兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
「ハグリッド、このイタチはどの子にやるんだ?」
「ああ、毛色が焦げ茶で目が黒いやつにやってくれ。ちぃっと薬入りなんでな」
「りょーかい」
イースター休暇もとっくに終わり、日差しが暖かくなり誰もが待っていた春がやってきた。芝生は夜露を浴びて青々とした葉に宝石のような滴を光らせている。
そんな初夏の休日に、俺はハグリッドと共に禁じられた森のそばに来ていた。
ハグリッドはさまざまな毛色と体格の異なる魔法生物──ヒッポグリフの群れを飼育し始めたようだが、想像以上に世話に時間がかかるという事で何故か俺に頼んできた。
嫌ではなかったし、それにハグリッドの好感度を上げておくのも悪くはないか、と二つ返事で頷き、こうして朝早くからヒッポグリフの餌やりを手伝っている。
一匹一匹にお辞儀をし許可をもらうというルーティンが少々めんどくさいがヒッポグリフは敬意を見せていれば飼育は難しくはない。
まだ幼体のヒッポグリフは小さな羽で飛ぶ事が難しいらしく、ぱたぱたと動かしてはいるが浮遊することはなく、馬のように芝生の上を楽しげに駆け回っていた。
「ほーら、餌だぞー沢山くって大きくなれよ」
「美味しい!」
「うまうま!」
「ノアの手から食べるご飯、最高!」
「そうかそうか。……かわいいなぁ」
イタチを骨ごとバキバキ食べる様子はぶっちゃけかなりグロテスクでスプラッターだが、声だけを聞くと無邪気でとても可愛い。
ちらり、とヒッポグリフの子どもたちを見れば口の周りはべっとり赤く、何かの肉片がついていた──のは、うん、見なかった事にしよう。
「初めは一組の番いからだったんだがなぁ。気ぃつけばこんな群れに……いやはや、大成功じゃねぇか?ん?」
ハグリッドは誇らしげに言い、一際大きな個体の2匹を慈愛に満ちた目で見つめ、ぽんぽんと毛並みを優しく撫でる。
この群れの長なのだろう2匹は、ハグリッドを心から信頼しているようでクルクルと甘えて鳴き、頭をハグリッドの腕に擦り付けた。
「ハグリッドは魔法生物に好かれるんだな」
「そ、そうか?そうだったら……ええがなぁ」
ハグリッドは照れを誤魔化すために近くにいたヒッポグリフへ向かってイタチの死骸を投げた。少々的外れなところへと投げられたイタチだったが、ヒッポグリフはふわりと浮かび器用にキャッチし噛み砕く。血が雨のように降り注ぐ──うーん、ぐろい!
「あ、そういやさぁハグリッド。俺の友達──ってか、幼馴染、かな?そいつが来年ホグワーツに入学するんだよ。マグル界育ちだから学校について何も知らないだろうしさ、どこかで会ったら助けてくれないか?」
「うん?勿論だ!名前は何っちゅうんだ?」
「ハリー・ポッター」
「……は?」
俺は灰色の子どもヒッポグリフを撫でながらにこりと笑う。
「だから、ハリー・ポッター」
「……まさか、いや、同じ名前なだけ──」
「額に稲妻の傷痕があって、孤児でいとこのダーズリー家で暮らしているハリー・ポッターだ。──こっちでは奇跡の子扱いのな」
「な、何でハリーとノアが友達に?いや、友達が多いのはいいことだ。ノア、お前さんは目立つし、優しいし、きっとハリーのいい友達なんだろうなあ」
ハグリッドは驚愕してかなり吃っていたが、衝撃を乗り越えると顎髭を撫でながらしみじみと呟き頷く。
「俺が住んでる孤児院と、ハリーが住んでる場所が近くてさ。その関係で」
「なるほどなぁ。ノア、お前さんに言われんでもハリーの事は気にかけるつもりだ。なんせハリーはジェームズの息子!俺もハリーが米粒みてぇにちっちぇ頃に会った事があってなぁ──」
ハグリッドは過去のことを思い出したのか、その場に座り込み黒くて小さな目を涙で濡らしてぽつぽつとハリーのことを俺に話した。
まぁ、さすがにジェームズとリリーがシリウスに裏切りられて死亡し、壊れた家からハリーを救出したとは言わなかったが──ジェームズがどれだけ素晴らしい生徒だったかとか、ハリーをどれだけ大切に思っているか、幸せになってほしいとか、そんな切ない話だった。
「大丈夫。ハリーは幸せになるよ。だって俺がいるんだから」
ニヤリと笑い、ハグリッドを下から見上げれば、ポロポロと流れていた涙はぴたりと止まり、ハグリッドはごくりと固唾を飲み目を瞬かせた。
ハグリッドとヒッポグリフの世話をした帰り、俺は談話室に戻ることなく秘密の部屋へと向かった。
居るのはセドリックだけかと思ったが、フレッドとジョージの2人も広いソファに座りつつ「やあ」と俺に手をあげる。
「なんだ、来てたのか」
「うん、今グリフィンドールの談話室はちょっとやばくてね」
「トランクの底に使用期限が切れたクソ爆弾を見つけてさ」
「不発で終わるかなって思ったんだけど──試してみたらもう凶悪すぎて!」
「鼻を削ぎ落とそうか悩んだな。仕方なく洗剤爆弾で中和を試みたんだが──」
「さらにやばい臭いになって──」
「苦渋の判断で逃げてきたってわけさ」
鼻を摘みケラケラと楽しげに笑うフレジョだが、何も知らず談話室にやってきたグリフィンドール生はたまったもんじゃないだろう。いやぁ、まじでグリフィンドール生じゃなくて良かった!
セドリックは遠い目をしてグリフィンドール生を憂いていたが、ふと思い出したように手に持っていた羊皮紙を机の上に置いた。
「選択科目、みんなはどれにするんだい?」
「んー、テスト簡単そうなやつ」
「授業が楽なのも忘れるなよ」
「あとは宿題が少ないのだな」
セドリックの問いかけに上から俺、フレッド、ジョージの順で答えればセドリックはむっとして「いいかい、学生の本分は──」と説教を始めたが、俺たちは無視して頭を突き合わせどの授業を選ぶか討論し合った。
誰もこない秘密の部屋で、俺たちは来年度の選択授業について話し合っていた。最低でも2科目は選択しなければならないが、勉強が好きではない俺とフレジョは出来る限り楽なものが良い。しかしセドリックは将来の選択肢を増やすためにしっかりと考えるべきだと口煩く忠告していた。
「やっぱ魔法生物飼育学かマグル学か占い学かなー」
「数占いと古代ルーン語は難しそうだもんな」
「その二つは特に宿題が多いって噂だ」
「マグル学はなー俺元々マグルのとこで暮らしているし。んじゃ魔法生物飼育学と占い学にしようかな」
選択科目が書かれた羊皮紙に丸をつけていけば、フレジョも俺と同じ魔法生物飼育学と占い学に丸をつけていた。グリフィンドールと合同授業があれば面白いんだけどハッフルパフはレイブンクローと組まされることが多いから来年も期待できないかな。
「えっ、みんなもう決めたんだ?──魔法生物飼育学と占い学かぁ……うーん……」
職業についてのうんちくを語っていたセドリックは選択科目が書かれた羊皮紙を睨み唸りながら羽ペンを迷うように空で動かす。セドリックは総合点では間違いなくハッフルパフの中で──いや、学年の中で最も優秀な生徒だ。難しいとされている数占いや古代ルーン語にも挑戦してみたいんだろうな。
「じゃあ……僕は、魔法生物飼育学と、数占いと古代ルーン語にしようかな……占い学には興味ないし……」
「えー?一緒のやつ受けてくれねぇと宿題写せないじゃん」
「同じでも写させないよ!」
セドリックは呆れながら丸をつけた羊皮紙を鞄の中に戻す。まぁ占い学は適当にでっち上げてなんか悲惨な占いをしていれば良い成績が取れそうな気もするし、セドリックの力を借りなくてもなんとかなるか。
「そういや、来年はついにハリー・ポッターが入学するんだろ?どんな子だろうなぁ」
フレッドは机の上にヌガーの山を作りつつ呟いた。魔法界で知らない人がいないハリー・ポッター。どんな男の子なのか、額に本当に傷はあるのかなど、ここ数日になってハリーの噂がヒソヒソと囁かれるようになった。誰だって来年入学してくるハリーのことが気になるのだろう。
「意外と、フツーなんじゃね?」
机の上に山になっていたヌガーを一つ摘み、包み紙を開け口の中に放り込む。甘いヌガーを食べながらそう言ったが、きっと凄いやつに違いない、とフレッドとジョージとセドリックは面白そうに話し合っていた。
一年はあっという間に終わり、とうとう来年度には
学年末試験とクィディッチの優勝杯が終わったホグワーツでの最近の関心といえばハリー・ポッターの事であり、誰もがひそひそと楽しげにハリーのことを話していた。
「どんな子だろう」「どこの寮かな」「傷痕は本当にあるのだろうか」なんて言葉は廊下や談話室、はたまた授業前によく聞こえ、マグル界生まれマグル界育ちであるハリー・ポッターについてあまりしらない生徒は彼について書かれた本を押し付けられ──間違いなくホグワーツにいる全員が奇跡の子ハリー・ポッターに興味津々だった。
悪の帝王ヴォルデモートから生き残った唯一の男の子、奇跡の子ハリー・ポッター。きっと凄い魔法が使えるんだ、さぞ優秀な事だろう。
当の本人は自分がそんな肩書きで呼ばれていて過剰に期待されているとはちっとも思っていないだろう。
あの子は魔法の存在は知っていても、魔法界や親の死因なんて全く知らず、マグルの従兄弟家族から虐げられているのだから。
学年度末パーティが開催され、煌びやかな金色の食器といつもより豪華な料理が並んでいる。
今年の寮対抗杯は2年連続でハッフルパフが取得し、大広間は黄色と黒色の弾幕で飾られている。
去年と同じように寮生からの歓声を素直に受け止め、わざとらしく尊大な仕草で片腕を上げ答える。
こんなパーティ中でも、耳をすませばハリーのことについての話し声が聞こえてくる。
セブルスの顔色がいつもよりも悪くて不機嫌に見えるのは、愛憎混じるハリーの事を聞いて複雑なのだろうな。
料理とデザートがほとんど全て生徒の腹の中に消えた後、ダンブルドアが去年のように首位になったハッフルパフを笑顔で祝福し大きな拍手が上がり、こうして俺の2年目は終わった。
ホグワーツ特急に乗り込み、だんだん小さくなるホグワーツ城を窓越しに見ながら俺は来年からの事を考えていた。
来年からついにハリー・ポッターの原作が始まる。俺がいる事により多少は差が出るかもしれないが、世界にとって俺はまだトップモデルなだけであり、それほど影響力はないだろう。──多分。
ぶっちゃけ原作を最後に読んだのはもう何年も前だし大きな事件以外覚えていない。その事件もいつ起こるのか、とかの詳しい日時まではわからないし寮が違うだろうからハリーの動向を四六時中監視するわけにもいかない。
とりあえずだ。
来年は俺が何もしなくても多分ハリーはなんとかなるし主要キャラで死ぬのはクィレルくらいだったはず。クィレルを救う事が出来たとして彼はヴォルデモートに加担したのだからアズカバン行きは免れない。それが彼にとっていい事なのかは微妙だろう。まぁその時の流れに任せるしかないかな。
もう少しクィレルと交流出来れば、彼が俺に頼ってくれるのなら助ける手段も増えただろうけど、クィレルにとって俺は最高に美しいゲーム好きな生徒だろうしなぁ。
「──ノア?」
「ん?何?」
思考に耽っていた俺にセドリックが不思議そうな顔をして話しかけていた。
「いや、ぼーっとしてたからどうしたのかなって」
「あー。来年は色々大変な事がありそうだなぁって思ってたんだ」
「……やめてよ、ノアが言うと本当に当たりそうだ…」
セドリックは苦笑いしながら手に持っていた写真集にまた目を落とした。
それは俺の写真集であり、当の本人の目の前で読むなんてどんなメンタルしてるんだよ、とは思うが、オフショットばかりのそれは俺たちにとって一種のアルバムのようなものであり、確かに何度も見返したくなるのもよくわかる。
「どれがお気に入りだ?」
「んー、やっぱりクィディッチの写真かなぁ。ノアは?」
「俺は1番最後のやつ」
「ああ、あれか──」
セドリックはパラパラとページを捲り、1番最後の写真を見た。
そこには一つの机に突っ伏しって寝ているフレッドとジョージとセドリックが居て、俺が悪戯っぽい顔をしながら自撮りをしている様子が映っている。
写真の中の俺は杖を振り、3人の頭の上に大きな水を出現させ落下させていた。飛び起きた3人に腹を抱えて笑う俺と、びしょ濡れになり顔を見合わせるセドリック達。
「うん。ノアらしくていい写真だね。水をかけられて起こされたのは驚いたけど」
「はは、あの後すぐ乾かしたからいいだろ?」
頷きながらもチクリと苦情を言うセドリックに笑いかければ、少しムッとしていたセドリックもすぐに笑顔になって写真集をまた見始めた。