兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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162 卵の秘密

 

 

 年頃の男女にとってクリスマス・ダンスパーティの効果は絶大だったようで、クリスマス休暇が明けても廊下や談話室でいちゃついている生徒が例年の倍はいた。もう柊は飾られていないにも関わらず、人目を気にせずいちゃついている。羨ましくなんてない、断じて。……もう卒業までは童貞でも仕方がないって割り切ったから、うん。

 まあ、俺と踊ったセドリックにはなんの変化もない──多分。強いて言うならふとした時によく目が合うようになったような気がする。

 

 

 ダンスパーティの効果はそれだけではなく、俺が完璧な女体に変身できるという事も世間に知られてしまい、今までにない客層のファンが増えた。世界一の美青年という肩書きだけではなく、“傾国の美女”という肩書きまでプラスされることになった。

 傾国、というか。まあ国を滅ぼす以前に国を作れそうな美貌ではあるだろう、非公式宗教団体はあるらしいし。

 殆どが俺の変身術と美貌を褒める記事だったが、主婦が好きそうな雑誌には、『イギリスの秘宝のパートナーはまさかの男性!?』とかいう話題性のみを追求した記事もあったらしい。これはメイソンから聞いた。いつの時代もみんなゴシップ記事が大好きだよな。

 

 

「ノア、そういえば卵はどうなったんだい?」

 

 

 大量に出された宿題を終わらせてベッドの上で寝転び休憩していたら、セドリックが何気なさを装って切り出した。

 

 クリスマス休暇が明けた途端、セドリックは再びチクチクと言い出すようになり、のらりくらりとかわしていたが、そろそろ本気で取り組んでいる姿勢を見せないと完全に拗ねそうだ。俺のことを考えてくれてるとはわかってるんだけどな。

 

 

「この卵の仕掛けはもう解けてる」

「え? いつのまに……」

「解けてる、というか──」

 

 

 驚くセドリックを横目に見ながら体を起こし、指でちょいちょい、と手招きする。セドリックは素直にベッドに腰掛け、机の上に転がっていた卵もぴゅんと手元に飛んできた。

 つるりとした卵をセドリックに見せる、セドリックは俺と卵を見比べて、首を傾げた。

 

 

「いつもと同じ卵だけど?」

「じゃあ、開けてみるか」

 

 

 セドリックの「待って」を聞かずに開けば──前回と同じく、不協和音の絶叫が響く。セドリックは体をこわばらせ小さく呻くとすぐに耳を塞いだ。

 

 

「み、耳が──」

「まあ確かにやばい音だけど……」

 

 

 黒板を引っ掻くような鼓膜を直接刺激する嫌な音。──の中に、ノイズ混じりの言葉が聞こえる。前開けた時は一瞬だったからなんて言ってるのか分からなかったけど、悲鳴──よりも、複数人のデスメタル歌手とソプラノ歌手が爆音で歌ってるような。これは俺だから聞き取れる“声”なんだろう。

 

 

「セド、聞き取れるか?」

「え!?」

「この言葉」

「何だって!?──ぜんぜん──聞こえない!」

 

 

 耳を押さえている手を少し離したセドリックだったが、すぐに顔を顰めてまた耳を塞ぐ。卵の言葉以前に俺の言葉も聞き取れなさそうだ。

 初めの方は言葉の意味は無く、音だけで歌っている。「ラララー」「ルルルー」みたいな、ハミングとスキャットばかりだが、少しするとついに歌に入った。

 

 

──探しにおいで 声を頼りに

──地上じゃ歌は 歌えない

 

 

 この聞き取りにくい言葉は、何かの魔法生物の言葉なんだろう。それを確認してぱたん、と卵を閉じる。 

 

 顔を顰めていたセドリックは恐々と耳から手を離す。まだ耳鳴りでもしているのか、軽く頭を振りながら「前と同じ音だけど……」と嫌そうに呟いた。

 

 

「そのままだと俺も聞き取りにくいな。デスボ過ぎて」

 

 

 ベッドに転がしていた杖を手に取り、軽くひと振りした。杖先からこぼれた銀色の光の粒が、俺とセドリックの頭上へ静かに降り注ぐ。

 きらきらと舞い落ちる光は、やがて丸く形を成し、俺たちの頭全体をふんわりと包み込んだ。

 目の前に薄いガラスを一枚挟んだような、空気がすっと変わる感覚。

 セドリックは驚いて目を丸くし、ぽつりと呟く。

 

 

「……泡頭魔法?」

「正解」

 

 

 もう一度、軽く杖を振る。

 次の瞬間、杖先から静かに水があふれ出し、ゆっくりと形を成しながら──俺とセドリックの身体を包みこむように広がっていった。

 

 襲いくる水に、セドリックは反射的に目を閉じ体をこわばらせていた。ぱしゃり、と音もなく水はまとまり、大きな“繭”のようになって俺たちを飲み込む。

 けれど、首から上だけは先ほどの泡頭魔法の空気の膜に守られていて、ちゃんと呼吸はできる。上半身だけ水の中に沈みながら、顔だけ繭の外に出しているような、不思議な浮遊感だった。

 水は透明で、触れれば指の周りがふわりと揺れる。

 ただ──繭の中は普通の水で、肌にひやりとして寒い。服張り付いてるし、まあ、あとで乾かすけど。

 

 

「……ぬるま湯にすればよかったな、これ」

 

 

セドリックは、水に沈んだ上半身をぎこちなく動かしながら、きょろきょろと周囲を見回した。

 腕をゆっくり振るたびに水面が柔らかく揺れ、淡い光が揺らめいて散っていく。困惑しているのが、驚くほどはっきり伝わってきた。

 

 

「……なんか、変な感じだね……」

 

 

 そんな声も、繭の中では水の層と空気の層をくぐって届くからか、少しぼやけて聞こえる。はっきりした言葉というより、やわらかく濁った響きになって耳に届いた。

 

 この状態だったら、セドリックにも多分聞こえるだろ。俺はもう一度卵に手を伸ばし──セドリックは驚いて耳を塞ごうとしていた──開いた。

 

 

 途端に、卵の中から地獄のデスボイスではなく、美しいハーモニーを奏でる合唱が流れた。

 

 

『  探しにおいで 声を頼りに

  地上じゃ歌は 歌えない

  探しながらも 考えよう

  われらが捕らえし 大切なもの

  探す時間は 一時間

 

  取り返すべし 大切なもの

  一時間のその後は

  もはや望みはありえない

  遅すぎたなら そのものは

  もはや二度とは戻らない  』

 

 

 その歌に、セドリックは目と口を同時に見開いた。

 歌が一段落しコーラスに入ったところで、俺はすぐに蓋を閉じる。繭の水も消して湿った服も乾かし、泡頭魔法も解除した。

 

 セドリックはまだ金の卵を食い入るように見つめていたが、ふと独り言のように呟いた。

 

 

「これ……多分、水中人の言葉、マーミッシュ語だ」

「へえ、よく知ってるな」

 

 

 俺が素直に驚いて言うと、セドリックは一瞬だけ目を瞬かせ、真面目な声で続けた。

 

 

「実際に聞いたことはないけど……水中人の言葉って、地上ではこうやって聞き取れないんだ。水中に入ると、ちゃんと英語に聞こえるって」

 

 

 確かに、これは水中人の言葉だ。

 俺はチートじみた知識があるから知ってて当然だけど言葉の仕組みとかは知らなかったな。──セドリックは純粋に勉強して得た知識で辿り着いたらしい。

 

 その賢さに少し感心しているのが顔に出ていたのか、セドリックはパチリと瞬きをして、軽く笑いながら言った。

 

 

「魔法史で習ったよ。……ノアは絶対聞いてなかったでしょ」

 

 

 図星すぎて肩をすくめると、セドリックは呆れたように小さくため息をついた。

 

 

「はぁ……」

「確か、湖に水中人が暮らしてるはずだ。あの歌詞の意味的に──水中人が捕らえた何かを探す課題なんだろうな」

「何か……何だろうね」

「まあ、捕らえたってことは。人質だろうな」

「人質かぁ……」

 

 

 セドリックは顎に手を添え、考えるように視線を落とす。その間、俺は金の卵を掌で軽く放っては受け止め、ぽん、ぽん、とリズムを刻む。黙って伏目がちな横顔を見てると、視線に気づいたのか、セドリックはきょとんと顔を上げる。

 

 

「何……?」

「人質だったら、セドじゃないか?」

「え」

「セド以外、考えられなくない?」

 

 

 あまりにも自然に言った俺を、セドリックは一瞬固まったまま見つめた。

 唖然としているが、セドじゃなかったら、次点はフレッドかジョージあたりだろう。ハリーとも仲良いけど、ハリーは選手だから無理だし。

 

 第一、あの双子より、“俺の大切なもの”だと審査員たちに見なされるのは、どう考えてもセドリックだ。

 

 同じ寮で、毎日ずっと一緒にいるし。極め付けにダンスも踊ったし。

 

 そう確信して言っただけなのに、セドリックは目を何度か瞬かせ、ぽっと頬を赤くして、照れ隠しのように頬を掻いた。

 

 

「そ、そうかなぁ……。まあ、人質が誰でも──僕でも──ノアは泡頭魔法を使えるし、第二の課題は問題なさそうだね」

 

 

 安心したように微笑むセドリック。

 だけど俺には、第二の課題に関してちょっとした懸念がある。

 

 

「俺さ、泳げるかなー」

「え?」

「いや、泳いだことないからなあ」

 

 

 この姿じゃプールも海も経験がない。

 前世では、まあ義務教育で水泳の授業があったからある程度は泳げるとしてもスイミングスクールなんて通ってかなったから、本当に……必要最低限しか泳げない。仮に二十五メートル泳げたとして、確か湖の底に行かなきゃならないんだろ? 潜水できるのかな、やった事ないけど。

 

 犬かきレベルの泳ぎしかできないとか、バタ足しかできないとかバレたら……“ノア・ゾグラフとして”チャームポイントどころじゃ済まない。

 

 

「大衆の前で醜く泳ぐくらいなら、湖の水を全部抜いて歩いていく」

 

 

 そっちの方が楽だし、と言った俺に、セドリックは真顔で首を横に振った。

 

 

「……練習しよう。それはさすがに派手すぎるし、他の選手の妨害と受け取られて失格になりかねないよ」

「練習って、どこで?」

 

 

 流石にこの時期の湖は凍死間違いなしだ。

 魔法薬で体温を無理やり上げる事も、まあできるだろうけど、湖で泳ぎの練習してるところ、見られたくはないなあ。

 

 セドリックは少し考え、「監督生の風呂場はどうかな」と、名案を思いついたように言った。

 

 

「ただの豪華な風呂だろ?」

 

 

 監督生の風呂が豪華だということは知っている。一般生徒の風呂は、風呂──というかシャワールームって感じで、広い浴室に無数のバスタブとシャワーが簡素なカーテンで仕切られて並んでいるだけで、ゆっくり浸かることはできない、らしい。

 俺は入学してすぐ裸体を晒すと生徒が何人も前屈みになったり鼻血を吹き出したりで持続絵図になったから、特例として個人のシャワールームを使用している。

 

 

「豪華な風呂……というか、ほぼプールだよ。しっかり泳げるし、奥は足がつかないくらい深い」

「ふーん? ま、ちょっと興味あるし行ってみるか」

「うん、夜中だったら誰もいないしね」

 

 

 断言するセドリックに、「監督生だって夜中に風呂入りたくなるんじゃねぇの?」と聞いたら、「校則違反はしないよ」と当然のように言われた。……納得。

 でも、監督生のセドリックは俺の泳ぎ練習に付き合って校則違反に目をつぶってくれるようだ。

 

 

 

 

 数日後の夜。

 俺とセドリックは目眩まし魔法をかけ、こっそり寮を抜け出した。六階の廊下は薄暗く、並んだ扉はどれもただの教室にしか見えない。だが、セドリックがボリスの像の横にある扉へ近づき、軽く寄りかかるようにして囁いた。

 

 

「パイン・フレッシュ」

 

 

 すると、何の変哲もない扉が静かに開く。

 俺は視線で促されるままに体を滑り込ませた。

 

 

「うわ、すご……」

 

 

 思わず、言葉が漏れてしまった。

 脱衣所とかはなくて、すぐに大浴場が俺を出迎える。高い天井には蝋燭の灯った豪華なシャンデリアがあり、白い大理石造りの浴室を柔らかく照らしている。浴室の奥にプールのように広い浴槽があり、それも真っ白な大理石。浴槽の周囲には百を超える金色の蛇口がついていて、飛び込み台まである。浴槽、っていうか埋め込まれてるし普通にプールだなこれ。

 

 奥には棚があり、真っ白でふわふわなタオルが山のように積まれていて、服を入れる籠もたくさんあった。壁には金の額縁の絵が一枚掛けられていて、絵の人魚は岩にもたれ掛かれながらぐっすりと眠っていた。

 

 

「まじでプールだな」

「うん。絶対誰も来ないと思うけど。万が一、監督生の誰かが夜中に入りたくなって来ても、こっちから扉を開けない限り入れないんだ」

「へえ、そんな仕組みなんだな」

 

 

 どうやら、一度外から扉を開けて入ったら中に人がいる場合は鍵が掛かり、合言葉を伝えても中に入れなくなるらしい。監督生は男女一人ずつだから、鉢合わせを防ぐための措置だろう。……まあ、こうやって二人でも入れるから、中にはその構造を利用してイイコトしてる監督生もいそうだけど。

 

 

「泡は出さなくていいかな……水は……少し温めておこうか」

 

 

 セドリックは慣れた様子で浴槽に近づき、一番大きな蛇口を捻った。すぐに湯が出て来て、浴槽に流れ落ちる。湯が出てくる量と、溜まっていく速度が比例していないし一分も経たずに馬鹿でかい浴槽に湯が溜まったところを見ると……まあなんか魔法がかかってるんだろう。

 

 浴槽の縁ぎりぎりまで湯を張ったセドリックは、腕まくりをして温度を確かめる。「ぬるめの水くらいかな」と呟きながら腕を引き抜き、ぱっぱと軽く水を払って立ち上がった。

 

 

「準備できたよ」

「ありがと。……はー……泳げるのかな……」

 

 

 棚に入っている籠を引き寄せ、脱いだローブを投げかける。外したネクタイもシャツも入れて服を脱げば、湯がぬるめで浴室が温まりきってないからかちょっと肌寒い。ズボンも脱いで、籠の中に適当に入れたら余計に寒くなり身震いしながらそっと浴槽に足をいれた。

 

 

「……まじでぬるい……温水プールみたいだ」

「本番はもっと寒いよ。その辺の練習は、どれくらい泳げるかみてからだね」

「はー……湖の水を全部抜きたい」

「また言ってる」

 

 

 服を脱いだセドリックは苦笑しながら隣に座る。もちろん、俺とセドリックは裸ではなく、ちゃんと水着を着ている。魔法界にも一応海水浴をする文化はあるらしく、サーフパンツ型の物や競技用のぴっちりした物、やばい紐ビキニの物、なんか魔法がかかって七色に光る物など色々ある。俺とセドリックは、膝下丈の競技用水着を着用している。

 

 

「あ、ノア。髪結んだほうがいいよ。待ってて──確かこの辺に──あった、はい」

 

 

 セドリックは自分の服が入っている籠を引き寄せ、ローブのポケットを探り中から髪ゴムを一つ取り出した。最近寒いから結ばずに過ごしていたんだよな──セドリックの用意が良くて助かる。

 

 

「ありがと。──よし、んじゃ泳ぐか」

 

 

 浴槽に入る。──うわ、まじで深い! 足はつくけど……ギリギリ顔が出る程度だ。とりあえず、泡頭魔法をかけて、反対側まで泳いで潜水して戻るか。たしか、ドルフィンキック、だっけ。あーできるかなぁ。

 

 前世の朧げな記憶を手繰り寄せ、なんとなく泳ぐ。手足が長いからか、意外と進む。魔法かけてるから息継ぎの心配はないし。

 すぐに反対側の壁にタッチし、その後くるりと回って深く潜水する。何度か水を蹴り、浴槽の底ギリギリを泳ぐ。息は苦しくないけど──ふ、普通に疲れる! 今年はクィディッチの練習もないし、運動不足、だなこれ!

 

 

「──はあっ! はぁっ……あーっ……どうだ?」

 

 

 縁に掴まり、濡れた前髪をかきあげながらセドリックに聞くと、セドリックはぱちり、と瞬きをして首を傾げた。

 

 

「うーん……普通に泳げてるよ? 別に変なところはなかったけど……」

「普通かぁ……」

「まあ……そうだね」

 

 

 そう言うとセドリックは勢いよく浴槽へと飛び込み、縁に手をかけて体勢を整えた。

 

「ちょっと見てて」と言うと、浴槽の壁に足裏をしっかりつけ、肩まで沈み込む。何度か深呼吸し、最後に大きく息を吸い込み──次の瞬間、全身をぐっと丸めて頭まで水に潜り、壁を強く蹴った。

 

 深く潜ったセドリックは、一度も浮かび上がる事なくスイスイと泳ぎ、反対の壁に足をつけそのまま無駄のない動きでターンをすると、またスイスイと泳いで帰ってきた。

 

 

「──っはあ! こんな感じに泳げたら、もっといいかも」

 

 

 水面から顔を出し笑うセドリック。

 髪をかき上げる仕草が妙に様になっているし、「ね? 簡単でしょ」とでも言いたげだが。

 

 

「いや、無理だろ」

「え?」

「セド、めちゃくちゃ泳ぎ上手いな」

「そ、そうかな? 魔法が使えるようになるまで、川で遊んでばっかりだったからかなぁ」

「泡頭魔法もしてなかったし、息継ぎなしで向こうまで行って戻ってきて……めちゃくちゃ速いし……」

 

 

 普通に無理だろ。水泳選手かって言いたくなるほど上手かったぞ。俺の三倍くらいは早く泳いでいたし、無駄な動きが少なかったからか、全然疲れてなさそうだし。

 

 

「ノアも練習したら泳げるようになるよ!」

「そうかなぁ……」

「そうだよ! まだ時間はあるし、今日から毎日頑張ろう!」

 

 

 セドリックは張り切り、やる気に満ちた目で拳を作る。毎日水泳練習なんてかなりめんどくさかったが、今のところいい案もなかったし、渋々頷いた。

 

 

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