兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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171 記念撮影?

 

 クラウチがビクトールと俺を襲い、俺は魔法を防いだけれどビクトールは失神してしまった。クラウチはその後、姿を消した──。

 とりあえず、そういうことになった。

 ビクトールも、「クラウチが僕を襲った!」と証言したし、それについては誰も疑っていない……多分。ダンブルドアあたりは俺が本当にクラウチを見失うなんてあり得るのか? と疑問に思っているかもしれないが、一応……ビクトールとハリーが受けた事情聴取と同じことをされただけでその日にすぐ解放された。

 

 クラウチの奇行については、俺たちに緘口令が引かれた。ダンブルドアは、魔法省に仕事中のクラウチに違和感がなかったかとかを確認するらしい。

 パーシーの話では、たしかクラウチは体調を崩していて家から仕事を指示していた──つまり、テレワークしていたわけだ。家宅捜査も、結局はするんだろう。クラウチは生徒を襲って失踪した事になってるし。

 ってことは、ヴォルデモートとペティグリューはどこか別の場所に移動したのか。うーん、どこにいるんだっけ? ……リドルの館? この辺の記憶、曖昧なんだよなぁ。この世界に来てもう何年も経つし。

 

 ま、あとは最後の試験まで何にもなかった……気がする。思い出せないことをうんうん考えても仕方がない。俺はとにかくハリーを第三の試合で無事に帰すことだけを考えなきゃ。

 

 

──そう思っていたら。

 

 

「ノア? どう思う?」

「ハリー、あなたは第三の課題に備えるべきよ!」

「そうだぜ。わからない事をいつまで考えてるつもりなんだ?」

 

 

 ハリーの問いかけに答える前に、ハーマイオニー、ロンが即座に被せた。どうやらこのやりとりを何度もしているらしく、言い方に澱みがない。

 

 

「ねえノア!」

「うーん」

 

 

 ハリーはクラウチの事件の後、ダンブルドアの元へ行って、出しっぱなしだった憂いの篩で過去の裁判の様子を見たようだ。

 クラウチとクラウチJr.の事、バグマンが死喰い人に情報を流していた事、カルカロフとセブルスが死喰い人だった事。その後にダンブルドアと話した内容や、額の傷が痛んでヴォルデモートとペティグリューの会話を聞いた事まで、かなり詳しく長々と話してくれた。

 ちなみにこの話は当然シリウスにも伝わって、以来、ハリーは毎日のように鏡越しに生存確認されている。まあ、そうなるよな。

 

 

「ハリーが知りたいのは、セブルスを信じていいのかってことか?」

「う──ん。ダンブルドアが考えてるみたいに、ヴォルデモートの力が強大になってきてるんなら……何か起こるんじゃないかって思う。それで、それで……スネイプは信用できないんじゃないかな、やっぱり」

「俺が信用してもいいんじゃないか? っていっても納得しないだろ?」

「……」

 

 

 ハリーは図星だったのか、口を閉ざして黙り込んだ。ハリーは多分、俺と討論したいわけじゃない。ただ同意見でいて欲しいんだろう。「そうだよな」って賛同されて安心したいんだ。討論ならハーマイオニーとロンと散々してるだろうし。

 

 

「別に、無理に信用しなくてもいいんじゃないか? 他人なんてそんな簡単に信用できるもんじゃない。ハリーが信用できる相手だけ、信じて、今は第三の課題に集中したほうがいい」

「うーん……シリウスと似たような事を言うんだね」

「シリウスからうざいくらい手紙届くからな……」

 

 

 苦笑が漏れる。

 元々ハリーを心配する手紙は届いていたが、ハリーがシリウスに憂いの篩で見たものを全て伝えてから、毎日ハリーに鏡越しに心配するように、俺の元には毎日手紙が届くようになった。

 「ハリーは無事か」「そこにいるかぎり安全だとは思うが注意してくれ」「第三の課題の練習にも付き合ってくれ」「ハリーは元気か」──そんな文が、飽きもせず毎日送られてくる。

 シリウス暇してるんだろうなー。俺が休暇前に与えていた仕事も終わったみたいだし。ハリーの心配くらいしかやる事ないんだろう。

 

 

「俺も、ハーマイオニーとロンとシリウスに賛成だ。第三の課題……ま、優勝は俺かもしれないけどさ。ハグリッドが色々仕掛けてくるんならやばい魔法生物の妨害があるだろうし、怪我しないように魔法の練習はしたほうがいい」

「そうよ! ハリー、あなた盾の呪文まだ使えないでしょ? 今から特訓よ!」

 

 

 ハーマイオニーはハッとして立ち上がり、すぐに鞄に飛びついて中から分厚い教科書を引き摺り出した。ハリーもやらなければならない、とわかっているが、どうも意識が第三の課題には向いていないようで、不服そうな表情をしていた。

 

 

「ハリー、やる気出せよ」

 

 

 ロンが慰めるようにハリーの肩を叩く。

 ハリーはまだヴォルデモートやセブルスの事を考えたかったようだが、渋々と頷き、のろのろと教科書を覗き込んだ。

 

 ……まあ、やる気がない理由、俺にも一個心当たりがある。俺が一位のまま走ってるせいで、「どうせ勝てないし」って気分になってるんだろう。ハリーだって本来はかなり健闘して、セドリックと同率一位だったわけだし。

 

 ……ちょっとテンション上げてやるか。

 

 

「ハリー、これ言ったらサプライズにならないから本当は黙ってようと思ったんだけどさ」

「なに?」

 

 

 教科書から顔を上げたハリーは首を傾げる。

 

 

「第三の試合は、選手の家族も観にくるらしい」

「家族? ふーん……ダーズリー達は絶対来ないから、僕には関係ないよ」

「……そうかな?」

 

 

 ハリーは「どっちにしろサプライズにはならない」と言いたげな怪訝な顔をしたが、俺が含み笑いを浮かべると不思議そうに首を傾げる。

 その横で、ハーマイオニーだけが先に気づいたらしい。「わあ! よかったわねハリー!」と声を弾ませる。もちろんロンはまだ置いていかれていた。

 

 

「ヒント。俺の家族」

「え? ……あっ!」

 

 

 ようやくハリーもわかったようで、小さく叫ぶと一気に目をキラキラと輝かせ興奮から頬を染めた。

 

 

「シリウスが観に来るんだ!」

「ああ、そうだ。ペットとして、だけどな。……シリウスは、ハリーを応援するつもりだろうし。そんなシリウスの前でカッコ悪いとこ見せれないだろ?」

「うん! ハーマイオニー、呪文の練習はじめよう!」

 

 

 一気にやる気スイッチが入ったハリーは、真剣な顔で教科書を引き寄せた。さっきまでの不服はどこへ行ったのか分からない。

 ハーマイオニーとロンは顔を見合わせ、呆れたように笑った。

 

 

 

 

 そして、ついに第三の課題が行われる日の朝。

 朝からハッフルパフのテーブルは、やたらと景気がいい。

 

 口々に「頑張ってください!」とか「応援しています!」とか、激励の言葉が飛び交ってるんだけど、もう俺の勝利は確実だと思ってるのか、今夜は談話室でパーティをするらしく、早くも打ち合わせが始まっていた。気が早すぎる。せめて課題が終わってから浮かれてくれ。

 

 しかも今日って、第三の課題の日ってだけじゃなくて、他の生徒は期末試験のはずなんだよな。例年なら、この朝食の時間でも教科書を開いてるやつが何人かいるのに、今日はみんなそれどころじゃない。パンをちぎる手も、視線も、全部がそわそわしてる。

 

 俺は代表選手だから試験は免除だけど。

 

 

「みんな試験ってこと忘れてるのかな」

「うーん、手につかないんじゃないかな……もしくは、現実逃避」

 

 

 セドリックが、盛り上がりっぱなしのハッフルパフ生を眺めながら言った。確かに、その気配はある。

 セドリック自身も試験があるけど、やっぱり顔つきは妙に落ち着いている。こういう状況でも余裕が残ってるのは、もう仕上がってるってことなんだろう。

 

 ……まあ、五年と七年は別格だけど、それ以外はそこまで必死にならなくても、なんとかなるんだろう。多分。

 

 そんなことを考えながら、俺はファンとか応援団とかに適当に手を振って応えた。

 ちょうどそのタイミングで、スプラウト先生がこちらへ歩いてきた。

 

 

「ノア、今日は頑張ってくださいね」

「はい、ありがとうございます」

「それと──代表選手は朝食後、大広間の脇の部屋に集合です。今日は代表選手のご家族が招待されて、最終課題の観戦に来ていますから。時間までホグワーツを案内するといいでしょう。あなたは試験もありませんし……とはいえ」

 

 

 そこでスプラウト先生は言葉を切って、俺を見た。呆れが、綺麗に混ざった目だ。

 

 

「……あなたのご家族に、それが必要かどうかは分かりませんが」

「……あはは」

 

 

 その視線に思い当たる節がありすぎて、笑うしかない。セドリックも隣で「あ」と察した顔をしていた。

 

 何も知らない周りの生徒たちは、当然ざわつく。

 

 

「ノアさんの家族!?」

「えっ、見たい」

「家族って……いらっしゃるの?」

 

 

 俺が養子になったことは、ほとんど知られていない。仕事関係でも知ってるのはメイソンと事務所の社長くらいで、あの二人は絶対に漏らさないし、そもそもプライバシーに踏み込んでくるタイプじゃない。

 養親が誰かまで知ってるのは、俺の家に遊びに来たことがあるハリーとセドリックだけだ。

 

 隠していたのも、単純に周りに騒がれるのが面倒だっただけ。

 ……まあ、そろそろ周知されてもいいのかもしれない。というか、案内した時点でバレる。俺が黙ってても。

 

 スプラウト先生は、生徒たちのざわめきが一気に広がっていくのを見て、目をぱちぱちさせた。ホグワーツで広がる噂の速さは異常だからな、マジで。

 

 

「……私、言ってよかったのよね?」

「大丈夫ですよ。本気で隠すつもりだったら断ってますから」

「そ、そうよね」

 

 

 スプラウト先生はほっと肩を下ろすと、周りの生徒に向かって手を叩いた。

 

 

「ほら、早く食べて試験の準備をしなさい。あなたたちには課題観戦の前に、戦うものがあるでしょう?」

 

 

 現実に引き戻された生徒たちは、時計を見て顔色を変え、慌てて朝食をかき込んだ。椅子が鳴って、食器が触れて、ローブの裾が翻る。波が引くみたいに人が散っていって、次々と試験の教室へ向かっていく。

 

 

「ノア、じゃあまたね」

「おう。セドは試験がんばれよー」

「うん」

 

 

 セドリックは試験へ。

 俺は大広間の脇の小部屋へ向かった。

 

 

 すでにフラーとビクトールとハリーは、小部屋に行っているらしく、小部屋に入ったのは俺が最後だった。

 

 部屋の隅ではビクトールが両親と話している。近くで見ると、体格の良さも、あの鉤鼻も、父親譲りなんだなって分かる。父親のほうがさらにごつい。

 フラーはその反対側で両親と、妹と話している。フラーの母親はヴィーラとのハーフなだけあって、なるほど、確かに人間離れした美貌だ。……俺には負けるけどな!

 

 

 そして部屋の奥、暖炉の前。そこにウィーズリー家のアーサーとモリーとビルがいて、その隣にリーマスとクィレル、犬のシリウス、そしてハリーがいた。

 

 俺が扉を開けた途端、ぴたり、と音が止んだ。

 その場にいる全員が、揃って俺を見る。……揃いすぎてて、ちょっと怖い。

 

 

「……えーっと。記念写真の予定でもあったっけ?」

 

 

 しん、と静まった部屋に俺の声が響く。

 もしかして、俺待ちだった? スプラウトが伝え忘れてたのかな、何にも聞いてないけど。

 

 そう思って肩をすくめて扉を閉めれば、まず初めに我に返ったハリーが「記念写真いいね!」と声を上げた。

 

 

「いい案でーす! 撮りましょう!」

「そうだな、記念になる」

 

 

 フラーとビクトールもその気で嬉しそうに頷いた。

 俺待ちではなく、単純に俺が現れて止まっていただけのようだ。……いやいや、フラーとビクトールの家族はともかく、他の奴らはそろそろ俺が突然現れても慣れてくれよ。

 

 

「まあ良いけど……カメラスタンドは、その辺の何かを変身させればいいか」

 

 

 いきなり始まった記念撮影。

 まあ、ある意味レアな集合写真だし記念にはなる。

 部屋の隅に寄せられていた椅子に杖を振って、即席のカメラスタンドに変える。木がぎし、と小さく鳴って形を変えた。

 

 

 フラーとビクトールの家族は、俺を見た衝撃やら感激やらで少し混乱しているみたいだったけど、それでも「撮れるなら撮りたい」という欲のほうが勝つらしい。フラーとビクトールに「こっち!」と指示されるまま、素直に整列していく。

 

 

「ノア。私が撮ろうか?」

「え、なんで?」

 

 

 手を上げたリーマスに首を傾げると、リーマスは少し気まずそうに視線を泳がせて、苦笑した。

 

 

「だって私はただの同居人だ」

「俺の家族枠でここに呼んだんだから、そんな気にする事ないって。ほらほら、クィレルの隣に並んで、ペットのシリウスは、ハリーの近くなー」

 

 

 いつもの狂信者モードではなく、保護者モードのクィレルはにこやかに笑って「ほら、ノアくんの言う通りですよ」と告げる。シリウスはぴったりハリーの前にお座りし、尻尾をブンブン振っていて、ハリーも嬉しそうにニコニコとしている。

 モリーたちも楽しげに並んだ。リーマスはどこか申し訳なさそうな顔をしていたけど、それでも最後には小さく笑って、静かにクィレルの隣へ収まった。

 

 

「タイマーは10秒でいいかな。──よし、こんなもんか──じゃ、撮りまーす」

 

 

 出現させたカメラをスタンドの上に置いて、杖で軽く叩く。ジィーとタイマーがかかる音がして、すぐに俺はクィレルとリーマスの間に入った。

 

 

──パシャ。

 

 

 シャッターが落ちた。飛び出してきた写真を引き寄せて確認してみる。──うん、なかなか良い写真じゃん。

 

 

 

 撮った写真をそれぞれの家族に一枚ずつ手渡したところで、ようやく「じゃあ、あとは自由ね」という空気になった。代表選手は家族と話してもいいし、時間までホグワーツを案内してもいいらしい。

 

 フラーとビクトールは両親を連れてさっさと出ていって、ハリーはモリーたちが保護者の代わりに来てくれたのがすごく嬉しそうなんだけど、それはそれとしてシリウスのほうをちらちら見てる。視線が犬に吸い寄せられてる。

 

 

「ハリー。こいつ、ハリーのこと好きらしいから、モリーさん達を案内する時に連れていってくれないか?」

「っ! うん、もちろんだよ!」

 

 

 ハリーは嬉しそうに笑い、シリウスも「わん!」と吠えた。

 

 みんながわいわい賑やかに出ていって、足音と笑い声が廊下の向こうに溶けたあと、部屋に残ったのは俺とクィレルとリーマスの三人だけだった。

 最後まで、クィレルはにこやかに手を振って見送り役を全うしていたのに、ぱたん、と扉が閉じた瞬間、空気がすっと切り替わる。

 クィレルはすぐ胸に手を当て、俺に向けて献身的な笑みを浮かべた。

 

 

「ノア様。ご息災でしょうか」

「特に代わりないよ。そっちは?」

「ございません」

 

 

 儀式みたいな挨拶が終わると、今度はリーマスが静かに動いた。

 さっきまでの柔らかい表情はそのままなのに、視線だけがすっと鋭くなる。部屋を何気ないふりで見回して、壁に掛かった人物画をひとつひとつ確かめた。

 

 案の定、絵の中の連中は興味津々で、こちらへ耳を伸ばしている。

 

 リーマスは気づかれない角度で杖を振った。

 ふわり、と銀色の光が広がって、絵の中の人たちは急に瞼が重くなったみたいにこっくりこっくり舟を漕ぎ始める。誰かが「まだ話の途中だよ」と抗議しかけた顔のまま、そこから先が続かず、そのまま眠りに落ちた。

 

 

 リーマスがもう一振りすると、今度は部屋全体に何か空気の層のようなものができた気がした。

 

 

「この部屋に防音と、人避けをかけたよ。……念のため」

「ありがとう」

 

 

 ここでそんなにやばい話をする気はないけど、ここはホグワーツ。噂の回りはファイヤボルト並みだし壁に耳あり障子に目あり、どころじゃない。壁に人が張り付いてるみたいなもんだ。

 

 

「ノアが気に入りそうな魔法、幾つか見つかったよ。詳しくはこの魔導書に書いてある」

 

 

 リーマスはそう言いながらポケットから文庫本ほどのサイズの魔導書を取り出した。黒革の表紙は擦り切れて角が丸く、何度も持ち歩かれた痕がある。受け取ると、指先に紙の乾いた感触が伝わってきて、ふわりと埃っぽい匂いがした。

 試しに開いてみる。……破れて読めないページや塗りつぶされてるところもある。読める範囲で読み解くと──どうやら書かれているのは人の因果に触れる類の魔法らしい。

 因果かー。そういえばヴォルデモートも多少は因果や運命に関与できるんだっけ? 教師になれない腹いせに闇の魔術に対する防衛術の科目呪ったりしたよな。……後でゆっくり読もう。

 

 

「それと……人狼のコミュニティも見つけたよ」

「お。どうだった?」

 

 

 ヴォルデモートが復活した後、一部の人狼はヴォルデモート側につく。たしかグレイバック……だったかな。そいつがリーダーのコミュニティがあって、ヴォルデモートの支配下ならもっとマシな生活ができるんじゃないかと思ったんだっけ。実際はまあ、仲間には入れてもらえなかったっぽいけど。

 

 俺が探してほしかったのは、グレイバックみたいな“噛んで増やして世界を呪おう”側じゃないほう。リーマスみたいに、隠れてひっそり暮らしてる連中のほうだ。

 魔法界は広いようで狭い。だから、どこかにいるとは思ってた。

 

 

「みんな、疲弊しているし、絶望していた。……僕たちの待遇は悪くなることはあっても、良くなることはない。……碌な仕事に就けず、一箇所に滞在し続けることも難しい。それに……脱狼薬はとても高価だ」

「そうか……」

 

 

 つまり、隠れてひっそりと暮らしている人狼コミュニティの人たちも不満はある、と。

 うーん、将来ヴォルデモート側になる芽はできるだけ摘んでおきたいんだよなぁ。

 かといってグレイバックはリーマスを噛んだから仲間に引き入れたくない。人狼だけじゃなくて巨人も厄介だし。吸魂鬼は……多分俺側につくだろう。あんま居てて気持ちいい奴らじゃないけど。

 

 そもそも人狼と巨人がヴォルデモート側についたのは、今の魔法界の扱いへの復讐の面が強い。その辺を改善しなきゃ意味ないんだろうけど。流石にこの半年でできることは多くない。

 卒業さえしてしまえば、どうとでもなるんだけどな。

 

 

「何人ぐらいのコミュニティだった?」

「確認できたのは十人程度。まだ接触したばかりで信頼を得てないから、実態は不明だけど……倍はいるだろうね」

「それでも二十人程度しかいないのか……」

「そうだね……人狼に噛まれたら、そのまま死を選ぶ人も多いから」

 

 

 リーマスは疲れたように笑う。

 俺の家で暮らし始めて、服はまともになったし栄養のあるものを食べて肌艶も良くなったけれど、やっぱり人狼関係の話題が出ると影が濃くなる。

 満月の前日に、窓から月を眺めている。その横顔に似ていた。……そりゃ、楽しくなんて話せないか。

 

 

「社会を恨んでいる方のコミュニティは……かなり地下深くに潜り込む必要がある。居場所は突き止めた。ノアが望むなら、いつだって潜入するよ」

「うーん。……そっちは後回しでいいかな」

「わかった」

「完璧な脱狼薬があればいいんだけど」

「……そうだね」

 

 

 リーマスは笑った。

 それは本当に心からそれを願い望んでいる笑みではない。諦めと空虚さが、ほんの少し混じっている。

 

 満月の夜に、精神が人間のままであるだけでも凄い脱狼薬。あとは肉体の変化を止めるだけ。……言葉にすると簡単なんだけどな。

 ……俺も、全く新しい薬は生み出せないだろうし。多分俺が脱狼薬を“適当”に作ったら、何度か飲まなければならなかったのが一度で良くなったり、飲みにくかったのが飲みやすい味になっていたり、という多少の改善はあるだろう。今までの経験上。

 

 となると、薬よりも人狼化を止める魔法を生み出した方が早そう。

 そっちのイメージはあるんだよな。問題は、魔法が難しすぎて俺以外が使えるかどうかっていうだけで。

 

 

「……? どうしたんだい?」

「……いや、これは家に帰ってからかな」

 

 

 じっと見つめていたら、リーマスが不思議そうに首を傾げていた。

「人狼化を止められるかも」なんて軽く言うのは簡単だけど、リーマスの衝撃や期待や混乱を考えると、今はまだ言わない方がいいかな。言うのは……夏休み入ってからにしよ。

 

 

 その時、授業開始を告げるチャイムがなった。

 いや、いつもなら授業開始だけど、今日は“試験開始”のチャイムだな。

 

 俺は指をパチンと鳴らす。

 ふわりと風が走って、部屋に重ねた魔法の層が一枚ずつ剥がれていく。眠っていた肖像画も、何事もなかったみたいな顔でぱちぱち目を開けた。

 

 

「じゃ、人も減った事だし。懐かしのホグワーツ探検でもする?」

「去年振りだけどね」

「私は三年振りですね」

「……冷めること言うなよ……」

 

 

 がっくり肩を落とすと、リーマスとクィレルが楽しそうにくすくす笑った。

 

 

「じゃあ、隠し部屋勝負しようぜ」

「私、僭越ながら学生時代はさまざまな隠し部屋を見つけていましたよ?」

「私以上に、ホグワーツを知っている狼はいないよ?」

 

 

 二人とも、不敵な笑み。

 クィレルは一人でヴォルデモートを探し出すような男だし、隠し部屋探しも得意そうだ。リーマスに至っては、悪戯仕掛け人の一人で、忍びの地図の制作者でもある。強敵だ──普通なら。

 

 

「俺は創設者に認められた男だぜ?」

 

 

 俺はニヤリと笑って、ついてこいと合図する。二人は楽しげに笑いながら、俺の後ろを静かについてきた。

 

 試験の時間帯のホグワーツは、いつもと違う。

 騒がしいはずの廊下が、潮が引いたみたいに静まり返っている。遠くの教室からペン先の音や椅子を引く気配が滲むだけで、城そのものがまだ眠っているようだ。

 

 そんな空気の中、ふと思い出して口にする。

 

 

「あ、そういえばセブルス先生と会った?」

「あったよ。凄い顔でクィレルを見てたね」

「私はもうすっかり忘れておりましたが、いろいろありましたからね」

「ははっ! うわー、見てみたかったなあ二人の再会!」

「おや。それなら私とリーマスで再現しましょうか?」

「え」

「うん、見たい」

「え、私……セブルス役かい? あんな眉間に皺寄せられるかな……」

 

 

 リーマスが真面目な顔のまま悩み込んで、眉間を指で揉む。

 その真剣さが、逆に面白くて、俺は堪えきれず吹き出した。

 

 人気のないホグワーツの廊下に、俺の笑い声が転がる。

 それに釣られるみたいに、二人の足音も少しだけ軽くなる。三人分の靴音が、石の床に乾いたリズムを刻みながら、静かな城の奥へと溶けていった。

 

  ひとしきり笑って、呼吸が整った頃。

 

 

「あ、そうそう。今日の夜の最終課題だけどさー」

 

 

  と切り出せば、二人は笑みの余韻を残したまま俺を見た。

 

 

 

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