兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
鼓膜が痛いほどの大歓声は、しばらく止む気配がなかった。
バグマンが声を張り上げて「得点の説明をします!」と叫び、ようやく観衆は名残惜しそうに拍手をやめた。
眠り込んだドラゴンはドラゴン使いたちによって慎重に待機場所へと運ばれ、金の卵もすぐさま補充されていく。
「十点満点で各審査員が採点します。──さて、準備はよろしいですか? ──では、ノア・ゾグラフ選手の得点の発表です!」
観客席全体に緊張と興奮が広がった。誰もが身を乗り出し、目を輝かせ、今か今かとその瞬間を待っている。
俺は金の卵を片手に、スタンドをぐるりと見渡した。観客たちの反応は上々。カメラのフラッシュがチカチカと光っているところを見ると、記者もかなり入っているようだ。──そういえば、メイソンもこのどこかで見てるんだろうか。
ふと視線を上げると、観客席の最も高い位置──金色のドレープが垂らされた特等席──に審査員たちが並んでいるのが見えた。
最初の審査員、マクシームが長い指をすっと動かし、ゆっくりと杖を宙に上げる。
杖先から銀色のリボンのような光が吹き出し、空中で美しく捻れながら大きな『9』の数字を描いた。
観衆がわっと沸き立つ。
続いてクラウチが同じように『9』の数字を上げると、歓声はいっそう大きくなった。
さらにダンブルドアも同じく『9』を掲げ──スタンド全体が興奮と熱気に包まれた。
……あれ? みんな満点じゃないのか。
ちょっと時間をかけすぎたのかもしれない。ドラゴン同士の対決を見たがる観客は多いだろうと思って、演出を盛り上げすぎたかもしれないな。
バグマン、カルカロフも『9』を上げ、合計得点は四十五点。
一瞬の静寂のあと、観衆は爆発するような大歓声を上げ、再び手を叩き、足を踏み鳴らした。満点に届かなかったのは少し惜しいけれど──一人目の得点は、他の選手たちの基準になる。
つまり、俺が基準になった。
他の代表がこの点数を超えるには、俺以上の見せ場を作らなきゃいけないわけだ。
得点が出たところで、俺は観衆の大声援に笑顔で手を振り、そのまま囲い地の入り口へと向かう。
振り返ると、ちょうど新たなドラゴンが入場してくるところで、観客たちが興奮のどよめきを上げていた。
囲い地の入り口を抜けると、スプラウトが胸の前で両手を組み、感極まったような顔で立っていた。
「ノア、とても素晴らしかったわ!」
「ありがとうございます」
「怪我は──ないようね。テントに戻ってもいいし、外の空気を吸いたいなら、外にいてもいいそうよ」
スプラウトは囲い地の端の方を指差す。
ちょうどその時、観客席の入口から転がり出るようにセドリックが飛び出してきた。
よほど急いで来たのだろう。肩が大きく上下し、頬も赤い。
「ノア!」
セドリックは笑顔で駆け寄ると、俺に怪我がないか、頭の先からつま先までしっかりと確認し、それから俺の手を強く握った。
「すごかった! あんな魔法、初めて──とにかく、本当にすごい魔法だった!」
「ありがと」
セドリックは目を輝かせ、興奮のまま俺の手をぶんぶんと振った。
普段、授業中は冷静で落ち着いているセドリックが、ここまで無邪気に興奮している姿を見せるのは珍しい。スプラウトもそんなセドリックのはしゃぎぶりに思わず目を細め、微笑ましそうにくすくすと笑った。
スプラウトはそれ以上何も言わず、何度かうんうんと頷きつつ、静かに観客席へと戻っていった。
テントに戻る気分ではなく、俺は爽やかな風を浴びながらセドリックと一緒に囲い地の外をゆっくり歩き出す。
「変身術でドラゴンなんて、聞いたことないんだけど……どうやったの? 魔法生物への変身はすごく難しいし、成功例もほとんどないはずだよ」
「あー、あれは“ドラゴンっぽい”見た目にしてただけ。魔法生物のドラゴンじゃないんだ」
「え。そうなんだ?」
「魔法で動かしてるだけ。生きてるわけじゃないし、あんなドラゴン実在しないだろ?」
「へえ……それでも、すごい魔法だったよ」
セドリックは感心したように深く頷く。
そう、あの魔法は“変身”というより“創造”に近い。岩をドラゴンに変えるんじゃなく、岩や地下に流れるマグマを素材にして見た目を整え、操り人形のように動かしただけだ。
簡単に言えば、超高性能なドラゴン型の魔法道具、のようなもの。石像を動かす魔法の応用を使って、ラジコンを操作するように動かしていた。
多分、本気を出せば本物のドラゴンに変えることもできたとは思うけど、見た目の派手さでいえばあれくらいがちょうどいい。
「卵も割れなくてよかったね。いつ踏み潰されるかってヒヤヒヤしたよ……」
「卵にも防壁は張ってた。派手に戦って割れたら最悪だしな」
「そうだったんだ……ほんと、凄いね」
セドリックの声に被せるようにして、囲い地の向こうから次の選手を迎えるホイッスルと拍手の音が響く。
俺とセドリックは自然と足を止め、音のした方へと視線を向けた。
俺はテント近くの外で、セドリックが撮った写真を眺めながら、まだ興奮の冷めないセドリックのベタ褒めを聞いていた。
写真で見ると、俺の魔王感、想像以上にすごいな。俺が作ったドラゴンもなかなかの迫力だし……ここだけモンハンの世界になったみたいだ。
外で話していると、全員の課題が終わった後にバグマンから話があるから控えのテントに戻ってきてほしいと課題の関係者らしい魔法使いに声をかけらた。
俺はセドリックに軽く手を振り返し、写真を返すと、控えのテントへと足を向ける。
テントの中には──あれ、誰もいない。
てっきり俺以外揃っていると思っていたけど。
少し待っていると、三人の選手達が同時に入ってきた。
それぞれ怪我した場所に軟膏が塗られ包帯が巻かれている。あ、そうか、救護室かどこかで怪我治してもらってたんだな。
「全員、よくやった!」
三人の後すぐにバグマンが弾む足取りでテントに入ってきた。俺たちを見回し──とくにハリーには父親のような気軽さでパチンとウインクをして──前に立つ。
「さて、手短に話そう。第二の課題は二月二十四日の午前九時半に始まる。それまでの間、諸君に考える材料を与える! 諸君が持っている金の卵をよく見たまえ。開くようになっているだろう? その卵の中にあるヒントを解くんだ。それが、第二の課題が何かを教えてくれるし、課題に備えて準備ができるようにしてくれる。わかったかな?」
バグマンがぐるりと見回す。俺たちが金の卵を抱えたまま頷いたのを見て、バグマンはにっこりと笑うと「では、解散!」と声を上げ、ひと足先にテントから出ていった。
フラーとビクトールは俺を見て「じゃあね」というように手を振り少し笑ったものの、やっぱりドラゴンとの対峙は精神的にかなり疲れたらしく、疲労感が滲む肩を落とし、金の卵を大切そうに抱えて俺に手を振りテントを出た。
ハリーは俺の元に駆け寄ると、疲れよりも──今までの鬱々としていた気持ちが嘘のように晴々とした顔でにっこりと笑う。
「ノアが一位だって! おめでとう。ドラゴン同士の対決、見たかったなあ」
「あ、誰かに聞いたんだ? ハーマイオニーか?」
「ううん──ロンだよ」
ハリーは幸福感を噛みしめるように小さく頷き、柔らかく表情を綻ばせた。
一ヶ月ほど続いていたロンとの喧嘩も、今日ようやく仲直りしたらしい。課題を無事に終えたことよりも、そのことのほうがハリーにとっては何倍も嬉しいのだろう。
「よかったな、仲直りできて」
「うん! じゃあ、ロンが外で待ってるんだ。また明日ね!」
課題前の険しい顔はもうどこにもなく、少年らしい笑顔だけが残っている。ハリーは軽やかに腕を振り、足音を弾ませながら外へと駆け出した。俺も、その背を追うように外へ出れば、少し離れたところで笑いながら戯れ合うように城へ向かうロンとハリーの背中が見えた。
入り口の近くにはセドリックが立っていて、セドリックも二人の背中を見て、微笑ましそうに目を細めていた。
「よかったね」
「本当にな」
セドリックはロンの思いや葛藤を知りながら、あれ以来助言はしなかった。セドリックからしてみればなかなかひどい事を言われたし、少し腹が立ち失望したのも事実だろう。とはいえ、やっぱり気にはしていたんだろうな。
禁じられた森に沿って帰りながら、セドリックは他の選手達がどうやってドラゴンを出し抜いたのか、それぞれの得点まで細かく教えてくれた。
俺が一位で、ビクトールとハリーが同率二位。フラーが四位らしい。といってもそれぞれにそれほど得点の差があるわけではなく、残りの課題によってはまあ逆転も──ないわけではない。
そんな話をしていると、城門の方から勢いよく駆けてくる影が見えた。
「ノア!」
「あ、メイソン。観戦できたんだな?」
「うん! なんとかね!」
俺の姿を見つけるとメイソンは息を弾ませながら駆け寄り、ぱっと顔を明るくした。
「会えてよかったよ、もうホグワーツの中に入っちゃったかと思った!──城の中には入れないからね──一位おめでとう!」
「ありがとう」
メイソンは興奮のまま、俺の手をがっしりと掴んでぶんぶんと振る。その手のひらには、探し回っていた証の汗が滲んでいた。
「ノアが代表選手になって、特別記事を組むことになったんだ。それで、少しインタビューしたいんだけど……今大丈夫?」
頷けば、メイソンは嬉しそうに笑い、ポケットの中から万年筆とメモ帳を取り出す。「じゃあまず、ドラゴンと対峙したときの気持ちはどうだった?」から始まったインタビューは、十分もかからずに終わり、メイソンは満足気に頷くとセドリックを見た。
「セドリック君。きみはノアの友人として、今どんな気持ちかな?」
「え?」
突然の質問にセドリックが驚いて目を見開き、思わず俺の方を見る。
初めてのインタビューで戸惑いが顔に出ていたが、短く息を吸い、一度だけ唇を舐めて、真っすぐ前を向いた。
「えっと……そうですね。まずは、本当に素晴らしい魔法を見せてくれたことに感動しました。一位通過ももちろん誇らしいことですが、それ以上に、あの場で堂々と戦っていた姿に、胸が高鳴りました」
「なるほど、やっぱり間近で見ていた人の言葉には重みがあるね」
メイソンがうんうんと頷き、手元の万年筆を走らせる。
「はい、友人として、ノアの事はとても誇らしく思っています」
セドリックは少し頬を紅潮させながらも、しっかりとした声で落ち着いた口調で続けた。初めてのインタビューに緊張しているのが伝わってくるが、それでも言葉一つひとつに誠実さが滲んでいる。
「でも……一番は、怪我をしなくて本当によかったという気持ちです。ドラゴン相手の課題ですから、いくら彼でも危険はありますし、無事に戻ってきてくれて心から安心しました」
「優勝候補の親友が無事だったことが、いちばんの喜び──という事だね?」
「……はい、そうです」
セドリックは少し照れくさそうに笑った。
その横で俺は、その横顔を見ながら小さく肩をすくめる。これだけ真っ直ぐに言われると、さすがにちょっと照れるな。
メイソンはその空気を面白がるように口元を緩め、万年筆をくるりと回した。
「ありがとう! 素晴らしいインタビューになったよ。記事が出るの、楽しみにしていてね」
メイソンは満足そうに目を細めると、手元の万年筆のキャップを閉め、メモ帳と一緒にポケットへ滑らせた。
それからくるりと身体を俺の方へ向け、柔らかく笑う。
「ノア、本当におめでとう。第二の課題も頑張ってね!」
「ああ、期待してくれ。次も派手にするからな」
「あれ以上か……すごく楽しみだよ」
メイソンは次の課題への期待感で嬉しそうに笑い、「じゃあ、またね」と言い軽やかに手を振りながら、足早に課題をした競技場の方へと戻っていく。多分、まだ向こうに関係者達が集まっているんだろう。弾むように駆けていくその姿を目で追いながら、俺はぐっと腕を上に伸ばした。
「んーっ……ちょっと疲れたな」
「夕食にはまだ時間があるし……部屋でお菓子でも食べようか」
「そうだな」
魔力切れを起こすほどではないが、体は重く、無視できない倦怠感がある。ドラゴンの治癒で思った以上に魔力を使ってしまったようだ。
うーん、魔力切れを防ぐ方法、早く考えないとなぁ。──そう思いながら、俺はセドリックと並んで歩き出した。