兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
夏休みのある日。
俺はトランクに2日分の着替えを入れて玄関の前に立っていた。隣を見上げれば気難しそうな顔をしたライカママが、胸の前で手を合わせ指を組んでじっと前を睨んでいる。
約束の時間まで後10分、といったところだろう。
目の前の大通りを行き交う車や人を睨み見ていたライカママは、ぴくりと眉を上げ、こちらに向かって人当たりのいい笑顔を見せながら歩いてる2人を胡散臭そうな目で見定めるようにじろじろと見た。
「セドリック、エイモスさん、こんにちは!」
「こんにちはノア、久しぶりだね」
「やぁ、ノア!」
現れたセドリックと、セドリックの父であるエイモスはマグル界にいてもおかしくない格好をして愛想良く俺に挨拶をする。
服装は、あらかじめ俺がマグル界の雑誌を切り抜いて指示していたから上手い具合に怪しまれずに済んだようだ。もし魔法界での一般的な服装を着ていれば通報──は、されなくてもすぐに「お帰りください」と言われていただろう。
すぐに俺の隣に立つ厳格そうなママに気付き、エイモスが被っていた帽子を脱ぎ胸に当てながらしっかりと自己紹介をした。
「エイモス・ディゴリーです。こっちは息子のセドリックです」
「…どうも。シエル孤児院のシスターの、ライカ・クラークです」
「この度は息子がわがままを言ったようで…外泊の許可をありがとうございます。ノアはしっかりと2日後、ここに連れてくることを約束しますよ」
「当然ですわ」
「エイモスさん、今日からよろしくお願いします!」
そう、孤児院では15歳までは外泊許可が本来ならば出ない。
俺は中身は30過ぎだとはいえ、この世界では外に一歩出れば変質者とご対面する世界一の美少年な12歳だ。
本来なら後3年は友達の家でお泊り会!なんて無理だが、ちょっとライカママに可愛くおねだりすれば特別に許可が降りた。
しかし、それが他の子供達にばれたら流石に贔屓すぎる、ということで、孤児院の子供たちには、俺は通っている事になっている芸能人養成学校の特別授業に向かう、という建前になっている。
マグルのライカママは俺が外国の芸能人育成学校に通ってると信じているため、セドリックも同じ学校の友人だと嘘の説明をしたが、セドリックはなかなかにカッコいいためライカママは微塵も疑っていない。
もしこれがフレジョならば……コメディアンというしか無いだろう。いや、2人もそこそこかっこいいし愛嬌があるけど、やっぱ抜群にイケメンなのはセドリックだ。
「じゃあね、ライカママ」
「ノア…本当に気をつけるのよ、男はみんな狼なんだから…!」
ライカママはぶつぶつ言いながら疑いの目でセドリックとエイモスを見ていたが、2人はなんとも言えず苦笑しているだけだ。
俺はライカママに別れを言ってエイモスの後ろをセドリックと並んで歩く。エイモスは自然な動作で俺のトランクを持ってくれたし……英国紳士とは彼のことを言うのかもしれない。髭もなかなかにダンディな感じだ。
「──さて、ここまでくればいいかな」
暗い裏路地に入ったエイモスは辺りを見回し、近くに誰もいないことを確かめると俺とセドリックに向けて手を出す。「家まで姿くらましをするんだよ」とセドリックは俺に耳打ちをしてエイモスの腕を掴み、俺もそれにならってエイモスの腕を掴んだ。
すぐにぐっと鳩尾から引っ張られる感覚がして、慣れ親しんだ姿くらましの微妙な気持ち悪さが訪れる。
すぐに周りの風景は変わり、伏せていた目を開けると、目の前には青々とした森が広がっていた。
色とりどりの花が咲き乱れる美しい景色と、清々しいほど澄み渡った空。都会は雑音で溢れていたが、ここは車の音や人が忙しなく行き交う声は聞こえない。
ただ、木の葉がさわさわと初夏の光を浴びて風に揺られていた。
「僕の家へようこそノア!こっちだよ!」
セドリックは俺の手を引き、石畳が敷かれている道を進む。
綺麗に手入れされた生垣や庭を通れば、葉っぱに隠れて小さな妖精がこっそり顔を覗かせていた。この一帯に、マグル避けでもかけているのかもしれない。手を引かれるまま進めば、沢山の草木と花に隠れるようにして落ち着いた雰囲気の家が突然現れた。
「魔法使いの家って初めてだなぁ」
見た感じそこまで奇妙な家ではない。
どこにでもある少し古めの家だろう。少しいった場所にはマグルが住んでいる家もあると聞いているから、見た目で魔法使いだとバレないようにするための工夫なのかもしれない。
……映画で見たウィーズリー家の隠れ穴、と呼ばれる家はちょっと見た目がどう考えても普通ではなかったな、そういえば。
あの家もマグル界に近かったと思うんだけど、流石にマグル避けの認識阻害魔法でもかけてるのかな?
「母さんは出かけてて、今はいないんだ」
「そうなんだ?…おじゃましまーす──おお…すっげ」
セドリックが家の扉を開き、家の中に案内する。外から見る限り時々魔法生物が視界の端を掠める以外には普通の家だったが、中はさすが魔法使いの家というべきか。よくわからないものが家の中に沢山あって、どんな魔法がかかっているのか、それは勝手に動いていた。
最後にゆっくり歩いてきていたエイモスが扉を閉め、珍しそうに見回していた俺にトランクを渡す。
「妻が帰ってきたら、声をかけるよ。妻は君にとても会いたがっていてね…一年前新聞に出ただろう?もう、あれから毎日新聞を見て新しい君の記事がないか血眼で探しているんだよ」
「はは…じゃあ、後で写真でも撮りましょうか」
トランクケースを少し開けて中からカメラを取り出せば、エイモスは嬉しそうに笑い「私とも、撮ってくれるかな?」と聞いてきたので勿論、と頷いた。
暫くは遊んでなさい、とエイモスに言われ、俺はセドリックの後をついていきセドリックの自室に荷物を置いて、魔法界でしか出来ない魔法チェスやゴブストーンをして遊んだ。
空が茜色になる頃にセドリックの母親が戻ってきて、熱烈な歓迎を受け、沢山の料理を作り──俺と記念写真も撮った──振る舞ってくれた。
セドリックも、セドリックの両親もとても楽しそうだったし、暖かかった。
自分の家だと思って寛いでね、との言葉に甘えて俺ものびのびと過ごす事ができたし、セドリックはセドリックで両親が揃う前では少々親に甘えるところもある、という事がわかって意外だった。
──いや、意外、でもないのかな。セドリックはまだ12歳だし、長期間親元を離れるのはきっと寂しいだろう。男だとはいえ、甘えたい盛りなのかもしれない。それに、このご両親は一人息子であるセドリックの事を、心から愛し慈しんでいる。
……やっぱり、セドリックは死なせるわけにはいかないよなぁ。
「どうしたの?」
セドリックの自室にあるベッドの上に座り、ぼんやりと色々思っていたら、シャワーを終えたセドリックがタオルで頭を拭きながら現れ不思議そうに首を傾げた。
「ん?…いや、あったかい家だなって思って」
率直な感想を言えば、セドリックは照れたように笑って俺の隣に腰掛ける。ベッドが少し軋んだけれど、俺たちの間には妙な気分になったりする雰囲気は勿論無い。
「また休暇の時に遊びにきてよ。父さんも母さんも喜ぶから」
「ありがとう、来年の楽しみが増えた」
杖を軽く振るいセドリックの髪に乾燥魔法をかければ、セドリックは温かな風に目を細め驚いたように髪に触れながら「ありがとう」と言って笑った。