兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
イースター休暇がやってきた。
休暇、とはいえ家に帰る事は出来ず、2週間の休暇中とんでもない量の宿題が出されている。イースター休暇が終わって6月の中旬になれば学年末テストがやってくる。それに備えるためなのか、宿題の内容もかなり難しい。
「あーー……セド、終わった?」
「後、魔法薬学が羊皮紙1巻きで他は終わったよ」
「まじで?俺まだ…2巻き半もある…呪文学も終わってないし…変身術も半分以上残ってるし…魔法史なんて白紙…」
ハッフルパフ寮の談話室で宿題をしていたが、全くもって終わる事もなく、俺はやる気スイッチがOFFになってしまったためそのまま机の上に突っ伏した。
「世界最強の魔法使いなんでしょ?頑張れ」
「脳みそは一般人なんだよ…」
セドリックのからかい混じりの笑い声に、うめき声で返す。
いや、まじで、論理を自分の言葉で説明しなさいとか、論文を書きなさいみたいな宿題はかなり苦手だ。授業中の実技なら俺のチート能力で世界一の魔法を使う事が出来ても、羽ペンと羊皮紙を使っての宿題は苦手だ。
魔法を使えるのだから、論理なんて理解してなくてもいいじゃん!とは思うが、ここは学舎であり、ペーパーテストも勿論存在する。残念ながら俺は最強の魔法使いではあるが、成績は上の下くらいだろう。筆記試験だけならセドリックの方が優秀だ。
やる気がなくなり、机に伏せたまま魔法薬学の教科書をぺらぺらと捲っていると、コンコン、と小さな音が響いた。
「あ、僕の家のフクロウだ」
セドリックは立ち上がり窓のそばに寄ると、外で待機していたフクロウを談話室の中に入れる。茶色くて丸いフクロウは「お待たせしました!」と愛らしく言いながら手を伸ばしたセドリックの腕に止まり、片足を差し出す。
セドリックは器用に片手でその手紙を外すと、机の上に置いてあったクッキーを一つ掴みフクロウに啄ませ、そのまま窓の外へ向かってフクロウを放った。
悠々と空を飛んだフクロウは、おそらくこのままフクロウ小屋に帰るんだろう。
「…ノア、あの試験だけど──このイースター休暇中にはどうにかなりそうだよ」
「お、まじで?」
手紙を読んでいたセドリックはにっこりと笑い頷く。
周りに誰も居ないのを確認したが、それでも声を顰めて俺にセドリックの秘策の一端を教えてくれた。
「父さんが、ボガートを見つけてくれたんだ」
「ボガート?」
「うん、多分、あの試練の性質上…これが今できる最善策だと思う」
ボガートは、自分が最も恐れるものに変身する事が出来る魔法生物だ。魔法一つで退治できることから、そこまで危険な生物ではない。精神的には、ちょっと危険な生物でもあるな。一番怖いものが蜘蛛とかびっくり箱とかピエロとか、そんな微笑ましいものならともかく。親しい人の死だったらトラウマもんだろ。
「ふぅん?──まぁ、任せた!」
「頑張るよ。…ノアはどう?薬の方は…?」
「スリザリンの試練に使う魔法薬の目処はついたんだ。幸運の水薬じゃなくて、もっと適切なものがあったんだけど…素材がどうも集まらなくて」
戻解薬の材料についての詳細は上級魔法薬書や魔法薬之書に載っていなかったし、セブルスの個人棚にも無かった。勿論、禁じられた森を探したけれど見つからなかった。
セブルスの言葉が本当ならば、その材料一つ一つを入手する事は極めて困難なのだろう。一般的には流通していないものなのかもしれない。
…つまり、ちょっとこれはまたノクターン横丁フラグである。
しかし、ノクターン横丁の店に売っていたとしても、金銭的に馬鹿高いものなら買う事は不可能だ。俺の美貌を駆使して貢いでくれるなら良いけど、無理な場合──なんか髪の毛とか唾液とか要求されそうで怖い。
「先にレイブンクローの試練と、グリフィンドールの試練をクリアすることになるかもしれないな」
「そうだね。…うーん…緊張してきた」
「ははっ!まだ部屋の前にも立ってないぜ?」
ぶるりと体を震わせるセドリックの背中を笑いながら叩けば、セドリックは「そうだね」と言って同じように笑う。
「まぁ、数々の試練の前に、僕たちは目の前の試練を乗り越えなきゃならないね」
「…写していい?」
「駄目」
「…お願い♡」
「……魔法史だけだよ?」
「やった!サンキュー!」
かわいこぶってお願いしてみれば、セドリックはちょっと頬を赤く染めてカバンの中から羊皮紙の束を取り出した。
セドリック、ちょろすぎぃ!──なんて、言ったら二度と宿題を写させてくれなくなりそうだから、とりあえず心の中で思うだけにしておいた。
イースター休暇も後3日、という日の朝。
沢山のフクロウ便に混じって何やら巨大な包みを4羽のフクロウがよろめきながら運んできた。
誰もが一体なんだろう?ただの小包ではなさそうだ。と、そのフクロウを見上げ注目する中、それはセドリックの目の前の机に、料理や皿やゴブレットがあるにも関わらずガチャン!と大きな物音を立てて置かれた。
「うわっ!?」
「きゃあ!」
かぼちゃジュースやミルクやオートミールが飛び散り、それがかかってしまったハッフルパフ生は「何だ!?」と叫びながら飛び退く。
セドリックも真っ赤ないちごジャムの瓶が胸元に飛び、べっとりと付着しているし──。
「──っ、う……べたべたする」
目の前にあったヨーグルトが沢山入ったボウルが俺の元へ飛んできて、昨日も夜遅くまで宿題を唸りながらしていた俺は半分寝こけていた。
つまり、いつもなら防ぐ事ができたが──ヨーグルトが顔面にぶちまけられてから、眠気が吹っ飛び思考が覚醒したのだから…まぁ、防ぎようがない。
「ノ、ノ、ノア…!」「──せ、性的すぎる!」「うぐぅ!」「朝から刺激が強い…っ!」
どろりと垂れる白濁のやや粘着質な液体。
それはヨーグルトなのだが、ちょっとアレっぽくて、朝から顔射姿を曝け出すとは思わなかったなぁ。
顎まで垂れたヨーグルトを指先で掬い、そのままぺろりと舐め上げれば──かなりの騒音で注目されていたから、沢山の生徒が机の上に突っ伏して気絶した。中には前屈みになって痙攣して「──うっ!」とか言ってるやつがいるけど、あいつスコージファイ使えるのか?いや、まぁ、俺の知った事じゃないか。
沢山の生徒が気絶したりズボンの中で
このままだと、場を混乱させたからだとかなんだとか言われて減点されかねない。
せっかく、今ハッフルパフが一位になっているんだし、こんなことで減点だなんて馬鹿らしい。
ポケットから杖を出して軽く振れば、俺の顔についたヨーグルトやセドリックの服についたいちごジャム。ひっくり返った料理やオートミールやぶちまけられたジュース、落ちた皿などなど、とりあえず全てを元通りに戻してセドリック宛である大きな荷物をふわりと浮遊させた。
「これ、セドの荷物?」
「あ、うん。そうだよ。ほら…この前言ってた」
「ああ…あれか」
杖を振り包みを開けば、中にあるのは古ぼけたトランクケースで、よく見ると小さくガタガタと震えている。この中にボガートが入っているのだろう。
「何事ですか!?」
「あ、スプラウト先生」
「スプラウト先生…すみません、父から…トランクケースが届いたのですが、ちょっと机の上に落ちてしまって、そのはずみで料理が──その、ノアや、他の人にかかってしまって」
辺りが綺麗になったとはいえ、気絶する生徒が多く只事ではないと思ったスプラウトがすぐに俺とセドリックの元に駆け寄る。
セドリックは慌てて説明をするが、それだけで人が気絶するのかとスプラウトは片眉を上げ怪訝な顔をした。
「それだけで?こんなにも沢山の生徒が気絶しますか?」
「あー…そ、それは──その、色々と…あー…」
セドリックは顔を赤く染めてごにょごにょと言い淀む。
……言い淀む、って事はあのエセ顔射が何を意味しているのかセドリックは知っているのか。
まぁ、12歳って色々とお年頃な年齢だし、そんな事に興味があってもおかしくはないが、こんな爽やかでエロとは無関係です!みたいな顔しててそういうのは知ってるんだなぁ。
「ヨーグルトが俺の顔にかかって、それを見た先輩達が急に真っ赤になって気絶しちゃいました。何でですかね?」
「ヨーグルト…?………成程」
こてん、と首を傾げ不思議そうに言ってみれば、スプラウトは机の上にあるヨーグルトと、俺を見て神妙な顔で頷いた。
「あまり、騒ぎは起こさないようにしなさい。折角の休暇中に罰則は嫌でしょう?それに、ハッフルパフが今は一位なのです!こんな事何百年ぶりか…!少なくとも私が寮監になって初めてで──こほん!とにかく、その荷物は部屋に持って行きなさい」
「はい、わかりました」
「はぁい、またね、スプラウト先生!」
セドリックはすぐに浮遊していたトランクケースを掴み、俺の手を引いてハッフルパフ寮へと向かった。
大広間にあるそれぞれの寮の色を表す四つの巨大な砂時計は、今ハッフルパフが一位である事を示している。
俺の加点ラッシュに加え、ハッフルパフ生はあまり減点されるような馬鹿な真似をしない、まぁ、加点もあまりされないけど。
しかし、セドリックはかなり優秀で、俺が知る限り同級生の中では俺の次に加点されている。
夜遅くまで勉強する事も多いセドリックに、何でそんなに勉強してんだ?と聞いたところ、少しでもノアに近づきたいから、と恥ずかしげもなくさらりと言われたのは記憶に新しい。
まぁ、勉強は力になるし、悪い事ではないだろう。
「いつ、あそこに行く?」
「んー…明日とか?フレッドとジョージに伝えとく」
「わかった。それまで…このトランク、開けちゃ駄目だからね」
セドリックはがたがた五月蝿いトランクをベッドの下に押し込みながら真剣な顔で俺に言う。
ボガートを退ける呪文は知っているけど、ここでボガートを退治してしまったら試練をクリアする事が出来なくなってしまう。
「勿論、開けないさ」
俺は椅子に座り、羊皮紙を真四角に切って『明日の朝9時に動く階段で待ち合わせ』と書いて手際よく折りたたんでいく。
「…?なにそれ」
「折り鶴」
「ああ…日本の…?」
「そう、知ってるんだ?」
「本で見た事があるんだ。…へぇ、凄いね!」
さくさくと折った鶴にふう、と息を吹き掛ければ、その鶴はふるりと震え、パタパタと羽を動かしながら飛んで行った。