兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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159 ノアの誤算

 

 クリスマス休暇にダンスパーティが開催される。それは瞬く間にホグワーツの生徒たちに広まった。まあ、全寮掲示されたから勿論だが。

 四年生以上がダンスパーティに参加でき、四年生以下は、誘われたなら参加OKという。

 

 四年生以上の男女はそりゃそわそわしてるわ、互いをチラチラ見てるわで、一気にホグワーツ内が甘酸っぱい雰囲気になった。元からこの時期──クリスマス前は──ソワソワし出すが、今年はいつもの百倍はやばい。余裕の表情を浮かべているのは恋人持ちだけで、まあこれきっかけに恋人同士になれた奴らも多いだろうな。

 

 ホグワーツでのダンスパーティ。

 関心を集めているのは勿論“ノアは踊るのか” “パートナーは誰だ“という点である。

 

 前半の関心は、薬草学が終わった後でスプラウトが「ノア、あなたはホグワーツ代表として必ずパートナーを見つけてダンスしなければならないわ。伝統なの、必ずですからね」と言ったため──普通に同級生のいる前で──昼休みには、“ノアは絶対にパートナーを作って踊るらしい”という噂が駆け巡っていた。なんとも早い事で。

 

 

 それを知った特定のパートナーがいない生徒は男女問わず俺に奇跡を願ってアタックしたが、今のところ全員断っている。今のところは。

 

 

「だってさあ。俺だぜ? ノア・ゾグラフがその辺の子パートナーにできると思うか?」

「超俺様発言」

「ノアじゃなきゃ許されないやつだな」

 

 

 いつもの秘密の部屋でソファに寝転び文句を言えば、クッキーをぼりぼり食べていたフレッドとジョージが顔を寄せ合い「やぁねえ」だなんてわざと聞こえる音量で言う。

 

 

「いや、違うって。……俺に釣り合わない云々とかじゃなくてさ」

「世界一のモデルのノアがダンス・パートナーを選んだら、翌朝の新聞のトップ記事だって事でしょ?」

 

 

 セドリックがクッキーを摘みながら呆れ混じりに言う。俺は横向きに寝転がり、片腕で頭を支えながら三人に視線を向けた。

 

 

「そうなんだよな……恋人とかの話をした時にも言ったけどさ。ダンスのパートナーを“俺が”選ぶとか──意味深すぎてやばいだろ」

「それはそう」

「ちがいない」

 

 

 双子は真剣な顔でうんうんと頷いた。

 やっぱ俺がパートナーを選ぶって──一般人とは意味が違ってくる。

 

 

「ま、そう悲観するなって。ノアなら学校一の美女だろうがよりどりみどり選び放題だ!」

「絶対選ばなきゃいけないんだ。一日パートナーになるくらい、仕方ないんじゃないか?」

「それは、まあ」

 

 

 それはそう。

 俺が「ダンスのパートナーになってほしい」と願えば、誰だって──例えパートナーがいても──頷くだろう。それは勿論わかっている。

 

 でもなあ。

 ぶっちゃけ。

 最低なことだけど。

 

 浮かない顔で沈黙してると、フレッドが「あ」と指を鳴らし、意地悪なニンマリ顔で笑った。

 

 

「わかった。誘ってまで踊りたい“美女”がホグワーツにいないんだろ」

「うぐ……」

 

 

 ぐうの音も出ない正解に、俺はクッションに顔を埋め沈黙した。

 フレッドの言葉の意味がわかったジョージは口部を吹き、「さすがノア様、見る目が肥えてらっしゃる」とからかう。

 セドリックだけは頭に疑問符を飛ばし、俺と双子の間で視線を行き来させていた。

 

 

「……フレッド、ジョージ──」

 

 

 体を起こし、座り込む。

 そのまま杖を出し、軽く自分に向かって振る。

 星屑のようなキラキラとしたものが杖先から溢れ俺に降り注ぐ。一度目を閉じ、開けばぽかんとした双子とセドリックが見えた。

 

 

「──この美少女を前にそれが言えるか?」

 

 

 俺は細くなった足を組み、ふっと笑う。

 その瞬間フレッド、ジョージ、セドリックはごくりと生唾を飲み顔を真っ赤に染めた。

 

 

「なあ、フレッド?」

「イ、イエマセン」

「ジョージ?」

「オ、オッシャルトオリ」

「セドリック?」

「う、わ……」

 

 

 三人とも真っ赤な顔のままガチガチに固まり、視線をうろうろと彷徨わせる。

 調子に乗って立ち上がり、ふわり、と回ってみせればそれに合わせて短い“スカート”の端がひらり、とめくれた。

 

 

「ギャーーッ!!」

「やめろ! ゆ、歪む!」

「──ッ!」

 

 

 絶叫し茹でタコになるフレッド、顔を手で覆い隠し隙間からチラチラと見るジョージ、何も言えず食い入るように見るセドリック。

 そう俺は入学当初のどう見ても美少女の姿に肉体年齢を縮め、ついでに制服もかなりミニスカの女子生徒のものにした。

 

 三人の反応に満足した俺は足を組み替え、ソファにふんぞりかえりながら足をぷらぷらと動かす。

 指を鳴らし鏡を作り出してまじまじと見てみる。──うん、頬の丸み、目の大きさ、まつ毛の長さ、鈴が転がるような声、愛らしい表情全てパーフェクトの男の娘だな。

 

 

「この時の俺、マジで美少女だよなぁ」

 

 

 見惚れつつ同意を求めてみたが、双子は体をこわばらせ顔を真っ赤にしたまま、もじもじして「ウン」と頷くだけだった。いつもの双子とは比べものにならないほどしおらしい。

 

 もう俺を持ち上げるフリしなくてもいいんだけど──ガチな反応だな。

 

 

「なんだ? 初見でもないだろ」

「そ、そうだけど。ここ数年は……きみはちゃんと男だった」

「写真と生は違う……この破壊力……」

 

 

 双子は見た事ないほど狼狽し、しどろもどろになる。──なるほど、たしかに今の俺は流石に十七歳超えてどう見ても男だ。世界一の美青年だ。

 だが、十一歳の俺は、間違いなく世界一の美少女で、双子とセドリックは久しぶりの美少女の俺に本気で照れてるのか。

 

 

「この外見で生きてきたんだぜ? そりゃ目は肥えるし、パートナーにしたい俺以上の美少女がいないのが悪いと思わないか?」

「い……一理あるかも……」

 

 

 ごくり、と喉を鳴らしながらセドリックが頷いた。

 目も肥えるし、俺以上──ではなくても、俺と並んだ時に釣り合う超弩級の美女がいない。まあ、フラーなら間違いなく美女だし釣り合うけど、フラーは別の誰かと踊るはずだし、代表同士踊るのはなんかなぁ……。フラーとフラグ立っても嫌だし。

 

 

 ため息をこぼしつつ、杖を振って姿を戻す。ぽーっと俺を見てた三人は、白昼夢から醒めたようにハッとして、慌てて首を振っていた。

 元の姿に戻ったのに、どこかぎこちなくもじもじしてる三人に小さく笑う。

 

 

「俺に惚れると歪むぜ?……色々と」

 

 

 今度は長い足を組み替え、完璧なポーズと微笑で言えば、三人とも頬を染め眩しそうに目を細める。

 とはいえ、この問題はなんなら去年からずっと考えていた。気が進まないけど無策なわけではない。

 

 

「俺と並べる女子がいないってのもあるけど。俺に選ばれて……へんな嫉妬とかで面倒な事になったら後味悪い。俺って過激なファンが多いしさ」

「あー……なるほどね」

「じゃあ、誰をパートナーにするんだ? 美人で強いやつって、いるか?」

「候補はいる」

 

 

 即答すれば、双子が「誰だ?」「フラーとか?」と好奇心に満ちた顔で身を乗り出す。

 

 

「スプラウト先生」

 

 

 ぴん、と人差し指を立てて言う。

 その瞬間三人とも複雑そうな難しい顔をしてちらりと視線を交わした。

 なんだよ、当たり障りのないいい案だと思うんだけど。

 

 

「あー……熟女好き?」

「ンなわけないだろ! 生徒だったら面倒だけど、スプラウト先生なら変な意味にとらえないし、生徒から嫉妬の目で見られてもどうとでもできるだろ?」

 

 

 ちゃんと俺の置かれている状況とか説明したら、スプラウトなら一緒に踊ってくれそうだし、勘違いして彼女ぶることもない。嫉妬した奴らに呪われる心配もないだろう。ってか、周りの生徒たちもネタ枠だって読み取ってくれるはず。

 本当はネタ枠じゃなくて、普通に楽しみたい気持ちもあるんだけどなぁ……。この見た目で相手に困るとは思わなかった……。 

 

 三人は「なるほど」と頷いてから、気の毒そうな顔で俺を見た。「せっかくのダンスパーティなのに、可哀想」と思っているのは、開心術をかけなくても読み取れるのが切ないところだ。

 

 まあとりあえず明日の薬草学の授業後に声かけてみよう。

 

 

──と思っていたけど。

 

 

 

 

「──最悪だ」

 

 

 

 次の日の放課後、再び秘密の部屋のソファに沈み込み、クッションに顔を埋めながら呟く。

 対面側のソファではフレッドとジョージがスナック菓子をぽりぽり食べながら「何があったんだい?」と心なしか楽しそうな声音で聞いた。

 

 

「……」

「断られたんだよ、スプラウト先生にね」

「振られちゃったんだな」

「ノアも振られるんだな」

 

 

 黙って何も言わない俺の代わりにセドリックが苦笑しながら言い、双子は納得し大袈裟なまでに頷きしみじみと呟く。

 

 そう。

 薬草学の授業後、他の生徒が出て行ってから俺はスプラウトに声をかけた──。

 

 

***

 

 

「スプラウト先生」

「はい、どうしたの?」

 

 

 鉢植えの中に土を入れていたスプラウトはすぐに手を止め首を傾げる。俺と、少し離れた場所にいるセドリックを見て「授業の質問かしら?」と鉢植えの中にいる目覚め草の葉を撫でた。

 

 

「いえ。その……ダンスパーティの事なんですけど、俺が──モデルの俺が、誰か一人を選んだらちょっと騒ぎになると言うか……週刊誌が大盛り上がりしますし、過激なファンが暴れそうな気がするんです」

「まあ……そうかもしれませんね」

 

 

 俺の人気ぶりを知っているスプラウトは片眉を上げ、否定する事なく頷く。──よし、わかってくれているんなら話は早い。

 できるだけ困ったような顔をしてスプラウトをじっと見る。スプラウトの頬がぽっと染まり、視線が僅かに泳いだ。

 

 

「でも、代表選手は必ず踊らなければなりません。ノアの事情はわかるけれど──」

 

 

 スプラウトは、俺が踊らずに済むように取り計らってほしい──そう言いに来たのだと受け取ったようだ。いや、そのつもりは別にないんだよな。ダンスパーティに、このノア・ゾグラフが参加しないなんて主役のない映画みたいなもんだろ?

 

 俺はゆるり、と首を振り、目をキラキラとさせて──させているつもりで──見つめる。スプラウトの喉がごくりと動く。

 

 

「だから、俺と躍ってくれませんか?」

「……、…………は?」

 

 

 たっぷり五秒は沈黙していた。

 聞いたこともないような間抜けな声と共に、スプラウトはぽかんと口を開き止まる。俺の言った言葉を理解するのにかなり時間がかかっているようだが──十秒後には頬の赤みが耳まで進出していた。

 

 

「なっ──」

「スプラウト先生しか適任はいません!……どうか、お願いします」

 

 

 低い掠れ声で、甘さも乗せながら「please」と言えば、スプラウトは息を飲みさらに目を見開く。よし、十分本気の“おねがい”だったけど、ダメ押しで一歩距離詰めとこう。

 

 近づいた途端体を硬直させ、仰け反ったスプラウトは俺を真っ赤な顔で恋する少女のように見つめる。

 よし、そのまま「yes」と言うだけで全て丸く収まるぞ!

 にっこり、と笑みを強め「スプラウト先生?」と囁く。

 

 

「は、──」

 

 

 かすかに開かれたその唇は間違いなく「yes」の形に動いていたが──。

 

 

──ガシャン!!

 

 

 突然の音に驚いて振り返れば、地面に鉢植えが一つ落ちて割れていた。その側にはセドリックが居て、セドリックはハッと表情を変えると慌てて「すみません!」と言い慌ててポケットから杖を出した。

 なんだ、ぶつかって鉢植えが落ちただけか……。

 

 

「──ダメです」

「……え」

 

 

 振り返った途端、スプラウトはきゅっと唇を結び、一言。ぽかん、としているうちに大きく息を吸い、ゆっくり吐き出したスプラウトの頬は赤みが軽減し、表情は“教師”に戻っていた。

 

 

「ダンスパーティの伝統は、そもそも生徒間での交流のため行われています」

「それは──」

「ノア、あなたはホグワーツの代表選手です。必ず、同じ生徒で、パートナーを選びなさい」

「でも──」

「でも、ではありません。──ほら、次の授業が始まりますよ! 早く行きない!」

「……俺がこんなに頼んでも、だめ?」

 

 

 スプラウトは再び息を詰めたが、胸の前で両手をぎゅっと握ると、「ダメです」と言い切った。──くそっ、俺の“お願い”も、やっぱりある程度力のある人には効かないか……。

 

 肩を落とし、残念だというアピールをしながらトボトボと扉に向かう。一度振り返ってみたが、スプラウトは変わらず教師の顔で「授業に遅れますよ」と言っただけだった。

 

 

 

***

 

 まさかスプラウトに駄目だと言われると思わなかった。いや、割と本気で。

 なんか振られたみたいで落ち込むんだけど……。

 

 

「まあ、仕方ないよ」

 

 

 慰めるようにセドリックが言うが、そもそもあの時セドリックが机に躓かなかったらスプラウトは絶対に頷いてた!

 クッションに押し付けていた顔を動かしじろりと睨めば、セドリックは肩をすくめわざとらしく視線を逸らしてスナック菓子を食べた。

 

 

「諦めていい感じの奴探せよ、な?」

「そうだ。うちのジニーはどうだ? 身内贔屓とはいえ、そこそこ──まあまあ──かわいい方だし、俺たちの妹だから嫉妬されてもやり返すぜ?」

「……」

 

 

 ジニーは、確かにどんどん可愛くなってる。まあそれはもちろんわかってる。だけど、ジニーは駄目だろ。確か、ジニーはネビルと参加してたような。俺がジニーと躍って、ネビルが誰とも踊れなくなったら可哀想だし。

 そもそも、だ。

 

 

「ジニーは確かに可愛いし強さもあるけど。俺を神様みたいに思ってるし……踊れないだろ」

「確かに」

「ノア様と踊るなんてそんなの恐れ多くて無理無理!──って言うだろうな」

 

 

 ジニーはリドルの件で、俺のことを神聖視している。あの時は宗教じみた変な雰囲気がホグワーツに流れてたしなぁ……寮が違うからそんなに喋らないけど、廊下ですれ違うたびに俺の過激ファンたちと一緒に俺を拝んでるし。

 

 

「こうなったら──」

 

 

 体を起こし、背筋を伸ばして座りなおす。

 俺の真面目な表情に、三人ともぴん、と背筋を伸ばし──双子は明らかにわくわくしつつ──俺の言葉を待った。

 

 

「フレッド、ジョージ、セドリック。誰でもいいから俺と踊れ」

「はぁ?」

「ええ?」

「え?」

 

 

 三人とも、きょとんとして目を瞬かせる。

 

 

「もうこれしか道は残されていない。お前らの誰かを本気で女装させるしか……」

「──まあ! でもごめんあそばせ、フレデリカはノア様に釣り合わないわ」

「ジョディも緊張してタップダンスしか踊れなくなっちゃう!」

 

 

 フレッドとジョージは俺が自暴自棄になってふざけているのだと思い、以前話したときのノリで高い女声を出し、くねくねと体をくねらせる。

 

 表情を変えずに低い声で「本気だ」と言えば、双子はぴしりと笑ったまま表情を固めて顔を見合わせた。

 

 

「……い、いやぁ……」

「俺は、かわいー女の子と踊りたいなー」

 

 

 双子は俺のガチトーンと座った目に、口先をひくつかせ目を泳がせる。

 セドリックを見ると、パリ、とスナック菓子を食べながら苦笑していた。

 

 

「流石に女装は……。というか、代表で踊るのに男二人は……それこそ週刊誌が黙ってないんじゃない?」

 

 

 肩をすくめるセドリックに、俺は黙り込む。

 この世界の同性愛の偏見って、そういえばどんな感じなんだろう。そんな話もあんまりしないし──かと言って同性で恋人になってるのも、原作ではいなかったしなぁ。……ダンブルドアとグリンデルバルドを除いて。

 マグル界ではまだ同性愛が世間に受け入れられているとは言えない。魔法界は普通に性別変える魔法とか薬とかあるけど、どうなんだろうなあ。

 

 

「じゃあ俺が魔法使って完璧な女にしてやるから」

「えっ」

 

 

 セドリックはまだ双子と比べてドン引きしていなかった。男同士だと目が気になるのなら、片方が女になればいい。

 そう思ったが、セドリックは微妙な表情で沈黙していた。……あれ、もしかしてチョウともう約束とかしてるのか?

 

 

「もしかして、もう相手決まった?」

「それは、まだだけど……」

「頼む! 親友を助けると思って、もうセドしか頼れる奴はいないんだ!」

「うぅーん……」

 

 

 割と本気で──インペリオかけない程度に──頼んでみたが、セドリックは煮え切らない態度と返事をしながら困ったように笑うだけだった。あー、優しいから俺を不憫に思ってすぐに断りはしないけど、嫌なんだろうな。そりゃセドリックもせっかくのダンスパーティだし、女の子と踊りたいか。

 

 

「はあ……嫌ならいい。なんとか考える……」

 

 

 がっくり、と頭をクッションに沈めれば、フレッドとジョージの「まあ元気出せよ」「このスナックうまいぜ?」という慰めにもならない言葉が降ってきて余計に──気が沈んだ。

 

 まじで誰に頼めばいいんだ。

 ホグワーツでは思い浮かばないし、ボーバトンもダームストロングのモブ生徒……やっぱり、今まで喋ったことも無い女と行きたくは無い。どうせなら顔見知りがいい。ってなるとマジで限られてくるけど、顔見知りの女の子は大体メインキャラだし。

 

 

「──さて! そろそろ我らはお暇するよ」

「西棟三階の“様子”を見に行かねばならないのでね」

「新商品の開発中なものでね」

「ではご機嫌よう!」

 

 

 悩み唸る俺を見て「これ以上ここにいたら厄介なことになりそう」と察した双子は手をパンパンと叩き指先についたスナック菓子の汚れを払うと、さっさと立ち上がり部屋から出て行ってしまった。

 

 

「はぁ……適当に同級生に声かけるか……」

 

 

 体を起こし、半分以上減ったスナック菓子に手を伸ばす。ジャンキーな塩気がなかなかに美味しい。ホグワーツのハウスエルフが作るお菓子って砂糖たっぷりが多いからなぁ……。今度スナック系もリクエストしてみようかな。

 

 

「ノアは、本当に一緒に行きたい子いないの? 肩書きとか、そう言うの気にしないでさ」

 

 

 今度はチョコを摘み、セドリックが何気なく聞いた。「これ、美味しい」と目を輝かせ、宝石のように綺麗なチョコが次々消えていく。

 そりゃそのチョコは事務所経由の貢物だから美味しいだろうな──じゃなくて、行きたい子かぁ。

 

 ソファにもたれかかり、天井を見上げながらチョコを食べ「本気で、いない」と答えた。

 甘いのとしょっぱいの、一生食べ続けれそうだ……。

 

 

「そうなんだ」

「セドはチョウを誘うんだろ?」

「え? どうして?」

「え、どうしてって……」

 

 

 どうしてと言われても。

 そう“決まってる”からだけど。

 

 

「チョウはクィディッチもうまいし、悪い噂は聞かないけど……あんまり話したこともないし──この前ホグズミードに一緒に行こうって誘われたのもびっくりしたくらいだし──踊りたいとは思わないよ」

「……え?」

 

 

 セドリックは俺の声に、少し怒ったような顔になり眉を寄せて「なんでチョウの名前が出るのかもわからない」と顔をしかめた。

 

 

「なんでって……チョウの事が好きなんじゃないのか?」

「……えぇ? そんなの、思った事もないし、思わせるような態度をとったこともない」

 

 

 セドリックはそうあっさりと断言した。

 

 

「……は……」

 

 

 何、言ってるんだ。

 セドリックはチョウと付き合う──かは原作で書かれてなかったけど、あくまで付き合っていたらしいってだけしか情報としては知らない。けれど、間違いなくいい雰囲気ではあった。だから、来年ハリーがアンブリッジに対抗して組織を作った時に、チョウがセドリックの事があったから参加したはず。その後ハリーのことが好きになるとはいえ、チョウとセドリックは間違いなく“そういう雰囲気”だった。

 

 なんて言えばいいのかわからず固まっていると、セドリックは大きなため息をついて俺をジロリと睨む。

 

 

「きみは、僕がチョウと特別に仲良く話してるの見たことあるかい?」

「え、それは──」

 

 

 それは──そういえば、無い。

 今まで全く考えなかったけど、確かに、チョウとセドリックが話してるのなんてクィディッチ の練習で少し話す程度で、休み時間や放課後に一緒にいるところは見たことない。

 

 

 だって、セドリックは()()()()()()()()()()から。

 

 

 この瞬間、胃の奥が重くなったような──冷たくなったような──気がして、ひくり、と喉が痙攣するように動いた。

 

 

 そうだ。この前、話したところだ。

 俺とセドリックは、選択科目以外はおはようからおやすみまで一緒だ。

 

 

 そこにチョウの姿だけじゃなく、他の女が入り込む余地はない。

 

 

 まさに、青天の霹靂だった。

 俺がこの世界に来て、多少は影響があるとは思っていた。純血主義のことや、ドラコのこと、死ぬはずだった人の生存──だけどまさか、セドリックの恋愛や交友関係にここまで大きく影響があるとは想像もしていなかった!

 

 セドリックは、チョウと恋人になる、それは世界の決定事項だと思い込んでいた。

 

 そうか、俺がセドリックと友人──親友になる事で、こんなところまで変わってしまうのか。

 

 

「……ごめん、勘違いしてた。ほら、前チョウが誘ってきてたからいい感じなのかと……」

「飛躍しすぎ」

「悪いって。……じゃあダンスパーティは行かないのか?」

「せっかくだし行きたいとは思ってるよ。ノアも誰かを誘って参加するでしょ? まあ、適当に同級生か、同じクィディッチチームの人かな」

「なるほど……」

 

 

 知らない間にセドリックとチョウの恋人フラグというとてつもないフラグをバキバキに折ってしまったようだ。って事は、ハリーはチョウを誘って、チョウが誰にも誘われて無かったら──ハリーはチョウと踊るのか?

 え、待ってくれ……これ、将来生まれないキャラとかいない……よな? 

 

 

 なんかもう交友関係がめちゃくちゃになりそうだけど、俺がこの世界にいるかぎり仕方のない事なのか……? 今更、誰とも交流しないで生きていくなんて無理だしなあ……。

 

 

 部屋の中に、パリパリとスナック菓子を噛み砕く音だけが虚しく響いた。

 

 

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