兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
2月14日。この日はバレンタインデーであり、前世では縁の無かった俺だが今では嫌でもこの日を意識してしまう程になっている。
モデルを始めた俺は漫画でよくあるトラック何台分、とかのレベルを遥かに越えて大量の貢物や愛を語ったラブレター、そして赤い薔薇が届けられるだろう事が予測出来る。
「あー…今日バレンタインデーか……去年より凄いんだろうね」
「まぁな」
朝、目を覚まして壁にかけているカレンダーを見た瞬間セドリックが憂鬱そうな声を上げ、ため息をつきながら着替え出した。
去年は休み時間のたびに声をかけられチョコや薔薇を手渡されていたせいで授業に毎回遅れそうになってしまっていた。
イギリスでは女の子のイベント、ではなく男女ともに愛を伝える日であるようで、どちらからもモテまくる俺はそりゃもう凄かった。中には愛の妙薬を忍ばせているメッセージカードもあり、妙な匂いがするものはすぐに処分しなければならず──まぁ、確かにセドリックがため息をつきたくなるのもわかる。
「一般人にとっちゃ、俺と話せる絶好のチャンスだからな。今年はちょっとお返しも用意してるし──さあ、行こうぜ」
「……えっ、それは……余計に大変なことになるんじゃあ……」
「多分な。でもファンサービスしろってマネージャーから言われたんだよ」
身支度を整えた俺たちはいつもより気を引き締めて自室の扉を開けた。
「ノア様!」「ノア様ー!」「ノアくん、これ!」「私のを受け取って!」「僕が1番だ!」「私よ!」
談話室への階段を降りた途端。洪水のような大量の黄色い声が耳を突き刺し、セドリックはあまりの勢いに押され一歩後ろに退いた。
談話室の密度は凄まじく、ハッフルパフ生全員が集合したのではないかと思うほどで押し合いへし合いしながら俺に薔薇やプレゼントを渡す手が何本も伸びている。
誰もが1番に俺にプレゼントを渡したいと必死な顔をするその様子は、ロマンスも何もあったもんじゃないなぁ。
「ありがとう。そんなに押し合いしてたら怪我するぜ?順番な、順番。1番早く待ってたのは誰だ?」
騒ぎ立てる群衆を落ち着かせるためにわざと優しく微笑みゆっくりと言えば、群衆たちは頬を染めて黙り込み、互いに視線を交わした。
おずおずと手を上げて真っ赤な顔をして出てきたのは名も知らぬ上級生であり、周りの妬みの視線を受け震えながら俺に一歩近付いた。
「わ、私よ!日付が変わる前からここにいるんだもの!」
「まじで?そんなに早くからありがとな」
「うっ……この笑顔の輝きはルーモス・マキシマ以上っ……!」
胸を抑え眩しそうに目を細めよろめいた少女は何とか気絶すまいと必至に頬を何度も叩き気力を奮い起こすと俺に小さな箱と、赤い薔薇を差し出した。
「最高級のチョコレートを用意したの、この前のインタビューでチョコレートが好きだって言ってたわよね?う、受け取ってくれるかしら?」
「勿論。俺は誰かの物になる事はないけど、気持ちは嬉しいよ。これ、俺からのお返し」
「──っ!!」
しっかりと笑顔でそのプレゼントを受け取り、あらかじめ用意していた小さな黄色い薔薇を鞄から取り出し、少女の髪を彩るように刺してやれば、少女は電撃が走ったようにガクガクと震え、恍惚の表情をしたまま気絶してしまった。
力の抜けた少女を、彼女の友人らしき人たちが脇を抱えて後ろに引きずり退場させれば──再び黄色い騒音が談話室に響いた。
なんとか談話室にいた人たちを捌き終えた後、誰もが俺からもらった黄色い薔薇を自慢げに頭や胸ポケットに刺したり、中には魔法をかけてブローチ風にして身につけていた。
バレンタインには赤い薔薇を贈るのが常識だが、流石に俺が赤い薔薇を渡せば良からぬ方向に考えてしまう人もいるだろう。ハッフルパフカラーだし、友情の証として黄色い薔薇を選択したのは割といいセンスだと自画自賛する。
ハッフルパフ寮を出ればすぐに出待ちしていた他寮の生徒に囲まれた、その生徒にもプレゼントを貰い黄色い薔薇を渡していたら朝食の時間ギリギリになってしまいセドリックはモテまくる俺に羨ましさを通り越して少し気の毒そうな目で見ていた。
「大広間でも凄いんだろうなぁ」
「どうだろうな、半数以上の生徒は捌いたと思うけど」
「……う、もうフクロウ便の時間がきてる……」
「そりゃやばいな。今度はフクロウが俺を待ってるぜ」
なんて言いながら大広間の扉を開ければ、天井を旋回していた黒く巨大な物体が方向を変えて俺に向かってきた。
「──待て。席に着いてからだ。それより早く俺に渡したものは受け取らない」
黒く巨大な物に見えたのは無数のフクロウであり、俺の元に向かいかけていたフクロウ達は言葉を聞いてすぐに再び旋回しぐるぐると天井近くを飛び回る。
ハッフルパフテーブルに座っている生徒がかなり少ないのは半数以上が俺の魅力に当てられ気絶してまだ復帰していないからだろう。──よく見れば、フクロウの数よりも生徒の数の方が少ないな。
俺はハッフルパフテーブルの1番後ろに向かい、広い長テーブルに1人で座る。セドリックは空を飛び交うフクロウを見上げ、そして俺から3席分離れて座った。
「いいのか?そこで」
「え?」
「巻き込まれるぜ?」
「そうならないために離れたんだけど──」
いつも隣に座っているセドリックは、彼的には距離をとったつもりらしいがその距離は充分ではないだろう。
俺はニヤリと笑い、「それはどうかな?」と悪戯っぽく言うと堂々と椅子に座った。
その途端、無数のフクロウが我先にと落下し俺の目の前に赤いメッセージカードを落としていく。それは机の上にある料理の上だろうがお構いなしに乗せられ、みるみるうちに小山になり、雪崩を起こし、徐々に机を支配していく。
ホグワーツ生だけでなく、学外のファンからも届けられただろうカードの数は数えるのが馬鹿らしいほどだ。
俺への貢物や手紙は一度事務所を経由するようになっている、その検問を受けて呪いがかけられていないか、薬品が仕込まれていないかをクリアしたものだけが俺の元に届けられるとはいえその量は膨大だ。あらかじめこうなることを予想してプレゼントは事務所で保管するように、と言っていたおかげで届けられるのはメッセージカードだけだからまだマシなのだろう。
「うわ」
「ほらな?3席じゃ足りないだろ?」
「そうみたいだね……」
セドリックは目の前にあったスコーンがカードで埋もれたのを見て立ち上がるとかなり離れた場所に行き座り直した。
ーーー
「あー疲れた」
笑いすぎて少し引き攣った頬を揉みながら隠し部屋にあるふかふかとした肘掛け椅子に座る。
この調子だとゆっくりと昼飯を食べることが出来なさそうだ、と判断し、俺とセドリックは試験のクリア報酬である隠し部屋へとやってきていた。
朝食もろくに食えなかったし、昼も無しじゃ流石に夜まではもたないだろう。
生徒達に囲まれる俺を面白おかしく眺めていたフレッドとジョージは気を利かせて大広間からサンドイッチやソーセージを沢山運んできてくれて、ありがたくそれを食べながらゆったりとした昼休みを過ごす。
「うわー!この鞄に入ってるのが貢物かい?」
「見てもいい?」
「ああ、暫くチョコレートには困らなさそうな量だぜ?欲しいのがあったら持っていってくれよ、一人で全部消費出来ないし」
フレッドとジョージは俺の鞄の中を開き、中に押し込められている沢山の箱を嬉々として取り出した。拡大魔法をかけている鞄だから見た目以上に沢山のプレゼントがあり、2人は歓声を上げて次々と箱を取り出し舌なめずりをする。
「あ。でも食べる前に俺に──」
「え?何だって?」
「食べた物は返せないな!もう胃の中だ!」
「──愛の妙薬が仕込まれてる可能性があるんだけど……」
俺が忠告する前に、フレッドとジョージは目についた箱を開けてチョコケーキを食べているところだった。
口の周りにチョコをつけた2人は俺を見て──そして。
「ノア、今気づいた」
「やっぱり君は俺たちの女神だ!」
「健全じゃないお付き合いをしよう!」
「濃厚なお付き合いをしよう!」
「……お約束だなぁ」
「感心してる場合じゃないよノア!」
目は不気味に爛々と輝き鼻息荒く机を乗り越えてきた2人の前に透明な壁を出現させれば、2人はべったりとくっつき潰れたカエルのような声を上げた。
「惚れ薬の効果ってどれくらいなんだろ?」
「さ、さあ……僕も知らない。どうする?」
指を動かして2人が食べたチョコケーキの包み紙を引き寄せる。差出人が分かればなんとかなるかと思ったが、俺にこれを渡した人は悪事が発覚するのを恐れ匿名で渡したようだ。
「セブルス先生のところに行こう」
「え?」
「ほら、魔法薬学の教師だし、解毒薬とか持ってそうじゃないか?」
「そ、そうだね……」
この展開、ハリポタ原作にもあった気がする!ハリーに向けられた惚れ薬入りのお菓子を食べたのはロンだったが、その時スラグホーンがなんとかしていたし、セブルスもなんとかしてくれるだろう。
俺の名前を連呼するフレッドとジョージを空中に浮かせ、最後机の上に残っていたサンドイッチを手に立ち上がる。
「セドはどうする?着いてくるか?」
「うーん……うん、2人が心配だ」
セドリックは腕時計をチラリと見てまだ時間に余裕があることを確認し、立ち上がると首根っこを掴まれたようにふわふわ浮かんでいる2人を心配そうに見上げた。
浮かんでいる2人はおとなしい物で、俺に愛を囁いてはいるが12歳が語る愛なんて笑ってしまうほど微笑ましいものだ。「健全じゃないお付き合いって何?」と聞いてみれば、「夜に学校を抜け出そう!」と返ってきた。たしかに健全ではないが、それは性的な意味なのか、非行的な意味なのか。
すれ違った生徒の殆どは宙に浮かび愛を囁く2人をぽかんと見ていたが、中には2人が浮かんでいても気にすることなく俺にバレンタインプレゼントを手渡してくる猛者もいた。
なんとか俺に群がる生徒をやり過ごし、セブルスの研究室の前に立つ。初めてここにきたセドリックは少し不安そうに扉を見つめていた。
「セブルス先生。ノアです。ちょっと力を借りたいのですがー」
トントン、と扉をノックしたが返ってきたのは無言だった。
「……職員室かな?」
「いや、居留守だろ。俺がここに来た時の9割は居留守を使うんだ」
「えぇ……」
扉にはご丁寧に鍵がかけられていたが、魔法で難なく解除し「失礼しまーす」と言いながら扉を開ければ、やはり机の向こう側に苦い顔をしたセブルスが座っていた。
「ハッフルパフ5点減点。教師の断りもなしに部屋を開けるな」
「はーい、ごめんなさい。ところでセブルス先生、この2人俺に贈られた愛の妙薬入りのチョコケーキを食べちゃって、俺にメロメロなんですけど解毒薬ありませんか?」
指先でちょいちょいと2人を引き寄せれば、ふわふわ浮いた2人は焦点の定まっていない目で俺に愛をぺらぺら放ちながら笑っている。
怪訝な顔で2人を見上げたセブルスは、暫く2人の様子を確認したあと、冷ややかに笑った。
「ふん、いつもと差がありませんな」
「まじで?じゃあ──このチョコケーキ、いつかセブルス先生のご飯に混ぜちゃお」
指を鳴らし部屋に置いてあったチョコケーキを出現させにこりと笑えば、セブルスは嫌そうな顔をして俺を見下ろす。セドリックはついてきた事を後悔し始めたのか、入り口近くで気配を必死に殺していた。
「……」
「それともセブルス先生の胃の中に直接移転した方が確実ですかねーセブルス先生、もう少し糖分とったほうがいいと思うんですよ」
「……ちっ」
セブルスは苦々しく舌打ちをこぼすと「机の上にそれを置け」と低い嫌そうな声で言った。すぐにチョコケーキを置けば、セブルスはじっとそれを観察し、顔を近づけにおいを確認した上で、部屋の奥にある薬棚へと向かった。
「セブルス先生、愛の妙薬って普通は飲ませた相手を自分の方に向けるものじゃないんですか?なんで2人はこうなってしまったんでしょう」
小瓶と材料を幾つか取り出し、調合机に向かうセブルスになんとなく聞いてみれば、セブルスは薬を調合する手を止めず、目も上げることなく口を開いた。
「……流通している粗悪品にはよくある事だ。対象を絞ることが出来ず、薬を摂取し初めに見た者に虜になってしまう」
「へー。じゃあ俺でよかったなぁ。もし他の生徒を見てたら対処出来ずにやばいことになってただろうし」
「ノア、君の瞳は七色星キャンディのように煌めいている!その瞳で俺を見てくれ!」
「ノア、君にならゾンコの品物なんだって差し出すよ!」
セブルスは2人の声が耳障りだというように顔を歪めつつ、完成した解毒薬をゴブレット2つに並々と入れて机の上に置いた。
「飲ませたまえ。緩んだ脳が少しはマシになるだろう」
「ありがとうございます、セブルス先生!」
掴んだゴブレットを浮いている2人に近づけて、「俺からのプレゼント!」と言えば2人は満面の笑みでそれを受け取り一気に飲み干した。
その途端ぶるぶると痙攣するように震え、がくりと首を垂れて沈黙してしまい、弛緩した手からゴブレットが落下し床の上で高い音を立てて砕け散った。
「……大丈夫?」
「ほう、ディゴリーは我輩の薬が信用ならないと言うことかね」
「い、いえ!そういうわけじゃ……」
見守っていたセドリックが恐々言えば、セブルスは冷笑しつつ砕けたゴブレットを元通りに戻した。
気絶していたのは数秒程だろう。ピクリと動いた2人は呻き声を上げながら頭を振り、自分に何が起こったのかわからずきょとんとした顔で俺たちを見下ろした。
「なんだ?」
「ここは?」
「おやスネイプ先生!」
「ご機嫌麗しゅう!」
「すぐに出て行きたまえ」
フレッドとジョージを床に下ろせば、2人はようやくここがセブルスの研究室である事に気づき、意味ありげに視線を交わし材料棚や薬棚をチラチラと見ていた。
その視線の意味に気づかないセブルスではなく、額に青筋をたて「聞こえなかったのか?グリフィンドール3点減点、ハッフルパフ5点減点だ」と強く言うと杖を振り扉を勢いよく開いた。
すぐにセドリックが「失礼しました!」と慌てて叫び研究室を飛び出し、フレッドとジョージもこれ以上ここに残る事は今は不可能だと肩をすくめながら扉をくぐる。
「ありがとうございました。今度お礼の品を持ってきますからね」
「次はない。──出て行け」
「はあい。失礼しましたー」
頑ななセブルスをこれ以上刺激するのはよくないだろう。俺も先に行ってしまったセドリック達を追いかけて研究室の扉をくぐれば、すぐに扉が閉まりガチャリと鍵がかけられた。
「結局助けてくれるんだから、憎まれ口叩かなくてもいいのになぁ」
苦笑しながら階段を上がり、近くの空き教室の前に立つ。人目がない事を確認して隠し部屋に繋げて扉を開ければ、セドリック達が俺を待っていた。
「それで、なんで俺たちはあんなところにいたんだ?」
「美味しいチョコケーキを食べてから記憶がてんでない」
「愛の妙薬入りだったんだよ。それでセブルス先生に助けを求めたってわけ。送られてきた物を選別するからちょっと待ってろよ」
「まさか、俺たちは助けられたのか?」
「あの蝙蝠野郎に?」
フレッドとジョージは信じられないのか目を見開き大袈裟なまでに「あり得ない!」と叫ぶ。
疲れたようにソファに座り込んだセドリックが「本当だよ」と呟けば、2人は顔を見合わせ何とも言えない表情をしていた。
「ならば今度、我らの感謝の意を見せねばならぬ」
「そうとも。とびきりのサプライズプレゼントが必要だ」
「ほどほどにな」
2人が考えるサプライズプレゼントなんて、碌な物ではないだろうがわざわざ止めるのも面倒だ。
数日後。セブルスの研究室にある小瓶全てにハートやかわいい猫ちゃんや妖精のシールが貼られているという事件が起こり、現行犯逮捕されたフレッドとジョージはセブルスから怒涛の説教とマグル式トイレ掃除の罰則を言い渡されることになった。
「俺ならセブルス先生のローブに猫の尻尾をつけるな」
「やめて。そんなの見たくないよ」
半分冗談で言えば、セドリックはガチめのトーンで俺の言葉をばっさりと切り捨てたのだった。