながら寮を出れば、待ってましたとばかりに他の寮生がいて爆発的な歓声に包まれた。
「応援ありがとう」「優勝、期待してくれよ」──適当に声を返して歩いても、声援と視線はまったく止まらない。
同じハッフルパフ生はもちろん、スリザリン、レイブンクローは特に──グリフィンドール生に見せつけるようにして俺を応援していた。グリフィンドール生も、俺の近くにいる生徒は俺を応援していて、遠巻きにして何人かが少し気まずそうにちらちらとこちらを見ていた。あれ、たしかハリーと同学年のグリフィンドール生だった気がする。
ダームストロングとボーバトンは、それぞれクラムとフラーを応援しているが、俺のことも気にかけているようで、「試合が楽しみです!」と、他校の生徒にも目を輝かせ頬を赤めながら言われた。
ハリーが選手になったことは、みんなわざとらしいほど触れない。
──で、ハリーのことは、誰も触れない。わざとらしいくらいに。
やっぱり納得できてない生徒が多いんだろうな。ハリーを含め代表選手が部屋に集められた後、まともな説明はなくて、「ハリーも代表選手です。以上、解散!」と言われすぐに解散させられたとセドリックに聞いているし。まあ、あの時は教師達も混乱していたから仕方がないのかもしれないけど。
それでも、俺への応援が、ハリーを応援するグリフィンドール生への当てつけに見えるくらいだ。
俺とハリーは仲がいい。それを知っているからか、表立ってハリーの悪口を言うことは無いが、みんな思うとこはありそうな、無理に作られた笑顔と盛り上がりというか。
「あの部屋行こうぜ」
「うん。そうだね」
セドリックもこのままだと落ち着けない、と思ったのかすぐに頷き、近くの扉に杖をつける。そのままくるり、と回して扉を開ければ、その先は空き教室──ではなく、秘密の部屋だ。
昔、試練の部屋をクリアした時に手に入れた報酬の部屋。今のところ入れるのは俺、セドリック、フレッド、ジョージの四人だけ。談話室より豪華な内装で、ふかふかのソファにお菓子まで常備されてる、快適空間だ。
「おっ、代表選手様が来られたぞ!」
足を踏み入れた途端、面白がるような声が降ってきた。
ソファの背に腕を乗せ、にやにやと笑いながら手を振ったのはジョージで、フレッドは「わー! 代表選手様! サインくださぁい!」と女っぽく高い声でくねくねしてる。
「はいはい、サインはまた後でなー」
と、軽くあしらいながらその隣に座る。
「代表選手おめでとうノア! で、どうやって年齢線を越したんだ?」
「まじで誕生日間違ってたのか?」
俺を挟むように座り直したフレッドとジョージが左右から真剣な目で聞いてきた。
うーん、まあフレッドとジョージなら本当のことを言ってもいいけど。無闇に広めたりしないだろうし。
「誰にもいうなよ?」と念押しして、カラクリを説明した。二人は難しそうな顔をして聞いていたが、時を戻せる、そんな魔法道具があるとは知らずに驚き目を瞬かせていた。
「それ、使えば色々変え放題じゃないか?」
「だから危険なんだよ。過去を変えちゃいけないし、“戻ってる”と知られるのもアウトらしい」
「そういえば、どうやって手に入れたんだい?」
机の上に課題の用意をしていたセドリックが、ふと思いついたように尋ねる。フレッドとジョージに見せていた逆転時計を服の中にしまいながら、「それは企業秘密、って事で」と肩をすくめる。
「ノアがもう成人してるって事はわかったけど。選ばれたのは偶然か?」
頭の後ろに手を回し、ソファ前の机に足を乗せながら──セドリックが眉を吊り上げたのを見てすぐに下ろした──ジョージが聞く。
俺は皿の上にあるクッキーをつまみながら、明るく笑った。
「偶然さ」
偶然であり、必然でもある。
ぶっちゃけゴブレットに強めにお願いしなくても、ホグワーツの中で最も選手になるのに相応しい人、といえば──俺しかいない。
名前も通ってるし、メディアや世間ウケも最高。魔法の腕も一流だ。
けど、それを言えば立候補した他のやつら──セドリックに悪いし。
まあお気楽な下級生とかは「ノアさん以外にいません!」とか言ってくれてたけど、第三者が言うのと本人が言うのとではまた違うしな。
「ハリーの名前、ノアが入れたのか?」
「まさか我らグリフィンドールから英雄様が選ばれるとはなあ」
ジョージとフレッドはクッキーやフィナンシェを食べながら、ニヤニヤと嬉しそうに笑う。
セドリックも気になっていたのか、教科書を開く手を止めて俺を見ていた。
「いや、俺じゃない。ハリーに関してはマジで無関係だし、俺も驚いた」
「え? まじで?」
「代わりにいれてやる上級生なんて、ノア以外にいるか?」
「僕も、てっきりノアが頼まれたんだと思った……」
三人とも驚きに目を開く。
この反応を見る限り、他の生徒たちもそう思ってるやついるかも。……あー、確か、ハリーはロンと拗れるんだっけ。
俺はソファに深く腰掛けながら「ないない」と手を軽く振った。
「仮に、俺がハリーの名前を入れたとしてもさ、ホグワーツで選ばれるのは一人だけだろ」
「確かに……」
「そういえば、そうだ」
「ゴブレットが狂わされて、ハリーは、第四校目の選手として選ばれたんだ。ただのハリーの熱狂的ファンが選手になって欲しくてやったのか、それともハリーが失敗したり怪我して欲しくてやったのかは、わからないな。……結局、ダンブルドア達も誰がゴブレットを狂わせたのかわからなかったみたいだし」
俺の言葉が部屋に響く。
三人は口をぽかんと開けて黙り込んでしまい、暖炉の中で火花がパチンと跳ねる音や、俺がクッキーを食べる音が大きく聞こえた。
唖然としていた三人は顔を見合わせ「え、やばくね?」と表情を変える。
「ハリー、出ない方がいいんじゃないか? 危険な試練が多いし……」
「それはできないんだ。魔法契約だから、とりあえずは出ないと……何らかしらの重いペナルティを受けるのはハリー本人だからな。ペナルティについては何も言わなかったけど、参加させるしか無いって事になったってことは、まあまあやばいんだろう」
「ペナルティ……」
「あー……魔法契約は破ったら死ぬ、とかもあるしな。俺たちも昔ちょっとやりかけて──あの時の親父の怒りっぷりはやばかった」
「ああ。あれから尻の調子が悪い」
フレッドとジョージは過去を思い出し、神妙に頷きながら、尻の具合を確かめるようにそわそわと座り直した。
「ダンブルドアや先生達が見張ってるって言ってたし、まあ……普通にハリーを応援してやればいいんじゃないかな。同じグリフィンドールだし」
気楽にそう言って見せたが、フレッドとジョージは顔を見合わせてから、少し肩をすくめあった。
「それが──我が寮は未曾有危機に瀕しているのだ」
「未曾有の危機?」
深刻な顔で告げたジョージの言葉を俺は鸚鵡返ししながら首を傾げる。フレッドも大袈裟なまでに深く頷き、口をへの字に曲げていた。
「今、我が寮は三つの派閥に分かれてしまったのだ」
「ノアを応援しよう派と、ハリーを応援しよう派だ」
「ノアを応援しよう派が圧倒的多数で、ハリーを応援しよう派は彼の学友の数名程度」
「はーん? なるほどねえ」
ふむ、と俺は天井を仰ぐ。グリフィンドールにも俺のファンは多いし、同じ寮の代表が出て嬉しいより、“ノアが勝つべき”と考える生徒が多いのも納得だ。
本来ならハリーは、同寮の声援に守られて踏ん張れるはずだった。でも今は、俺の存在でその居場所を奪われてしまっている。……ごめんな、ハリー。肩身の狭さは増えただろうけど、セドリックが死ぬよりはマシなはずだ。
「もう一つの派閥は何なの?」
教科書を開いていたセドリックが首を傾げる。そういえば、派閥は三つって言ってたっけ?
双子はチラリと視線を交わし、ぱちん、と顔を手で覆う。わざとらしい嘆き方で大げさに叫んだ。
「“ハリーばっかりずるい派”だ!」
「……は?」
予想外すぎて言葉が止まる。
ハリーばっかりずるい派?
思っても見なかった言葉に、「何だそれ」と突っ込めば、フレッドが「いや、こっちは深刻なんだぜ」と声を落とす。真剣な顔で言った後、わざとらしく咳をこぼし、背筋を伸ばした。
「ハリーばっかりノア様に贔屓されてずるい!」
「ノア様のライバルとか特等席すぎてずるい!」
「ノア様はみんなのものなのにずるい!」
妙に高い声で畳みかけられ、俺はクッキーを持ったまま固まった。
「……いやいやいや」
さすがに呆れた声が漏れる。だが双子は真剣な顔を作り直し、肩をすくめて言った。
「──っていう派閥さ。少数だけど、一番過激かもな」
「早いところ『ハリーの名前を入れてない』って公言した方がいいぜ。さもないと──」
フレッドはにやりと笑い、額を指差す。
「ハリーの傷跡が、一本増えるかも」
茶化すような声の奥に、妙に鋭い響きがあった。
月曜日提出の課題をなんとか終わらせ、俺はセドリックと少し早めの昼食を食べに大広間に向かった。時間をずらしたのは、また大勢に囲まれるのは面倒だったからだ。
流石に誰一人とも会わず、は無理だったけど、それでも囲まれて応援される事なく大広間についた。
大広間の扉に手をかけた時、「ノア!」と呼ぶ声が聞こえ、俺とセドリックは足を止めて振り返る。
慌てて階段を駆け降りてきたのはドラコであり、その後ろには口を固く結んで仏頂面をしているロンが重い足取りでついてきていた。
「や、ドラコ。どうした?」
ドラコは息を弾ませながら駆け寄ると、何度か息を整えた後、いつもは青白い頬を少し赤くしてまっすぐに俺の目を見た。
「その──代表選手おめでとう、僕はノアを応援する!」
はっきりと言われた言葉。
ドラコは全く曇りのない眼差しで目を輝かせていたが、後ろのロンは少し居心地悪そうにしていた。
「ありがとう。ハリーは応援しないのか?」
「ああ、しない」
ドラコは、いっそ清々しいほどはっきりと断言して首を振る。しかしその言葉には、ハリーに対する妬みや恨み──とかいう感情は無さそうだ。
「なんで? 友達だろ」
「友達だが、優勝して欲しいのはノアだ。勝者が一人なら、ノアを応援する。ハリーの負けを祈るわけではないが……今まで、クィディッチの試合でずっと僕を応援してくれていただろう?」
ドラコはそう言って堂々と胸を張る。
その反対に、ロンは長い背を曲げて、居心地悪そうにもぞもぞとして、なぜか急に自分の爪の間の汚れを気にし出してこちらに視線を向けようとはしない。
「そっか。ありがとな。……ロンは?」
名を呼んだ途端、ロンの肩がぴくりと震える。「僕も同じさ」と気のない声で答え、ドラコが少し呆れたように肩を落としたのが見える。
「へえ、俺を応援してくれるんだ」
「だって、ハリーは成人じゃないし──ノアが、名前を入れたんでしょ? ズルだし。正しい選手はノアじゃないかな」
ロンはもごもごと口の奥で早口に言うと、また指を弄り出す。
ドラコは困ったような顔をしていて──俺に目を向け、肩をすくめた。
うん。拗れに拗れている。
ロンはドラコのように“ノアを応援する派”じゃなくて、“ハリーずるい派“だなこれ。
確か、ハリーばっかり注目されてる事とか、名前をどうやって入れたのか親友である自分にも教えてくれない──と思ってて拗れてるんだっけ。
ドラコはそれに気付きつつ、なんて助言したらいいのかわからないのかもしれない。
……いや、むしろ、ドラコも少しは同意見なのかも。それを表立って出さないのは、ハリーが友達とはいえロンほど近くないから。
ロンとハリーがこうして離れているのに、何も言わないのはドラコも思うところがあるからだろうし。
……ハリーに申し訳なさも感じるし、ちょっと早めに仲直りできるようにしないとな。
「俺はハリーの名前、入れてないよ」
「え?」
拗ねて俯いていたロンが驚いたように顔を上げる。隣にいるドラコも、信じがたいのか複雑な顔をしていた。
「まじで、入れてない」
「……っていう事にしてるんでしょ?」
「何で俺がハリーの名前入れると思うんだ?」
「だって……ハリーはノアの幼馴染で、特別な人だし。どうせ、頼まれて断れなかったんでしょ。ハリーは目立ちたがり屋だし」
ロンはぶつぶつと口を尖らせて呟く。ドラコは否定も肯定もせずに視線を逸らした。
「ロン」と、俺は少し声を落として名を呼んだ。
「ハリーは、望んで代表になったわけじゃないんだ。ずるいって言うのは、ちょっと違うんじゃないか?」
ロンは眉を寄せたまま、俯いて爪を弄り続ける。俺の言葉は届いているようだけど、素直にはやっぱり飲み込めないようだ。
暫く沈黙が続いた後、ふとロンがぽつりとこぼした。
「……セドリックなら、僕の気持ちわかるんじゃない?」
思わぬ矛先を向けられて、セドリックが目を瞬かせた。驚いたように俺とロンを見比べ──そして、ほんの少しだけ苦笑を浮かべる。
「どうしてそう思うんだい?」
「……ほら、ノアも、すっごく目立ってるし。いつも僕たちはオマケでしょ」
めちゃくちゃ失礼なこと言ってるってロンは自覚ないのかな?
ドラコも「それはダメだろ」みたいな顔で心配そうにセドリックをチラ見してるし。
セドリックはわずかに目を瞬かせていた。
驚きの中に、察しのいいセドリックは、──少しの痛みが浮かべる。けれどセドリックは怒りもせず、静かに首を振った。
「……わからないな」
はっきりとした声に、ロン眉を寄せながら顔を上げる。
「僕はノアの親友であることを誇りに思ってる。ノアが目立つのは事実だけど……それで僕の価値が減るなんて──僕がオマケだなんて思ったことはない。嫌に思ったこともね。
むしろ、そばにいるからこそ知れることがあって、それは僕にしかわからないものなんだ。僕は、それが嬉しいし、ノアの親友なのは、僕の誇りだ」
真っ直ぐに言い切るセドリックの横顔は、穏やかさの中に確かな自信を宿していた。
へえ……そんな風に思ってたのか。
まあ、嫌がられてはないと思ってたし、セドリックはそんなに目立ちたい欲求もなさそうだけど。
劣等感抱いちゃうタイプなら、マジで俺の隣に居続けることなんてできないもんなぁ。
ロンは恥いるような表情で唇を噛むだけで、何も言わなかった。けれど俯いたままの手が強く握られていて、その沈黙は言葉より雄弁だった。
俺は少し息を吐き、俺と同じくらいの身長のロンの肩をぽん、と気軽に叩く。
ロンはちらり、と俺を見たが、いつもボディータッチをすれば顔を赤くさせるのに、今日は流石に顔色を変えずに、気まずそうにしている。
「……ロン。ハリーもお前のことを大事に思ってるよ。ハリーが目立つのは、まあ仕方がないことかもしれないけどさ、ロンはロンの強みがある。比べても仕方ないだろ」
ロンは小さく肩を震わせるが返事をしなかった。
──まあ、今はこれ以上言っても逆効果かな。正論で追い詰めすぎると、余計にこじれそう。昨日の今日だし、時間が経てば、もう少し冷静になるだろう。
気づけば、廊下を通りがかった生徒たちが遠巻きにこちらを窺っていた。俺はロンから一歩離れ、顎で大広間を示した。
「……そろそろ行こうぜ。お腹すいたし」
俺が軽く言えば、セドリックが頷いた。ドラコも足を動かし、ロンは無言のまま後ろに続く。
大広間の扉を押し開けると、温かな灯りと食器のぶつかる音、笑い声、肉の焼ける匂い──さっきまでの重苦しい空気が嘘みたいだった。
友人同士で楽しくおしゃべりをしていた生徒たちも、俺の登場に気付くと口を閉ざしぱっと立ち上がる。
「ノアさん!」「代表選手頑張ってください!」と、あちこちから声が上がり、拍手が響いた。
ロンは肩をすくめるように俯き、ドラコはわざとらしく胸を張って歩いた。
セドリックは微笑みながら俺と並び、俺は片手を軽く上げて歓声に応えた。