兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
もうクリスマスパーティまで二週間を切ってしまった。いまだに俺は相手を決められずにいるし──まあめちゃくちゃ誘われはするけど──断りまくっているからか、「ノア様は一体誰と踊るのか」と期待値が爆上がりしている気がする。
フレッドとジョージなんかこれはいいビジネスチャンスと思ったのか俺のパートナーが誰になるかで賭け事のようなことまでしているらしい。
なぜかこの騒動を知った日刊預言者新聞でも『魔法界の宝石、ノア・ゾグラフのダンスパーティのお相手は誰だ?』と題した記事が連日組まれる始末。お相手は勝手にホグワーツの美男美女が好き勝手名前あげられていた。平和か。……平和だな。
メイソンからも手紙で「相手は気を付けて決めてね」とそれとなく釘を刺される始末。まあここまで新聞で取り上げられたら、俺が選んだ相手の家族構成や性格まで全部書かれそうではあるし、何より間違いなく『ノア・ゾグラフの一夜の甘い恋人か!?』とかいう下世話な記事も出るだろう。下手に選ぶと暴動が起きかねない。
「ノア、あと二週間もないし、そろそろ決めたほうがいいんじゃない?」
「わかってる。……もう案は考えてきた」
「案?」
セドリックは俺の言葉に不思議そうな顔をして首を傾げた。
頷きながら大広間に入り、夕食を取る生徒たちを見回す。えーっと、どこにいるかな。
「──あ、いた。ジニー!」
「は、はいっ!?」
軽く声をかけたつもりなのに、ジニーは声を裏返しながら火に触れたように跳ね上がった。
その途端、大広間中の視線が俺とジニーを射抜き、雑多なお喋りが一瞬止まった。
ジニーはバジリスクに睨まれたように硬直したまま俺に向き合う。その頬は真っ赤に染まっていて、唇は白くなるほど強く結ばれている。
「な、なな──なんでしょう……?」
相変わらず裏返り引き攣った声で聞き返し、ジニーは俺を見上げた。ジニーの友達らしき女の子たちが目を輝かせ息を呑んで俺とジニーを見比べている。
……あ、もしかして俺がジニーを誘うと思われてる? だからこの注目度?
「あのさ、ジニーって俺のファンクラブ会員だよな?」
「へ? は、はい。もちろん、そうです。──ファンクラブとは別に宗教団体にも加入していますが」
「宗教……えーっと、じゃあ両方の責任者に伝えて欲しいことがあるんだ」
ジニーはどこかほっとしたように、肩を落とすと真剣な顔で「わかりました」と頷いた。
「あのさ、『明日ダンスパーティの相手を決めるから、俺と踊りたい人は夕食後の八時に大広間に残って欲しい』──って伝えて」
「明日の八時……はい。必ず伝えます」
ジニーの表情は落胆してもいないし、興奮してもいなかった。さっきの安堵の表情に変わったのも不思議で、なんとなくからかうように「俺にダンスパーティに誘われると思った?」と聞いてみれば、ジニーはぽっと頬を赤らめる。……いや、よく見たら本当にジニーって美少女だよな。
「ま、まあ、少し。──ですが、ノアさんが私を誘うのは解釈違いですので」
「え?」
「解釈違い」
「……そ、そうか」
聞き返したら同じ事を生真面目な顔で二度も言われてしまった。確かに、強火ファンはそういうところあるよな。ジニーはただのファンじゃなくて、俺の教徒でもあるらしいし。
ジニーに伝言を頼み、少し離れたところで立っていたセドリックのところに行けば、セドリックは目を瞬かせて小さく首を傾げた。
「何をする気なんだい?」
「んー? ……ま、みんなのノア・ゾグラフ様になってやろうかなって思ってな」
その言葉に、セドリックは僅かに残念そうに視線を揺らせたが、すぐにいつものように笑い「ノアらしいね」と肩をすくめた。
──そして、次の日の夜八時前。
普段、生徒たちは食事を終えたらすぐに寮の談話室へ戻ったり、図書館に向かったりして個々の時間を楽しむ。八時には料理も全て消えるし、大広間のこの時間はいつも閑散としている。
だが、今日はホグワーツ生だけでなくボーバトンやダームストロングの生徒の殆どがわいわいがやがやと興奮を滲ませながら残っていた。
教師たちの大半は食事を終えていつものように出て行ったが、何人か──ダンブルドアとムーディ、マクゴナガル──は生徒の異変に気付き上座の教師席に座ったままだ。
一応、この時間は生徒にとって自由時間であり大広間に残ることも、違反ではない。だから止めることも「どうしたのか」と聞くことも無いが──マクゴナガルは何かがあると察してちょっと厳しい表情してる、ダンブルドアは少し楽しそうに笑ってるけど。
大広間の奥の壁にかけられている時計の針が進み、八時になった。──その瞬間、生徒達の無数の目が俺を見る。
立ち上がれば、椅子が床を擦る音が嫌に大きく聞こえるほど周りは静まり返っていた。
視線を受けながら、ハッフルパフとレイブンクローの長机の間を通り、前へ向かう。ダンブルドアと目があったが、ダンブルドアはにこりと俺に笑いかけるだけで何も言わない。ダンブルドアは、もしかしたら俺が今から何をするのか知ってるのかも。……ファンクラブ会員や教徒でなくともホグワーツでダンブルドアに隠し事をするのはかなり難しいっぽいし。緘口令を敷いてるわけでもないし、ゴーストからの情報とかかな。
組み分けをするあたりに立ち、くるりと振り返る。全員の目が期待を込めて俺を見ていて──いや、まじで多いな。もうパートナー決まってるやつも多いはずなのに……ま、多い方が盛り上がるしいいか。
「──こほん」
切り出すために咳をこぼせば、座っていた生徒達の背筋が伸びた。俺の言葉を聞き漏らさないように、授業中よりもしんと静まり返っている。
俺は拡張呪文を唱え、人差し指を喉に当てる。
「えーと。……まずは、昨日いきなり呼び出したにも関わらず、こんなにたくさんの人が集まってくれて……とても嬉しいです。ありがとう。
さて──クリスマスダンスパーティが、いよいよ近づいてきましたね。みんな、俺が誰と踊るのか……気になっているんじゃないか?」
生徒たちは無言のまま何度も頷いていた。
「俺は“みんなの”ノア・ゾグラフです。一人を選ぶことなんて、できません。
本当なら、踊らずに済ませるつもりだったんですが……代表選手は、どうやら“最初のダンス”だけは、逃げられないみたいです。
というわけで──今ここで、俺のパートナーを決めたいと思います」
右手を前に伸ばし、手首をくるりと回した。
空中に出した白い羽を摘み上げて軽く触れば、後ろにいる生徒たちはよく見ようと立ち上がり身を乗り出す。
「これからこの羽をたくさん放ちます。殆どが捕まえてもただの白い羽。──ですが、一枚だ“金の羽”に変わります。羽を捕まえて、色が金色に変わった人……その人を俺のダンスパートナーにします!」
生徒参加型のパートナー決め。
参加者全員に公平なチャンスがあるこの方法なら、俺のパートナーになった生徒はパートナーに“選ばれた”のではなくその地位を“奪い取った”となり、ある程度の嫉妬はされるかもしれないが変な噂が立つ事はないだろう。
静まり返っていた大広間が、瞬時に興奮のざわめきで満たされる。その中には一部不満を訴える声も上がっていて、ちらり、と視線を向ける。──あれ、男子か? 確かに男子も割といるな。俺のファンは男も多いしな──目があった男子生徒はぼっと頬を赤く染めつつ、決意に満ちた表情で唇を噛み、声を張り上げた。
「女子だけなんてずるい! 僕もずっとノアのファンだ!」
そうだ、よく言った! という声が周りから上がる。……女子だけじゃなくて男子人気もあるとは知っていたけど、踊りたいくらいの男ファンかぁ……いや。ファンはファンだから、うん。まあ、別に男子と踊ってもいいか……本当は可愛い女の子か仲良いやつがいいけど、モデルのノア・ゾグラフとしては全員に公平に愛を届けなきゃだし。モデルになった当初は男の娘売りしてたわけだし。
「もちろん性別問わず参加可能だ。もし男子生徒が羽を手に入れたときは──」
ニヤリ、とイタズラっぽく笑い指を鳴らす。
その途端、髪が伸び、体にむず痒いようなぞわぞわとした感覚が走り、視線が下がった。机の前の方にいた生徒たちがぽかんと口と目を開いているのが見える。
「──こんな姿で踊るから」
口からこぼれた声はいつもより高く柔らかい。伸びた髪を後ろに払いながら手を振れば、呆気に取られていた生徒たちは夢から醒めたようにぶるりと身を震わせ、歓声を上げた。
うーん、鏡がないからどんな姿になってるのかわからないけど、見える範囲の自分の体は間違いなく女だ。手も華奢だし、服はぶかぶか──胸元はきついけど──男子生徒の盛り上がりを見るに、絶景の美女になっているはずだ。
ダンブルドアに視線を向けたが、ダンブルドアは相変わらず飄々とした笑みを見せながら愉快そうに髭を撫でている。「駄目だ」って言わないって事は、同性と踊ることや、性別を変えることは悪くないんだろう。ま、割となんでもありな世界だしな。
もう一度指を鳴らし、元の姿に戻り生徒たちを見回せば、女子も男子も見るからにやる気を出して目に闘志を宿していた。
「さて、まどろっこしい説明ははやめて、早速始めまようか。
ハズレの羽は白いままで、すぐに消えてしまうから注意。羽の色をわざと変えたりする不正は駄目だぜ?──あ、魔法は使っていいけど、怪我するような魔法は禁止。じゃないと俺が怒られちゃうから」
ポケットから杖を出し、左から右に大きく振る。大広間の高い天井付近に、何百という白い羽が現れ、生徒たちの視線は一斉に上を向き、慌てて立ち上がり杖を手に持った。
「じゃあ──はじめ!」
俺の声に合わせ、純白の羽が空気を撫でるようにふわりと舞い降りる。
倍率は数百分の一。とはいえ俺のサイン会の倍率よりは当選確率が圧倒的に高く、内容も俺と一曲踊るなんて今までにないファンサービスだ。誰もが必死に腕を伸ばしたり、魔法で引き寄せたり椅子を網に変えて大きく振ったりしだした。
小柄な女子が机の上に乗ってジャンプしたかと思えば、男子が横から手を伸ばし床に落ちそうだった羽を掬い上げる。それぞれがいろいろな方法で羽を捕まえていた。
歓声や笑い声が交差し、ざわめきと共に落胆の声がそこかしこで上がる。殆どがただの白い羽だしな。──さて、幸運の女神は誰に微笑むかな。
そして──。
ひときわ大きな歓声が上がった。
金色の光が、ふわりと宙に浮かぶ羽を包み込む。誰もが手を止めてその方向を見た。
その羽を掴んでいたのは──。
***
クリスマス当日。
昼頃までは普段の休暇とあまり変わらない雰囲気だったが、クリスマスパーティの開始時刻が近づくにつれ誰もが浮き足立ちそわそわとし出していた。六時になれば、大きなクリスマスツリーや、ふわふわと浮いている無数の蝋燭には煌々とした灯りがつき、ヤドリギの白い花が花弁を散らしだす。クリスマスのムードが高まり、外を歩いていた生徒たちは一度部屋に引き込み正装に着替える。
俺とセドリックも六時過ぎには寝室に戻り、ドレスローブに着替えた。写真撮影でいろんな衣装は着るけど、そういえば、ドレスローブは初めてだな。
ドレスローブは普通のローブよりも丈が長くて、袖口には銀糸で精密な刺繍が施されていて、動くたびにキラキラと輝いた。首元の蝶ネクタイは深い光沢のある紺色で、胸元には昔ドラコからもらったブローチ。足元は磨かれた黒革の靴。
なんとなく、マグルのタキシードと魔法族のローブを混ぜたような見た目だよな、ドレスローブって。
羊皮紙を姿鏡に変化し、その前に立つ。杖を振ってブラシとリボンに魔法をかけ、思う通りに動かしつつ身支度を整える。髪は肩甲骨の下あたりで一つにまとめられ、黒いリボンでしっかりと結ばれていた。うん、前髪は自然に流すくらいでいいかな。
「どこからどう見ても絶景の美青年」
鏡に写る俺は、正装しているからかいつもの五倍はハンサムに見えるし、上品な貴族──紳士って感じ。我ながら惚れ惚れしていると、後ろでネクタイを締めていたセドリックは覗き込み、「……本当だ」と感嘆の息を吐きながら呟いた。
「セドもなかなかにかっこいいぜ?」
「そうかな? なんだか照れるな、ありがとう」
セドリックは照れた顔で眉を下げてはにかみ、頬を指先でかいた。
いや、実際ホグワーツの中では五本の指に入るイケメンだと思うけどな。もちろんぶっちぎり一位は俺だけど。
俺と似たような黒いドレスローブを着て、胸元には銀装飾が上品な青灰色の宝石がついたブローチが輝いている。いつも額にかかっていた前髪はさらりと横に流され整えられているし。うん、正統派王子様系イケメンって感じ。
「あ、そうだ。この前宣伝のために香水貰ったんだけど──つけるか? せっかくだし」
「え? どんな匂い?」
指を鳴らし机の上に転がっていた小箱を引き寄せる。蓋を開ければ緩衝材──真っ白な羽が敷き詰められていて、開いた拍子に数枚落ちた──に埋もれたガラス瓶が見えた。中には黄金色の液体が入っていて、吹きかけなくても微かに爽やかな匂いが漂う。香水に詳しくないからわからないけど、嫌な匂いじゃない。
「えーと。ホワイトムスクと……ハーブ?」
同封していた説明書を見つつ袖口をめくり、軽くワンプッシュ。途端に一層強い匂いが部屋に広がった。「これ」といいながらセドリックの方へ手首を突き出すように向ければ、セドリックは少し驚いたような顔をしたものの、すぐ顔を近づけ、すん、と息を吸う。
「……うん、いい匂い。つけて?」
「ん」
えーっと、香水ってどこにつけるんだっけ。なんかイベントでスタイリストにつけられたことあったな。確か、耳の後ろとか、首筋とか手首だっけ。
ま、たくさん吹きかけなきゃいいか。
そう考えてセドリックの後ろに周り、首を隠す後ろの髪を片手で押さえた。セドリックは少し肩をこわばらせたけど、どこにかけるのかわかったのだろう、何も言わずに俯きうなじを曝け出す。
とりあえず、ワンプッシュでいいか。
しゅっ、と微かな音がして甘く爽やかな匂いが広がる。押さえていた髪を離し、軽く手櫛で整えてやれば、セドリックはくすぐったそうに「ありがとう」と笑った。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「そうだな。どんな料理だろうなぁ」
「すごく豪華だって話だよ」
セドリックも楽しみにしているのか、にこにこと上機嫌でいつもより僅かに声が高い。
二人で談話室に降りれば、団欒していたハッフルパフ生たちは、ほう、と感嘆が混じるため息をつき、羨望の眼差しで俺たちを見た。「素晴らしいです、ノアさん」「かっこいい」「まさにハッフルパフの秘宝!」などなど多彩な賞賛を営業スマイルで受け流しつつ、集合場所の玄関ホールへと向かう。
もちろん廊下でも歩いていた生徒は足を止め、頬を染めながら囁いたり、堂々とカメラを構えて写真を撮ったりしたが、俺とセドリックは気にすることなくいつものように談笑したまま通り過ぎた。
玄関ホールでは、大広間の扉が開かれる八時を待ち、大勢の生徒で溢れかえっていた。でも、どの生徒も俺たちを見ると途端に道をさっと開けたから、人とぶつかることなく扉の前へとたどり着く。
扉の近くにはハリーとロン、それとパドマとパーバディ──だろう双子の女子生徒──が居た。この組み合わせは、俺の想定内だけど。チョウは誰と踊ったんだろう……まあ、いいか。この辺考えてもどうしようもないし。
四人とも俺を見ると息を飲み硬直していたが、すぐにハリーが我に帰り、俺の元へ駆け寄る。
「ノア! うわー! すっごくかっこいい!」
「ハリーもなかなかにかっこいいな」
「ありがとう。……そうだ! 写真撮ろうよ。今日の写真いっぱい欲しいってシリ──あの人に言われたんだ」
「ああ、たくさん送ってやろうぜ」
ハリーは嬉しそうに微笑み、俺の隣に並ぶ。ポケットからカメラを取り出した俺に、セドリックが「撮ろうか?」と言ってくれたからありがたく手渡し、カメラを見て薄く笑う。ハリーはぴょんぴょん跳ねている髪を手でなんとか大人しくさせたい様子だったが──すぐにまた髪はぴょんと跳ねていた。
ハリーとのツーショットを撮り、飛び出てきた写真をハリーに渡す。
その直後、「あ、あの──ノアさん、良ければ私たちとも……」とパドマかパーバディがもじもじしながら言ってきたから快く許可し、美女に囲まれて写真を撮る。──そうすればそこかしこから声が上がり、八時の開始時間まで俺との撮影大会のようになってしまった。
ホグワーツ生だけでなく、いつの間にか玄関ホール前に集まっていたボーバトンとダームストロング生とも写真を撮りまくる。セドリックは何も言わずにニコニコした人当たりのいい笑みを浮かべてカメラマンになりきっていた。
そうしていると、突然玄関ホールに「代表選手はこちらへ!」とマクゴナガルの声が響いた。マクゴナガルもいつもの深緑のローブじゃなくて明るいタータンチェック模様のローブを着て、帽子には黒いアザミの花が飾られていた。首元や指先を飾る装飾品も、いつもより豪華な気がする。
「代表選手とそのパートナーの皆さんは、他の生徒が入場するまで扉の脇で待っていてください。──さあ、お待ちの皆さんはどうぞ中へ」
いよいよクリスマスパーティの始まりだ。
生徒等はわっと歓声を上げ、待ちきれないとばかりに大広間の扉をくぐる。
ハリーは緊張した表情でパーバディと向き合う。パーバディも緊張しているようだが、ハリーほど強張った表情はせず、むしろ堂々と胸を張り楽しげだった。
薄水色のドレスを着たフラーは、ホグワーツ生の男子と組んだらしい。ビクトールは──うん、あれはハーマイオニーだな。ハーマイオニーとビクトールの交流も俺が知らない間にあったらしい。
あの、ビクトール・クラムのパートナーがハーマイオニーだということに気づいたハリーや他のグリフィンドール生、スリザリン生なんかはあんぐりと口を開けて穴が開くほどハーマイオニーを見ていた。広がって整えられていなかったボサボサの髪はまっすぐ綺麗になって、ちゃんと結い上げられている。ドレスも可愛いし、普段も可愛いけど、やっぱ女の子って化粧と服でかなり化けるな。
みんなが大広間に入った後、残された代表選手達は期待と緊張が混じった表情でマクゴナガルを見つめる。
「それぞれ組になって並び、私の後についてきてください」
ハリー達が興奮と緊張に胸を膨らませ、フラーは振り返り俺を見る。どうやら一番初めに大広間に入りたいらしく、俺は何番でもよかったから頷き先を促した。フラーは嬉しそうに笑うと、パートナーと腕を組み堂々たる態度で扉の一番前に並ぶ。その次にビクトールとハーマイオニー、ハリーとパーバディの順で並び、俺は一番後ろに並んだ。
「──こほん」と、マクゴナガルがわざとらしい咳をこぼして片眉を上げて俺を見る。なんだろ、と首を傾げると「早く準備をしなさい」と呆れ混じりに言われた。
「あ、そうだった」
忘れてた。
ぱちんと指を鳴らせば、整えられていた髪は伸び、身長が縮み、黒いドレスローブが深い夜のような群青色のマーメイドドレスに変わる。指先で髪や自分の首元をさっと撫でれば、腰までの長い髪は柔らかく波打ち、黒いリボンが軽く結い上げる。ドレスに散りばめられた星のような水晶やダイヤと同じ物が、髪とあらわになった首元を飾る。
手や胸元、足を体を軽く捻りながら確認する。うん、ちゃんと変身術がかかってるな。
ふと顔を上げれば、ハリー達は息を止め頬を染めて俺に見入っていて、ふっと小さく笑って優雅に、女性らしくしゃなりと手を振ってやった。
「ああ、まるで夜の女王のようです……」
ほう、と感嘆しながら頬に手を当て、フラーが呟く。近くにいたハーマイオニーとビクトールが無言のまま何度も頷いた。
「さて、準備が整ったようですね。──それでは私の後についてくるように」
マクゴナガルがそう言い、扉の前に立つ。自然とみんなの背筋が伸びる中、マクゴナガルが手をかざすだけで扉が開き、眩しい光が薄暗い玄関ホールを照らした。いや、光だけじゃなくて、中にいる生徒達の拍手や歓声が洪水のように押し寄せる。
「ここに捕まって」
一番初めにフラーのペアが入場した時、そう言ってそっと腕が出される。どのペアも、誰に言われることもなく当然のように男子が腕を曲げ、女子がその腕に捕まっている。──つまり、腕を組んで入場している。
ま、社交ダンスって感じだしおかしくないか。
俺はにっと笑い、その腕にいつもより幾分か細く白くなった腕をそっと通す。
「ああ、エスコート頼むぜ?」
からかうように言ったその声は、いつもよりも甘く高いものだった。
「練習した成果を見せるときだね」
「あー……大変だったな」
くすくすと柔らかく笑う声に、視線を上げる。いつもなら同じ目線にあるはずなのに、この姿になったら見上げなければいけないのが微妙に癪だけど、まあ、デカい女もあれだしな。
いつもより近い距離で──まあこんなに近づくことなんてないし──横顔をまじまじと見ていると、視線に気付いたのか、ふとその顔がこちらを向いた。緊張と高揚、それと期待と喜びで染まった表情が優しくほころび、ふわりと甘いさわやかな匂いが鼻をくすぐる。
俺たちの前のハリーのペアが入場していった。
「行こう、ノア」
「よろしくな、セド」
セドリックは小さく頷き、俺より先に一歩を踏み出した。
──そう、あの日、金色の羽を手の入れたのはセドリックだった。