兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

170 / 180
170 メリットのない人

 

 

 五月の末、ようやく最後の課題が発表される事になり、ハッフルパフ寮から集合場所のクィディッチ競技場へ向かう。

 集合時間は夜の九時。なんでそんな遅い時間にするんだろ、せめてもう少し早かったらいいのに、と欠伸を噛み殺しつつ玄関ホールへ伸びる廊下を歩いてると、同じように課題の内容を聞きに行くハリーと出会った。

 

 

「今度はどんな課題なんだろうね?」

「うーん。最終だし、複合的な物かもなぁ」

 

 

 ハリーは少し緊張しているようだった。

 今から発表される内容によっては事前準備も必要だ、とか考えているんだろうな。第一も第二の課題も、ハリーは結構偶然と奇跡でなんとかなっていたし。

 

 どんな課題なのか、と話しながら樫の扉を開け石段を降りる。

 外は曇り空で、星はほとんど見えない。月明かりも薄くて、景色の輪郭がぼんやりしていた。いつもより暗く寒く感じるのは、そのせいだろう。

 

 暗い芝生を歩き、競技場のスタンドの隙間を通ってピッチへ出る。いつもは整えられた芝生が美しいピッチだが──。

 

 

「な、なにこれ!?」

 

 

 ハリーは驚愕と憤慨を混ぜた声で叫び、高い生垣を呆然と見た。その生垣は長く続き、果てがない。変わり果てたクィディッチのピッチにハリーはそれ以上声が出ないようだった。あー、綺麗なクィディッチのピッチだったのになぁ。

 

 

「ハリー! ノア! こっちだ!」

 

 

 生垣の中からバグマンの声がする。

 俺とハリーは顔を見合わせる。この中に入れって事か? まあ、行けないこともないだろうけど……入り口くらい作っといて欲しい。

 

 先にハリーが意を決したように生垣へ手を伸ばし、枝を掻き分けてずんずん突き進む。俺もローブの裾を持ち上げつつ、その背中を追った。

 葉は夜の湿気を吸っていて、触れるとひやりと冷たい。青い匂いが濃くて、鼻の奥がつんとする。頬に枝が当たってちくちくするのが地味に痛い。

 

 生垣を掻き分けた先は開けた場所になっていて、バグマンの他にフラーとビクトールも待っていた。二人とも俺たちが到着し事に気づき少しだけ口元を緩めた。

 

 

「よし、揃ったな? 後一ヶ月もすれば六メートルほどの高さまで成長するだろう。──なに、心配するな、課題が終わればピッチは元通りにして返すよ!」

 

 

 クィディッチ好きのハリーが露骨に嫌そうな顔をしていることに気づき、バグマンはニコニコと笑いながら言った。

 

 

「さて──私たちがここに何を作っているのか、想像できるかね?」

 

 

 バグマンは俺たちを順に見回す。

 ハリーは肩をすくめ、ちらりと俺を見た。俺はフラーとビクトールの様子を見る──どうやら、彼らは察しているようだ。察しているのか、すでにリークされていたのかは微妙なところだけど。

 

 

「迷路」

 

 

 ビクトールが唸るように答えた。バグマンはパチンと手を叩き、「その通り!」と大げさに頷く。

 

 

「第三の課題は迷路だ。迷路の中心に三校対抗優勝杯が置かれる。最初にその杯に触れたものが満点だ!」

「迷路を早く抜けるだけでーすか?」

 

 

 フラーが落ち着いた声で尋ねると、バグマンは快活に笑ったまま首を振った。

 

 

「いや、障害物がある。ハグリッドが色々な生き物を置くし、いろんな呪いを知っていないと──まあ、そんなところだ。

 これまでの成績でリードしている選手が先にスタートして迷路に入る。先にミスター・ゾグラフ、次にミスター・ポッター。ミスター・クラム、ミス・デラクールの順だ。しかし、全員に優勝のチャンスはある。障害物をどううまく切り抜けるか、それ次第だ。面白いだろう?」

 

 

 この中で楽しそうなのはバグマンだけで、ハグリッドがどんな生物を“面白い”と思っているか知っている俺とハリーはなんとも複雑な表情しか返せなかった。

 絶対やばいやつだ。尻尾爆発スクリュートも来るはず。後一ヶ月でどれだけ大きくなるんだろう。尻尾爆発スクリュート、作られた生き物だからか、喋る知能ないんだよな。

 

 

「質問は無いかな? なければ城に戻るとしようか、ここは少し冷えるようだ……」

 

 

 俺たちが頷くと、バグマンは満足そうに笑って、話を切り上げた。

 もうすぐ六月とはいえ、夜はやっぱり冷える。生垣の湿気がローブ越しに染みてくる感じもして、正直、早く寮に戻りたかった。それに、眠いし。

 

──と、思ったその時。

 

 ビクトールがハリーの肩を叩いた。

 

 

「ちょっと話したいんだけど」

「え? いいよ」

 

 

 まさかビクトールに話しかけられると思わなかったハリーは驚いてはいたが、すぐに頷く。

 

 

「君と一緒に歩いてもいいか?」

「オーケー」

「あ、俺先に帰ってようか?」

 

 

 ビクトールがハリーに何の話するのかちょっと気になるけど、聞いてほしくない話題かもしれないし。と思って城の方を指差してみたら、ビクトールは「かまわない」と首を振った。

 いいならいいか。……こんなイベントあったっけ?

 

 

 クィディッチ競技場を出たあと、ビクトールはダームストラングの船の方へは戻らず、そのまま禁じられた森の方向へ歩き出した。

 夜の芝は湿っていて、足音が鈍く沈む。俺とハリーはちらりと目を合わせ、肩をすくめるしかなかった。

 何か話したいことがあるんだろう。

 

「どこに行くんだ?」と聞けば、ビクトールは「盗み聞きされたくない」と低い声で言い、船とハグリッドの小屋、ボーバトンの馬車も通り過ぎた。

 しばらく歩いて、禁じられた森の近くの周りに何もない静かな空き地に出たところで、ようやくビクトールは立ち止まった。俺たちも自然に足を止める。

 

 ビクトールは真剣な顔でハリーに向き直る。その決意に満ちた表情に、ハリーは少しだけ身構えた。

 

 

「知りたい。君と……ハーミィ・オウンニニーの間に何があるのか」

 

 

 もっと物騒な話を覚悟していたらしいハリーは、拍子抜けしたように肩の力を落とした。

 

 

「何にもないよ。ハーマイオニーとは友達だ。僕たちは一度だって恋人だったことはないし、これからもない。スキーターって女がでっちあげただけだ」

「でも──ハーミィ・オウンニニーはいつも君のことを話題にする……ノア、本当に違うのか?」

「どう見ても友達だな。ハーマイオニーはハリーのお姉さんポジションじゃねえ?」

「お姉さんって……友達だよ」

 

 

 ハリーはハーマイオニーが“お姉さん”という事に少し嫌そうな顔をしたが、ハーマイオニーはハリーとロンの親友である前に、まじで二人の姉ポジだと思うぞ。……ロンとは将来恋人になるとしても、だ。

 俺とハリーが「恋人じゃない」と断言した事で、ビクトールは少し気が晴れたような顔をして表情を緩ませる。そして、思い出したように口を開いた。

 

 

「ハリー、君は飛ぶのがうまい、第一の課題の時に、そう思った」

「ありがとう。僕もクィディッチワールドカップで君のことを見たよ、すっごい箒捌きだった」

 

 

 ハリーは疑念が晴れたことと、箒の腕を褒められた事に嬉しそうにしながらビクトールの腕をぽんぽんと叩く。ビクトールは少し照れつつ俺とハリーを見た。

 

 

「第三の課題が終わったら、後で、時間がある。三人で、飛ばないか?」

「おーいいじゃん」

「うわー! 最高だ!」

 

 

 ビクトールの提案にハリーは興奮したように目を輝かせた。

 その時、ビクトールの背後の木立ちの中で何かが動いた気がして──俺とハリーは同時にビクトールの腕を掴み、引っ張った。

 

 

 後ろへ引かれたビクトールは、「ど、どうした?」と俺とハリーを見比べた。ハリーは小さく首を横に振って「わからない」と言う。

 禁じられた森には色々やばい生き物が隠れ潜んでいる。それを知っているハリーは警戒を緩めず真剣な顔で木の間の闇をじっと見つめた。

 俺とハリーがほぼ同時に杖を抜くと、ビクトールも息を呑んで杖を出した。

 

 

 ざわ、と木の葉が揺れる──近くの大きな木の影から、ゆっくりと一人の男が現れた。

 

 現れた男は、よろめき、木の根に躓きながら前へ出てきた。

 クラウチだ。審査員の一人──だったはずの人間の姿が、もうその肩書きを名乗れないくらい、ひどい状態になっている。アズカバン帰りって言われたほうが納得する風貌だ。

 ローブの膝は破れて、そこから血が滲んでいる。顔にも枝で擦ったような細かい傷がいくつも走っていて、乾きかけた血が黒くこびりついていた。目は焦点が合っていなくて、虚ろに宙を泳いでいる。

 

 きっちり分けていた髪も乱れ、無精髭が伸びていた。どこか遠くから歩いてきたというより、何かから逃げてきた──そういう崩れ方だ。

 

 ……あ。

 

 嫌な記憶が、遅れて脳の中を過ぎて行く。

 

 

──やばい。これ、クラウチが消えるイベントか!

 

 

 忘れた! そういえば、そんなイベントがあった気がする。第三の課題までもう何もないと思ってた……。俺、絶対ここにいない方がいいやつ。うわ、やばい!

 

 

 クラウチは、浮浪者みたいな格好で、ぶつぶつ独り言をこぼしていた。身振り手振りまでついてる。誰かと会話してるみたいなのに、相手がいない。──いや、本人の中にはいるんだろうけど……。

 

 

「審査員の一人じゃないか?」

「うん……」

 

 

 ビクトールとハリーも、さすがにこれがクラウチだと気づいたらしい。放っておくこともできず、そろそろと近づいた。

 クラウチは俺たちが近づいていることに気づかないのか、近くの木の幹へ向かって、役者みたいな口調で話しかけ続けていた。

 

 

「……それが終わったら、ウェーザビー、ダンブルドアにふくろう便を送って、試合に出席するダームストラングの生徒の数を確認してくれ。カルカロフが、たったいま、十二人だと言ってきたところだが……」

「クラウチさん?」

「……それから、マダム・マクシームにもふくろう便を送るのだ。カルカロフが一ダースという切りのいい数にしたと知ったら、マダムのほうも生徒の数を増やしたいと言うかもしれない……そうしてくれ、ウェーザビー、頼んだぞ。頼ん──」

 

 

 べらべらと続けていたクラウチの言葉が、突然ぷつりと切れた。口が動かなくなったというより、何かに引っかかったみたいに止まる。それから、よろよろと脇へそれて、崩れ落ちるように膝をついた。

 

 近くで見ると、指先は土だらけで、爪は割れ、そこから血が滲んでいてひどい。かなり、抵抗してきたんだろう。

 

 

「クラウチさん? 大丈夫ですか?」

「この人は、どうしたんだ?」

「わからない。どうしよう──誰か連れてこないと」

 

 

 ハリーが困惑した声で呟いた、その瞬間。

 

 項垂れていたクラウチが、びくりと反応した。糸が急に引かれたみたいに身体が跳ね、よろめきながら立ち上がる。目が、どこか一点に向いた──いや、向いた“ように見える”だけで、やっぱり焦点は合っていない。

 

 

「ダンブルドア!」

 

 

 嗄れ声で喘ぐように叫び、クラウチはハリーのローブを、指が食い込むほど強く掴んだ。だけど、その目はハリーを見ていない。ハリーを通り越して、もっと遠いところを見ている。

 

 

「私は、会わなければ──ダンブルドアに──」

「いいですよ。立てますか? クラウチさん、一緒に行きますから──」

「私はバカなことを……バカなことをしてしまった……話さなければ、ダンブルドアに……」

 

 

 クラウチの顔は苦悶で歪み、懺悔みたいな言葉が、息と一緒に漏れていく。

 ハリーは肩を貸しながら、必死に声をかけ続けた。でも、その声は届いていなさそうだ。クラウチの頭の中は、たぶん別の場所にあるし、目の前にいるのがハリーだとも気づいてない……いや、わからないんだろう。

 かなり強い服従の呪文、なのかな? これ誰がかけたんだっけ? クラウチJr.? ペティグリュー?

 

 

 ビクトールも反対側からクラウチを支えているが、顔は露骨に警戒している。「こいつイカれてる」と言いたげな胡散臭そうな目で見て、口をぐっと閉じている。

 まあ、そう見えるのも無理はないな、どう見ても正気じゃない。

 

 クラウチは支えられていても上手く歩く事ができていない。もう満身創痍なんだろう。

 ハリーはクラウチを連れて行くことを諦め、ここにダンブルドアを連れてきた方が早いと判断したようで、クラウチを近くの木のそばに座らせた。

 

 

「ノア、クラム、二人はここで待ってて! 僕、ダンブルドアを呼んでくるから!」

「ああ、その方が早そうだな」

 

 

 俺が頷くと、ハリーはすぐにクラウチから離れた。……が、その動きが刺激になったのか、クラウチがまたぎくりと反応して、ずるずると這うみたいにハリーの膝あたりへ縋りついた。

 

 

「私を、置いていかないで……ひとりにしないでくれ……」

 

 

 震える声で囁く。喉の奥で擦れるみたいな、乾いた音が混じっていて、ハリーは少し狼狽えていた。ローブを掴む指先が白く、必死さだけで形を保ってる、そんな掴み方だった。

 

 

「逃げてきた……警告しないと……言わないと……ダンブルドアに会う……私のせいだ……みんな私のせいだ……バーサ……死んだ……みんな私のせいだ……息子……私のせいだ……ダンブルドアに言う……ハリー・ポッター……闇の帝王……より強くなった……ハリー・ポッター……」

「っ──クラウチさん! すぐダンブルドアを呼んできますから! ノア、どうにかできない?」

 

 

 あまりのクラウチのしつこさに、ハリーは俺に助けを求める。

 クラウチの目は飛び出し、震える唇からは涎が垂れている。正気を失ってるクラウチを正気に戻す方法は──あるけども。

 でもこの人は、この後死ななければならない存在なんだよな。

 

 どうしようかな、このイベントすっかり忘れてた。俺が望む未来のためには、クラウチはここで原作通り死ぬしかない。……うん、どう頑張っても救うことはできない。

 この展開を覚えていたら、バジリスクに頼んで森の中徘徊してもらって救えたけど。今はもう──あの闇の向こうにムーディがいるだろうし。下手に動くと……ムーディはハリー以外は死んでもいいって思ってるだろうし。ビクトールが危険だ。

 

 

「うーん……やってみるか」

 

 

 それでも、必死なハリーのお願いを無視することはできない。

 

 俺はクラウチの前へ回り込み、目線を合わせるためにしゃがみ込んだ。

 近づくと、泥と血と湿った土の匂いがつんと鼻を刺す。この人、何日かけてここまで来たんだろう。本当、最後は執念だったのかな……。

 頬は枝で切れた跡だらけで、乾いた血が斑に残っている。

 指先で軽く頬に触れると、肌は冷たく、ざらついていた。生きてるのに、体温が低い。

 

 

「クラウチさん」

「ダンブルドアに……早く……」

「クラウチさん──俺の目を見て」

「あ……」

 

 

 頬を手で包み、俺の方を向くようにする。きつめに“お願い”して、ようやく目があった。

 解けかけていた服従の呪文より、俺の“お願い”の方が効き目の方が強いらしい。クラウチは、暗い目で茫然と俺を見た。

 

 

「ここにはあなたを害する者はいない。あなたに苦痛は訪れない。安心して……もう大丈夫。俺は、全てわかっているから。ほら、もう何も感じないだろう? だから、ここで静かに待つんだ」

「あ──ああ……そうだ……」

 

 

 クラウチの指が、少しずつ力を失う。ハリーのローブから手が外れて、地面に落ちた。

 クラウチはそのまま、ふらりと座り込む。背中を木に預けるでもなく、ただ座った。

 こわばり狂っていた表情が穏やかになり、昔見たクラウチに少しだけ近づいた。目はとろんとしていて、意識は遠い。

 

 俺はハリーに目配せした。ハリーはすぐ頷いて、踵を返す。

 

 

「すぐ呼んでくる!」

 

 

 そう言い残して、ハリーは夜の芝を蹴って城の方へ走っていった。

 

 

 クラウチを死から逃すことはできない。

 でも、せめて死ぬ前にまやかしでもいいから、安心して欲しかった──そう思うのは、俺のエゴなんだろう。

 死ぬのがわかっていて、見殺しにするせめてもの罪滅ぼし、なんて。

 

 

「この人、どうしたんだ? 気が狂った?」

「わからない。……正気じゃないのは確かだな」

 

 

 俺がそう返すと、ビクトールは眉をひそめた。クラウチは涎を垂らしたまま、地面の一点を凝視している。さっきまで喋っていたのが嘘みたいに静かで、その静けさが逆に気味が悪いのか、ビクトールは一歩、二歩と無意識に後ろへ下がった。

 

 

 一陣の風が吹き、禁じられた森の木々がざわめく。

 その時、森の縁の空気がほんのわずかに変わった気がした。

 多分──最近セブルスと闇の魔法ばっかり研究してるから敏感になっているんだろう。ビクトールは気づいていないようで、城の方を見ながらそわそわと落ち着かない雰囲気だ。

 

 クラウチは、ここで消えないといけない。

 いきなりだったからこの後の流れをあんまり覚えてないけど、ムーディに……クラウチJr.にとって、この人が生き残るのは厄介すぎるもんなぁ。家宅捜索されたら終わりだし。

 

 ちょっと後味悪いけど、ここでクラウチを生かすメリットは──ないし。

 

 

 俺はため息をつきそうになって、やめた。

 あまり関係ない動きをすると、後ろで隙を見計らってるやつが警戒しかねない。

 

 ローブのポケットに両手を突っ込み、隙を演出して、なるべく普通に立つ。

 

 

「ハリー、もうすぐ来るかな」

 

 

 自分でも驚くほど平然とした声が出た。

 ビクトールの隣に並び、自然な流れでクラウチから視線を外す。城の灯りの方をぼんやり見て──。

 

 その瞬間、背後の気配が揺れた。

 

 

「うっ!?」

「──んっ?」

 

 

 白い光が俺とビクトールを襲い、失神魔法を受けたビクトールはその場に倒れる。俺には失神魔法は届かず弾かれた。

 

 ……あ、失神魔法喰らうつもりだったけど、防護魔法かけてたの忘れてた。

 

 

「ビクトール!」

 

 

 俺は怪しまれないように、声をあげて駆け寄る。

 膝をついてビクトールの肩を揺らすが、目は覚まさない。呼吸はあるし、やっぱり意識だけ落ちてる。

 

──それを確認していた時、地面が弾けた。

 

 

「うわっ!?」

 

 

 俺とクラウチの間の地面が爆ぜ、枯葉と土埃が舞い上がり、小石と折れた枝が飛んできた。俺は咄嗟にビクトールの前へ盾を張った。鈍い音が連続して、何かが弾かれて落ちる。

 

 次の攻撃に備えて身構えたが──来ない。

 

 聞こえたのは、小さなクラウチの呻き声と、どこかへ去っていく、葉を踏む音だけだった。足音は控えめで、むしろ極力音を立てないようにしているのが分かる。

 第三者が襲った、と知られたくないんだろう。俺だって初めから知っていなければ騙されたかも。

 

 茶色の土埃がなかなか収まらなかった。

 これはこれで目眩ましの魔法が混ざっているのかもしれない。風を起こして空気を一掃した時には──やっぱり、クラウチの姿は消えていた。

 

 森の奥を見る。

 すでにしん、としていてなんの気配もない。

 一枚の葉っぱがひらひらと舞い落ち、地面に戻った。

 

 

「……はぁ……」

 

 

 木の幹に背中を預けて、俺はゆっくり息を吐いた。

 仕方ない、仕方ないとはいえ。見殺しにしたわけだし、流石に……胸の奥が重くなる。……仕方ない。あの人の死は決まっているから。最後全て終わったら遺体は発見してお墓に入れてあげよう……うん。

 

 

 俺はビクトールの呼吸を確かめるフリをしてから立ち上がった。

 

 あとは、ハリーがダンブルドアを連れて戻ってくるのを待つだけだ。

 俺は顔を作る。驚いた顔、困った顔──それらしい顔を作らないとな。

 

 

 夜風がまた吹いて、森がざわめいた。

 俺は何も言わず、城の灯りの方を見ながら、足音が近づくのを待った。

 

 

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