兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
第一の課題が終わって数日。
俺はなぜかムーディの部屋の革張りソファに腰を下ろしていた。
「助手の件で話がしたい」という理由で昼休みに招かれたが──そういえばそんな約束してたな、忘れてた。
部屋は見事に雑然としていた。
机の上にはガラスでできたコマのようなもの、くすんだ鏡、金色のくねくねした“なにか”──。
並べられているというより、転がっているに近い。ノクターン横丁のボージン・アンド・バークスをもう少し治安よくしたような雰囲気だ。
「──まさか創造するとは思わなかったな」
いきなりムーディが低く呻くように言った。
杖先から湯気を立てたポットが紅茶を注いでいる最中で、唐突な話題に一瞬反応が遅れる。……ああ、試合のことか。
「派手な方がウケるかなって思いまして。ドラゴン同士の戦闘って、絵になりますし」
「あれは……変身ではなく、創造だな? おそらく、オパグノ・デュオとピエルトータム・ロコモーターの複合技……途中でインセンディオ・デュオも使っておったな?」
カップを俺に差し出しながら、魔法の目と本物の目の両方でこちらを射抜く。
その古傷の刻まれた口元は、笑いとも警戒ともつかない歪み方をしていた。
ドラゴンへの変身じゃなくて創造という事に気付いていたらしい。流石なのか、大人なら気付く普通のことなのか判断できず、カップを受け取りながら肩をすくめて笑った。
「ええ、まあそんな感じです。ドラゴンへの変身じゃなくて、ドラゴンっぽい物への創造と、あとは適当に」
「観客席全体に防壁を張ったのは驚いた。並の闇祓いでも骨が折れる。──誰から学んだ?」
ムーディは俺の対面側に腰掛け、木製の義足を伸ばしながら呻く。なんでもないような口ぶりだし、素直に賞賛しているように聞こえる。──でもなんとなく、含みを感じるのはこの人が黒幕だって知ってるからかな。
うん、この紅茶も飲んでいいのか微妙だし……まあムーディを完璧に模倣していたら、俺に今毒を仕込む意味はない……から、大丈夫かな。
ムーディの部屋にいる事はセドリックも知ってるし、やばいことにはならない、と思いたいけど。
カップの縁を指でなぞりながらそう考えていると、ムーディは低く笑いながら「ダンブルドアか?」と言った。
「へ? ああ、違いますよ。あえて言うなら──ロウェナ・レイブンクローですかね?」
覚悟を決め一口飲む。……うん、味は普通だ。ご飯の時に出てくるやつ。
俺が言った人物に、ムーディは口先を歪めて乾いた笑いを漏らした。
「敵に備え強くなる事はいい事だ。師を秘匿するのは不可解だが」
そう言って、懐に手を入れ中から小さな携帯用酒瓶を取り出し、ぐびりと一口煽った。その瞬間、体がぶるりと震える。
いや、秘密にしてるわけじゃなくて、まじでロウェナの魔導書にあった魔法だからなあ……。
「さて、助手の件だが──次の授業から頼む。他のクラスは時間が被っていてな……実に惜しい。実戦でしか得られん学びが山ほどあるというのに……」
「わかりました」
義足を軽く鳴らしながら、ムーディは苛立ち半分に愚痴をこぼした。
まあ、空き時間そんなにないし、うまく時間割りを組むことができなかったのだろう。他のクラスは誰が助手をするのか──そもそも、しないのかもしれないな。
「──助手の内容だが」
ムーディは指先で義足を叩きながら、掠れるような低い声を落とす。
「全ての魔法を使った、実践訓練だ」
「全て、ですか」
「ああ。呪文の撃ち合い、反応速度の鍛錬、防御魔法の使い方。生徒同士の対戦形式にする。──本来なら、今の連中にはまだ早いがな」
ムーディの魔法の目がギラリと回転し、俺を捕らえる。
“授業”といいながら、その視線は戦場で敵を見据える目だ。
「生徒は、痛みを知らずに卒業していく。だが戦いは、容赦なく命を奪う。──それを肌で理解させたい」
教師としての信念。……それは、わかる。
だがその奥に、クラウチの視線も確かに潜んでいる。やっぱり、俺と一線交えて実力を測っておきたいんだろう。
「……見本として、先生と戦うってことですね?」
「そうだ。ルーピンの時は、怪我をする攻撃魔法は禁じていたんだろう? 実にぬるい。敵はそこまで優しくない。わしとの戦闘を見せる。肌で感じる攻撃魔法──恐怖や緊張は、教科書よりよほど効く」
そう言ってムーディは低く笑う。
まだ、人と本気で戦闘した事はないんだよな。この前の死喰い人と対峙したのは遊びみたいなもんだったし……今後、本気で俺を殺そうとしてくる死喰い人との戦闘の機会も増えるかもしれないし──まあ、俺の訓練にもなるかな。精神的な意味で。
「いいですよ。授業の派手な演出ってやつですね」
「演出、か。ふん……好きに呼べ」
ムーディの唇が、戦場を知る者の笑みに歪む。 俺は軽く息を吐き、背もたれに体を預けた。
「あ、もちろん禁じられた魔法はなしですよね?」
「当然だ」
「良かったー」
当たり前のことを、的な目で見ているが、ムーディはこの前の授業で生徒全員にインペリオ──服従の魔法をかけた。意志の力でインペリオは解くことができで、耐性があるかどうか調べるとかなんとか。どうも一年生から七年生まで全員にかけたらしい。本当、許可するダンブルドアもなかなか凄いよな、まじで。
それで、服従の魔法に対抗できたのは全生徒でもわずか数名だった。もちろん俺は一発で完全に対抗できて、服従の魔法は完全に効かなかった。
効かない魔法をかけることはない、と思いたいが。──備えてる時にかかるのと、突然かけられるのとでは違う気がするんだよな。
ま、今回の実践練習で使わないならいいけど。
「じゃ、その授業の前に俺のお願い、聞いてくれますよね?」
「約束だからな」
ムーディは鼻をフンと鳴らし、義足の上をまた指で叩く。その目は「何を頼むのか」という疑念で満ちていた。
「写真撮ってくれませんか? 俺、いろんな人と写真撮るの趣味なんです」
「写真? ……ふむ……」
手をぐるりと回してカメラを取り出し、軽く振る。ムーディはカメラをじっと見つめていたが、無言で傷跡だらけの手を差し出した。見せてみろってことかな?
その手に乗せれば、ムーディはカメラをひっくり返したりシャッターを切ったり覗き込んだり、ぶつぶつ言いながら杖で叩いたりして疑い深い目で調べていた。
「普通のカメラのようだな……」
「そうですよ。撮られたら化けの皮が剥がれたりするものじゃないです」
「……ほう?」
ムーディの目がぎらりと俺を下から睨みあげる。いや、別に他意はないから! ムーディが──クラウチが──気にしてるっぽかったから言っただけで。
「えーっと……なので、俺とツーショット写真、いいですか?」
「……フン、わしと写真が撮りたいなど、酔狂な……」
と唇の端を捲るように笑いながらカメラを返し、ムーディは立ち上がる。そのまま俺に「早くしろ」と顎をしゃくり、隣に来るように促した。
機嫌を損ねないうちに、さっさと撮ってしまおう。と隣に並ぶ。うん、こうしてみるとムーディって結構背が低いよなぁ。
「はい、笑ってくださいねー! さん、に、いち!」
パシャ。
小さな音がして、写真が吐き出された。
写ったムーディは案の定、微動だにせず険しい顔のまま。
俺の方は、いつも通りのいい笑顔。……なのに、微妙な距離感がなんとも良い味わい深い。
「ほら、いい写真でしょ」
「……理解しがたいな」
ムーディは心底呆れた顔をして俺を見つめた。けれど、撮った写真をちらりと覗き見たとき、ほんの一瞬だけ目尻が緩んだ気がした。
──ムーディ(中身はクラウチ)とのツーショット。 これが撮れるのは、この一年だけ! いや、これはまじで後世に残しておく価値あるだろ。
***
十二月。寒さがいっそう厳しくなり、雪が地面や芝生を白く染め出した。
第二の課題は二月だからまだ余裕はある──が、机の上に放置したままだった金の卵がセドリックは気になり過ぎて仕方がないらしい。第一の試合が終わって直ぐは何も言わなかったが、十二月にもなれば自然と視線は金の卵に向けられ、俺が第二の課題に向かって備えないのが明らかに、不満そうだった。
「ノア、この卵……ずっとこのままだけど、いいの?」
「まだ次の課題は二ヶ月も先だぜ?」
「そうだけど……準備期間が長いのもなにか理由があるんじゃないかって思うんだ。先にヒントを得た方が有利になる、とか……」
真剣な表情で言うと、セドリックは机の上に置いていた金の卵を持ち上げ、俺の前に突き出す。ベッドで寝転んで雑誌を見ていた俺は、 ──正直、めんどくさすぎて、その感情が顔に出ていたのだろう、セドリックはムッと唇を突き出し眉を上げた。
「もちろん、ノアがすごい魔法使いだって事は理解してるよ。でも──」
「じゃあ。もう一度その卵開けて、よく聞いてみるか」
にやり、と笑いながら言えばセドリックはムッとしたまま卵を撫でて、俺のベッドに座った。ぎしり、とスプリング音が響き、セドリックの方に体が少し傾く。
「それは……うーん……開け方が間違えているんだと思う、多分……」
セドリックは卵の蝶番や、卵の周りにぐるりとついている溝を指でなぞり、考えながら呟く。
第一の課題が終わったその日の夜。ハッフルパフ寮の談話室は俺の一位通過を祝ってお祭り騒ぎになっていた。ハッフルパフ生はグリフィンドール生と違い、こういう騒ぎをする奴らじゃないが、流石にこの日ばかりは祝いたかったのだろう。
その時に流れで「卵を開けてみよう!」となり俺も乗せられて開けて──。
耳を切り落としたくなるほどの不協和音の絶叫が轟いた。
すぐに蓋を閉めたからそれは一瞬だったけど──その拷問を受けているような絶叫に、ハッフルパフ生は蒼白な顔してドン引きしていた。
あれから卵については全く誰も触れていない。誰だってあんな耳が潰れるほどの絶叫聞きたくないだろうし。
「後二ヶ月くらい、あの音は聞きたくないな」
「課題が始まっちゃうよ」
セドリックも聴きたくはなさそうだ。とはいえこの卵のヒントを解かなければ、とまるで自分が選手のように心配している。セドリックは寝転ぶ俺の背中に金色の卵をぽんと乗せた。背中の上をころころと転がっている卵を感じながら、雑誌に視線を落としてぺらり、と捲る。
「ま、俺ならぶっつけ本番でも大丈夫だって」
「そうかもしれないけど……魔法薬とか道具が必要だったらどうするんだい?」
「なんかの魔法で代用できるだろ」
「うーん」
雑誌には俺が炎と岩のドラゴンを従えて仁王立ちしている写真があった。光の当たり方のせいか、ラスボス感がすごい。
しかも何枚も載っている。……おお、地面の中からドラゴンが出てくるシーン、まじで映画みたいでかっこいい。
「クリスマス休暇が明けたら、ちゃんと考えるんだよ?」
「んー」
俺の生返事に、セドリックの呆れたため息が落ちてきた。
背中の上でころころと転がっていた卵の重みがふっと消え、今度はセドリックの手の中で、鞠みたいにぽんぽんと跳ねはじめる。
「クリスマス休暇、仕事があるんだっけ?」
「一日だけな。前のインタビューは簡単なものだったから、もう少しちゃんとしたインタビューと、写真撮影だってさ」
ぺら、とページを捲る。
お、セドリックが映ってる。いつの間に撮ったのか、観客席で他の生徒達と一緒に俺を応援している姿で、何を言っているのかは聞こえないが、頬が赤くなるほど声を張り上げているようだ。
その写真の隣には、俺とセドリックのツーショット写真──これは昔撮ったやつだな──とインタビュー。
内容は、メイソン監修だからかそれほど誇張表現もなく、インタビューされて答えたままの言葉が乗っている。
「セド、この雑誌買ってる?」
「え、ううん。家にはあったけど──」
トントン、とセドリックのインタビューの記事を指で叩きながら聞けば、セドリックは不思議そうに覗き込み、ぴしりと表情を固めた。みるみるうちに顔が赤くなり「うわ、恥ずかしい」と呟く。
「ちょっと見せて。……うん、変なことは言ってないし、書かれてないな。……これ、いつ発売したんだい?」
「今日」
「……父さんと母さんにたくさん買いすぎないでって手紙送らなきゃ……絶対、親戚中に配ろうとするんだ……」
気恥ずかしいやら困るやら、セドリックは掌で顔の半分を覆いながらため息をつく。
確かに、セドリックの家では俺との写真を伸ばして飾ってたり、末代まで自慢できるとか言ってたりでかなり大袈裟な感じだったもんな。セドリックのお父さんっていい人だけど──なんて言うか、空気読めない気のいいおっちゃんって感じで。道ゆく人に「息子の親友はノア・ゾグラフなんだ!」って自慢してそう。
「セドはクリスマス休暇残るのか?」
セドリックは毎年実家に帰っている。今年は──まだ大規模なダンスパーティがあると知らされていないが、生徒達の間で「今年のクリスマスはいつもと違うらしい」と噂が囁かれていた。多分、誰かの親が漏らしたんだろう。
聞きながら雑誌を閉じ、ごろん、と体を反転させる。
セドリックは卵をぽんぽんと跳ねさせていた手をとめ、膝の上に置くとにっこりと笑った。
「今年は残るんだ。帰るつもりで手紙を書いたんだけど、今年はホグワーツで過ごした方がいいって言われて」
「なんかそんな噂流れてるよな」
「ボーバトンとダームストロングの生徒達もいるしね、きっとクリスマスの日の食事がいつもより豪華だったり……パーティがあるんじゃないかな。多分そろそろクリスマス休暇残るかどうかのリストが掲示されると思うけど」
親元を離れての寮生活は、子どもにとっては結構寂しくてホームシックになったりもする。とはいえそれは下級生がほとんどで、上級生にもなれば会えるのが一年後でも「寂しいけどいいか」となるものだ。セドリックは両親と仲良いし、毎年帰ってたけど、帰れなくてもそれほど落ち込んでない。
「ドレスローブ買わされたし、パーティはあるだろうな」
「あ、そういえばそうだったね」
セドリックは視線を洋服ダンスの方に向ける。あの中には九月に持ってきてから一度も袖を通していないドレスローブが入っている。ドレスローブなんて、今後着る機会あんまりなさそう。純血貴族ならなんか定期的にパーティしてそうだけど、一般人からしたら……結婚式くらい?
「楽しみだなぁ」
後数週間のクリスマス休暇が楽しみで仕方がない、というようにセドリックは声を弾ませた。
──その時、大広間の方からつんざくような悲鳴が上がった。
離れた部屋まで届く音に、セドリックと顔を見合わせすぐに体を起こす。ただならぬ叫びに、セドリックの表情が一瞬で引き締まった。
さっきまでぽわぽわと緩んでいた顔が、あっという間に監督生らしい鋭さに変わる。
「見てくる」
「僕も行く」
杖を手に、足早に扉へ向かう。少しだけ開けて様子を伺えば、廊下には同じように部屋から顔を出している生徒達がいた。下級生達は不安そうな顔をしていたが、監督生のセドリックと俺を見るとすぐにほっと表情を緩める。
セドリックはきゅっと唇を結び、「何があったんだ?」とざわめく生徒達の間を通り談話室への階段を降りていく。
談話室には半分くらいの生徒がいて、みんなが一ヶ所に集まり、何かを食い入るように見ていた。
どうやら何か危険な事──たとえば犯罪者が寮に入ってきたとか──があったわけではないらしい、それがわかるとセドリックは肩にこもっていた力を抜きながらその集団に近づく。彼らが囲っているのは、談話室の掲示板だった。
「どうしたんだい? すごい声がしたけど……」
「こ、これ──」
一人の生徒が呆然と口を開けたまま、掲示板を指差す。セドリックは背伸びをしてそれを見ていたが、たくさんの頭で見えなかったようで「ちょっとごめんね」と声をかけて生徒を押し分けた。
「“クリスマス休暇について”……なんだ、普通のクリスマスの──掲示──?」
読み進めていたセドリックの言葉が止まり、彼らと同じように目を見張り口を開いた。
あれ、この時期にそんなやばい提示物あったっけ?
「どうしたんだ?」
「ノア──」
俺も後ろから覗き込む、周りにいた生徒達が俺をじっと見て──なんかその目が獲物を見つめる猛禽類のようにギラついているのは気のせいかな。
えーと、なになに……。
「クリスマス休暇について。今年は歴史的な三校魔法学校対抗試合の伝統に乗っ取り、クリスマスにダンスパーティが開催される」
あ、なんだダンスパーティのお知らせか。
「へー。やっぱパーティが──」
「ノア様っ!!」
パーティがあったんだな。という俺の声は一人の生徒の叫びに掻き消された。
驚いて俺の名を叫んだ子を見る。えーと、見覚えがないようなあるような。多分年下の女の子。その子は胸にノア応援バッジを五個くらいつけていて、それを見せつけるように胸を張り、顔や耳を真っ赤にして俺を見上げた。
「私とおどっ──」
「ノアさん! 私と踊ってください!!」「いや、僕とだ!!」「お願い私をパートナーに──」
一気に、周りの生徒が叫び出し俺を取り囲む。目はぎらつき興奮に満ちていて、みんなが急に俺のパートナーに立候補しだした。
セドリックは周りの生徒の勢いに──物理的にも──押し出されよろめいていた。
わいわいがやがや。私が僕が俺がの大合唱に、俺は「あー」と頬を掻きながら言葉を濁す。
「ごめん、今は考えられないかな。──じゃ、そういう事で」
そう言うと、まだ諦められない奴らが俺にさらに詰め寄ったが、“逃げるが勝ち”と言うように、押し出されたセドリックの手を引っ張り、すぐに部屋への階段を駆け上がった。
そのまま部屋に向かい、きっちりと扉を閉める。
ぽかん、としていたセドリックは苦笑する俺を見てがくりと肩を落とした。
「……明日から大変そう……」
「よし。一日何人に申し込まれるかホグワーツ新記録狙おうぜ」
「ぶっちぎりの一位だよ……」
「卵どころじゃなくなったな?」
「本当にね……」
セドリックは大きなため息を吐いた。