兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
27 夏休みの間に
久しぶりの孤児院に戻った俺は、予めホグワーツでこっそり制作したポートキーを使いハリーの元を訪れていた。
「ノア!久しぶりっ!」
「久しぶり、ハリー」
クリスマス休暇以来会ってないから、半年以上ぶりに見たハリーは少し背が高くなっていた。まだ俺を超えるほどではないけどどことなく顔つきも変わり、柔らかそうな頬っぺたがシャープになっている。
服は相変わらずダドリーのおさがりらしく、古ぼけていて元の色がわからないほど色褪せている。それに、無駄にでかくてハリーの肩からずれ落ちそうだ。…これ綺麗なシャツなら彼シャツっぽいな。
ハリーはいつもの公園で俺を待っていたようで、すぐに俺を強く抱きしめ、ぐりぐりと頭を押し付ける。すう、はあ、と思い切り俺の匂いを吸い込んでるけど、それハリーが美少年だから許されるんだぜ?
しばらくして満足したのか身体を離したハリーは「えへへ」と照れたように笑う。うん、笑顔はまだ幼くてやっぱ可愛いな!
「ノア、学校での話を聞かせて!」
「手紙で全部書いたけどなぁ」
「ノアから直接聞きたいんだよ、ダメ?」
「ま、良いけど」
一つあるベンチに向かい、ハリーにホグワーツで過ごした日々をかいつまんで話す。とは言っても、あんまり寮の事や、先生たちの事を話すのもなぁ。どこまで話していいのか悩むところだ。ホグワーツでの楽しみが半減するだろうし、初めてホグワーツ城を見た時のあの感動──魔法界に踏み込んだ時のあの感動は、何も知らない方がより一層鮮明に感じられるだろう。
「授業は大変だけど、面白いぜ?」
「魔法の授業なんだよね、僕も早く行きたいな…後一年かぁ…」
「あっという間さ、きっとスリリングで楽しい日々が待ってるよ」
「そうかな?」
「ああ、100パーセント間違いない」
ハリーは俺の言葉を冗談だと捉えたのかくすくすと面白そうに笑うが、ハリーはスリリングどころじゃない日々を過ごすぞ、マジで。
精神面的な意味で。
「はぁ…目を閉じて──開いた時に一年が経っていればいいのに」
ハリーは俺の肩に頭を寄せ、ぽつりと呟きながら目を閉じた。
余程、今の生活から脱却したいんだろう。まぁ、一年眠らせる魔法もあるけど、それをしたら流石にめちゃくちゃ怒られそうだな、ダンブルドアとかに。
「9月になればまたノアは学校に行っちゃうんだ…」
「2ヶ月後の話さ、ハリー。──さあ、今日は何をして遊ぶ?」
鬱々としてきたハリーの気を紛らわせる為にベンチから立ち上がり、ハリーに手を差し出す。
ハリーは目を開いたが、眩しそうに目を細めて俺を見上げ「じゃあ、うーん。ブランコでもする?」と言いながら手を取った。
その日は日が暮れるまでハリーと遊んだあと、俺はポートキーを使い孤児院の自室に戻った。
狭い部屋の机の上には魔法省からの手紙は届いていない。──やっぱり、ポートキーは未成年が使っても、違反じゃないんだな。
机の上に手に、持っていた書き損じた羊皮紙を起き、ベッドの上に置いていた鞄の中から蛙チョコの空き箱をその隣に並べる。
書き損じた羊皮紙はハリーの家の近くの公園にある木の虚へのポートキー。
蛙チョコの空き箱はダイアゴン横丁の魔法動物ペットショップの裏。
どれも好きな時間に移動できるよう、ちょっと魔法をかけて作った改良型ポートキーであり、勿論孤児院の自室に戻る事も可能だ。
実際のポートキーは一方通行な物とか、触れるといつでも移動できる物とか、様々な種類があるらしい。勝手に作るのはなんか違法だって原作でリーマスが言ってた気がするけどバレなきゃ無問題!
「ノア!夕飯の時間ですよ!」
「はーい!」
やばかった、後数分帰るのが遅かったら無断外出がバレるところだったぜ!
ライカママは俺が変態さんに連れ去られると思って、外出禁止令を出してるからなぁ。俺の美貌だからその心配はわかるが、過保護すぎてちょっとめんどくさい。
次の日の昼間。俺は宿題をするから誰も部屋に来ないで、と言って部屋の鍵を閉め、机の上に置いていた蛙チョコの空き箱ポートキーを見下ろしていた。
「…さて、もう一つの方も試してみようかな」
俺は箪笥の中から黒いローブを取り出し羽織った後、蛙チョコの空き箱を掴み──ダイアゴン横丁の魔法動物ペットショップ裏へと移動した。
景色はすぐに変わり、ぐっと鳩尾から引き込まれるような奇妙な感覚に少し気持ち悪さはあったが、くらりと眩暈に似た物を感じた時にはすでに、俺の足は自室の床ではなく土を踏んでいた。
「…よし、ちゃんと移動できてるな」
ポケットにポートキーを突っ込み、軽い足取りでガヤガヤとしたダイアゴン横丁の大通りへと出た。
少し前までは軒先に並ぶ薬草や魔法界にしか生息しない動物の干物などにいちいち驚いていたが、流石に1年間似たようなものを授業で使っていたからもう珍しさはない。
…あ、ノクターンに行く前に先にハリーの誕プレ買おうかな。
苦学生とはいえ、亡き両親の遺産を半分魔法界で使える硬貨に両替している。今まで手をつけなかったのは──まぁ、他人だから遠慮していたけど、友だちの誕プレ買うくらいなら使ってもいいだろう。
ぶっちゃけ、俺の亡き両親はそんなにお金なかったようで遺産と言っても微々たるものだったが。
手っ取り早く金を稼ぎたいなぁ。流石に記憶にない人の金を使いすぎるのは気がひけるし。
そう考えながら魔法雑貨屋の扉を開ける。まだ開店時間すぐなのか、あまり客は多くない。
棚には文房具やティーセット、アクセサリーなど、色々な物が綺麗に並べられている。
うーん、でもやっぱ魔力が篭ってるのは見つかった瞬間バーノンに潰されて捨てられてしまいそうだし、パッと見マグル界にもありそうなお菓子とかの方がいいのかなぁ。
悩んだ挙句、俺はなんかいい匂いがするレターセットを買った。
ハリーから送られてくる手紙は、初めこそ封筒に入れられてきちんとした手紙の体を保っていたが、途中からレターセットを買う余裕が無くなったんだろう。レポート用紙の切れ端や、チラシの裏、千切ったノートのページだったりした。
レターセットを買った俺は躊躇う事なくノクターン横丁へ向かう。
一気に暗くなり、苦いような、甘いような、ノクターン横丁独特の臭いに包まれる。フードを被れば俺の美貌と美しい髪は隠されたが、それでも人相の悪い魔法使いがちらちら俺を見て仲間と囁き合っている。
周りにこれ程大人がいれば、未成年の俺が魔法を使ってもバレないだろう。こっそりと自身に防御魔法をかけ、俺は暗い道を進んでいく。
ダイアゴン横丁から離れれば離れる程、店は怪しさを孕み、露店に並ぶ物は禍々しくなっていく。
ノクターン横丁の奥にひっそりとある『薬草・魔法薬材料店』の店前に掲げられている看板は薄汚れカビが大量発生している。どうみても怪しいものしか売ってなさそうなその店の扉を、俺はゆっくりと開いた。
店内は薄暗く、天井付近に数個の青い炎がふわふわと揺らめいていた。
棚に並ぶ透明な瓶には得体の知れない物がぷかぷかと浮かび、かなりグロテスクだ。こんなの、セブルスの個人棚でも見たことないなぁ。
枯れた薬草や骨、沢山の目玉や歪な蛙を一つ一つ見ていくが、書かれている商品名はどれも俺が探している物ではない。
店内の奥へ進んでいると、一際大きな棚の前に1人、この薄暗い店内の闇に溶けそうな黒尽くめの人がいる事に気付いた。
「──セブルス先生?」
「なぜ…ここにいる」
「なぜって、お買い物ですけど」
高い背を屈めて一心に棚を見ていたセブルスは声をかけられた瞬間勢いよく振り返り、めちゃくちゃ嫌そうな顔をした。
まさかまた遊びにきたって思われてる?いやいや、此処で出会ったのは単なる偶然だ。むしろ、俺の方が驚いたんだけどなぁ。セブルスってこんなところで買い物してるんだ。
「ここには、お前が買う必要の無いものしか売っていないが?」
「さあ、それはどうでしょうね?──あ!セブルス先生、せっかくなんでちょっと付き合って下さいよ」
「なぜ我輩がそんな事をせねばならんのだ」
「欲しい物があるんですけど、偽物掴ませられないか心配で。…ま、セブルス先生も見た事ないかなー?」
口先で嘲笑するセブルスを無視してニヤニヤと笑い揶揄えば、セブルスは眉間の皺を深く刻み冷たい目で俺を見下ろす。
1年間、たまに採取手伝ったりしたのにまだこんな目で見てくるなんて!セブルスの心の鎧は分厚すぎる!
セブルスの何か言いたげな目をスルーし、誰もいないカウンターに近づく。覗き込んでも、その場にしゃがみ込んでいるとかめちゃくちゃ背が低い人とかではない。全くの無人だ。
よく見ればカウンターに錆びついたベルが置かれていたため、迷うことなくそれを押した。
リンリンリン リンリンリン リンリンリンリンリン──
「──五月蝿いっ!一度で聞こえるわ一度で!」
カウンターの奥、扉が勢いよく開き、中からかなりのご老人が現れた。
顔はシミとシワだらけだが頭は綺麗につるりとしている。腰がかなり曲がっていて、モノクルをかけた目だけがぎょろりと奇妙にでかい。分厚い灰色のローブはかなり汚れていて、外であったなら浮浪者と見間違う程だ。
俺の渾身の三三七拍子は途中で止められてしまったが、店主らしき人を呼び寄せることが出来たからまぁいいだろう。
「店主さん?なぁ、欲しい物があるんだけど」
「…ふん、お前さんのような──」
額に青筋を立て顔を顰めていた老人は、俺みたいな子どもに売る物はないと言うつもりだったらしいが、俺がフードを外し、巻き込まれていた髪を後ろに払い、完璧に微笑めばぽかんと口を開けて言葉を止め、土気色の顔をぽっと赤く染めた。
「──何かね?お嬢さん」
性別が間違えられているが、まぁいいか。
「イクネウモーンの尾羽、ガジャゲルガの髄液、黒紫水晶の雫、毒蛇王の涙、ディグリリフスの新根、どれかある?」
「あ──ああ、ふむ。…なんだって?」
「イクネウモーンの尾羽、ガジャゲルガの髄液、黒紫水晶の雫、毒蛇王の涙、ディグリリフスの新根」
俺の声に聞き惚れていた老人にもう一度同じことを言えば、老人は暫くもごもごと口を動かしていたが、ゆっくりとカウンターの跳ね扉を開け、よたよたとしながらセブルスがいる棚へと向かう。
その後ろをついていけば、セブルスは僅かに動揺が走る目を見張り、俺を見下ろした。
「…今あるのは、ガジャゲルガの髄液だけじゃ。…だがのう、これは──200ガリオンじゃ」
「高っ!」
老人は棚のガラスをコツコツと長く黒い爪で叩き、その奥の紫色の手のひらに収まるほどの小さな瓶を指した。
こんな小さな瓶で200ガリオン!?たしか1ガリオンが日本円で…えーと、今は800円くらいだったはず。って事は──16万円…!
「…他の材料は?」
「ディグリリフスの新根は…月に一度は仕入れるが、150ガリオン程じゃのう。まぁ、状態により値段は変動するが。…。イクネウモーンの尾羽、黒紫水晶の雫、毒蛇王の涙…どれも一際入手困難なものであり、ここ数十年は…市場に流れてないのう」
「まじかー……。ちなみに偽物とかじゃないよな?この髄液」
「ふん。ここで偽物を売るなど愚かな真似はせんわ…」
まぁ、治安がクソ悪いノクターンで偽物を売れば1発で呪殺されそうな雰囲気はある。
俺には本当かどうかわからないから、セブルスをちらりと見上げてみればセブルスは苦々しい顔で俺を見下ろすだけで何も口出さない。…偽物じゃないという事かな?
いや、俺が何故こんな高額な材料を集めているのか、知っていたとしても深く関わりたくないだけかもしれないな。
「…黒紫水晶は、売っておるぞ」
「え?そうなんだ…?」
老人はよたよたしながらセブルスに「じゃまじゃま」と言うように手を払い、セブルスは無言で少し横に退ける。
その背の裏にあった棚に陳列されていたのは、黒色の丸い石だ。全く紫成分が無いような気がするが、この店内が薄暗すぎるからかもしれない。
両手で水晶をとった老人は、俺にそれを突き出す。にたり、とした笑顔を浮かべていて──とりあえず受け取った。
「どうやって雫を生み出すんだ?」
「膨大な魔力を込める。ただ、それだけじゃがのう。それがなによりも、難しい。生半可な魔力では水晶は泣かぬ。1000人の魔力を込めたとて水晶は痛くも痒くもないんじゃ」
「へぇ…これ、いくら?」
「5ガリオンじゃ」
「安っ!──いや、安くはないけど」
拳ほどの大きさの水晶はなんと5ガリオンだった。
安くは無い、魔法界の物価はなんか偏ってるけどお菓子とかは安いし。他のものが高すぎたから麻痺ってるけど、うん、5ガリオンなら手が出せるな。
「…黒紫水晶の雫の売値っていくら?」
「そうじゃの。──この小瓶で、350ガリオンといったところか」
老人は髄液が入っている小瓶に視線を向ける。あんな、女の人のマニキュアより小さな小瓶で350ガリオンだなんて!めちゃくちゃ貴重なんだな。
「じゃあ。この水晶を買うよ」
手を差し出す老人にポケットから金貨の入った袋を取り出し、そこから5ガリオンをその皺くちゃな手に乗せる。
「ここって、材料の買い取りはしてる?」
「まぁ──しとるが…」
ガリオンをカチカチと合わせ本物かどうか確かめている老人は訝しげに俺を見る。
指をパチンと鳴らし、ガラスで出来た大きなボウルを出現させた俺はカウンターへ向かい、薄汚れたカウンターの上にボウルを置いた。
「んじゃ。黒紫水晶の雫を買い取ってくれるか?」
「何──」
両手で包み込むように──おにぎりをつくるみたいに水晶をぎゅっと握る。強く魔力を込めれば指の隙間から紫色の光が漏れ、キィイ、という高い耳鳴りにも似た音が空気をつん裂く。
ぼたぼたと濁った黒紫色の液体が溢れ、ボウルの中に溜まっていく。大きなボウルの半分程が溜まった頃に、水晶は悲鳴を上げるのを止め──手を開けば、水晶は消えていた。
「──さ、幾らで買ってくれるかな?」
にこりと老人に微笑めば、老人はこぼれ落ちそうなほど目を見開き、呆然としていた。
俺は無事に黒紫水晶の雫とガジャゲルガの髄液と莫大な金を手に入れることが出来た。金はまじで予想外だったけど万年金欠の俺にはありがたい!
流石にあのボウルの量の雫を買い取る金は今ここにはない、ということで半量はそのまま瓶詰めしてもらいポケットの中に突っ込んでいる。この雫がどんな効能があるのかわからないけど、暫く金には困らないだろう。
老人には他の店でくれぐれも売らないように、それに無駄に雫を作り出さないようにと言われてしまった。
理由は市場価値が暴落するからと、雫を独占したいからだろう。まぁ、残りの材料がもし入荷したらすぐに連絡するって媚びた笑顔で約束してくれたし、市場価値が暴落したら俺の懐事情にも響くから止めておこうかな。
「あー。疲れた」
雫を生み出すのに1000人を超える魔力がいると言うのは正しいらしく、倦怠感が凄い。酒をちゃんぽんして全力疾走したみたいな嫌な頭痛と嘔吐感もある。試練の部屋を強行突破するよりも、疲れた!
「セブルス先生。黒紫水晶の雫、欲しいですか?」
何故か俺と一緒に店を出たセブルスは、ノクターン横丁を歩く俺の少し後ろをついてきている。多分この雫が欲しいんだろう。めちゃくちゃレアらしいし。
間違っても俺が無事にノクターン横丁を抜け出せるかどうか見守ってくれてるなんて事は、多分無い。
「……言い値を払おう」
「そうですね…──ここで話すのもちょっとアレなんで、ダイアゴン横丁まで行きませんか?」
セブルスは暫し悩んだが、雫の魅力はよっぽどなのか、苦い表情のまま頷いた。