兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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168 イースター休暇

 

 

 イースター休暇がやってきた。

 この休暇はクリスマス休暇とは違って、実家へ帰省する生徒はそれほど多くない。というか、ほとんどがホグワーツに残る。春先で中途半端な時期だし、わざわざ帰るほどでもない、という判断らしい。

 

 その代わり、親たちは張り切る。

 イースターエッグという名目のチョコレートが、これでもかというほど送りつけられてくるのだ。結果、城のあちこちは甘ったるい匂いに包まれる。

 どうやらイギリス人にとってイースターとは、「チョコレートを食べ過ぎていい日」らしい。

 

 

 朝の大広間。

 梟便の時間になると、鮮やかな色紙に包まれたイースターエッグを籠いっぱいに積んだ梟たちが、ぱたぱたと天井から舞い降りてきた。

 生徒たちは一斉に歓声を上げ、机の上には大小さまざまな卵型チョコレートが積み上がっていく。包み紙の色も形もばらばらで、まるで即席の展示会だ。

 

 何かとプレゼントが届きがちな俺だけど、イースターエッグに関してはそれほど多くない。

 その代わり、なぜかうさぎ型の装飾品や置物、バニー服が届いたり……する。

 

 誰が得するんだ、これ。

 男の娘ならまだしも、成長した俺はどう見ても男だ。……いや、まあ、美形のバニーガールは確かに目の保養ではあるけど。

 流石にこの歳でバニー服はな……。

 

 そんなことを考えながら席につき、そこかしこで積み上げられたチョコレートの山を横目に、ソーセージを齧る。

 甘いものは嫌いじゃない。けれど、朝から漂うチョコレートの匂いがあまりにも強くて、すでに少し胸焼け気味だった。

 

 

 セドリックの元にも、もちろんイースターエッグは届いた。

 二羽の梟が、重たそうに羽をばたつかせながら運んできたそれは──例年よりも明らかに量が多い。

 どしん、と机に置かれた衝撃で、近くにあったミルク瓶が小さく跳ねたほどだ。

 

 

「うわ……母さん、張り切りすぎだよ……」

「これ、食べ切れるか?」

「うーん……」

 

 

 セドリックは苦笑しながら籠の中に手を伸ばし、束ねられた手紙を一通抜き取る。

 さっと目を通したあと、ふっと表情を緩めて言った。

 

 

「……『みんなで分けて食べてね』だって」

 

 

 安堵したような声音に、ほんの少し照れが混じっていた。やっぱり、セドリックのお母さんってセドリックを育てただけあって優しい人なんだよな。

 

 セドリックは籠の中を整理しながら、包みを一つ手に取る。

 

 

「これは、ノアへのイースターエッグだよ」

「ありがとう。……今年もすごいな」

 

 

 渡されたのは、水色と銀色のスプライト模様で包まれた、大きめのイースターエッグ。

 赤いうさぎ型のリボンまで付いていて、明らかに手が込んでいる。

 

 包み紙とリボンを外してみると、中身はただのチョコレートエッグではなかった。

 表面には、これでもかというほど盛られたアイシング。天使のような姿と、人魚のような影が細かく描かれている。

 

 ……いや、これ、俺か?

 

 思わず無言で見つめていると、横から覗き込んだセドリックが「うわあ……」と、感嘆とも困惑ともつかない声を漏らした。

 

 続けて、自分の分らしいハッフルパフカラーの包装を開く。

 こちらもやはり凝ったデコレーションで、アイシングで描かれているのは、向かい合って踊っている二人の人影だった。

 

 

「……僕のもすごいね」

 

 

 セドリックは照れたように笑い、少しだけ視線を逸らした。

 

 

「他のは……普通のチョコエッグだね」

 

 

 残りのものは、鶏卵ほどの大きさで、過度な装飾もない至ってシンプルなチョコレートエッグだった。

 包み紙の色も落ち着いていて、さっきの派手なデコレーションと比べると、いかにも“量産型”という感じがする。

 

 

「ノア、いくつかいる?」

「そうだな……じゃあ、二つ」

「はい、どうぞ。──僕も二つ食べよ」

 

 

 籠の中から四つのイースターエッグを取り分け、テーブルの端に並べる。

 それでも籠の中には、ぱっと見ただけで二十個前後は残っていそうだった。

 

 

「ちょっと配りに行ってくるね」

 

 

 そう言って、セドリックは籠を抱えて立ち上がる。

 “配る”と言っても、他の生徒たちも似たような量のイースターエッグを受け取っているはずだ。日持ちはするとはいえ、正直もらって困るやつもいるんじゃないかと思う。

 ……誰に渡すつもりなんだろう。

 

 シェパーズパイにかぶりつきながら、長机の間を歩いていくセドリックの後ろ姿を目で追う。

 きょろきょろと周囲を見回す様子から、なんとなく察しがついた。行き当たりばったりじゃない。ちゃんと、渡す相手を考えているんだろう。

 

 まず、少し離れたところに座っていたハッフルパフの下級生の肩を、そっと叩く。

 身をかがめて何か短く話しかけると、下級生はぱっと顔を輝かせ、歓声を上げた。

 両腕から溢れそうなほどのイースターエッグを抱え、お礼もそこそこに友達の方へ駆けていく。

 

 次は、迷いのない足取りでレイブンクローの机へ。

 一人の生徒に声をかけ、少し話してから、同じようにイースターエッグを渡す。

 

 そのままスリザリンの長机にも向かい、何人かに声をかけては籠の中身を減らしていく。

 意外なことに、断る生徒はいない。受け取った連中は、驚いた顔をしながらも、どこか嬉しそうだった。

 

 最後に向かったのは、グリフィンドールの机。ハリーたちのところまで行くと、籠を傾けて、残っていたイースターエッグをすべて渡していた。

 

 

 物の数分もしないうちに、大量にあったイースターエッグはすべて姿を消した。空っぽになった籠を抱えて戻ってきたセドリックは、何事もなかったかのような顔で俺の隣に腰を下ろし、「お腹すいたなぁ」と呟きながら、テーブルの上のスコーンに手を伸ばした。

 

 あの量がすべて捌けるなんて思っていなかった。それも一度も断られることなく、だ。

 思わずじっと見ていると、視線に気づいたセドリックが「なに?」とでも言うように、首をかしげた。

 

 

「いや……すぐ無くなったから驚いた。すごいな」

「そんな大袈裟な。ただ……あんまり持ってない人に押し付けただけだよ」

 

 

 なんでもないことのように言って、今度はスープに手を伸ばす。

 

──ああ、なるほど。

 

 セドリックが声をかけていた顔ぶれを思い返す。

 みんな、家庭事情に少し影を抱えていそうな生徒ばかりだった。

 子ども全員が、当たり前にイースターエッグをもらえるわけじゃない。ハリーみたいに複雑な事情を抱えたやつは、俺が知らないだけで他にもいる。

 そういえば、秘密の部屋が開けられた時クリスマス休暇に帰らなかった生徒も少しはいたもんな。あんな時に帰れない家は、間違いなく問題を抱えていたんだろう。

 

 

「僕は助かったけど、もしかしたら、迷惑だったかも」

 

 

 そう言って、セドリックは小さく肩をすくめる。謙遜というより、本気でそう思っている口ぶりだ。

 

 いや、どう考えても──。

 

 

「みんな、喜んでただろ」

「そうかな? なら良かった」

 

 

 セドリックはそう言ってふわりと柔らかく笑った。

 どうみてもみんな嬉しそうだった。というか、同じハッフルパフ生はともかく、別の寮の奴の家庭事情なんてよく知ってるな。俺と一緒に過ごしてるのに、意外とよく見てるんだなぁ。

 

 

 俺には真似できない、あまりにも自然な思いやりと、押しつけがましさのない温かな優しさ。それを見ていると、改めて「セドリックらしさ」をしみじみと感じる。

 ……できた男すぎるだろ。こういうの、スーパーダーリンって言うんだっけ? いや、ちょっと違うか。

 

 

「いい奴だよなぁ、セドって」

「え……そうかな? 普通だよ。……でも、ありがとう」

 

 

 そう言って、セドリックは照れたように笑った。

 

 

 その直後、ふいに視界が翳った。

 大広間の長机と、皿の上に並ぶ料理やイースターエッグの表面を、すっと影が横切った。

 

 周囲がざわめくのと同時に、俺とセドリックは揃って顔を上げる。

 

 天井付近で羽を大きく広げ、ゆったりと旋回している大鷲は──どう見ても、俺のペットのシロだった。

 生徒たちの驚きや囁きなど意に介さず、堂々とした軌道で空を切る。

 

 俺に気づいたのか、シロは進路を変え、そのまますっと高度を落とした。

 羽ばたきの音も、風を切る音もほとんど立てず、俺の目の前に正確に着地する。

 

 差し出されたのは、小さな籠だった。

 

 ナッツ色の籠は白いレースとクロスで丁寧に飾られ、縁に結ばれた細い紐が光を受けて淡く揺れている。

 中には柔らかな綿が敷き詰められ、その上に、銀色のイースターエッグが一つ、宝石のように収まっていた。

 

 卵の隣には、蝋で封じられた手紙が一通。

 控えめだが、確かに“特別”だとわかる佇まいだった。

 

 

「ありがと」と言って、皿の端に残っていたベーコンの切れ端を一つ取る。

 シロはそれを当然のように受け取り、満足げに首を揺らした。

 

 首元を軽く撫でてやると、嬉しそうに頭を擦りつけ、一声低く鳴く。

 指先を甘く噛んだかと思えば、次の瞬間には翼を広げ、天井へ向かって飛び立った。

 そのまま、開け放たれていた窓から外へ消えていく。

 

 しばらく視線で見送ってから、手元に残った手紙へ意識を戻す。

 蝋を割り、紙を開いた。

 

 

『これは貴方様のイースターエッグとなるでしょう』

 

 

 見慣れた文字で、それだけが書かれていた。

 差出人の名はない。けれど、シロに配達を任せられる人間なんて、最初から一人しか思い浮かばない。

 

 

「家から届いたの?」

「ああ。……これは、“俺の”イースターエッグだ」

 

 

 セドリックが興味深そうに覗き込むのも無理はない。今まで、俺のところにイースターエッグなんて届いたことはなかった。

 もっとも、誰が送ったのかは、セドリックもなんとなく察しているのだろう。「すごく凝ってるね」と素直に頷いた。

 

 卵を手に取る。

 ひんやりとしていて、思ったよりも軽い。

 軽く振ると、中で何かが動いた感触が、確かに指先に伝わった。

 

 ……さすがに、ここで開けるのはまずいな、後で部屋に戻ってからにしよう。

 そう判断して、イースターエッグをしっかりとポケットにしまう。その上から、無意識に一度だけ撫でた。

 

 籠は役目を終えたようなものだし必要ないからそのまま消して、止まっていた食事に戻り、フォークを取る。

 

 長くかかった。

 けれど──クィレルは、ちゃんと辿り着いたらしい。

 

 

***

 

 

 イースター休暇の最終日。

 空はまだ明るさを残しているけれど、日差しはすでに傾き、時間帯で言えば夕方と夜の間くらいだ。

 普段ならこの時間、クィディッチの最終シーズンに備えた練習の声が校庭から聞こえてくる頃だけど、今年は大会そのものがない。外はいつになく静かで、城全体も落ち着いた雰囲気に包まれていた。

 

 

 手紙を出すために梟小屋へ向かう。

 明日からは授業が再開するし、今のうちに片付けておきたい用事がいくつかある。手紙も、その一つだ。クィレルにアレがどうだったかも伝えなきゃいけないし、きっとクィレルは俺の賞賛を今か今かと待ってるだろう。それこそ首を長くして。

 そういえば、シリウスは大人しくハリーと鏡越しで喋ってるのかな? 本当なら会いに来たりしてたけどそんな危険犯さなくても大丈夫だし……いや、シリウスの性格を考えたら「それでも会いたい!」とか言いかねない。

 リーマスもずっとシリウスを見張れないだろうし……。シリウスはまだ逃亡犯なんだから大人しくしてて欲しいんだけどな。あと数ヶ月くらい。

 

 

 木の扉を押し開ける。

 梟小屋の中には、いつも通り独特の匂いが漂っていた。羽と藁、それにほんの少しの湿気が混ざった空気。嫌いではないけれど、慣れていない人間には少しきついかもしれない。

 

 止まり木に並ぶ梟たちは静かで、羽を揺らす気配もほとんどない。外から差し込む光が、入り口付近だけをぼんやりと照らしていて、奥の方はすでに薄暗かった。

 

 シロは、俺が入ってきたのに気づくとすぐにこちらへ寄ってきて、当然のように足を差し出す。

 その足に手紙を結びつけ、ぽん、と軽く体を叩いた。

 

 

『クィレルに渡してくれ』

『わかりました』

 

 

 静かにそう返すと、シロは羽をゆっくりと広げる。

 一度だけ俺を振り返り、それから遠くが藍色に染まり始めた空へと飛び立っていった。一番星が、ちょうどその先で瞬いている。

 

 窓辺に立ち、その姿が見えなくなるまで目で追っていた、その時──。

 

 

「ノア!」

 

 

 名を呼ばれて振り返る。

 入り口の方から、ドラコがこちらへ歩いてくるところだった。目が合った瞬間、ぱっと表情が明るくなるのがはっきりと分かる。

 

 

「ドラコ。……なんだか久しぶりだな」

 

 

 寮も学年も違うし、今年はそれほど大きな騒ぎも──少なくとも今は──起きていない。こうして話すのは、かなり久しぶりだ。

 もちろん課題が始まる前には、「頑張れ!」と顔を出してくれてはいたけれど、あれは応援であって、こういう時間とは少し違う。

 

 ドラコも同じことを思っているのか、頬をわずかに赤らめながら──それでもどこか、少しだけ寂しそうに笑った。

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

 ドラコの背後には、いつもの取り巻きの二人も、ハリーたちの姿もない。

 手には上質そうな封筒を一通持っていて、俺の視線に気づくと、軽くそれを掲げてみせる。

 

 

「父上に。ノアは、もう出したのか?」

「ああ」

「少し待ってくれ。すぐに終わるから」

 

 

 そう言うと、ドラコは迷いのない動きでマルフォイ家のフクロウを見つけ出し、手紙を足に結びつけた。

 窓から放たれたフクロウは、羽音を立てて夕空へと消えていく。

 

 一緒に帰りたいんだろうな。

 城までは、ゆっくり歩いても数分だ。急ぐ理由もないし、ドラコもせかせかする様子はない。

 

 

「……散歩でもする?」

「っ……ああ、そうしよう」

 

 

 俺の提案に、一瞬だけ驚いたように目を瞬かせてから、ドラコはぱっと顔を明るくした。

 そのまま俺の隣にぴたりと並び、肩が触れそうな距離で歩き出す。

 

 ドラコの表情は、口元をきゅっと引き結びきれず、笑みがこぼれてしまった、という感じの表情だった。

 どこか照れくさそうで、それでも隠しきれない嬉しさがそのまま顔に出ていて──多分、心を開いた人にだけ見せる、素直で年相応の顔なんだろう。

 

 

 校庭に出ると、空はオレンジと紫が溶け合った色をしていた。端の方はすでに藍色に沈み、城の影が芝生の上に長く伸びている。

 風は冷たすぎず、歩くにはちょうどいい温度だった。

 

 

「今日、帰ってきたばかりか?」

「ああ、昼に。ノアは休暇中、何をしていたんだ?」

「んー……課題と、復活の準備」

 

 

 ドラコはきょとんとした顔で目を瞬かせる。

 すぐに、イースターにかけた冗談だと気づいたらしく、肩を揺らしてくすりと笑った。

 

 

「なるほどな」

 

 

 それからドラコは、空のグラデーションを眺めながら、第二の課題での俺の姿がどれほど美しく、どれほど素晴らしかったかを熱弁し始めた。

 聞いていると、少し──いや、だいぶ美化されている気もするが。美声にみんなメロメロだったって……俺人魚の姿で歌ってないよな? ……うん、歌ってない。

 

 

「スリザリンでも、みんなノアを応援してるし、いつも話題にしてる。……まあ、当然だ」

「そっか、ありがとう」

 

 

 短く返すと、ドラコは満足そうに頷いた。

 

 しばらく他愛もない話をしながら歩き、校庭を半周ほど回ったところで、自然と足が止まる。

 空はすっかり暗くなり、森の奥から吹き抜ける冷たい風が髪を撫でていった。そろそろ城内の暖かさが恋しくなる時間だ。

 

 自然と足は樫の木の門へ向かい、並んで階段を上っていると──ドラコが、ふと思い出したように口を開いた。

 

 

「……そういえば──」

「ん?」

 

 

 振り向いたドラコは、一瞬だけ視線を揺らし、言葉を選ぶような間を置いてから、続きを口にした。

 

 

「勘違いかもしれないが──母上に、手紙を出したか?」

「んー……なんでそう思った?」

 

 

 問い返すと、ドラコは少し気まずそうに視線を逸らした。

 

 

「イースター休暇の時、母上が手紙を受け取って……すごく──その──叫んだんだ」

「叫んだ?」

「ああ。かなり驚いて……でも、嬉しそうだった」

 

 

 一拍置いて、ドラコは小さく付け足す。

 

 

「母上が、あんな反応をするのは……ノアだけだろう?」

 

 

 まあ、否定はしづらい。

 あのナルシッサの感情を爆発させることができる人なんて、そう多くないだろう。

 

 俺が答えを返さないでいると、ドラコは少し逡巡するように唇を噛み、意を決したように続けた。

 

 

「……もし、本当に母上に出したなら」

「ん?」

 

 

 ドラコは一歩近づいてきて、俺のローブの袖をきゅっと掴む。

 力は弱いけど、逃がさない、みたいな掴み方だ。

 顔を上げて、じっとこちらを見る。

 

 

「……なぜ僕じゃないんだ?」

「……」

「僕も、ノアからの手紙が欲しい」

 

 

 口の奥でもごもごと、唇をちょんと尖らせて。 

 

 素直すぎて、少し驚く。

 同時に、……可愛いな、と思う。あんまりいないよな、こう言うタイプ。

 スリザリン生に囲まれてるドラコはツンツンしてるけど、やっぱ俺の前では普通の少年っぽくて可愛いんだよなぁ。

 

 俺は一瞬だけ視線を逸らしてから、口元を緩める。

 

 

「……じゃあさ」

「?」

「秘密の文通でもするか?」

 

 

 ドラコの目がぱっと見開かれる。

 

 

「! し、したい!」

 

 胸の前で両手をぎゅっと握り、何度も頷く。

 隠そうとしているのに、嬉しさがそのまま表に出ていた。

 

 

「じゃあ決まりだ」

「……うん!」

 

 

 そこで、ふとドラコが思い出したように首を傾げた。

 

 

「──で?」

「ん?」

「本当に……母上に手紙を送ったのか?」

 

 

 俺は一瞬だけ間を置いてから、人差し指を口元に当てた。

 

 

「それは──秘密」

 

 

 そう言って、軽く笑う。

 ニヒル、というほどでもないが、誤魔化すにはこの笑顔と手紙の約束で十分だろう。

 

 ドラコは一瞬固まり、それからぽっと頬を赤らめた。

 

 

「わ、わかった」

 

 

 それ以上は聞かない、という意思表示のように、はっきりと頷く。

 ちょうど階段を登り切り、自然と俺たちは歩みを止めた。

 

 

「じゃあ、またな」

「ああ」

 

 

 大広間前で別れ、ドラコは地下にあるスリザリン寮へ、俺は食堂側にあるハッフルパフ寮へと向かう。

 

 さて、課題の仕込みは終わったし、手紙も出した、探し物も見つかったし──。

 

 

 あとは、時が来るのを待つだけだ。

 

 

 ふっと口先だけあげて笑う。

 軽い足取りで樽の前へ向かった俺は、杖を出しトン、と軽く叩いた。

 

 

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