兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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177 解説

 

 

 俺の腹に、ハリーが顔を埋めている。

 もう十分はこのままだ。ぐすぐすと啜り泣く音が、俺のローブ越しにくぐもって聞こえる。少しでも身じろぎすると、胴に回った腕がきゅっと締まって、「逃がさない」と無言で訴えてくる。

 

 ちらり、と視線をあげれば、シリウスが「好きにさせてやれ」と言うような目で訴えていた。

 シリウスの隣にいるクィレルやセドリック、それにダンブルドアも同じような目をしている。

 

 シリウスは俺とハリーを心配して、俺が医務室に運び込まれてからそう経たないうちに飛び込んできた。

 ハリーが俺にしがみついて泣いている間に、シリウスがダンブルドアへ小声で状況を確認し、ダンブルドアは要点だけを簡潔に伝えていた。

 だからシリウスとクィレルは、起こったことの衝撃をまだうまく飲み込めていない顔をしている。セドリックに至っては、自分が聞いてよかったのかと青い顔で黙り込んでいた。

 ま、そうなるか。

 

 ハリーはムーディに連れられて、全ての黒幕がムーディ──を偽ったクラウチJr.である事を本人から聞いたらしい。

 

 クラウチがハリーを襲う直前に俺から「ハリーがムーディに連れて行かれた」と聞いたダンブルドア達がそれを止めて、クラウチを捕縛し真実薬を飲ませて尋問。クラウチはこの一年──いや、もっと前にムーディに何をしたか、誰を殺したか、三校対抗試合で何を企んだかを全て吐いた。

 

 その後、マクゴナガルはクラウチを見張るために残り、セブルスはムーディを医務室に運んでからファッジを探しに行った。

 

 それで、ハリーはダンブルドアに「優勝杯のポートキーに触れてから何があったかを、ノアと共に話して欲しい」そう言われて。

 初めて俺が死んでない、と知り、猛ダッシュして飛び込んで──。

 

 今に至る。

 で、結果がこの空気だ。

 

 いやいや、なんか居た堪れない。

 それに、俺も三日寝たいって思うくらい、体も頭も怠いし眠い。……いや、本気でハリーの体があったかくて落ちてしまいそうだ。

 

 

「ハリー、もうそろそろ離して──」

「嫌だ。離れたらまたノアがいなくなる」

「ならない。ならないから」

「もうあんなの……あ、あんな怖い思いしたくない……」

 

 

 言いながらハリーの声にまた涙が混じる。

 俺は一度だけ息を吐いて、落ち着かせるためにハリーの背中に手を回し、ぽんぽんと叩くように撫でた。

 

 

 ハリーが泣き止むのを待っていたら話が進まない、その前に俺が本気で落ちる──そうダンブルドアに視線で訴えたら、ダンブルドアも俺の顔色の悪さで何かを察したのか、ハリーの震える肩にそっと手を伸ばした。

 

 

「ハリー、そしてノア。ポートキーに触れてから何があったのか、わしは知る必要があるのじゃ。……話してくれるかのう?」

 

 

 ダンブルドアが優しくハリーに声をかける。

 ハリーは最後に鼻を啜って涙を無理やり止めてから、俺を抱きしめている腕に強く力を込めた。その後そっと離れて、俺のベッドの脇に座り、俺の手を握った。

 ハリーは俺の手の冷たさに、一瞬体を強張らせ驚いたけれど、すぐに熱を移すように強く握り直す。

 そうしてようやく落ち着いたのか、ダンブルドアを見上げ頷いた。

 

 

「……はい。優勝杯に、触れて、寂れた墓地に出ました……それで、ペ──ぺティグリューが、ノアに死の呪文を……」

 

 

 ハリーの手に力が籠る。ハリーはちらちらと俺の方を見ていて、「本当に生きてるよね」と言いたげな目で何度も俺を見た。

 

 

「そうじゃ。あの時、きみは死の呪文に打たれたはず。──しかし、今こうして奇跡のように目を開けている。……もしや、間に合わせたのか?」

 

 

 ダンブルドアの言葉に、シリウス達はやや怪訝な顔をした。間に合わせた、の意味がわからないのだろう。俺は頬を掻きつつ、「いえ」と短く否定する。

 

 

「間に合いませんでした。死を拒む事はまだ難しいです。ただ、セブルス先生とずっと魂を保護する魔法については研究をしていて……まあ、その応用で」

 

 

 セブルス、の一言にあからさまにハリーとシリウスが嫌そうな顔をした。ほんとこの二人似てる。

 

 ダンブルドアは俺とセブルスが共同研究をしている事は知っている。魂を知覚するために吸魂鬼をホグワーツに招き入れる打診をする時に、説明せざるを得なかった。

 まあ、流石に吸魂鬼は却下されたけど。ホグワーツ城に入らなければOK、とは言ってくれた。そのおかげで叫びの館で研究する事数ヶ月。

 

 流石に数ヶ月で許されざる呪文の完璧な反対呪文は生み出せなかった。

 けど、ある程度応用できそうな魔法は、元々俺が知っている魔法と組み合わせて作り出すことができた。

 

 その説明はここでするには……論理的説明はセブルスに任せてるし、俺も感覚で魔法使ってるから説明が難しい。変に突っ込まれても答えられないし。

 何より、反動で疲れて、眠い。

 それに、あんまり──方法を広めたくはない。余計な心配するやつもいるだろうし。下手に“死の呪文を受けてもセーフ”みたいな空気と油断ができるのも避けたい。一瞬気絶するのは確かで、戦闘中は気絶イコール死だろうし。

 

 

 言い淀んでいると、ダンブルドアが厳しい表情で黙り込み、どこか悲しそうな、複雑な顔をして一度頷いた。

 

 

「ノア、きみは……死を拒んだんじゃない。死を支払ったのじゃな?」

 

 

 確信を持って言われた言葉に、俺は肩を上げて薄く笑う。……この人、どこまで俺の考え読んでるんだろ。もしかしてダンブルドアもこの方法考えたことあるのか?

 

 

「……ま、そうですね。そんな感じです。それで魔法の反動で暫く仮死状態、というか、気絶してました」

 

 

 創設者の試練の報酬として受け取ったレイブンクローの叡智の魔導書。

 その中に、魂を分断する方法が書かれていた。殺人で分けるのではない、魔法を使って分離する方法だ。分離した魂は死体に入れることにより、もう一人の自分の記憶と思想を持つ個体が出来上がる──と書かれていたけれど。

 

 

 俺は魂を分離し、そのまま体内に留めておいた。

 端的に言えば、分霊箱ハリー状態になった。

 

 

 魂の一つは、死の魔法により消滅するけど、死ぬ事はない。

 核の魂を保護していたとはいえ……ある程度代償はある、けども。ま、それは仕方がない。

 

 ってか、魔力消費もやばいし、実際に魂を消費してるわけだし。何度も使える手ではないからやっぱちゃんとした反対魔法を生み出さないといけないよなぁ。

 魂分断し続けると、今以上の、もっとやばい代償になりそうだし。

 

 

「反動で気絶した後は──何があったのかわかりません。俺が気絶してからどうなった?」

 

 

 ダンブルドアの視線は鋭いままで、まだ何かを探るつもりだったようだけど、わざと気付いていないふりをして話を切り上げ、ハリーに振る。

 

 

「あ、……その後──」

 

 

 ハリーはびくりと肩を震わせ、その後何があったかを話し出した。

 ヴォルデモートが復活する儀式のところでは、シリウス達みんなが険しい表情で黙り込んでいた。死喰い人達が現れた時、ハリーは少しだけ言葉を濁したが──それでも、何があったのかの詳細を話していた。

 

 俺は、一つ、嘘をついた。

 俺はあの時、確かに仮死状態で気絶していた。

 だけど、割とすぐ意識を取り戻していた。ペティグリューが赤ちゃん姿のヴォルデモートを大鍋に入れて儀式めいた調合してる時にはすでに起きていた。

 

 けれど、俺は、あの場で最も力を持っていた。

 誇張表現でもなく、あのヴォルデモートなら普通に倒すこともできたし、ペティグリューを捕まえる事だって容易だった。

 

 でも、そうすると──世界が俺の手の中から離れ、歪んでいくから。

 

 俺は、俺があの場にいて、いつでもハリーを助けられる状況にならなければならなかった。

 その上で、ヴォルデモートをハリーの血を使って復活させる事も必要だった。

 

 だから、わざわざセブルスを乗せて許されざる呪文を研究する流れで、死の呪文の“対処魔法”を作り出した。

 

 世界は殆ど、俺が望む通りに進んだと言えるだろう。単眼カメラもいい働きしてくれたし。──いや、これからしてくれるし、と言うべきかな。

 

 

 そんなことを思いながら、ハリーが言葉を詰まらせながら話しているのを聞く。

 ハリーはヴォルデモートがハリーの縄を解き、決闘をしようとしたことや、金色の光がハリーとヴォルデモートの杖同士を繋いだ事、ヴォルデモートの杖から現れたものの事まで話していた。

 

 

「……そういえば、ノアはヴォルデモートの杖から現れなかった! そうだ、あれは死んでなかったからだね?」

「だから、俺は一回も死んでないって」

 

 

 ハリーはようやく俺が本当に死んでないと理解できたようで、表情を少し緩めた。

 

 

「父さんが、優勝杯に触れたら帰れると教えてくれました。だから僕は、ノアと一緒に戻ろうとして──」

 

 

 そこまで言ってハリーは視線を俺に向ける。

 ああ、この後引き継げってことだな。

 

 

「俺はその少し前に意識が戻っていて、ヴォルデモートがハリーを襲うのが見えたので、応戦して。最終的に雷魔法使って逃げました。その後に魔力尽きて気絶、って感じですね」

 

 

 最後、ヴォルデモートと死喰い人から逃げるために天候を操って雷呼んだ瞬間、元々減っていた魔力が尽きて──気絶したのも、想定内だった。

 

 本当は、クィレルがすぐに俺に命の水を飲ませてくれて目覚める予定だったけど。それだけが誤算だったかな。

 

 

 

 全てを話したハリーは、長く重い息を吐いた。シリウスが厳しい表情のまま、ハリーの肩を気遣うように掴む。ハリーは顔を上げ、少しだけ微笑んだが、かなり痛々しい笑みだった。

 

 

 ダンブルドアは何度か頷き、ゆっくりと口を開く。

 

 

「ハリー、今夜きみは、わしの期待を遥かに超える勇気を示した。ヴォルデモートの力がもっとも強かった時代に戦って死んだ者たちに劣らぬ勇気を示した。一人前の魔法使いに匹敵する重荷を背負い、大人に勝るとも劣らぬきみ自身を見出したのじゃ。ノア、きみもじゃ。ヴォルデモートに立ち向かい、ハリーを守ってくれた。さらに今、きみたちは我々が知るべき事を全て話してくれた……ありがとう」

 

 

 ダンブルドアが頭を下げる。ハリーは少し居心地悪そうにしながら、手をモジモジとさせた。

 

 

「さて、今夜は二人とも寮に戻らず、魔法睡眠薬を飲み安静にするんじゃ。二人にこれ以上なにも質問をしないのならば、保護者として、または友人としてしばらく残っても構わないじゃろう」

 

 

 セドリックは小さく頷き俺のベッドの隣にいくつか並べられている丸椅子に座る。

 ハリーは全てが終わったことへの安堵から、ようやくじわじわと疲れを思い出したようで、ふらつきながら俺の隣のベッドへ向かうと、倒れ込むように寝転んだ。

 

 クィレルは俺の顔色の悪さに心配そうな顔のまま立ちすくみ、シリウスは万が一誰がきても良いように犬の姿に変身し、ハリーのベッド脇に座り込む。

 

 それを見届けたダンブルドアは、「ハリー、わしはファッジに会ったらすぐに戻ってこよう」とだけ言い残し、医務室から出ていく。

 ちょうどそれと入れ違いの形でロンとハーマイオニーと、ドラコ、モリー、ビル、フレッドとジョージが駆け込むようにして入ってきた。

 

 

「ノア! ハリー! 無事か?」

「ああ、ハリー! 大丈夫なの?」

「いったい何が起こったんだ?」

 

 

 医務室は一気に騒がしくなった。

 ハリーは疲れた顔をしていたが、それでも自分を心配するロン達を見て嬉しそうに表情を緩め、枕に身を委ねたまま軽く手を振った。

 わかる。ありがたいけどめちゃくちゃ眠いんだよな。緊張とか恐怖のストレスでハリーはかなり疲れていて、今まさに休めるところだったし。

 

 

「みんな、静かにね。ノアとハリーはすごく大変な試練を乗り越えたばかりで……今、ダンブルドアに説明をしてくれたんだ。ちょっと休ませてあげよう?」

 

 

 セドリックが穏やかで、それでいて有無を言わさない笑顔で言えば、ロン達はハッとして口を押さえ、こくこくと頷く。

 

 みんな、心配そうに──モリーなんて泣きそうになってる──ハリーと俺のベッドの周りにいる。

 うん、まじで疲れた。

 本気で身を削ってきたし、体力も精神力も低下してる今、うるさく聞いてこないのはありがたい。

 

 

 俺も起こしていた体をもう一度ベッドに沈める。

 頭が重い、思考が回らない。

 あれ、これで今日は全部終わってたっけ、まだ何かあった気がするのに──考えようとするたびに思考が霞になって解けていく。

 

 まあ、本当に変えたかった未来は変えることができたし……もう寝てもいいかな。

 

 

 一瞬、医務室が静まった時、医務室の奥にある部屋の扉が開き、ポンフリーが紫色の薬が入った小瓶を二つ持ちながら現れた。

 

 

「これを全部飲むことで、夢を見ずに眠ることができますよ」

 

 

 小瓶を俺とハリーに手渡す。

 ハリーはすぐに二口ほど飲んで、眠たげな息を吐き、ふっと目を閉じた。

 

 俺は、こんな睡眠薬じゃよくならないんだよなぁ。

 それがわかってるから、ポンフリーがすぐにどこかへ行ったのを良いことに──多分、本物のムーディの手当てをしに行ったんだろう──瓶をベッド脇の机の上に転がした。

 

 

 

 

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