兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
学年末試験前になれば、土日や放課後、大広間は沢山の自主勉強する生徒で溢れかえる。
別に試験前じゃなくても空き時間に勉強している生徒はいるけど、試験の2週間前からは教師達が大広間に滞在する。つまり、分からないところがあれば教えてくれるし、わざわざ職員室に行かずともすぐに聞けると言うわけだ。
全科目の教師がいるわけではないけど、常に3.4科目の教師が必死に勉強する生徒の間をうろうろとしている。
今日は土曜日の朝食後。
大広間には魔法薬学教師のセブルス、呪文学教師のフリットウィック、マグル学教師のクィレル、変身術のマクゴナガルがいる。
カリカリと羽ペンが羊皮紙を擦る音と、教科書を捲る音、教師達に質問する遠慮がちな声が響く。
俺の隣にはセドリック、前にはフレッドとジョージ、そしてリー・ジョーダンがいる。
リーとはフレジョのつながりで時々話すが、リーは俺と目が合うたびに火に触れたのかと突っ込みたくなるほど跳び上がり顔を真っ赤にするからあまり、深い交流はない。たくさん話す前にリーが気絶するのだから、仕方がない。
テスト勉強なんてやる気がまったく出ない俺は、頬杖をつき、頭を下げて一生懸命に勉強する生徒達を見ていた。
ドレッドヘアーが特徴的なリーをなんとなく見つめる。あの髪ってどうやって洗うんだろ。…洗わないのかな?魔法でなんとでもなるのかな。──そんな事を思っていたら、俺の視線に気付いたのかリーは顔を上げた。
「──んぐぅっ…!」
その瞬間、リーはカエルが潰れたみたいなうめき声をあげ、羽ペンをばきりと真っ二つに折り、顔をリンゴよりも真っ赤に染めて羊皮紙の上に突っ伏した。がたん、と勢いよく倒れたせいで手元にあったインク瓶がぶちまけられ、フレッドの羊皮紙に真っ黒なインクが広がってしまった。
「うわっ!──あーあ、リー。いい加減慣れろよ…まったく」
「俺の美しさのせいだから、リーを責めるのは間違ってるぜ?──何せ、俺の美しさは止まることを知らず、常に更新し続けているからな!」
「まぁそれは違いないな」
リーはピクリとも動かず固まってしまっている。俺の美しすぎる顔を近距離で見たせいで気絶したようだ。
フレッドの目の前にある羊皮紙に広がったインクに向かって杖を振れば、インクは逆戻しのようにするするとほぼ空になってしまったインク壺の中に戻り、広がっていたインクは綺麗さっぱり無くなった。
「フレッドは、なんの勉強してるんだ?」
「魔法薬学さ」
「ああ、俺たちは今途轍もない課題に向き合っている」
フレッドとジョージが大人しく勉強をしているなんて珍しい。流石に学年末試験だし少しは勉強しているのかな。
やべー流石にこの2人には負けたくないけど、なんだかんだ言ってこの2人は感覚型の天才タイプなんだよな。魔法道具を改造したり、魔法作ったりしてるし。興味のある科目とそうで無い科目の差が激しいというか。
悪戯道具開発のためには魔法薬学と薬草学の知識が必要不可欠なのか、2人は声を顰め真剣な顔をして俺に向かって羊皮紙を差し出した。
「ん?──おお?」
「どうだい?俺たちが今生み出そうとしているサラサーラサラザリン石鹸!汚れまみれクソまみれ!ねっとり脂っこい髪も?」
「この石鹸を使えばノアの髪のようにサーラサラ!天使の輪っかが出来ること間違いなし!」
「ただし、効果は1時間!その後髪は爆発に巻き込まれたくらいにチーリチリ!」
「どうみてもお前らが期待してるのはチリチリの方だな?」
「あ、バレた?」
「ってか、チリチリの方を作ろうとしたら、副産物的にサラサラになったのさ。まぁ、ギャップがあって面白いだろ?変装に使えるかもな」
ごちゃごちゃと走り書きされ何度も訂正されている文章はかなり読み難いが、そのサラサーラサラザリン石鹸とかいう、どっかで聞いたことあるような名前の石鹸の製造方法が書かれているんだろう。
「…サラサラの方だけで、効果がより持続するなら──普通に、欲しがる人は居そうだけどね」
隣からセドリックが羊皮紙を覗き込み、ぽつりと呟く。
フレジョはそんな事微塵も思わなかったのか、きょとんとして顔を見合わせた。
そうか、まだ2人は悪戯専門店の事はあまり考えていないし、開発してる魔法道具はどれも自分達が悪戯に使って楽しむためのものなのだろうな。
「欲しがる…?」
「つまり、販売するってことかい?」
「くせっ毛の人は洗うだけでサラサラになるの…なら喜んで買うんじゃない?」
「販売かぁ…」
「小遣い稼ぎにはなるのかな?」
フレッドとジョージは晴天の霹靂、みたいな顔をしながら羊皮紙をまじまじと見た。
「最低でも効果は24時間は欲しいな。勿論副作用無しで。──それなら、俺が宣伝してやるよ」
ふっと笑い、安い固形石鹸でもパサつき知らずの輝かしいキューティクルを保っている銀髪を手でさらりと後ろにすれば、フレジョは目を瞬かせ「まじで?」と呟く。
人に販売するのなら、起きている間は常に髪の毛のサラサラを維持する必要がある。まぁ、24時間もあれば余裕だろう。特に副作用が無い髪をサラサラにする石鹸ならきっと色んな人が欲しがるはず。
「ノアが?…一攫千金も夢じゃ無いね、それ」
「ああ…よし、行こうぜ!」
「おう!」
フレジョは机の上に広げていた教科書や羊皮紙を片付けると同時に立ち上がった。
うわ、楽しそうな顔だなぁ、早く実験したくてわくわくしてるって感じなんだろうな。
「リーはどーする?」
「置いといてー!」
「後で取りにくるよ!」
2人は手を振り、大広間を飛び出す。
まだリーは気絶したまま机に突っ伏していて、セドリックは「そんな物みたいに…」と苦笑した。
「セド、どこまで進んだ?」
「宿題は終わったよ。今は変身術の理論をまとめてるとこ」
「まじで…早すぎだろ…」
「ノアは、本当に理論記述苦手だね」
「だってそんなの考えなくても使えるし…」
「──コホン、ミスター・ゾクラフ。ミスター・ディゴリーお喋りはそのくらいにしなさい」
「はぁいマクゴナガル先生」
「ご、ごめんなさい」
生徒の間を見回っていたマクゴナガルに注意されてしまった。
マクゴナガルはセドリックの手元にあるレポートに視線を落とし、ひょいと掴むと上から下までじっくりと見たあと、珍しい事にいつもの厳格で唇を結んでいる表情を緩め、薄く微笑んだ。
「ミスター・ディゴリー。とてもわかりやすくまとめられています。しかし、ここは教科書の第6章を参考にした方がより理解が深まる事でしょう」
「え?……あ、本当ですね、ありがとうございます」
「ミスター・ゾグラフは──」
羊皮紙を返されたセドリックは誉められた事に嬉しそうにしながら机の上に積み重ねられていた教科書を手に取り言われた箇所を開いていた。
マクゴナガルは俺の手元にあったほぼ白紙の羊皮紙を取り、きゅっと器用に片眉を上げる。
「…あなたは、実技は問題なく完璧ですが。論理的思考が苦手ですね。もし、学年末試験でこのような──『びゅーんとしてひょいってする。くるくるまわす。手に力を込める。』──だけでは、一点もあげられませんよ」
「えー…俺、感覚型なんですよ…魔法の発生を論理的に書くなんて難しい…」
「教科書をよく読み込む事ですね」
「はぁい…」
一点もないとハッキリ言い切られてしまい、ちょっと頬を膨らませ口を尖らせてみる。
俺をチラチラ見ていた生徒達はぽっと頬を染め俺の唇に釘付けになったが、マクゴナガルは流石にくらりとはしないようだ。
「私は、何故理論を理解せず魔法が発現するのか。その方が不思議でなりません」
「あー。俺は天才で世界最強の魔法使いなので」
「ならば、その天才で世界最強の魔法使いである貴方なら、きっと試験でも良い結果をもたらす事でしょう」
呆れたようなマクゴナガルの言葉に、俺は「頑張ります」とだけ呟き、とりあえず教科書を開いた。
ーーー
結局、俺はセドリックに付き合うようにして土日は大広間で勉強した。こんなに勉強したのは前の世界でのセンター試験以来だな。
学年末試験は、実技試験は勿論100点のところ300点くらい取れたんじゃないかな?と自負出来る。どの教師も他の生徒とは違う実技試験を俺に出し、勿論完璧に魔法を使う事が出来た。
だが、まぁ、筆記テストの方は…うーん、平均は超えているだろうが、自信はない。
そうこうしているうちに、気がつけばホグワーツで過ごす最終日。
この日の夜は学年度末パーティが開催され、ホグワーツ1日目のように長机に金の皿やゴブレットが並んでいる。
大広間は黒と黄のハッフルパフカラーで飾られ、ハッフルパフの穴熊を描いた巨大な横断幕壁を覆い、天井からも大きな黄色い膜が垂れていた。
そう、今年の寮対抗杯で優勝したのは、俺が所属するハッフルパフ寮だった。
ハッフルパフ生は初めて見るその景色に興奮したように頬を紅潮させ、目を輝かせてその景色を目に焼き付けていた。
俺とセドリックが2人で大広間に入った瞬間、数多くのハッフルパフ生の羨望の眼差しが俺を射抜いたのも、まぁ、仕方ないな!だってハッフルパフ生の中で1番点数が加算されたのはこの俺、ノア・ゾグラフ様だ!
「ノアさん!」「ノア様!」「おめでとうございます!すごいです!」「こ、こんな景色を卒業するまでに見れるなんて…なんて、なんて事なの…!」
座っていたハッフルパフ生は皆立ち上がり口々に賞賛を送る。俺はにっこりと完璧に微笑み手を上げながらその惜しみのない賛辞を受けた。隣にいるセドリックは、少し居心地が悪そうではあるな。
上級生に促されるまま、俺は1番前の席にセドリックと共に案内された。
「本当に、監督生として…礼を言わせてくれ、ありがとう!ノアのおかげだ!」
「俺だけじゃないよ、みんなが頑張ったからさ」
にっこりと笑い、上級生や同級生に言えば、誰もが頬どころか耳や首も赤らめ満面の笑みを浮かべた。
「まさか、本当に一位になれるなんて…何百年ぶりらしいよ」
「よし、これから連続で寮対抗杯を勝ち取ろうぜ?俺とセドなら出来るさ」
少し茶化しつつ背中を叩けば、セドリックは嬉しそうに笑い大きく頷いた。
一位争いをしていたスリザリン生は少し悔しそうにしていたが、それでもブーイングや苦情を言うことは無い。別寮でも俺がどんな魔法でも一度で完璧に使えると言う噂は届いているのだろう。
どの授業でも、実技では俺が加点され、教師からの問いにはセドリックが答えて加点されていた。俺の足りない知力をセドリックが補ってくれている、と言えるだろう。
ばたん、と大広間の扉が開きダンブルドアが目をキラキラと輝かせながら現れる。
喧騒はぴたりと止まり、誰もが上座の席へ向かうダンブルドアを見つめていた。
「また一年が過ぎた!一同がご馳走にかぶりつき、頭がぼーんやりとする前に寮対抗杯の表彰を行おうかの。──点数は次の通りじゃ。四位、グリフィンドール385点。三位、レイブンクロー412点。二位、スリザリン452点。そして、一位ハッフルパフ、493点!」
ハッフルパフのテーブルから爆発的な歓声と足を踏み鳴らす音、そして他の寮からも沢山の拍手が響く。
「ハッフルパフ生の諸君。よく頑張った。ハッフルパフ寮が一位になるのは…実に245年ぶりである。ハッフルパフ生以外も、健闘した事じゃろう。さて、ハッフルパフに惜しみのない賞賛と、盛大な拍手を!」
ホグワーツ城を揺らす程の大きな拍手が響く。流石のスリザリン生も負けた事や連続寮対抗杯取得記録が止まってしまったのは悔しそうだが、ちゃんと拍手をしていた。
寮監であるスプラウトなんか目に涙を溜めながらフリットウィックと握手し、マクゴナガルに優しく抱きしめられていた。
ぱちりとスプラウトと目が合うと、俺を見つめるその目が喜びに溢れていて──微かに残っていた疑念も、どうやら消えたらしい。
その後は豪華な料理が並び、いつものような穏やかで楽しい喧騒に包まれる。ハッフルパフ生は今までの中で1番嬉しそうに友だちと話しながら料理に舌鼓を打った。
それぞれの家に帰る前に試験の結果が発表された。俺はまぁ、学年トップではないが自分が思っていた以上に良い成績で、フレジョはまぁ平均点ギリギリ、セドリックは学年トップだった。
ホグワーツ特急に揺られ数時間、久しぶりのキングズ・クロス駅のプラットホームには再会を心待ちにかている大人達が子ども達の到着を今か今かと待っている。
「来年中にはスリザリンの試練をクリアしたいな」
「そうだね、僕も…材料を調べてみるよ。…ねぇ、夏休み、よかったら僕の家に遊びに来ない?」
人波に逆らう事なくゲートを潜った時、セドリックが小さな声で俺に聞く。
「勿論、手紙待ってるぜ?」
「本当?やった!すぐに送るよ!」
「「ちょーーっと待った!」」
陽気な大声が響き、俺とセドリックの前にフレジョの2人が現れた俺たちに手のひらを向け「ストップ」をかける。
「さっさと帰っちゃうなんて酷いな!」
「ノア、休み中俺たちの家にも遊びに来てくれよ、勿論、セドリックも!」
「うん、必ず行くよ!」
「ああ、楽しみにしてる」
俺とセドリックがすぐに頷けば、フレジョは満足気に笑う。
俺たちは最後に握手をしてそれぞれの家族が待つ方へ向かった。
大きなカートにトランクケースとシロが入った鳥籠を乗せ、俺の養母でもあるライカママと待ち合わせをしている駐車場へ向かう。
途中で何人かホグワーツ生とすれ違い、「またね、ノア!」「ノア様、お元気で!」などなど、沢山声をかけられたし、知ってる人もも知らない人も俺を見て顔を真っ赤にしていたがそれも見慣れた光景だ。
駐車場の入り口で、キョロキョロと俺を探しているライカママを発見し、手を振ればすぐにライカママは俺に気付き、千切れんばかり手を振って大アピールをする。
「ノア!こっちよ!」
「ライカママ、お迎えありがとう」
「ああノア!大丈夫だった?貞操は無事?変態さんは居なかった?」
「大丈夫、平和に終わったよ」
ホグワーツ一年目はこうして終わった。
っていうか、やっぱハリーが来てから事件の連続すぎてやばかっただけで、何にも無かったら平和に終わるんだな。