兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
さっきまでのフラッシュの光が、まだ目の奥でちかちかしてる気がして目を軽く擦る。
騒がしい二人が出ていき、途端に部屋の中が急に静かになって、誰も動かない。
……いや、気まずすぎる。
残されたのは俺と、ハリー、フラー、クラムの四人。
ハリーは隣で小さくなってるし、フラーとクラムは露骨にハリーと視線を合わせない。
俺と三人だったときとは違う、よそよそしさと警戒が混ざった嫌な空気が流れていた。
たぶん、二人とも“ハリーがずるして選ばれたんじゃないか”って思ってるんだろう。
俺は──まあ、ある意味ズルしたけど──成人済みだけど、ハリーは未成年だ。正式な代表選手は俺で、ハリーの事は認められない。
とはいえ、優秀な二人は、どこかで俺の言葉が引っかかり「もしかして、ハリーは誰かに嵌められたのではないか」と考えているのかもしれない。
目に見えて敵意はないが、初対面の時に刺々しい態度をとってしまい今更仲良くもし難い、というところかな。
この部屋から出て行かないのは──多分、俺がいるから。みんな、俺と話したいんだろ。フラーとクラムはあからさまに「ハリーどっか行ってくれないかな」って雰囲気だし。
──よし、この空気をなんとかしよう。
俺は椅子から立ち上がって、軽く腰を伸ばす。
「そういや、四人揃うのって初日以来だな」
ぽつりと言うと、三人ともこっちを見た。
「フラー、クラム」そう、名前を呼ぶと、二人の表情がぴんと硬くなる。俺は軽く笑って、できるだけ柔らかい声で言った。
「ハリーは俺の幼馴染で、大事な奴なんだ。……俺は、ハリーがずるしてないって信じてる。一人の代表選手として、公平に受け入れてやってほしい。……だめかな?」
少し間があいた。
フラーは脚を組み替えて視線を落とし、クラムは眉を寄せたまま黙ってる。ハリーはというと、もう見てるこっちが落ち着かないくらい、もじもじそわそわとしていた。……捨てられた子犬のような目をして俺をちらちらと見ている。
「ハリー・ポッター。あなた、本当に名前を入れてないの?」
突然フラーが立ち上がり、髪をさらっと後ろに払いながら言った。その声は少しだけ鋭くて、ハリーの肩がびくっと動く。
「……入れてない」
ハリーの声は小さいけど、迷いがなかった。
「頼んでもいないのか?」
クラムの声が低く響く。その問いにも、ハリーは即座に首を横に振った。
「頼んでない。何も知らないんだ。僕は本当に、何も──……恥ずべき事はしてないって、ノアに誓う」
ハリーは立ち上がり、真剣な声で言う。
……いや、俺に誓わなくてもいいんだけど。「ね、ノア!」みたいなキラキラした目で見られても。と思ったが表情には出さない。
「ハリーは俺に嘘はつかないもんな」
真剣な空気を払拭するようにわざと明るくいい、ハリーのくしゃくしゃの髪をさらにくしゃくしゃと撫でる。ハリーはくすぐったそうに目を細め、「うん」と大きく頷いた。
その様子を見て、フラーとクラムの視線がほんの少しだけ和らいだ。この一言で全て納得する事は難しくても、とりあえず二人の中で自分の気持ちに折り合いをつけてくれたのだろう。
「……私はフラー・デラクール。正々堂々、戦いましょう」
その声には、さっきまでの刺がなかった。
クラムも姿勢を正して頷く。
「僕はビクトール・クラム。……よろしく、ハリー」
「……! 二人とも、ありがとう!」
ハリーは声が少し裏返ってしまい、恥ずかしそうに頬を赤く染めた。
まだ子どもらしい素直なハリーの態度に、フラーとクラムはかすかに微笑む。
先ほどまでのよそよそしい雰囲気は無くなり、ハリーは肩に入れていた力を抜いた。
「よかったな、ハリー」
「うん、ありがとう、ノア」
ハリーが照れくさそうに笑って、俺もつられて笑った。
代表選手同士で敵対ムードのまま過ごすのも疲れるしな。課題では戦うとしても、普段まで牙をむく必要はないだろ。そもそも生徒同士の交流がメインなんだろ?──多分。
空気が柔らかくなったところで、みんな自然に立ち上がって扉へ向かった。
ドアを開けた瞬間、外の喧騒がどっと押し寄せてくる。
「クラムとフラーはもう料理に慣れたか?」
「ここの料理、とてもおいしい」
「うーん。この国の料理、少し脂が多いですね」
「えーと……ブイヤベース、だっけ、フラーの国の料理……」
ハリーがぽつり、と言えばフラーは嬉しそうに頷いた。
「そうです。とても美味しい!」
「クラムは何が好きなの?」
「ムサカ」
「ムサカ……?」
聞き慣れない料理名にハリーが首をかしげると、クラムは単語を探しながら説明を始めた。
そのたどたどしい英語が妙に真面目で、俺とフラーはつい笑ってしまう。
四人で話しながら歩いていると、すれ違った生徒達は目を丸くしながら俺たちを見ていた。
まあ、代表選手達がなんか仲良さそうにしてたら目立つか。
大広間に入れば、フラーが「またね」と美しい仕草で手を振り、ボーバトンの仲間の方へ行った。
俺もセドリックのところに行こうとしたその時──
「ノア」
名前を呼ばれて振り向くと、クラムが俺の腕を掴んでいた。目を瞬かせる間に、クラムは慌てて手を放し、視線を泳がせる。
「なんだ? 一緒に食べるか?」
「はい! すごく、嬉しい。──でも、ちがう。その──……」
クラムは視線をうろうろと彷徨わせしばらく言葉を探したが、ごくりと唾を飲み込むと口を開いた。
「……僕を、名前で、呼んでほしい」
「名前?」
「──だめなら、いいです。うん」
俺の反応に、クラムはすぐに首を左右に振り、ぎこちなく笑った。
どう見ても笑顔が引き攣ってて落胆してるけど、それを見せまいとわざとらしく「お腹空きましたね!」なんて言いながらくるりと背を向けてハッフルパフの長机へ向かった。
「……ビクトール?」
ずんぐりとしたその後ろ姿に、名前で呼びかける。
見た目よりも素早い動きで振り返ったクラムは、耳先を赤くしながら年相応の笑顔を見せた。
「! はい!」
「ははっ! ごめん、初めから名前で呼べばよかったな」
「今呼んでくれた、嬉しい」
クラム、と呼んでいたのは──まあ、クィレルと同じで、なんとなく呼び慣れているからだ。ビクトール、ビクトール……うーん、どうしても“クラム”って雰囲気だけど、本人がこんなにも喜ぶんならビクトールって呼べるようにしないとな。
まあ、代表選手の中で今までクラムだけファミリーネーム呼びっていうのも、確かに距離感じてたんだろうし。
「ノア……僕も一緒に食べて良い?」
ハリーがおずおずと俺に聞く。
あれ、ロンは喧嘩中だとしても、ハーマイオニーはどうしたんだろう。確かにグリフィンドールの長机には、ハーマイオニーの姿は見えないけど。
俺の不思議そうな表情を読んだハリーは「ハーマイオニーは医務室なんだ、怪我とか病気じゃないんだけど」と小声で付け加えた。
「ふーん? そうか。いいぜ、久しぶりだなー」
「うん! 久しぶりだね」
ハリーは途端に嬉しそうに笑い、頷いた。
ハッフルパフ生だけじゃなく、レイブンクローやスリザリンの生徒が俺とハリーとクラムに注目していた。彼らの胸には青灰色のバッジがついていて、わざとらしくハリーに見せつけて意地悪げな“くすくす笑い”を浮かべる生徒もいる。
でも、ハリーはそんな悪意のこもった囁きや笑い声なんて、俺が近くにいればあまり気にならないようで「お腹すいたねー」なんてあっけらかんと笑うその顔に、強さと無邪気さが同居していた。
……少しずつ、ハリーもこの状況に慣れてきたんだろう。
それが“良いこと”かどうかは、まだわからないけど。
ハッフルパフの長机に着くと、セドリックがちょうど本をぱたりと閉じた。こっちを見て、それから俺の後ろにいるハリーとクラムにも目だけで挨拶して、何も聞かずににこっと笑う。
「お腹すいたね。さ、食べよう」
ハリーはその優しい一言がかなり嬉しかったのだろう、ほっと胸を撫で下ろした。
四人並んで腰を下ろす。
近くのハッフルパフ生が驚いてハリーを二度見していたけれど、俺の手前何も文句は言う事はない。
ローストビーフの香り、湯気の立つスープ、カリカリのローストポテト。いつものメニューの中に見慣れない料理が数品あり、多分それがボーバトンとダームストロングの生徒向けの郷土料理なんだろう。
ハリー、セドリック、クラム──じゃなくてビクトールの三人が揃えば、自然と話題はクィディッチへと流れていく。俺はクィディッチの雑誌買ってないし、プロチームの選手や戦術に詳しくないけど、ハリーとセドリックは「あのチームの選手が」とか「アメリカと日本は」とか熱のこもった話をしていた。
ふと、視界が翳り視線を上げれば高い場所に俺のペットのシロが悠々と飛んでいた。
シロはふわり、と羽ばたくと優雅に机の上にとまり、口に咥えていた封筒と、足に結ばれている小包を俺に差し出した。
「ありがとう」
肉の切れ端をシロに摘んでやると、シロは嬉しそうに短く鳴いて飛び去る。近くにいたハリーの髪が風で少し揺れた。
渡された封筒は三通。薄い小包は一箱。手紙はメイソンとシリウス。……あ、この手紙はハリーにだな。
フォークを咥え、「これ」と言いながらハリーに手渡す。大きな塊肉を食べていたハリーは驚いたが、宛名を見てすぐに受け取り、口をもぐもぐしながら封を切っていた。
ハリーは黙って目を走らせる。一番上から下までいって、またもう一度上から下まで走らせた後、そっと俺の方へ手紙を寄せた。
読んでいいってことなんだろう。
***
ハリー、君が自分一人でもやっていけることは、俺が一番よく知っている。
それに、ダンブルドアやムーディがそばにいるかぎり、誰も君に危害は加えられないだろう。
しかし、誰かが何か仕掛けた。ゴブレットに君の名前を入れるのは非常に危険だったはずだ──特にダンブルドアの目の前では。
用心しなさい。変わったことがあれば必ず知らせてくれ。
ノアも、ライバルだとはいえ助けになってくれるはずだ。何かあれば頼りなさい。
俺はもう一度ダンブルドアにノアの忠実なペットになってもいいか確認するつもりだ。優秀な番犬になるためにな。
手紙でなく直接話したい。
小包を開けてくれ、使い方はそっちに書いてある。
***
「小包……開けていい?」
「ああ、何が入ってるんだろうな」
ハリーは小包を開け、緩衝材の代わりにいれられていた羊皮紙を机の上に出し、中から鏡を取り出した。
「……? 鏡……?」
不思議そうに鏡をくるりと回すハリー。表にも裏にもそれらしい魔法はかかっていないし、普通に自分の顔が映る。
どうみても、ちょっとアンティークな普通の手持ち鏡。とはいえ、これはあのシリウスが送ってきたものである──と考えると、“これが何か”、俺は知っている。
「えーっと……説明書……これかな?」
ハリーは中に入っていた手紙を取り出し、目を走らせる。だんだん目が見開かれて行って、興奮と期待でキラキラと輝き出した。
「す、すごい……!」
息を飲みながら震え声で吐き出したハリーは鏡を覗き込み、今すぐにでも「シリウス!」と呼びかけたくてたまらないというようにそわそわしだした。
なんとかこの大勢の目がある場所でその名を呼ぶことを耐えたハリーは、鏡を大切そうにポケットの中に入れると猛スピードで皿の上のものをかっこみ始めた。
「ぼ──僕、部屋に戻る!」
「おー。またな」
口の中にミンスパイを突っ込んだハリーは、口を押さえながら急いで立ち上がり、駆けて行った。セドリックとビクトールは少し驚いていたが、「よほど嬉しい贈り物だったんだろう」と追求する事なくまたクィディッチの話題に花を咲かせる。
二人の会話を聞きながら、オレはシリウスから届いた手紙を開いた。
***
ノアへ。
まずは代表選手おめでとう。君が選ばれたと聞いて、驚いた! クィレルやリーマスも大喜びだ! クィレルなんてノアの優勝を疑ってない。今からパーティの大掛かりな準備を始めているぞ。……まあ、俺も優勝は君だと思っているがね。
さて、課題はきっと難しいものになるだろう。ノア、どうかハリーを頼む。
あの子は強い、だが、まだ未成年だ。危険には変わりない。それに、誰がゴブレットに名前を入れたのか分かってないんだろう?
三校対抗試合はただの競技じゃない。
ゴブレットに細工できるような連中が、そばにいる……ああ、やっぱりついていけばよかった!
ハリーに両面鏡を渡した、対になる鏡を持つ相手と顔を見て話せるものだ。直接話してハリーを励ましたいからな。
あの子は自分から弱音を吐く事はないかもしれない、何か変わったことがあったら、すぐに知らせてくれ。
それと、大丈夫だとは思うが──ノア、きみもくれぐれも気をつけて。
また連絡する。
君の忠犬より
***
忠犬って……いやまあ忠犬だけれども。
やっぱりハリーに渡したのは両面鏡だったか。ブラック家に取りに行ったのかな? まあ、暖炉経由で話す危険を犯さずとも、両面鏡ごしだったら好きな時に話せるしな。空き部屋なんていくらでもあるし。
シリウスの手紙を鞄の中に入れて、次にメイソンからの手紙を開く。
***
ノアへ
三校対抗試合のホグワーツ代表おめでとう!
誕生日の件は大丈夫、こっちですでに記事は作って明日にでも発表するから心配しないでね。
すぐにツテを使って、魔法省に掛け合って試合がどんなものか確認したよ。
君ほどの魔法使いなら、きっと優勝間違いなしだろうね! 今から祝賀パーティの手配をしなきゃ! ──なんて、気が早いかな?
僕も関係者として課題を観戦できないか、掛け合い中。だって、ノアを世界に売り出すのにこんなに素晴らしいネタはないでしょう? 課題を颯爽とこなすノア、次のメインビジュアルは決定だね!
もしよければなんだけど、冬休み……ちょっとだけ仕事お願いできないかな?
インタビューとか、ね? もちろん、よければ。
あと、ホグワーツで『ノア様応援団』のバッジがすごく流行ってるってね。もう誰が作ったかも特定したんだ。素晴らしい魔法だよね? ちょっと出来が良すぎるから、商品展開しようかなって思うんだ。ノア、君の肖像権は僕たちが持ってるしね──ま、これはこっちでなんとかするよ。ノアの応援を禁止したいわけじゃないしね!
今まで以上にノアのファンが増えそうだね。市場もさらに盛り上がるだろうし、これからの活躍、本当に楽しみ!
頑張ってね、ノア!
メイソン
***
読みながら思わず笑ってしまった。
バッジの作者の特定とか──すごいな。ホグワーツにメイソンの協力者、どれだけいるんだろう……。
シリウスたちもメイソンも、俺が負けるわけがない、と信じているのは嬉しいな。
──負ける気は、しないけど。
手紙を畳んで鞄に入れ、ポテトを摘みながらなんとなく天井を見上げる。天井はすでに真っ暗で、星がキラキラと輝いていた。
俺が優勝する事は問題ない。
とはいえ、最後の課題のゴール地点にある優勝杯。これがポートキーになりヴォルデモートの──トム・リドルの父の墓場へと移動して、ヴォルデモートが復活する流れになる、のは、できたら変えたくない。
俺の知らないところでハリーだけが墓場へ行くのはまずい。ハリー一人であの窮地を脱することができるのか、微妙だ。原作ではほとんど一人でなんとかしていたが、セドリックとは違い、俺が選手になったのだから少しずつ世界は綻び変貌していくだろうし。
俺一人でポートキーに触ったら──ヴォルデモートは復活できないしなぁ。
クラウチはダンブルドアにバレたくないから、ギリギリまでムーディを演じ続ける、だろうし。
……流石にクラウチをこっちの陣営に引き込むのは無理かなあ。死を救ったとしても、多分、あいつはヴォルデモートに陶酔してるから。
無理に俺に従わせることもできるけど、それはまあ……インペリオする事になるし、そこまでする必要があるのかどうか、微妙だしなあ。
ヴォルデモートが復活して、死喰い人側にスパイとして潜り込めそうな奴はすでにいるし。危険を犯してクラウチを救う意味はない。
……ま、吸魂鬼のキスからは助けてやろうかな。
「ノア、そっちのプディング取ってくれないかい?」
「──ん? おう」
俺の前に置いてあったプディングが入ったボウルを浮遊させ、セドリックの方に飛ばせば、「ありがとう」とセドリックは嬉しそうに匙で掬った。
ま、クラウチ──ムーディの動きだけ気をつけておけば、なんとかなるか。
今から悩みすぎても仕方がないと思い直し、俺は甘ったるい糖蜜パイを齧った。
次の日、ハリーは俺にシリウスと鏡越しに会ったという事と、カルカロフが元死喰い人だった事、とらえたのはムーディで、投獄されかけたカルカロフはヴォルデモートを裏切り仲間を売って罪が不問とされた事──などを教えてくれた。
ハリーはいつでもシリウスと顔を見て話せるということにかなり救われたらしく、自身に脅威が迫っているかもしれないのに、昨日より格段に元気になっていた。
とはいえ、ロンと喧嘩したままなのは気にしているらしく、他のグリフィンドール生と一緒にいるロンを怒りと悲しみが混ざった目で見つめていた。