兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
冷たい湖の底で、バジリスクは静かに尾を揺らした。その動きは一振りだけでも水中の雰囲気を切り替えるほど強く、近くにいた水中人たちの歌声はかすかに震えた。
ノアの魔法で視界は封じられている。だが、バジリスクにとって世界は“光”ではなく、“熱”と“匂い”と“魔力の濃淡”で形づくられていた。
その巨大な体に触れる水温の変化、遠くの岩の軋む音。それらはすべて、視覚よりも確かな地図だった。
視線だけで命を奪うという特別な能力は封じられ、水の中では口を大きく開けることもできず世界一の毒を持つ牙も使えない。寒さに特別強いわけではなく、体の動きもいつもに比べて緩慢だ。
だとしても、バジリスクは存在するだけで異彩を放つ存在であり、この湖の中では紛れもなく、頂点に君臨するものだった。
つまらない、小物ばかり。と、バジリスクはまた尾を揺らす。その一振りで、水中人の像が僅かに欠けたが──もちろん彼らから文句は出ない。
暇を持て余したバジリスクは舌をぺろりと動かし体の中に残っていた空気を吐く。小さな銀色の丸い玉が舌に沿って地上を目指し浮かび上がっていった。ぷくぷく、ぷかぷかと──まるで、子どもが水中で少しずつ息を吐き出して遊ぶように。
ノアの命令だからこんな湖底で人質たちを見張っているが、早く戻ってノアに褒めてもらいたい。森の中も散歩したいし、そろそろ腹も減ったし……。
そんな取るに足らない想いを浮かべたとき、茂みの向こう、黒い海藻が低く揺れた。
『バ──バジリスク!? な、なんでこんなところに?』
現れたのはハリーだった。驚愕を超えて、恐怖と混乱が混ざった声。そのあけすけな反応に、バジリスクはつまらなそうに尾を一度だけ打ち、藻をふわりと散らし『小物が…』と呟いた。
ハリーは二年前、ノアからこっそり「バジリスクは禁じられた森の洞で飼うことにした。かなり奥だから気にすんな」と聞かされていた。だから、バジリスクが処分されず生きていることは知っていたが──まさか“今”この場で再会するとは思ってもいなかった。
森にいるはずのバジリスクが、なぜ第二の課題の湖にいる?
まさか水中人と協力関係で、これを倒さなければ人質は救えない……? そんな最悪の可能性がよぎり、ハリーは唾を飲む。
ちらり、とバジリスクを見上げる。
水中人の像に巻きつき、巨大な身体を堂々と横たえてこちらを見下ろす姿は、どう見ても“運営側のボス”にしか見えない。
ハリーは、シリウスからもらったナイフを持ってこなかったことを激しく後悔しながら、視線を外さずゆっくりとしゃがみ込み、湖底の石を手探りでつかんだ。
武器と言えばこれだけ。槍を持つ水中人が貸してくれるわけもない。石でなんとかできるとも思えないが──何もしないよりはマシだった。
緊張で身体を固くしているハリーを、バジリスクはつまらなさそうに見下ろすと、尾をゆるく揺らし、舌をぺろりと出した。
『──ふん。何を考えているのやら』
もちろんバジリスクは心を読めない。ただ、ハリーの魔力の揺らぎと、微かな汗の味から“敵意らしきもの”を察しただけだ。
『我は、ノアに命じられてここに来た』
『……ノアに?』
『時間までに人質が助け出されねば、代わりに我が救うように、と』
『えっ……なんで?』
バジリスクは尾で、水中人たちを示した。
『ノアは全員を助けようとした。しかし叶わぬ。一人につき一人、だと聞いた』
『じゃあ……きみは水中人の味方じゃないの?』
『違う』
その言葉に、ハリーは目を瞬いた。
てっきり、像の上で偉そうに構えている姿から運営側の手先だと思っていた。しかし──言われてみれば、水中人たちはバジリスクをひどく警戒している。
槍を構えて距離を保っているし、「仲間」というより「危険生物が入り込んできた」みたいな雰囲気だ。
ノアが人魚に変身して泳いでいたことは知っている。
けれど──まさか、バジリスクまで連れてきていたなんて。
ハリーはようやく状況を理解しはじめ、強張っていた肩から力が抜けていった。
『そうか……』
ハリーはこんなバケモノ蛇と戦わずにすんだことに安堵し冷静になり、そっと──腰が少し引けていだが──人質に近づく。
そういえば、人質の数は三人だ。ノアは一番について、全員を助けようとしたけれど、水中人が許さなかったのか。まあ、確かにこれは課題でもあるし、それぞれ一人一人への人質だ。
でも、制限時間がある。それをすぎた後の人質の事を思うと──ノアはバジリスクに人質を守るように伝えて上がったのだろう。もし、他の選手が間に合わなかったことを考えて。
──ノアはすごいな。
ハリーは、小さく息を吐くと、ロンのところへと泳いでいった。
残りの人質は、ロンとハーマイオニーと、見知らぬ少女だった。ハリーは少し悩んだものの、鰓昆布をくれたときにドビーが言っていたのは“ロン”だ。なら、ハーマイオニーは、クラムの人質なのだろう。クリスマスダンスパーティでも、踊っていたし。
ハリーは石を握りしめ、ロンを縛っている水草をこすり潰すように切っていく。硬くしぶとい水草に苦戦したが、何とか裂け、ロンはぷかりと浮かび上がった。
ロンを肩に担ぎながら、ハリーは自分が来た方を見る。その先には黒い海藻の森が静かに揺れているだけだった。
人質のハーマイオニーを見る。白い顔で、目を閉じて眠っているようだ。となりの、名も知らぬ少女も。
こんな冷たくて、槍を持つ水中人が恐ろしい場所に二人を置いていくのはかなり心が痛んだ。それでも、視線をあげればバジリスクがゆったりと尾を動かし二人を守って──守っているように見えなくもない。
──きっと、時間になれば助けてくれる。
ハリーはロンを抱え直し、湖底を蹴る。
砂利がぱっと散り、体が水を切って浮き上がった。
すぐ後に、他の二人が来ればいい。
もし来なくても──ノアが助けてくれるんだ。
そう信じて疑わないハリーは、ロンだけを抱え、水面へ向かって泳ぎ出した。
やがて、黒い海藻がざわりと揺れ、遅れてクラムが姿を現した。
ハリー以上にバジリスクへ驚いたらしく、反射的に何発か魔法を放つ。水中で光が散り、泡が弾ける。
しかしバジリスクは、面倒そうに尾をひと振りするだけで、すべてを弾き返した。
威嚇することもなく、もちろん腹いせに水中人を襲うような素振りもない。ただ、そこにいるだけで周囲を圧倒する“存在感”だけを漂わせていた。
クラムは困惑したまま、けれど素早くハーマイオニーの水草を切り、抱え上げる。
巨大な蛇の意図が読めず、何度も振り返りつつ──それでも泳ぐ速度は落とさない。
『あれは一体なんなのか』そんな疑念を小さな泡に変えて、彼は水面へ向かった。
それから、フラーは──いつまで経っても現れなかった。
バジリスクに正確な「時間」の感覚はない。
だが、コーラス隊が律儀に歌詞を変えながら残り時間を知らせていたため、なんとなく「もうすぐ終わりだ」と理解していた。といっても、バジリスクが聞き取れるのは本当に簡単な単語だけだったが。
最後の歌が終わると、コーラス隊は中央から蜘蛛の子を散らすように退いていった。
彼らも、本来は儀式や祭礼を司る集団であり、戦闘には向かない。
あの巨大な蛇の前で歌い続けたのは、もはや矜持でしかなかった。
「……時間だ」と、水中人の誰かが小さくつぶやいた。
その言葉を合図にしたように、バジリスクがのそりと鎌首をもたげる。
今まで尾ばかりひらひら動かしていた巨体が突然動き出し、水中人たちは緊張を露わにした。
何人かは慌てて住居へ引っ込み、槍を持った戦闘隊は息を呑みながら構える。
湖底に重い沈黙が落ちる。
バジリスクは、そんな彼らを見下ろすように顎を上げ──そのまま口を大きく開いた。
──ばくん。
静かな湖底で、やけに軽い音が響いた。
「……なっ──」
残っていた最後の人質が、ひと飲みにされた。
***
俺の次にゴールしたのはハリーで、その次がビクトール、フラーは水魔に襲われて人質の元へと辿り着けなかった。
フラーが戻ってきたのは終了時間ギリギリ、ほんの五分くらい前で、ハリーとビクトールがとっくにゴールして、自分の人質を連れて帰ってきた後だ。
「ガブリエール! マクシーム先生、離して! あの子を助けに行かないと! ガブリエル!」
「落ち着きなさい、フラー!」
フラーは半狂乱になり、湖の中に戻ろうと必死にもがいているが、マクシームが腕を掴み抑えようとしている。
一時間を超えたら人質は戻らない──それは制限時間を謳っているだけで、人質が死ぬことはない。そうフラーも理解している。そう思っている。けれど、“誰も人質の命が保障されているとは言っていない”から、フラーはここまで取り乱しているんだろう。
いや、冷静に考えてみろよ。学校行事で人質が死んだらやばいだろ。ホグワーツ閉鎖されるぞ?
とはいえ──思っていた流れと違うんだよなぁ。
結果は変わらない……けど、それに至るまでの過程が違う。そんなに気にしなくてもいいか……まあ、今まで好き勝手やってたし、今回は俺が代表選手。全て予定通りにはいかないのかもな。
あまりにフラーが鬼気迫る表情で叫んでいるからか、観客達も立ち上がり不安そうにざわつきだした。
「フラー。お前の妹は無事だよ」
「ノ、ノアっ! 本当ですか?」
俺の声に反応したフラーは濡れた髪を頬に貼り付け、勢いよく振り返る。蒼白な顔だけど、目だけがぎらぎらと輝いていた。
「ああ、多分もうすぐ上がってくるはず」
「上がってくる……?」
切羽詰まった表情の中に困惑を混ぜながら鸚鵡返しで呟く。
水面を指差した途端、ベストタイミングで水面にこぽり、と泡が浮かび上がった。
ぽこぽこと小さな泡が時間の経過とともにジャグジー風呂のように湧き立ち、湖に飛び込みかけていたフラーは数歩後ろにさがった。
濁った湖がゆらり、と揺らめき──水面に顔を出したのは、バジルだった。
「きゃああっ!?」
フラーは自分よりも数倍巨大なバジリスクに悲鳴をあげ慄き、マクシームに抱き付く。マクシームはバジリスクを警戒しつつも「大丈夫よ」と優しく声をかけ、細い肩を撫でていた。
あ、そうか。観客や審査員は俺がバジリスクをペットにした事とか、一緒に潜っていったことを知ってるけどフラーは知らないのか。
観客席ではバジルをよく見ようと恐々身を乗り出す生徒がちらほらと見える。
ゴールした後、ここでハリー達の様子をスクリーン越しに見ていたから気付いたんだけど──音声は入ってないから、湖底で何を会話したのかとかはわからないんだよな。何があったのか察する事はできても。
バジルは長い首をぐっと伸ばし、水を押し分けながら岸へゆっくりと近づいてきた。するとまた湖面の下からぶくぶく……と無数の泡が立ちのぼり、次々と水中人たちが姿を現す。
槍を構えたまま、彼らは一斉にバジルを取り囲み、口々に何かを叫んでいた。……が、距離があるせいで内容まではまったく聞こえない。雰囲気だけはめっちゃ騒いでる。
水中人たちはバジルを警戒しつつ、慌ててダンブルドアの元まで泳ぎ寄っていく。ダンブルドアも驚いた顔で水際へ歩み寄り、何事かと彼らと早口でやり取りしていた。
そんな騒ぎなんて関係ないとばかりに、バジルは堂々とした動きで湖をわしわし進む。大きな身体が水面を割り、水飛沫が豪快に跳ね上がったかと思うと──そのまま、美しい曲線を描くように俺の前へ姿を現した。
『ノア、我は戻ったぞ』
『おかえり、ありがとな』
『うむ』
バジルは大きな頭をぐっと低くし、俺に寄り添うように頭を伸ばす。その鼻先をぽんぽんと撫でると、バジルは嬉しそうに目を細めて頭をすり寄せてきた。
……うわ、鱗、めちゃくちゃ冷たい。
そりゃそうか。冬の湖底で一時間もじっとしてたんだし、バジルは蛇だから本来そんな寒さに強いわけじゃない。
動きもいつもの俊敏さがなくて、どこか重たそうだ。かなり消耗したんだろう。
──ほんと、よく頑張ったな。
この試合が終わったら、ちゃんと温かくして、でっかい牛でも丸ごとご馳走してやらないとなぁ。
「ノ……ノア……そ、その大蛇はなんですか……? ガ、ガブリエルは……?」
バジルを撫でていた俺の横で、フラーがマクシームの背中に半分隠れながら、震える声で問いかけてきた。視線は完全にバジルへ釘付けだ。
『あ、そうだ──人質は?』
『ここに』
にゅるりと頭を持ち上げると、ぐぐっと喉元が大きく波打った。次の瞬間──
──ぱかっ。
大きな口が開き、ぬるり、と何かが落ちてきた。しっかりキャッチ。
「おっと」
腕の中にぬめぬめとした少女──ガブリエルを抱えた瞬間、観客席が「ひっ!?」「えぇぇぇっ!?」と大きくどよめく。
フラーは頬に手を当て、限界みたいな声をあげた。
「きゃああああっ!! ガブリエーーールッ!!」
「フ、フラー。大丈夫、大丈夫。ちょっと涎まみれなだけで、別に食われてたわけじゃないし……死んでないから……」
必死に宥める俺の声も、フラーの悲鳴にほぼかき消される。
そりゃそうだ──見た目だけなら完全に『大蛇に食われて今さっき吐き戻された妹』だからな。蒼白になるのも無理はない。パッと見ると消化されかけてるみたいだけど、バジリスクの消化液はゆっくり作用するし、魔法もほぼ通らないから、むしろ腹の中はかなり安全地帯なんだけど……今それ言っても信じてもらえなさそうだ。
震える手で両腕を差し出してきたフラーに、ガブリエルをそっと渡す。フラーはその場にしゃがみ込み、妹の顔を心配そうに覗き込んだ。
俺は指を軽く鳴らし、ガブリエルにべったりついた唾液を一掃する。
ぐったり蝋人形みたいになっていたガブリエルは、「けほっ」と小さく咳をし──頬にふわっと血色が戻る。
そして、ぱち、と目を開いた。眩しそうに何度か瞬きをして、ぼんやりと姉の顔を見上げる。
「フラー……?」
「ああっ! よ、よかった……! もうダメかと──!」
フラーは感極まったように言葉を詰まらせながらガブリエルの体を強く抱きしめる。ガブリエルはきょとん、としたまま不思議そうに辺りを見回していた。
「ノアが助けてくれたのですか?」
「俺……というかバジルだな」
ぽん、とバジルの体を撫でるように叩く。フラーは信じがたい、という表情をしていたがそれでもバジルと向き合うと胸に手を当て深々と頭を下げ「ありがとうございます」と礼を言った。
「さて。審査に入る前に、協議が必要じゃな」
水中人たちと短く言葉を交わしていたダンブルドアがこちらへ向き直り、他の審査員たちに視線を送る。彼らは頷き合うと、そのまま奥のテントの方へ歩いていってしまった。……ん?
ハリーは普通に二着でゴールしたはずなのに、協議って何をするんだ? まあ、俺のせい……いや、バジルのせい……まあ、その辺りなんだろうけど。
『バジル。また後で会いに行くよ』
『ああ、待っている』
声をかけると、バジルは名残惜しそうにぐっと頭を寄せ、頬を擦りつけてきた。鱗はまだ冷たい。
最後にひと振り尾を揺らすと、来たときと同じ堂々とした動きで森の方へ戻っていく。濡れた鱗が光を反射して、星屑みたいにきらりと散った。
「あ、はがれた鱗……」
一瞬だけ湖畔の泥に光るものが見えた気がしたが、目をそらした隙にもう消えていた。拾っておきたかったんだけどな。材料にもなるし、セブルス喜びそうだし。
そんなことをぼんやり考えつつ教師席の方を見ると、セブルスがさりげない動作でローブの内側に“何か”をしまうところだった。
……いや、まあ、いいか。もともとセブルスに渡すつもりだったし。
ポンフリーに分厚い毛布をかけられた俺たち選手と人質たちは、審査が終わるまでその場で待機するよう言い渡されていた。
冷えきった体もようやく落ち着き、今はみんなで甘いココアの入ったマグを手に、ほっと息をついている。
「ノア、あの蛇……あれは結局なんだったんですか?」
「バジリスクのバジル。俺のペット」
「バ、バジリスク!? 本当に……?」
「うん。本物。目の能力は封じてるから大丈夫」
そう言うと、ビクトールが「蛇の王……絶滅してなかったのか……」と呆然と呟く。ホグワーツ組はバジリスクの事を知っていたし特に驚く事はない。
「ノアは人魚になっただけじゃなかったんだね」と、ハリーがしみじみと言いながらココアを一口飲んだ。
「に、人魚!? ああ……見たかったです……」
「すごく綺麗だったよ。クラム、見れなかったの? 残念」
「ええ!? 僕も見たかった……」
とロンが口を尖らせる。ハーマイオニーも残念そうにため息をついていた。そうか、人質達は眠ってたもんな。
「ビクトールは鮫っぽくなってたよな? あれって授業で習ったのか? 俺たちは習わなかったよな」
「うん、人を別のものに変えるのは……ホグワーツでは学ばないね。すごいなぁ、失敗したらって思うと……怖いよ」
ココアをふーふーしていたセドリックが俺の目配せに気づき頷く。
ビクトールは褒められたとわかったのか嬉しそうに表情を緩めた。
「僕の学校、人を少しだけ他の姿に変える魔法、よく練習します。鮫になるのも……まあ、慣れています」
「へえー、変身術そんなにやるんだな」
「鮫の歯が本物みたいでちょっと怖かったわ」
ハーマイオニーが悪戯っぽく笑いながら呟けば、ビクトールは慌てて「今度、歯は変身しません」と首を振る。
そんな風に和やかに話していたそのとき、バグマンの拡張呪文で膨れ上がった声が、頭上でいきなり轟いた。
「──えー、お待たせしました! 審査結果がまとまりましたので発表いたします!!」
ビリビリと空気が揺れ、みんな思わず肩をすくめる。ついさっきまでざわざわしていたスタンドも、一瞬で静まり返った。
「水中人の女長、マーカスが、湖底で何が起こったのか詳しく報告してくれました。──それを踏まえて、五十点満点で各代表選手の得点を発表します。
まず、デラクール選手。すばらしい『泡頭呪文』を使いましたが、水魔に襲われ負傷し、人質を連れ戻すには至りませんでした。得点は──二十五点」
拍手が湧くが、フラーは小さくかぶりを振り、「私は零点の人です……」と喉の奥でつぶやいた。
「次に、クラム選手。見事な鮫人への変身術でした。完全な変身ではありませんでしたが、効果は十分。人質を連れ戻したのは三番目──得点は四十点!」
フラーのときより大きな歓声が起こり、ビクトールは息を吐きながら観客へ手を挙げた。
普段あまり表情を崩さないビクトールが、ほんの少しだけ笑っている。
「続いて、ポッター選手。鰓昆布の使用は非常に効果的でした。人質を連れ戻したのは二番目──得点は四十五点!」
グリフィンドール生から爆発したような歓声が上がり、ハリーは驚いたように目を見開いたあと、安堵した笑顔を浮かべた。
ロンは全身で喜びを表しながらハリーの肩を何度も叩き、ハーマイオニーは目を潤ませながら力いっぱい拍手している。
一方、少し離れたところで──ビクトールがその様子を見つめ、ほんのわずかに視線を落としていた。
「最後に──ゾグラフ選手。
彼は人魚への変身術を施し、さらに“バジリスク”を呼び寄せ使役しながら人質を救出しました。人質を連れ出したのは一位。そして水中人の証言によれば……はじめは全員を助けようとしたものの、水中人に止められ、その代わりにバジリスクを見張りとして配置し、“もし他の選手が来なかった場合は、人質を救わせる”と伝えたそうです。
──まあ、水中人たちは人質が“食べられる”とは思わず、かなり慌てたようですがね。
しかし、これこそが道徳的な勇気の表れでしょう。満点は五十点ですが……ノア選手の得点は──六十点です!」
一際大きな拍手と歓声が上がる。
俺の一位は確実だったが──満点以上だとは思わなかった。バジリスク使ったことで減点も覚悟だったんだけど。
ハリー達も、人質だったセドリック達もにっこりと笑って俺に拍手を送る。
ま、完全にぶっちぎりで一位ってのも悪く無いかな、と思った俺は拳を高く上げて、観客達の歓声に応えた。
「さて、第三の課題、最終課題は六月二十四日の夕暮れ時に行われます。代表選手はそのきっかり一ヶ月前に、課題の内容を知らされます。
諸君、代表選手の応援をありがとう!」
バグマンの締めの声が湖面に響き渡り、再び拍手と歓声が波のように広がった。