兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
クィディッチ開幕戦が近づけば近づくほどどのチームもやる気に満ちて頻繁に練習をしている。勿論万年最下位のハッフルパフも例には漏れず、選手たちは毎日──とは言わないが、3日に一度は必ず練習日があった。
俺はゴールのフープ前をぷかぷか浮遊しながら迫ってきたクァッフルを箒の先で叩き返した。
「うーん、動きは悪くないんだけど……必死さがないんだよなぁ…」
チームメンバー達は下手ではない。下手ではないが、ふとした時に選手同士のお見合い状態になってしまう事が多い。毎年負け続けているからなのか、自信がないと言うか、まぁ勝てなくてもいいか、みたいな積極性にかける雰囲気が──キャプテンのナンシー以外に──あった。
見ることなくまたやってきたクァッフルを掌で捕らえ、そのまま強く投げ返してゴールフープの枠に足をかけながら空を見上げる。
ちょうどその時、空を旋回していたセドリックがスニッチを見つけ、物凄い速さで急降下し手を伸ばす。地面激突ギリギリのところで大勢を立て直し、右手に黄金色に輝くスニッチを掴み「キャプテン!タイムは!?」と目を輝かせた。
「15分04秒!さっきより早かったけど惜しい!あと4秒!」
「ああーーっ!く、くそっ!もう一回!」
セドリックは手に持っていたスニッチを離すと、一度目を閉じて10秒数え、また空に上がっていった。
「ノア!いつもながら鉄壁の護りね!試合の時もその調子で頼むよ!」
「はーいキャプテン」
俺に向かってナンシーはにっこりといい笑みを浮かべた後、すぐに選手たちの元へあれこれ改善点を告げにいった。
そう、俺はシーカーをクビになったのだった。
理由は単純明快、クィディッチバカである──これは本人も認めていたことだ──ナンシーと、俺に慣れているセドリック以外のチームメンバー4人が、空を旋回する俺の神々しさに目を奪われ全く練習にならなかったのだ。
美しい銀髪が輝き視界の端に光が映るたびにみんな顔を上げ、スニッチを捕まえるためにチームメンバーの近くを通り過ぎれば俺の残り香でクラリときてしまい気絶する。
そもそも視界にちらちらと見え隠れすれば、無意識のうちに目で追ってしまう抗えない魅力が俺にはある──俺が世界一の美少年なばかりに!
ビーターの2人はブラッジャーを打ち返すことなくバッドを持ったままポーッとして俺を見ていたせいでブラッジャーが他の選手に激突していたし、チェイサーの2人は俺が気になりすぎて何度もクァッフルを落としていた。
まぁ、練習では俺が開始3分以内にスニッチを捕まえていたからチームとしてはぼろぼろでも──試合には勝てそうだしいいか、と思っていたが、ナンシーとセドリックから「こんなのクィディッチじゃない!」と非難を受けてしまい……それで俺はシーカーをクビになり、セドリックとポジションを変更した。
俺が競技場を動き回っていなければ、まだ他のメンバーはなんとか動くことが出来ていた。──まぁ、キーパーってゴール前から動かないしな…。
試合で華々しくシーカーデビューしたかった俺の野望はこうして終わってしまった。
その事をフレッドとジョージに愚痴ってみたが、2人にも「ああ、そりゃそうだ、そんなのはチーム試合じゃない」「個人戦だ」と言われてしまい、ぐうの音も出ず黙り込む事となってしまったのだ。
クィディッチの事となると、セドリックとフレッドとジョージはかなり真剣になる。好きなものに対し熱意があるのはとてもいい事だし、なにより3人の意見は間違いなく正しい。──シーカーやりたかったなぁ…。シーカー目立つし…ってかシーカーがスニッチとったら150点とかぶっ壊れルールじゃねぇの?
「なぁーどう思う?ハグリッド」
「そりゃあ……クィディッチは1人でやるもんじゃねえ、みんなでやるもんだ」
「そういうもんかなぁ」
なんだか納得いかなくて、森の中を散歩するしながらハグリッドに聞いてみたが、ハグリッドもセドリック達と同じ事を言う。
いやー俺は元々インドアでスポーツなんてやった事ないから最終的に勝てればいいのでは?と思う気持ちがあるが、青少年の青春!汗!努力!な人たちの言い分のほうがきっと正しいのだろう。
「おっ、ノア。こっちだ」
「んー?」
ハグリッドが身を屈め──屈めたところで俺の身長よりは高いが──低木の影からそっと顔を出す。
その先には美しい湖があり、そこだけが鬱蒼とした森の中なのに陽の光が届いてキラキラ輝いている。最近寒くなり、うっすら霧が出ているようがそれすらも幻想的でなんか現実離れしている。
その湖畔にユニコーンの群れが居て、ちょんちょんと湖に口をつけて飲んでいた。
その中に小さなユニコーンが混ざっていて、その子どもユニコーンだけが楽しそうにはしゃぎながら湖に足をつけて走り回っている。
「おまえさんが助けたユニコーンだ」
「ああ……良かった元気そうで」
ハグリッドに着いてきたのは、森で怪我したユニコーンの安否が気になったから。ハグリッドはきっちり保護し怪我が完治してから森に帰したと言っていてそれを疑ったわけじゃないけどこうして自分の目で見るとやっぱ安心する。
「一匹だけはしゃいどるなぁ……おお、おお、可愛いなぁ」
「そうだな…もう群れから逸れないといいな」
子どもユニコーンを優しい目で見ているのはママユニコーンだろうか。──この中のどれかが来年、死ぬことになるのかもしれないな。うーん、ギリギリで助けられるだろうか。
子どもユニコーンの無事を確認して、ハグリッドに付き添い学校へと戻る途中、何気なさを装って「なぁ、」と話しかければハグリッドは小さな黒い目で俺を見下ろし首を傾げた。
「何だ?」
「あのさ、毒蛇王って何だと思う?」
「ああ、バジリスクの別名だな。なんだ、知らんのか?」
有名だろう。と当然の事にハグリッドは言った。
「ああー……毒蛇…?」
「おう、バジリスクの毒は有毒魔法生物の中で最も強力だからな」
「……へぇー」
つまり、サラザール・スリザリンは自分のペットを材料にしたってわけか。
バジリスクと言えば石化とか即死のイメージが強かったけど、確かに──そういえば、バジリスクの毒は分霊箱も破壊できるレベルだった。
バジリスクについての文献も少ないし、個体数も殆どいない。もし見つかったとしてもその即死性から魔法省が速やかに殺処分するらしいし、だから毒蛇王の雫は入手困難なんだろう。
「バジリスクなぁ、一度お目にかかってみてえが……ま、何百年も発見されてねえ。もう滅んじまったのかもなぁ。面白い奴らばっかり殺されて、滅んじまう…」
ハグリッドは切なそうに言う。確かに、ハグリッドはもしバジリスクが現れても普通に匿ってヨシヨシしそうだな。……ハグリッドが手に入れたのがアラゴグの卵で良かった!
「そうかもなー」
バジリスクを想って大きなため息をつくハグリッドの背中を背伸びしてトントンと叩けば、ハグリッドは鼻の下を指先で擦り、反対側の手で「ありがとうよ」と俺の肩をぽん、と叩いた。
「ぅおっ!!」
「おう、悪い悪い」
あまりの衝撃でガクンと膝を地面につけた俺の腕をぐいっと引っ張りハグリッドが立たせようとしたけど、その途端肩と腕の間がポキッと嫌な音を立てた。
「ハグリッド、頼むから力加減を…もう少し…」
「ノアは人一倍細いからなあ。もっと食べて大きくなれよ」
あまり申し訳なさそうに思ってなさそうなハグリッドを横目でじとりと見つつ、微妙に痺れる肩を摩りつつ治癒する。……筋痛めてたなこれ…。
ーーー
クィディッチの練習の合間に図書館に向かい、バジリスクの事を調べているけど毒蛇王の『雫』とは何なのかはわからなかった。魔法薬材料店の店主から貰った本にも書いてなかったから、さらに一際レアなのかもしれない。
雫、と聞けば連想するのは涙だろう。あとは…まぁ、唾液とか?毒なら毒って書きそうだし、多分どちらかだろう。
店主に聞くのが手っ取り早そうだけど、あのちょっと怪しい人に貸しを作りすぎるのもなんとなく嫌だ。後々今よりもレア素材を工面しろとか煩く言ってきそうな気がするし、目的の薬が作れたらあまり関わり合いたくない人である。間違いなくいい人じゃないしな。
となると、知ってそうなのはやっぱり──。
「セブルスせんせーノアでーす」
セブルスの研究室の扉をトントン叩いて呼びかけたが、帰ってきたのは沈黙だった。
普通の生徒ならば不在だと諦めるだろう。だが、俺はあらかじめフレジョから忍びの地図を借りてきている。手元にある地図では、ちゃんとこの先にセブルスがいる事が示されている──つまり、居留守だ。
「セブルスせんせー?…居ないんですか?」
まぁ、無視されたのではなく、単純に作業してて気がつかない可能性もあるだろう。さっきよりも強めに扉をガンガンと叩いた。
「セブルス先生!あなたは完全に包囲されている!」
「大変ですセブルス先生!外が火事です!!厨房から出火!」
「セブルス先生!ルシウス・マルフォイが面会を求めていますよ!」
「今ならノア・ゾグラフのサイン付き写真が5ガリオン!破格です!将来的にはプレミアがついて5000ガリオンになります!」
誘き出すために色々言ってみたけれど、扉の先は静かなものだった。
うんともすんとも、うるさいとも言わない…これは完全居留守を使っている。
ちらりと地図を見れば、先ほどまでは少し離れた場所にいたセブルスの足跡が扉近くにあった。様子を伺っているのだろうか。
「そっかー。セブルス先生、いないなら仕方がないなぁ。せっかくイクネウモーンの尾羽が手に入ったからセブルス先生に一枚あげようと思ったんだけど」
地図を見ながら言えば、セブルスの足跡が迷うように扉の前でうろうろしだした。
「5枚も貰ったけど、こんなにいらないしなぁ。他にもパーミクスの根とか天遣魚の鱗とかもあるんだけど、セブルス先生がいないならあの店主に売ろうか──」
「………入りたまえ」
低い声が扉の向こうから聞こえ、俺は忍びの地図をローブのポケットに突っ込み扉を開けた。──成程、セブルスは貢ぎイベントで攻略可なわけだ。ただし信用はされなさそうだな。
「こんにちは、セブルス先生」
「……用件は、なんだ」
「わぁ白々しい。俺の独り言聞いて開けてくれたんでしょう?この俺のサイン写真より材料欲しいとか物好きですねぇ」
セブルスを見上げてニヤリと笑えば、セブルスは馬鹿にしたように鼻で笑い「それに価値を見出せんな」と言い切った。
「そうそう、これ。──はい、いつもお世話になってますし、これからもお世話になるので、プレゼントです」
杖を振り机を出現させ、鞄からイクネウモーン尾羽とその他レア素材を取り出し、その上に置いていく。
セブルスはじっと無言で素材を見下ろしていたが、腕組みをする指先がとんとん、と忙しなく動いている。彼は魔法薬学のエキスパートであり、だからこそ薬草学にも知識が深い。
一般人が見ればこの机の上にある枯れた根やよくわからない物体はただのゴミのように見えるだろう。
だが、見る人が見れば──宝の山だ。
「……なんのつもりだ」
「いや、まぁほら。……俺モデルやってるでしょう?それで貢がれるんですけど、こんなにいっぱいいらないし、必要なものはなんとか集まりそうですし」
「……、…戻解薬の製造と所有は法に触れると伝えなかったかね?」
「勿論、聞きましたよ。……あーでも一つだけわからないんですけど、毒蛇王の雫って、涙の事ですか?」
素材の山からイクネウモーンの尾羽を摘み、にっこりと笑い、セブルスの前に向けながらふりふりと振る。セブルスは嫌そうな苦い顔をして黙り込んでしまった。
俺がこうして振っている意味が
「教えてほしいなぁ」
「……、……」
セブルスの視線は一瞬イクネウモーンの尾羽を見たが、すぐに俺に向かって冷笑を浮かべた。
「ご自分で探されてはいかがかね?」
「……ちぇっ」
やけに丁寧にねっとり言われてしまった。
しかし、セブルスの言い方だとこのホグワーツの図書館にある本のどれかにそれは記載されている、と取れなくもない。普通に読める本には無かったと言う事は、やっぱ禁書棚か。
「…まぁ、良いですよ」
尾羽を山の中の1番上に置き、扉へ向かう。
セブルスからの強い視線は感じているが、俺を止めるつもりはないらしい。泳がしているつもりなのかもしれないが、俺はセブルスに捕まるつもりは毛頭もない。
まぁ、薬は作るけど人には使わないしバレなければ無問題だろう。
「──あ、そうだ。セブルス先生は俺の後見人なんで、モデルの仕事するときの一時的な保護者扱いになってます。なので保護者付き添い案件の時はよろしくお願いしますね!」
「何──待て」
「ほら、色々お世話になってるお礼ですって言ったでしょ!──じゃっ!」
言い捨て扉を開けてバタンと閉じる、後ろで「ゾグラフ!」とかなりブチギレてるセブルスの怒鳴り声が聞こえたが無視して階段を駆け上がった。
ポケットに入れていた地図を開けば後ろからセブルスの足跡が俺に近づいて来ている。階段を二段飛ばしで上がり、そのまま人気のない廊下の壁にぴったり背をつけながら自分に透明化の魔法をかけて息を殺す。
「──ゾグラフ!!」
肩で息をしながら階段を上がって来たセブルスは眉間に深い皺を刻み額に青筋を立てていた。苛立った様子で舌打ちを零すと左右を素早く見渡し、俺が行ったであろう方向に当たりをつけ──勘だと思うが──滑るように走って行った。
足音が遠ざかったのを確認し、そろりとその場から離れる。いやぁ、セブルスって走れたんだ、めちゃくちゃインドアだし体力あんまりないはずなのになぁ。
自分に透明化をかけたまま、俺は毒蛇王の雫──バジリスクの雫を得るために三階の女子トイレへ向かった。