兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
次の日、人が居ないタイミングで試練の部屋へ入った俺とフレジョとセドリックは、ゴドリック・グリフィンドールの試練の扉の前に立っていた。
「マジでお前がやるのか?」
「ってかそのトランクは何だい?」
「まぁ、見てのお楽しみって事で。…僕は楽しめなさそうだけど」
セドリックは古びたトランクケースをしっかりと掴み、その扉を開けた。
ぎい、と小さな音を鳴らしただけで簡単に扉は開き、ハッフルパフの試練と同じく灰色の石床と石壁が無機質に俺たちを歓迎する。
がらんとして広いその部屋にセドリックが初めに入り、その後に俺とフレジョが続き、パタンと扉を閉めた。
1人緊張した面持ちで部屋の中央に立つセドリックの前に、銀色の文字がふわりと浮かび上がる。
──ゴドリック・グリフィンドールの試練
自分自身に勝利せよ。──
その文字が消えた途端、セドリックから2メートルほど離れた場所に黒い影が浮かび上がる。
真っ黒のそれは、人の形を作り──目の前にいるセドリックと全く同じ形になった。黒かった色も、いつの間にかセドリックの髪色や服と全く同じになり、一見すると鏡か双子のようだ。
かなり、無表情なところと、目に光が無いところだけが異なると言っていいだろう。
そう、グリフィンドールの試練は、自分自身との戦闘だ。俺が前回様子見で入った時、俺と同じものが出てきて暫く戦ってみたけど、全くもって決着がつかなかったし勝ち筋が見えなかった。
俺は世界最強の矛であり盾だ。って事は戦闘相手もそうであり、勝てるわけがない。負けることもないだろうけど。
だからこの試練は、俺にはクリアできない。
「──っ、よし!いくぞ!」
セドリックは自分を鼓舞するように言うと、トランクケースの鍵をぱちんと開けた。
偽セドリックは無表情なまま杖を構え、警戒している。
俺とフレジョはあまり前に近づくと自分自身と闘うことになりかねない、と壁に背中をつけたまま観戦する。
もし、何かあった時すぐ助けられるように杖は持っているけど。
「あれ、何が入ってるんだい?」
「ボガートらしい」
フレッドの問いに答えれば、フレッドとジョージは「ボガート?」と怪訝な声を上げる。確かに、自分自身との戦闘でボガートをどう使えばいいのかぶっちゃけ俺もよくわからない。
ぱかり、とトランクが開き、セドリックはすぐに少し下がった。その顔色は悪く、目を出来るだけ細めている様子から、出来るだけ見たくはないのだろう。
「うっ…うわ…!」
ずるり、とトランクから現れた黒いものにセドリックも偽セドリックもさっと顔色を変えてすごい勢いで後ずさる。杖を持つ手は震えて──いや、手だけじゃなく体もマナーモードよろしくがたがた震えているけれど、セドリックも偽セドリックもボガートを退治することは無い。
「何、あれ…?」
「うーん…。人形?」
「人形、ってか…これ……」
トランクの中から出てきたのは、なんか血がついた人形だった。
赤髪で手に包丁を持つ子供のような見た目の人形。髪はぼさぼさで青いツナギを着ている。なんかちょっと見覚えある人形だな?これ、あれじゃね?人形に悪霊が取り憑いたとかいうあの、ホラー映画で有名な呪いの人形じゃね??
「う、うわああ!来るなっ!」
よたよたと自分に進む人形に向かってセドリックも偽セドリックもビビりまくり勢いよく後退する。
呪いの人形は血のついた包丁をブンブン振り回しながら、2人のセドリック達の元へ向かった。
「へえ、あんな人形が怖いんだ?」
「動く人形なんてよくあるのにねぇ」
「…いや、ってか…セドリックがあの人形を知ってるのも意外だけど。なんで倒さないんだ?」
ボガートなんて、リディクラスで1発なのに、偽セドリックもセドリックも一向にその呪文を使おうとしないで「来るなぁ!」とか言いながら逃げ惑っている。偽セドリックは無表情だが心なしか顔色が悪いし、セドリックと同じで必死に逃げている。
「え?何でって」
「そりゃ、僕たちまだボガートの退治方法知らないじゃないか!」
「え?──あー、そうだっけ?」
鬼ごっこのように部屋の中をぐるぐる回るセドリック達と人形を見て、フレジョが当然の事のように言う。
そうか、俺は使えるけど一年生のフレジョやセドリックはリディクラスをまだ使えないのか。
だから、自分自身である偽セドリックもボガートを退治することは出来ない、と。
「お、お前がいけ!」
『──っ!?』
セドリックは偽セドリックのローブをぐっと掴むと思い切り突き飛ばした、いきなりの物理攻撃に逃げていた偽セドリックはよろめき、そのままバランスを崩し横転する。
尻餅をついた偽セドリックの腹の上に、呪いの人形…チャッピーだかチョッパーだか名前は忘れたけどその人形が飛び乗り、にんまりとした凶悪な笑顔を浮かべたまま右手に持った包丁を高く上げた。
偽セドリックはガタガタと震えていたが、その包丁が振り下ろされる瞬間、がくりと糸が切れた人形のように動かなくなり──ぐにゃり、と形が崩れるようにして黒い影に戻り、消えてしまった。
呪いの人形が振り下ろした包丁ががきん、と音を立てて石床に突き刺さる。
その横ぎりぎりに、水晶で出来た獅子の置物が現れた。
成程。セドリックの作戦は、自身で退治することが出来ないボガートを使い、最も怖いと思っている物を出現させそれに倒させる、という事だったんだな。
リディクラスを使えない一年生だからこそ出来る荒技、とも言えるだろう。自分自身なわけだから、苦手なものもきっと同じだろうしな。
「や、やった!やったぞ!!」
セドリックはぜえぜえ言いながら壁にびたりと張り付き、呪いの人形と距離を取りながら歓喜の声を上げる。
その声を聞いて、ギギギ…と首を180度動かした呪いの人形が両手を前に突き出しセドリックに突撃した。
「う、うわああっ!ノア!ノアーーっ!!」
「はいはい」
今にも泣き出しそうなセドリックの声に、俺は壁から背を離し駆け足でセドリックに向かう。だが、セドリックに俺が近付くよりも、呪いの人形がセドリックに向かう方が距離的に速そうだ。
「リディクラス」
ボガートを退治できる魔法をセドリックを襲うボガートに向かって放てば、呪いの人形はびくりと体を震わせバラバラに分解された。
セドリックはそれを見てさらに「うわっ!」と叫んでいたが、俺に攻撃された、とわかったボガートは今度は俺の方へバラバラになった人形の目を向ける。
俺の怖いものって何だろ?
今全く思いつかないんだが。と思っていると、ボガートは呪いの人形から姿を変え──る事なく、バチンッ!!と大きな音を立てて消えてしまった。
しん、とした部屋の中にセドリックの荒い呼吸と「あれ?消えちゃったね」というフレッドのどこか残念そうな声だけが響く。
こいつ、俺の怖い物を知ってどうするつもりだったんだ?
俺は床に転がっている獅子の像を手に取り、腰が抜けたのかへたり込んで呆然としているセドリックの元へ向かい、それを差し出した。
「試練クリアだ、良かったな、セド!」
「あ…あはは…よ、良かった…」
セドリックはその像をしっかりと両手で受け取り、顔色は悪かったが安堵したように微笑んだ。
セドリックやフレジョは、きっとどうにかして自分自身と戦うことが出来ただろう。
だが、世界一の魔法使いであり、チートの俺はどうあがいてもクリアする事ができない。本気でドンぱちするのなら、多分この部屋は──どれだけ護りの魔法がかけられていようとも崩壊するだろうし、そもそもホグワーツ城を巻き込んだ大惨事になりかねない。
セドリックのように何か別の物を使って倒す事も、なんでも出現させてしまう俺は、きっとうまくいかなかっただろう。
セドリックは水晶の置物をしげしげと見つめていたが、小脇に抱えると俺に手を差し出した。
「ごめん、腰が抜けちゃって…」
「気にするな、名誉の腰抜けさ」
「何それ…」
セドリックの手を引き肩を貸しながらフレジョの元へ行けば、フレジョは「ナイス!」とセドリックの肩をコツンと拳で軽く叩いた。
「でもセドリック、あんな人形が怖いのかい?」
「あー…人形、というか、アレが怖いというか…入学前にマグルの遊びがどんなのかなって思って、街で…映画?だったかな?…を見たんだけどなんか、すごく残酷で、怖くて」
「映画って、あの写真が長いバージョンみたいなやつだろ?」
「へぇ、そんな怖い物なんだ、映画って。……今度ロンに見せてやろ」
「まあ、あの映画は中々怖いよなぁ…」
俺は昔、前の世界でレンタルショップで友達とホラー祭りをした時に見たが、大の大人3人が一つの狭いベッドに身を寄せ合って寝ることになった程怖かった。
セドリックは元の部屋の中央にある台座の窪みに、獅子の像を置きながら大きくため息をついた。
「まあ、とにかく…クリアできて良かったよ。今だからこそ、クリアできたんだろうし…」
ようやく震えが止まったのか、俺から離れたセドリックは額に滲んでいた冷や汗を拭ってフレジョと俺を真剣な目で見た。
「僕が、あれが怖いって…誰にも言わないでね」
「そりゃあ!」
「勿論だとも!」
「ああ、黙ってるさ」
「…ほんとかなぁ…」
フレジョの意気揚々とした楽しげな声音に、セドリックは信じられないのか苦笑いをした。
「それにしても、何でノアの怖い物は出てこなかったんだろう?」
「はじめの呪文で退治してたのかな?」
フレジョは不思議そうな顔で俺を見る。
俺は、あのボガートが
だが、それをこいつらに言っても首を傾げるだけだろうなぁ。
「まぁ、俺には怖いものなんて無いってことさ」
戯けながら言い、悪戯っぽく笑えばフレジョは納得していたけど、セドリックは訝しげな顔をしていた。それを、深く突っ込んで聞いてこないのは、セドリックらしいといえば、らしいかも。
俺が恐れているのは、多分、消える事だ。
死ぬことでは無い、この世界から
だから、ボガートは忠実に俺の恐怖を再現して、消えてしまったんだ。
俺はこれ以上3人に何もいうつもりはなく、何となく──話題を変えるために、まだクリアしていない2つの扉を見た。
「後はスリザリンとレイブンクローだけか…魔法薬の材料を集めるのがなぁ…」
「そんなにレアな材料なの?」
「ああ、セブルス先生の個人の棚にも無かったし、禁じられた森にも無い」
「…それ、もしスネイプの個人棚にあったら盗むつもりだったのかい?」
「借りるだけさ」
にやりと笑えば、フレッドはヒュウと口笛を吹いて「悪戯な天使だ!」と俺を揶揄う。セドリックは教師の物を盗むという言葉に、流石にちょっと嫌そうな顔をしたが、まだ、実行に移していないため何も言わなかった。
「今度の夏休みに、ちょっとダイアゴンとノクターン横丁に行って探してみる」
「えっ!?ノクターン横丁に!?さ、流石のノアでも…危険じゃ…未成年は行っちゃダメだって…」
「俺たちもまだ行った事ないな。あそこって人攫いが多いんだろ?ノアなんて…一歩入ったら狙われるぜ?」
「ノクターンはやめといた方が…」
ノクターン横丁の言葉に、一気にフレジョとセドリックは心配そうな声で眉を寄せた。
たしかにあそこはアングラなものが多いし、ならず者や不審者、犯罪者までいる。実際人攫い屋に二回遭遇しているし、それを助けてくれる優しい大人なんて居ない場所だ。
ま、俺はチートなので無問題だけど。
「ノクターン横丁に行くことは別に、俺は大丈夫だけどさ。問題は金がない事と、偽物を掴まされても気付けないって事だな。材料の名前を知ってるだけで、見た目は知らないんだ。何とか交渉して手に入れたとしても、それが偽物なら──馬鹿馬鹿しいだろ?」
「たしかに…ちなみに、材料は何?」
「えーっと……イクネウモーンの尾羽、ガジャゲルガの髄液、黒紫水晶の雫、毒蛇王の涙、ディグリリフスの新根……だったかな」
ちょっと一般人レベルの俺の脳みそでも、ある程度なら暗記する事はできる。
俺が伝えた材料に聞き覚えのある物はなかったのか、フレジョとセドリックは肩をすくめ首を振った。
「うーん、どれも初めて聞いたな」
「一応、俺たちも探すけど期待はしない方がいいな」
「僕も聞いてみるけど…見つかればいいね」
「薬は来年まで持ち越しだな。…よし、ついでにレイブンクローの方をクリアしとくか」
腕時計の針はまだ昼食には早い時刻を指している。レイブンクローの方はこの中では俺だけしかクリア出来ないし、俺にとっては難易度はそこまで高くない。
指をパチンと鳴らし、部屋の中央に机とティーセットとお菓子、ソファを出現させればフレジョとセドリックは息を飲み目を瞬かせた。
「ちょっと休んでて、すぐクリアしてくるから」
「えっ、う、うん。…いや、ちょっと待って、これ…どこから?」
「すっげぇ」
「何の魔法だ?」
3人は驚きつつソファに座り、クッキーを掴みしげしげと眺める。
「企業秘密!」
にやり、と笑えば3人は少し呆気に取られたような顔をしたが、俺の規格外の魔法を何度も見ていて気にするのも無駄だと考えたらしく、サクサクとクッキーを食べて紅茶を飲み始めた。
俺はレイブンクローの紋章がある扉の前に立ち、3人がついてこないうちにさっさと扉を開け、中の試練の部屋に入る。
お馴染みの冷たい雰囲気が漂う部屋の中央に、銀色の文字がふわり、と浮かんだ。
── その口を守る者は、その生命を守る──
今までの試練とは違い、明確に内容が示されていないその文字が消えた途端、獅子の胴体、サソリの尾にヒトの頭部を持つ、真っ黒で巨大な影のような魔法生物が何もないところから現れた。
ぐるぐると威嚇するような低い声が響く。
おそらく、これはマンティコアだろう。だが図鑑に載っていたものと色が異なる──つまり、ハッフルパフの試練のように、姿形や能力を模倣しているだけで生命体では、無いのだろう。
…そういや、魔法生物を一時的に生み出しているんだよな、コレ。こんな魔法、よく考えたらめちゃくちゃ凄くね?敵とか一掃できるだろ。
飛びかかってきた黒いマンティコアに向かって杖を横に薙ぐように振るえば、それは真っ二つになり、どろりとした黒いものが溢れべしゃりと石床に落下した。
びくびくと痙攣しているそれに、杖を振り下ろす。黒い炎が杖先から吐き出され、瀕死のそれは断末魔を上げることも出来ず消し炭へと変わった。
ぷすぷすと燃え燻っていたものが無くなった頃、ことり、と何もない空間に水晶で出来た鷲の像が現れる。
すぐにそれをアクシオで呼び寄せ、俺は一歩も動く事なく踵を返すと部屋を後にした。
「あれ、もう終わったの?」
「まだ5分も経ってないのに!」
「ま、余裕だったからな」
放課後ティータイム──いや、放課後じゃないけど──をしていた3人に親指を立てて「楽勝!」と笑った後、中央の台に鷲の像を置く。
『その口を守る者は、その生命を守る』──つまり、沈黙だ。無言魔法を使えという事だろう。
マンティコアは魔法がかなり効きにくい魔法生物らしく、無言魔法で仕留めるのは多分、大人でも難しいんだろうな。
まぁ、世界最強の魔法使いであるノア様には関係のない話だけど、あの試練だけはフレジョとセドリックには攻略不可能だった。
まぁ、少し強い魔法を使ったから倦怠感はあるし、この部屋から出る前に少し休憩していこうかな。
セドリックの隣に座り、フィナンシェを摘む。──うん、ふわふわしっとりで最高に美味い。
「このクッキー、めちゃくちゃ美味しいな!どこで買ったんだい?」
「買ってねぇよ。ホグワーツにもハウスエルフがいるだろ?そいつらに頼んで常にお菓子を用意してもらってるんだ。ハウスエルフのいる厨房に籠を置いてて、そこにお菓子を入れてもらって、無くなったらすぐに補充するように、ってな。んで、その籠にあるお菓子をここに出現させてるってわけ。企業秘密だから誰にも言うなよ?」
「その手があったか!」
「俺たちも厨房には行ってるけど、別場所に出現かぁ…どうやるの?」
フレジョはこれさえ使えればいつでも好きな時にお菓子が食べ放題だと目を輝かせたが、移転魔法は多分今のフレジョには無理だろうなぁ。まだ一年生だし。
「ポートキーを作る時に使う魔法。
「な、7年生?そこまで進んでるんだ?」
「呪文学と変身術だけさ」
どんな魔法でも作り出すことも出来るが、この世界に元々ある魔法を使える方が不信がられないだろう。既に魔法をつくってセブルスには見せちゃってるけど、まぁ、あの魔法は特に悪用できない可愛らしい魔法だし無問題。
「…本当にノアは…世界一の魔法使いなのかもね」
セドリックがマシュマロを食べながらぽつりと言う。
フレッドとジョージは顔を見合わせ、真剣な目で頷き「たしかに」と呟いた。
「信じてなかったのか?俺は、世界一の美貌を持つ、世界最強の魔法使いなんだぜ?」
ニヤリと完璧な笑顔で笑って生クリームの乗ったカップケーキを食べれば、3人は眩しそうに目を細め、久しぶりに頬を染めこくこくと頷いていた。