兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
目的地のトイレに到着し、そっと扉を開ける。マートルがいるかな?と思ったけれど、どんよりとしてかび臭いが、啜り泣きや嘆きの声は聞こえてこない。監督生風呂か、湖か、どこかに出掛けているのだろう。
洗面台を一つ一つ確認し、何かを彫ったような──蛇に見えなくも無い、なんとも歪なマークを指先で撫でながらこれは蛇だと思い込み口を開く。
「開け」
自分の耳には普通の言葉にしか聞こえないが、きっと他の人が聞けば空気が漏れるような異音に聞こえるのだろう。
洗面台はぐるりと回転し、土埃や水滴を撒き散らしながら姿を変えた。──ちょうど、バジリスクの胴体が通れそうなほどの穴がポッカリと開き、俺はその穴の中へ身を滑らせた。
「おおーー!」
自然の滑り台のように物凄いスピードで滑り降りる。穴は微妙に傾斜していてこれなら床と激突する心配もないだろう。──いやぁ、映画や小説で知ってるけど、ハリーとロンって凄いよな。明かりひとつない真っ暗な穴を降りる度胸なんて、最強の魔法使いだからできるけど、もし俺が一般レベルの魔法しか使えなかったら無理だわ。
暫く滑り台は続いていたが、ついに広い空間に出た。透明化の魔法を解き、ルーモスで辺りを照らしつつどんどん道を進んで行き、二頭の蛇が絡み合う扉を蛇語で開ければ──とてつもなく広い空間に出た。
「ここがサラザール・スリザリンの秘密の部屋か……でっかい石像だな…」
沢山の柱が天井に伸びる中、巨大なスリザリンの石像が俺を見下ろしている。
創立者の4人って割と自己主張激しいよな。──いや、ハッフルパフだけマシだわ。スリザリンは秘密の部屋に石像を作るし、グリフィンドールは剣を隠すし、レイブンクローは談話室に石像があるし。……意外と探したら全員の像があったりして。
「バジリスクーおいでー」
なんと声をかけていいのかわからず、取り出すトム・リドルのようにスリザリンの石像に向かって声をかけた。
暫くま待てば、彼方の方から何かが引き摺るような音が聞こえ──徐々に大きくなっていく。石像の口がぱかりと開き、中から蠢くものが現れた。
目を見たら即死、間接的でも石化待ったなしであり、今石化されたらあと2年はここで眠り続けなければならなくなる。
俺はすぐに手をバジリスクに向け、彼──彼女?──の頭を俺の視界から隠す。
「何を──」
「ちょっと包帯で隠させて貰ったよ。死ぬわけにはいかないからさ」
「貴様──よくも…!主様の継承者では無いだろう、どうやってここにきた…何故、我の言葉がわかるのだ…」
バジリスクはうねりながら石像を這い降りる。口から蛇が出ている姿を見ていると──あ、もしかしてヴォルデモートってここからインスピレーションを受けて闇の印を考えたのかな、なんて思った。
視界が奪われても、俺が何処にいるかはわかるのか、舌をチロチロさせながらバジリスクは俺に近づきいつでも締め殺せるようにぐるりと俺の周りをその巨体で包囲した。包帯で目隠しされているが、シャーと鋭利な歯を剥き出しにして威嚇している。……バジリスクの毒ってどれくらいの値段で売れるんだろ。
「バジリスク、俺は確かにサラザール・スリザリンの継承者じゃ無い。言葉がわかるのは──そうだな、世界最強だからかな?」
バジリスクの顔に手を伸ばし口元の冷たい鱗を撫でる。すべすべで思ったよりも手触りが良いな!バジリスクの蛇皮鞄とか作ったら防御力やばそう。
バジリスクはぴくりと動きを止め、威嚇して大きく開いていた口も閉じる。舌だけは忙しなくちろちろしているが、すぐに襲わないところを見ると、俺を警戒しているのか、それとも戸惑っているのか。
「…、…名は、何だ」
「ん?ノア。ノア・ゾグラフ」
バジリスクは俺の手を舌でぺろりと舐めた。一瞬毒とかあるのか?と思ったが、唾液には毒はないらしく気分も悪くないし痺れる事もない。そのままバジリスクはぐっと頭を下げ、俺の肩に顎を乗せる。
「ノア……。…お前の魂は──魔力の根源は──至高であり──主様を凌駕する」
「そりゃ、俺は世界最強だからな」
でかい犬が戯れるように頭を寄せるバジリスク。声音も先ほどとは打って変わって静かで、なんだか甘えるような不思議な響きがあった。……いえーいヴォルデモート見てる?お前のバジリスクは俺の隣でうっとりしてるぜ?──なんて、よく薄い本である展開みたいだな。
「不可思議な魔力だ。……無性に──惹かれ──焦がれる……まるで…清い地底湖のような──そばに居たいと──」
バジリスクはうっとりとしながら俺の体に身を寄せぶつぶつと呟く。
魔法界では危険な魔法生物らしいコカトリスも妙に従順だったし、警戒していた子どもユニコーンも俺にはすぐ心を開いた。言葉を理解し、話ができるからだと思ったが──俺の魔力や魂というものが特別だからなのか。まぁ、生き物全てに愛されるチート能力だからなぁ。
「じゃあさ、俺のそばに居ろよバジリスク。遠い過去のご主人様を想うのも悪くないけど、今この世界にいるスリザリンの継承者はお前のお眼鏡に敵わないと思うぜ?」
なんせ、魂は7分の1──いや、ハリー合わせて8分の1──なわけだし。
バジリスクは俺の誘いに暫く黙って頭を寄せ舌をチロチロさしていたが、ゆっくりと俺から離れるとその頭を深く下げた。
「 ──よかろう。ならば、我に名と、その稀な血を」
そういやバジリスクってのは生物名か。ペットにするなら名付ける必要があるだろう。うーん。名前なぁ、バジリスク……バジジ……流石にトトロみたいでちょっと間抜けか?
「じゃあ──そうだな。……バジルで」
「………」
左手の人差し指に杖先を向け、薄く切りながら言う。バジリスクはなんかちょっと嫌そうな雰囲気を出したが頭を下げたまま、流れた血をぺろりと舐めた。
ーーー
「──よし、後は1ヶ月煮込むだけだな」
俺は必要の部屋の中でぽつりと呟く。
特別な大鍋の中には黒くドロリとしたものが溜まっている。本に書いてあったややこしい作り方を行うのは面倒で、用意した材料を勘でぽいぽいと入れただけだが──本に書いてあった通りの色になっている。
このまま1ヶ月経てば、薄らと銀色がかった黒になるらしい。後は絶えず煮込むだけであり、大鍋をかき混ぜ続けている匙を一定の動きでかき混ぜられるように、炎は弱まることのないようにと魔法をかけた。
俺が作っているのは、魔力そのものを除去する薬であり、うっかり触れてしまえば即死待ったなしだ。多分、俺でもそれは変わらないだろう。まあ──即座にその箇所を切り捨てて回復魔法かければギリギリ生き延びる事は出来るかな?
自室やトイレなんかで作って、もし誰かが興味本位で触ってしまったら大惨事になりかねない。どこで作るか始めは悩んでいたが必要の部屋の存在を思い出し、ここなら誰も来ないだろう、と必要の部屋──調合に適した部屋バージョン──で調合する事にした。
「
ずるずると配管を通り
「じゃあ次はネズミにするか?──でも、前脚の人差し指が一本ないネズミは食べずに俺の前に持ってくること。──あ、寮の談話室の中には入るなよ」
「……ヒッポグリフが食べたいのだが」
「森は今はまだ禁止」
「一頭でも食えば、100年は持つぞ」
「まじで?超低燃費じゃん」
バジルと仲良くなったのは良いが、ずっと地下に篭っていたバジルは俺が目覚めさせた事により、ホグワーツの中を好き勝手うろうろし始めた。
勿論ヒトには危害を加えないこと、存在がバレたら厄介なため見つからない配管しか通らないこと、常に目に目隠し魔法をかけること。この3つが条件だ。
かなりの巨大なのに、超低燃費なことに驚いたが、まぁ──じゃないと1000年近くホグワーツで生き続けることは出来なかっただろう。あんな秘密の部屋に餌なんて滅多にこなかっただろうし。
「バジルの消化液はかなりゆっくりなんだな?」
「そうだ」
「ふーん……毒も無い?」
「ああ」
「たとえばヒトを飲んだら、何日くらい生きてるもん?」
「それは──わからん。ただ、ヒッポグリフを丸呑みした時は……1ヶ月は動いていたな」
「へぇ…」
なるほど、割と有効活用出来そうだな。
バジルの顔をぽんぽんと叩けば、バジルは名残惜しそうに一度擦り寄りすっと体を離した。
「あんま、うろうろするなよ?たまに寝床に会いに行くからさ」
「……わかった」
バジルは素直にそう言うと、またずるずる音を立ててどこかへ行ってしまった。
完全に音と気配が消えてから振り返れば、床の上に3枚の鱗が落ちていた。こっそりと回収し鞄の中に入れ、図書館の禁書棚へ姿くらましをした。パクっていた本2冊を──一冊は薬の作り方、もう一冊はバジリスクについて調べた本だ──元の場所に戻し、何食わぬ顔でハッフルパフ寮へ戻った。
ちなみに、バジリスクの雫とは、唾液のことだった。採取の難しい涙じゃなくて本当に良かったと思う。
バジリスクは唾液、血液、毒液、鱗、牙、骨、内臓──全てが魔法薬などの素材になり、どれも莫大な金で取引されている、市場に流れることは滅多に無くて、もしバジリスクが生まれたとして採取が困難だからこんな法外な値段だろう。
「おかえり、フレッドとジョージが探してたよ」
「ん?そうなんだ、なんだろ…」
自室に入れば、セドリックがベッドに寝転び雑誌を読みながら俺に声をかける。
読んでいたのはクィディッチの雑誌らしく、さまざまな国の選手が雑誌の中を飛び交っていた。
「多分、クリスマス休暇のことじゃ無いかな。ノアは今年どうするんだい?」
「今年も帰る。あっちでしか会えない奴がいるからさ。それに──多分、仕事しなきゃいけないし」
机に置いてあったチョコを食べながらセドリックが寝ているベッドに座れば、セドリックは納得した顔をして頷いた。
モデルの仕事は休暇中しかしない事になっている。学生の本分は学業だし、ホグワーツは事務所の人間が気軽に足を踏み入れることができる場所では無い。クリスマス休暇中に写真集を作りたいって何回も手紙が届いていたからなぁ。
「母さん、ノアの写真集発売するのすごく楽しみにしてるって言ってたよ」
「はは、ありがとうって言っといてくれ」
「父さんも一緒に撮った写真は末代まで自慢できるぞ!って言ってかなり大きく引き伸ばしてた」
「ま、俺は世界一のモデルになるから当然だな」
胸を逸らしてニヤリと笑えば、セドリックは「確かに、そんな気がする」と言って楽しそうに笑っていた。
クリスマス休暇が終われば、2年目も折り返し地点だ。三年生なればハリーが入学し、それから怒涛の7年間が始まってしまう。
7年だけでなく、それからも幸せに過ごしてほしい人たちのために──ちょっと頑張らないとなぁ。
「そういや、薬はクリスマス休暇明けには出来る。戻ってきたら最後の試練に挑めるぜ」
セドリックは勢いよく体を起こし、「本当?」と目を輝かせた。残るのはスリザリンの試練だけであり、全ての試練がおわったらどうなるのかは俺にもわからない。新たな試練が来る事は──無いと思いたい。
「全てクリアしたらどうなるんだろうね」
「やばいオタカラがあったりしてな?」
「うーん……創立者たちが作った試練の宝かぁ…」
少年らしく目を輝かせ興奮から頬を赤らめるセドリックは、「凄い魔法道具かなぁ」「それとも隠された魔法かなぁ」なんて楽しげな空想をして顔を綻ばせた。