兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
薄暗いノクターンとは違い、ダイアゴン横丁は明るい声と健康的な活気で溢れている。
夏休みが始まってまだ数日しか経っていないからか、ホグワーツ生らしき子どもの姿は無い。まぁ、だからセブルスは今日ノクターンを訪れていたんだろうし、ダイアゴン横丁に行きたい俺を拒絶しないんだろう。
「ここのテラス席でお話ししましょ?店内は人が多そうだし」
俺がアイスクリーム店のテラスを指差せば、セブルスは渋い顔をしたまま頷く。セブルスがアイスクリーム店に居るなんて生徒が見れば二度見…いや、三度見くらいしそうなほどのとんでもない光景だ。
ま、まぁセブルスもアイスクリームくらい…食べるかもしれないけど。うん。
テラス席にはそれぞれのテーブルに大きなパラソルがつき、魔法がかかっているのかその下にいればひんやりと涼しい。ちょうど日差しも遮られているし、疲れた体を癒すには最高の環境だ。
ローブを脱いで椅子の背にかけ、巻き込まれていた髪を後ろに流す。汗ばんでいる肌にぺたりと張り付いた前髪をかきあげ椅子に深く背を預ければ、メニューを持ってきた店員が真っ赤な顔をして穴が開くほど俺を見つめていた。
にこり、と微笑めば店員は見えている肌全てを真っ赤にしたままロボットのようなぎこちない動きで机の上にメニューを置く。「ご注文が決まりましたら、杖で叩いてください」という声が裏返っていたが、なんとか気絶せずに済んだようでまたギクシャクしながら店内に引っ込んだ。
「んー。イチゴパフェにしようかなぁ…あと、アイスティーと…。セブルス先生は?」
ポケットから杖を出し注文したいものをとんとんと叩きセブルスの方にメニューを突き出す。
セブルスは無言で色彩鮮やかなメニューを見ていたが、ただの紅茶をとん、と杖先で叩いた。
数分待てば、先ほどとは別の店員がイチゴパフェとアイスティー、普通の紅茶をふわふわ浮かばせながら運んできたが、俺を見た瞬間魔法が乱れたのか大きく浮かせていた商品が動き、アイスティーがぶちまけられそうになった。
ギリギリ体勢と魔法を整えた店員は真っ赤な顔にぎこちない笑みを浮かべ「ごゆっくり」と言いながら杖を振るう。
すると、アイスティーに敷かれていたコースターに見知らぬ名前と住所が浮かび上がってきた。
何だこれ?と思って見ていると、店員はパチンとウインクをして、ふらふらしながら仕事に戻った。
「ナンパかー。こっちの世界でもあるもんだなぁ」
アイスティーを飲みながら丸いコースターをひらひらと軽く振る。電話番号じゃないのはここは魔法界だからだろう。フクロウ便使ってペンフレンドになろうぜ!って事なのかな。
「……ノア、お前は…まさか、あれを造るつもりなのか」
紅茶に手をつける事なく、セブルスが真剣な低い声で俺に聞く。
何の事だろう、ととぼけて見せたがセブルスはそれだけでは騙されず、苦い顔で俺を見つめ続けた。
「まあまあ、まだ俺は何もしてないですからね。ただ珍しい材料を集めたいだけですよ」
「……」
「それより、黒紫水晶の雫の話でしょ?さっきの爺さんは300ガリオンで俺から買い取りました。売値350ガリオンって言ってましたね。……先生はいくら出しますか?」
真っ赤なイチゴを摘みつつ話を変えれば、しばらくセブルスは黙っていたが「320」とぶっきらぼうに呟いた。
先ほどの店主よりは高額だが、流通しているものを購入するよりは安い。セブルスの懐事情は知らないが、まぁ彼もホグワーツという学校の教師だし、そこそこ金は持っているのだろう。あんまり服とかに金かけてる感じしないもんなぁ。薬草に全財産ぶっ込んでそう。
杖を振り、ガラス製の試験管を出してポケットに入れていた黒紫水晶の雫入りの瓶を出す。溢さないように慎重に注ぎ込み、コルク栓をしっかり閉めてセブルスの前に転がせば、セブルスはしっかりとそれを受け取り日の光に透かしてまじまじと見つめた。
明るい場所で見れば、確かに黒色の中に紫色の煙のようなものが揺れているのが見える。
セブルスに渡した量は先ほどの店で販売するだろう量の5倍はある。流石にこれほどの量に見合った金額を払えないのか、払えるけど悩むのか──セブルスの眉間の皺が深くなった。
「これほどの量は──」
「5ガリオンと、ここの奢りで手を打ちますよ」
「──何?」
まだまだ俺が持つ雫は大量にあるし、別にこれくらいサービスであげても問題無い。
セブルスはどれだけ俺が可愛こぶっても靡かない。しかし、魔法薬の珍しい材料が関わるとその態度を少し軟化させる事はこの一年でわかっている。つまり、これはギャルゲーでいう貢ぎイベントだ。
「水晶自体は5ガリオンで買いましたし、セブルス先生にはいつもお世話になってるので」
セブルスは僅かに驚いたような顔をしていたが、すぐに胡散臭そうに俺を見る。開心術を使わずとも「何を考えてるんだ」と読めてしまうのが何とも悲しいことだ。
だが、破格すぎる金額はセブルスも有難かったのだろう。机の上にちゃっかり5ガリオン置いて内ポケットの中に試験管を入れた。
にこり、と笑って見せれば、セブルスは微塵も笑わなかったがその眉間に刻まれていた皺を少し薄くしてようやく紅茶のカップを掴んで一口飲んだ。
暫くの間、初めてと言って良いほど和やかな空気が俺とセブルスの間に流れた。やっぱりセブルスの心は物で軟化させるしかないようだ。信頼を得るのはかなり、難しそうだなぁ、セブルスって誰かを信頼したりするのか?
「──ああ!ノア・ゾグラフ!ようやく会えたわ!」
甲高い声が俺とセブルスの和やかな空気を切り裂いた。俺の見た目が素晴らしすぎて声をかけれるのは日常茶飯だが、今はセブルスと居るしできればそっとしておいて欲しい。
そう思いながら声がした方を振り返れば、見覚えのあるカールしたブロンド髪、赤縁のメガネ、光沢のある真紫の服を着た女性がワニ革のバック片手に顔を興奮で染めて俺の元へ近づいた。
「誰?」
「あたしはリータ・スキーター。日刊預言者新聞の記者ですわ。ほら、一年前に──そこのセブルス・スネイプ教授との記事をご覧になって?あの記事もあたしが書いたものなの。まぁまぁ!今日はデート?デートかしら?」
やはり、この女はリータ・スキーターだったようだ。
一年前の日刊預言者新聞の記事、と言う言葉で一瞬でセブルスの機嫌が急降下し、見るからに険悪で憎悪の満ちた目でリータを睨んでいる。今すぐここから立ち去りたいが、かと言ってまた嘘ばかりの記事をこの女が書くかもしれないと思ってここから立ち去れないらしい。
……いや、この女がどうとかいうより、俺がまたふざけて「恋人です♡」という事を警戒してそうだ。
「あなたについてインタビューいいかしら?」
「そうだなぁ……俺が言った言葉を曲解せず、正確に書く。──という約束をしてくれるなら」
「勿論ですわ!あたしは嘘は書きませんもの」
リータは空いている席に無遠慮に座り、ワニ革鞄の中から俺にとってお馴染みの自動速記羽ペンを出した。そのペンは俺が何も話していないにも関わらず、既に勝手に動いている。
「じゃあ、俺と指切りして?」
「指切り?」
俺はストローを噛みながら笑い、小指を差し出した。指切り、というものが何なのか知らないリータは少し不思議そうに俺の小指を見る。
「俺と同じように小指を出して?」
「……こう?」
「そうそう。リータ・スキーターはノア・ゾグラフに関する記事を曲解せず正確に書く。……嘘ついたら針千本のーます!」
絡ませた小指をしっかり握り、そのおまじないを唱えれば、2人を繋ぐ小指がぱっと白く光った。
その瞬間、リータは驚き目を瞬き、小指を離したけれどもう魔法契約は交わされた。
「な、何かしら、今の光は──?」
「魔法契約。俺とリータの間に結んだ。もしリータがさっきの約束を破れば……針を千本飲む事になるからね」
ストローで半分溶けかけている氷をくるくると回しながら言えば、リータは引き攣った笑いを浮かべた。流石にこんな若い俺が魔法契約なんて結べないと思っているのだろう。
「リータは嘘をつかないよね?」
「え、ええ……勿論よ」
「それに、──万が一ジャーナリストが怪死すれば記事になるでしょ?ジャーナリスト冥利に尽きるよね?」
これくらい脅しておけば大丈夫だろう。ここで約束を破って死んでしまうかどうかは、この人の自由だ。
リータは俺の完璧な微笑みを見て顔を青くささたり赤くさせたり忙しそうだったが、ゴホンと仕切り直すように咳をすると改めて俺に向き合った。
「…セブルス・スネイプ教授との関係は?」
「俺はマグル界で、孤児院で暮らしてる。だから魔法界の事は何も知らなくて…ホグワーツにはそういう生徒に1人、教師がつくことになってる。セブルス先生は俺の魔法界での一時的な後見人。今日も無理を言って来年度の教科書を買うのについてきてもらったんだ。デートでもないし、ましてや恋人でもない。……ね、セブルス先生?」
「………あぁ、そうだ」
黙ったままだったセブルスは、何やら苦い顔をして頷く。リータはちらりとセブルスを見てつまらなさそうな顔をしたがとりあえず頷いた。
「貴方の事について教えてもらえるかしら?」
「ノア・ゾグラフ。来年ホグワーツ2年生、ハッフルパフ寮。親は俺が5歳の時に強盗に襲われて死んだ、それからマグルの孤児院で暮らしてる。魔法薬学が好きで、今は……珍しい材料を集めるのが趣味かな」
リータはふんふん頷きながらそれから俺に幾つかの質問をして、俺も当たり障りなく答えた。最後に新聞に載せる写真を撮りたい、というからセブルスが写らないように配慮して、とびきりの笑顔で写ってやった。
アイスティーの氷がすっかり溶けきった頃、リータは満足したのか、俺についてのインタビューが載る記事を孤児院に送ると約束してさっさと退場した。
「ふー……俺についての記事なんて、みんな読みたいんですかねぇ」
薄くなったアイスティーを飲み干せば、セブルスは真剣な目で俺を見る。
「……先ほどの魔法契約、あれは、本当なのか」
「ん?……試してみます?」
身を乗り出してニヤリと悪戯っぽく笑って小指をセブルスに出したが、セブルスは鬱陶しそうに手の甲で俺の手を押し退けた。
リータにインタビューされた次の日。
孤児院の俺の部屋の窓に一羽のフクロウが近づき、コンコン、と窓を突いた。
すぐに開けてやればふわりと部屋の中に入って口に咥えていた新聞を机の上に落とし、そしてまたふわりと窓から外へ飛んでいく。金を払ってないが、リータはサービスのつもりだったのかな。
「どれどれ……」
ベッドに座って新聞の見出しを見る。かなり目立つ点滅する文字で『魔法界一の美少女?美少年?ノア・ゾグラフに迫る!特別インタビュー!』と馬鹿でかく書かれていた。
ぱらぱらと新聞を捲れば、かなり大きな俺の写真が乗っていて、自分のことながら惚れ惚れする美貌である!にこにこと笑っていて可愛い天使のようだ!
『魔法界に彗星の如く現れたノア・ゾグラフ。彼──いや、彼女?──はホグワーツの2年生であり、飛び抜けて優秀な生徒だという。私たちが入手した情報によるとノアが属しているハッフルパフ寮は、彼の功績により245年ぶりに寮対抗杯を獲得したようだ。好きな科目は魔法薬学であり、珍しい材料を集める事が趣味だと言う。
彼は優秀なだけではなく、一目見てわかるように類い稀なる美貌を持つ。あまりの美しさに、通行人がノックアウトされ気絶するがそれは珍しくも何ともないようだ。
優秀であり、美しいノア・ゾグラフだが、その人生は順風満帆なものではなかった──』
「ふーん。まぁ、嘘は言ってないし曲解もしてないかな」
リータは俺の約束をきちんと守り、多少大げさに──特に俺の両親が殺され孤児だということを悲劇的にドラマチックに書いていたが、曲解はしていない。
俺の脅しが効いたのか、それとも長いジャーナリスト人生の勘がこの約束を破ればまずい事になる、と訴えていたのかはわからないが、とりあえず良かったと言えるだろう。
「ノア!朝ごはんですよ!」
「はーい、今行く!」
他の記事は特に気になる事はなく、有名な魔法使いや歌手のゴシップ記事だけで、興味はなくすぐに机の上に投げ捨てて、俺はライカママと子ども達が待つ居間へと向かった。
ーーー
「な…何だこれ…」
朝ごはんを食べて、暫く子どもたちと遊んでから部屋に戻ったら、出て行く前とは違いすぎる光景に、流石の俺もちょっと固まった。
部屋の机や床、ベッドの上など数えきれないほどの手紙と小包が積み上げられ、俺の目の前で小山が崩れた。
窓からは絶えずフクロウが飛び込み、色々な荷物を置いてすぐに飛び去って行く。
暫く呆然としていたが、目の前にひらりと落ちてきた手紙を掴み、呪いがかかっていないことを確認して文を読む。
中には何度見たかわからないファンレターのような恋文のようなものが書かれていた。
小包を開ければ、見たこともない薬草が綺麗な瓶の中に詰まっている。
「……効果ありすぎだろ……」
リータのインタビューにわざわざ答えたのは、俺が顔を出して「魔法薬の珍しい材料を集めている」と書かせるためだった。そういえばちょっと珍しいものが送られてくるかなぁ、と思ったが、一日目にしてこの量は少々想定外だった。
開けっぱなしだった窓からは呆然としている間もフクロウやミミズクが俺の部屋に侵入している。かといって窓を閉めてしまえば、フクロウたちは猛抗議をする事だろう。ここはマグル界だ、あまり目立つ真似はしない方がいい。
とりあえず、呪いがかかってないものだけを選別し、材料はどんなものかわからないから検知不可拡大呪文をかけていた鞄の中に全部詰め込んだ。本物かどうかもわからないし、後でノクターン横丁の魔法薬材料店の店主に鑑定してもらおうかな。
俺が望んでいる材料があればいいが、かなりレアらしいしなぁ。
手際よく後で燃やすものと、後で読むものをぽいぽいと分けていると、大量の手紙の中にフレジョの2人からの手紙とセドリック、そして何故かドラコからの手紙が紛れている事に気付いた。
フレジョとセドリックはいつ泊まりに来るか?というお誘いで、ドラコからは夏休み中にダイアゴン横丁で会えないかという内容だ。
すぐにそれぞれにいつでもいいよと返事を書き、シロに渡せばシロは悠々と羽を広げ明るい空の下を飛び去っていった。