兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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166 秘密の研究

 

 

 水曜日の放課後。

 セブルスとの個人授業で、数ヶ月かけて育ててきた薬のいくつかが、ようやく完成した。

 

 俺が調合した薬は──普通の手順とは少し違うものが多かったけれど、失敗は一つもなかった。

 むしろ成功という言葉じゃ足りない。既存の薬よりも効能が良いものになったらしい。

 

 

 セブルスは特別授業という名目でレア素材も手に入るし、研究も進む。それが功をなしているのか、特別授業を重ねるほどに、セブルスの“俺に対する好感度”みたいなものが上がっている気がする。

 

 最初の頃は簡単な軽食と紅茶だけだったのに、最近はお菓子まで用意されている。それに、授業後に魔法薬学以外の話を振って「もう少しここにいたい」アピールをそれとなくしても、「さっさと食べて帰れ」と突き放されることなく、普通に付き合ってくれる。

 

 間違いない。

 セブルスの俺への態度が、確実に軟化している。いや、元々他の生徒と比べるとマシなほうだったけど。

 

 ……やっぱりこれは好感度アップイベントだったのか、と思いながら、今日もしっかり大鍋をぐるぐるとかき回す。今後のことを考えるとセブルスの好感度は高くて困ることはないし。

 

 えーっと、この後は四十時間、強火で加熱して液体が半固体になるまで煮詰めるんだよな。……長い。

 

 

「──今日はここで終了とする」

「はーい」

 

 

 匙を止め、鍋の縁で軽く叩く。カン、カン、と高い音が響いて、薬が落ちた。

 調合台の上には、開きっぱなしの教科書と材料が散らばっている。……とりあえず片付けるか。

 

 セブルスは羊皮紙に何かを書き込んだり、鍋を覗き込みながら、真剣な顔で観察を続けていた。

 余った材料を薬棚に戻し終えても、セブルスはまだ鍋のそばで薬の様子を見ている。

 

 特別授業が終わったら大体は部屋の奥にあるセブルスの自室に行って、夜食をご馳走になる流れだ。でも、いつもの流れとはいえ、勝手に部屋へ行くわけにもいかない。

 

 勝手に入ったら、今まで築いてきた好感度が一気に下がりそうだし。……腹減ったけど、待つしかない。

 

 

 暇だったから、なんとなく目についた本棚から一冊抜き取る。セブルスの私的な蔵書が並ぶそこは、ほとんどが魔法薬関連の書籍だったが、いくつか呪文学や闇の魔術に関するものもある。……本当にやばい本は、ここには置いていないらしい。

 

 手に取ったのは、普通の呪文学の本だった。普通といっても頭に『特級』という言葉がつくかもしれないな。

 書かれている魔法の論理やら杖の振り方やらはかなり複雑で読んでいるだけで頭が痛くなりそうだ、文字もかなり細かいし、この本も余白部分にセブルスの書き込みが多くて読み難い。

 んー。一般的な魔法の応用だったり上級版が書かれてるな。あーでも、ちょっと失敗すると体が爆散するとか書いてるやつもある。

 爆散しても魔法族はギリ即死しないからすごいよな……。薬の準備は必須とはいえ。

 

 最後の方のページには、許されざる呪文について書かれていた。まあ、学ぶのは罪ではないので使い方や論理もしっかりと載っている。

 許されざる呪文あっても、余白の部分に何やら色々書かれている。……えーっと……これは服従の呪文のページだから……。

 

 

「何をしている」

「えっ? ……暇つぶしです」

 

 

 不意に隣から声がして、肩が跳ねた。

 いつの間にか薬の様子を見終わったセブルスが、すぐそばに来ていたらしい。何って、セブルスを待ってたんだけどな。

 

 セブルスは俺が読んでいる本に気づくと、しかめ面のまま、器用に片眉を上げた。

 

 

「“暇つぶし”と呼べるほど、この本を理解できるとは思えないが──挑戦する姿勢だけは評価しよう」

 

 

 腕を組み、小馬鹿にするように冷笑するセブルス。いや、『するように』じゃない。普通に小馬鹿にしている。

 

 俺の魔法センスは最高級だと知っているくせに、知能は残念ながらそこそこだと理解しているからこその態度だ。

 

──いやいや、知能はそこそこでも、俺だって魔法界暮らしは長いし、セドリックにそれなりに教わってる。この本が難解だとしても、余白に書き込まれた文字が何を意味するか、くらいは読み解ける。

 

 

「セブルス先生って、この三つの呪文の反対呪文を作ろうとしてたんですか?」

 

 

 本のページを指先でトン、と叩きながら言うと、セブルスは腕を組んだまま微かに表情を変えた。余白に書き込まれた論理や、一見支離滅裂な単語の羅列を俺が読み解いたのが、そんなに意外なのか?

 

 

「……研究者ならば、一度は挑戦するものだ」

「へえ。そうなんですね。──でも、無理だった?」

「……数々の英傑が“不可能”だと結論を出した」

 

 

 ため息が混じる声で、当然のように淡々と言うセブルス。その声音には、長く研究したからこその諦めと、どこか納得めいたものが滲んでいた。

 

 確かにこの三つの魔法──服従の呪文、磔の呪文、死の呪文には、反対呪文も防御魔法も存在しない。当たれば百パーセント効いてしまう。だから、使うだけで罪になる。

 

 

 磔の呪文は、最大級の苦痛を与えるものだ。正直に言えば、間接的に人を死に至らせる呪文は他にも多い。

 切り裂き魔法とか爆発魔法とか、人に向ければ普通に痛いし、死ぬ可能性もある。

 でも、それらの魔法には反対呪文や、無効化する術が存在する。だから、使っただけではアズカバン行きほどの罪にはならない。……まあ、事件にはなるらしいけど。

 

 

「反対呪文、作れそうですけどね」

 

 

 なんとなく呟く。

 セブルスは眉をぴくりと動かし、冷ややかな目で見下ろした。そのまま「思うのは自由だ」と言い捨てて、くるりと踵を返し扉へ向かう。

 俺は肩をすくめて、その後ろをついて行った。

 

 研究室の奥にある自室には、いつものように夜食が用意されていて、俺はいつもの席に座り、「おいしそー」と言いながらバゲットサンドイッチに手を伸ばす。ハムとチーズがいい感じで、普通に美味しい。

 

 セブルスが杖を何度か振って紅茶を入れているのを横目に、オニオンスープもひと口。これらは全部、俺のためだけに用意されていて、セブルスが口にするのは紅茶と少しのチョコレートくらいだ。俺と会う前に食べてるのかどうか知らないけど、お腹すかないのかな。

 

 

「……本当に反対呪文はあると思うか」

「んぇ?」

 

 

 唐突に切り出された。

 ちょうどバゲットサンドを口いっぱいに頬張っていたから、間抜けな返事になってしまった。

 

 場を繋ぐための雑談にしては妙に真剣な顔をしているセブルスを見ながら、こくり、と頷く。するとセブルスの眉間に深い皺が刻まれた。

 

 

「セブルス先生も、論理は色々書いてたじゃないですか。俺が読み取れたのは、まあ……少しだけですけど」

「……許されざる呪文の研究者がいないわけではない。魔法族にとって、その反対呪文を生み出すのは悲願でもある。閲覧可能な文献も多い──が、研究は進んでいない」

「へえ? なんでですか?」

「呪文の性質上、共同研究──いや、人体実験が必須だが、命の保障はない。一般人は生涯、許されざる呪文を目にしない可能性の方が高い……それ故に、研究は進まない」

 

 

 確かに。どれも動物実験だけでは成立しないタイプの魔法だ。

 

 かといって共同研究者が信用できないと、服従の呪文あたりは怖すぎるし、磔の呪文は繰り返し喰らえば精神が壊れる可能性がある。死の呪文は一発即死だ。

 

 許されざる魔法は闇祓いや死喰い人はばんばん使ってる印象があるけど、普通に暮らしている人からすれば、滅多にお目にかかることはないし、どこか他人事なんだろう。今はヴォルデモートの脅威があった時代でもないしな。

 

 

「服従の呪文は精神力ですぐ解けますし、磔の呪文は……感覚遮断の魔法を使えば痛みはないのかな? 死の呪文も、その呪文が届く前に別のものに当たればいいですしね」

 

 

 反対呪文はないが、防いだり緩和したりする術は一応ある。確かに、命がけで研究するほどのメリットがないのかもしれない。

 

 そう思ってつぶやくと、セブルスは人外でも見たような、呆れの混じる視線で俺を見た。小さくため息までついている。

 

 

「……それも、簡単なことではないが」

「あれ、そうなんですね」

 

 

 そうか。

 俺は最強の魔法使いだけど、一般的な魔法族からしたら、その魔法すら使えないのか。……そう考えると、反対呪文があった方が便利そうではある。反対呪文も難易度は高そうだけど。

 

 

「じゃあ、ちょっと研究してみます?」

「……正気か」

「せめて本気かって聞いてください」

 

 

 セブルスは疑い半分興味半分といった顔で黙り込む。飲んでいた紅茶のカップを静かに置き、ソファに深く背を預けると腕組みをして、指でトントンと腕を叩いた。……これはセブルスが深く思案する時の癖の一つである。

 

 セブルスも、俺の特異的で脅威的な魔法能力は知っている。研究者気質だし、すぐに共同研究に賛成するかと思ってたけど、なんでそんなに苦い表情で黙り込んでるんだろう?

 あ、そうか。一応人に使ったら一発アズカバン行きの魔法だから、その心配かな。

 

 

「人にかけるのは違法。とはいえ黙ってたらバレないですし、俺は魔法をかけられてもセブルス先生を訴えるつもりはないですし」

「……待て。……お前がかけられる方なのか?」

 

 

 低い声でセブルスが問いかける。

 信じ難い、というような声音に首をことん、と傾げた。

 

 

「え? ──まあ、はい」

 

 

 あっさりと頷けば、セブルスは苦い表情のまま長いため息を吐き、顔を片手で覆ってしまった。

 そんな呆れる発言じゃないだろ。だってセブルスに磔の魔法と服従の魔法かけるわけにいかないし! 俺が本気でかけたらマジで洒落にならない。ってか好きなキャラにかけたくないし。

 

 

「……お前は、危機管理能力が著しく低下している。持っている力に傲れば、必ず足をすくわれる日がくる」

「あー、肝に銘じときます」

 

 

 苦い表情でいうセブルス。なんとなく、昔のことを思い出しているんだろうなぁと思うし、それが叱責ではなく忠告なのはわかる。

 俺の魔法がどれだけ異常でも、油断が命取りになるってことを言いたいんだろう。

 とはいえ──俺が最強なのは事実だからなぁ。よほど闇討ちされない限りは。

 

 

「……それで、研究します?」

「……本当に、いいのか」

「俺も、死の呪文──は難しくても残りの二つくらいは反対呪文作れたらいいなって思ってたんです」

「……、……即答はできん。……来週まで待て」

 

 

 研究者として挑戦してみたい気持ちと、成人したとはいえ学生に許されざる呪文をかける人体実験をしていいのか、という理性で揺れているようだ。

 俺も、反対呪文は──あったら便利そうだな、と思うだけで早急に必要なものではないしな。

 

 

「はーい。……ところで今日のお菓子はあります?」

「……」

 

 

 セブルスは無言で杖を振り、棚の中から皿に乗ったクッキーとチョコレートを引き寄せた。

 

 

 

 

 そして一週間後の水曜日。

 いつものように魔法薬学の個人授業が始まり、いつものように匙をぐるぐる混ぜている。

 ちらり、と隣にいるセブルスを横目で見るけど、セブルスは相変わらず難しい表情をして真剣な顔で鍋の様子を観察している。

 個人授業が始まって一時間、全く許されざる呪文の研究について、触れてこない。

 ってことは、まあ、やらないってことなのかなあ。それはそれでいいけど。

 

 と、思いながら混ぜていたら、ちょっと予定よりも右回ししすぎた気がしたけど──ま、いいか。

 

 

「今日はここまで」

「はーい」

 

 

 今回の授業もいつも通り終了し、混ぜすぎて怠くなった腕を軽く振りつつ、散らかった調合台を片付ける。

 

 

「……今まで作った薬だが」

「はい?」

 

 

 セブルスは部屋の奥にある棚からラベルが貼られた三本の瓶はを取り出した。これは多分俺がこの個人授業で作ったものだろう。

 片付いた調合台の上に、セブルスは薬をことん、と置く。

 

 

「我輩が成分解析を行った結果、お前の薬は、教科書通りに作られたものではないにもかかわらず──いや、“だからこそ”か──完成した薬はすべて成功。効能は教科書が示す数値を上回り、毒性や副作用の痕跡すらない」

「あ、そうなんですね」

 

 

 そんな感じのことを前からセブルスが漏らしていたけど、今まで作った薬全てが傑作になってるとは思わなかった。

 ま、適当に材料を入れても、作り方を一度読んでいれば何故か成功するのは知ってたし。これもチート能力の一部なんだろう。特別驚きはないかな。

 

 セブルスは指先で瓶を撫でる。

 ……なんの薬を作ったのかは覚えていないけど、どの液体もかなり不味そうな色だ。

 

 

「偶然ではないことは、我輩が自ら研究し調べた。……論文を書け。三本は最低でも出せる。まともな学会なら教科書の改訂を迫られる。マーリン勲章三等は硬いだろう」

「え!? ろ、論文!?」

 

 

 論文!?

 脳が一瞬止まった。論文なんて前世でしか書いたことないし、しかも何十年も前の話だ。書き方なんて覚えていない。というか、普通に面倒くさいし嫌だ!

 

 その感情が、ありありと顔に出ていたらしい。セブルスが眉間に深い皺を寄せ、わざとらしく小馬鹿にした声音で言う。

 

 

「何か異論でも?」

 

 

 圧がすごい。異論を言わせない気迫が、部屋の空気ごと押し寄せてくる。けれど、ここで「はい喜んで」と言えるほど俺は素直ではない。

 

 

「俺の記述問題の成績知ってますよね!? 論文なんて、完成に何年かかるかわからないですよ……」

「百も承知だ。書き方は、我輩が直々に教えてやろう」

 

 

 あ、それなら……いやいや!

 セブルスの“直々”ほど怖いものはない。想像するだけで胃が痛い。細かいミスを一つ残らず指摘されて、草稿が真っ赤になる未来が簡単に見える。

 

 

「それならセブルス先生の名前で──」

 

 

 と言いかけた瞬間、セブルスの目がすうっと細くなる。

 空気が冷えた。反射的に口を閉じる。

 遅かったと悟るまで一秒もかからなかった。

 セブルスの口元が、ゆっくりと嘲笑に歪んだ。

 

 

「……ほう? 君は、我輩が人の功績を奪い賞賛を得ることを望む浅ましい人間だと思うのかね」

「思ってません。はい、すみません。論文、書きます。書きますよ……」

 

 

 思ってない。思ってないけど……ただ“めんどくさい”から逃げたかっただけだ。

 そんなことで怒らなくても、と口先だけ尖らせる。言葉にせず、態度だけで主張するのがせいいっぱいだ。

 セブルスの機嫌を損ねたら、論文どころか夜食まで巻き添えになりそうな気がする。

 

 部屋の静寂が、妙に重たく感じた。

 くそっ、逃げ道は完全に塞がれた。

 ……論文か。本当に書くことになるのか俺。書けるのか、俺。

 

 

 セブルスは、俺が嫌々ながらも納得したのを見て満足したのか、机に置いていた薬を棚に片付けると、いつものように鼻で軽く笑った。

 

 

「……不満そうな顔だな。論文を書く程度で、それほど機嫌を損ねるとは」

 

 

 いや、別に機嫌は損ねてない。ただ、“論文って面倒だな”って思っただけで……と苦笑して肩をすくめる。

 視線だけで俺の思考を読み取ったのか、セブルスは淡々と続けた。

 

 

「……ノア、君は天才ではない。頭脳だけで測るなら、ごく凡庸だ」

 

 

 サクッと言われた。容赦がない。

 俺は一瞬むっとしたが──まあ事実だから反論はできない。

「どうせ凡庸ですよ」と不貞腐れ気味に呟く。

 というか、俺に凡庸だなんて言える人、セブルスくらいだ。

 一応、世界的モデルで、世界一の魔法使いなんだけどな、と心の中でだけ威張ってみせる。……直接言える雰囲気じゃないのが悲しいところだ。

 

 

 セブルスは机に軽く背を預け、まっすぐ俺を見る。その目は、研究対象を見るような冷静さなのに、不思議な熱を孕んでいた。

 

 

「──だが、凡庸な術式で偶然と奇跡を手繰り寄せ、既存の理論をねじ曲げる──その“結果”を生み出す才能は、本物だ」

「……あれ? 褒められてます?」

 

 

 思わず漏れた言葉に、セブルスは表情を変えず、本棚へ杖を向けた。

 カチリ、と音がして、棚の一角がわずかにずれる。

 

 何度もこの本棚を見ていたのに気づかなかった。

 棚板の奥に、さらに隠された扉があって、開いた瞬間、古く乾いた空気が部屋へ流れ出した。セブルスは奥から一冊の黒革のノートをすっと抜き取る。

 

 視線を落とし、親指で表紙をゆっくり撫でる横顔は──遠い日を思い返しているようにも見える。

 

 

「魔法の歴史で名を残した幾人かも、論理では辿りつけない領域を“奇跡”によって拓き、進んだ」

 

 

 セブルスは静かに俺に歩み寄り、ノートを見せるように開いた。

 ページには細密な術式、線だらけの計算、上書きされた修正跡がいくつも重なっている。

 

 なるほど。

 これが、セブルスの研究ノートか。

 そういえば昔、挑戦したって言っていたな。

 

 

「……おそらく、これまでの英傑が砕け散った壁も、“別の角度”からなら突破できるやもしれん」

 

 

 視線がノートから俺へ移る。

 凡庸、奇跡、偶然──セブルスらしくない単語を繰り返した理由が、ようやく分かった。

 

 俺は理論を積んで辿り着くタイプじゃない。

 ただ“結果だけ先に掴む”ことがある。

 

 セブルスは、それを“奇跡”と呼んだ。

 

 ぱたん、とノートが閉じられ、差し出される。

 黒革の表紙は手に馴染むほど使い込まれていて、角が少し擦れている。

 

『許されざる呪文──反対呪文の論証』そのタイトルが目に入った瞬間、セブルスが短く言う。

 

 

「……薬でも、奇跡と偶然で“教科書を超える結果”を作れたのなら、許されざる呪文の反対呪文も──君の持ち前の偶然と奇跡で、生まれるかもしれない」

「……ははっ」

 

 

 セブルスが言うにしてはジョークにも似た軽い言葉で、つい面白くて笑ってしまった。

 ま、それを否定するつもりはないけど。

 

 

 ノートを見下ろし、そしてセブルスを見る。

 

 セブルスは一瞬だけ目を細め──すぐに、いつもの調子へ戻る。

 

 

「来週から共同研究を開始する。それまでに、この本を隅まで読み込め。──他言は禁じる」

 

 

 本当に何気ない言い方だった。

 重大な提案を、会話のついでみたいな温度で言うなよ、と思いながら、俺はゆっくり頷く。

 

 

「……はい、セブルス先生」

 

 

 ノートを受け取りながら笑うと、セブルスはわずかに眉をひそめた。

「本当にわかっているのか」と言いたげに──でも、目元が、ほんの少しだけ緩んだように見えた。

 

 

 

 

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