兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
41 11歳の誕生日
夏休みが始まり、もうすぐ1ヶ月が過ぎようとしているある日の夜。俺は孤児院を抜け出し漏れ鍋に来ていた。
漏れ鍋にノア・ゾグラフが居る、という噂は俺がここに到着してから10分とたたずダイアゴン横丁全域に広がり、俺を一目見ようと深夜近くにも関わらず沢山のファンが押し寄せる。
店主のトムは閉店間近だったが文句も言わず店に足を踏み入れた客全てに圧をかけつつ注文を取り、いつもより忙しなく店内を駆け回っているがその顔は嬉しそうにニヤニヤと笑っている。
俺を客寄せパンダにするつもりなんだろうけど、営業妨害だしもう閉店するからと追い出されないだけマシだ。
「ノアさん、この盆にサインをくださらんか?」
「勿論オッケー!」
客を捌きつつ俺のそばに来た店主はそっと手に持っていたピカピカと銀色に輝く盆を差し出す。これがあれば『ノア・ゾグラフ来店!サインあり!』──と謳うことができ、接客業を営む彼にとって証拠の盆はこれとない招き猫がわりになるのどろう。
受け取った盆に人差し指をつけ慣れた手つきでサインを書く、指先に触れた箇所から赤く燃え、銀の盆には焼け焦げた俺のサインが浮かび上がった。
店主は驚いていたがすぐに満面の笑みを浮かべると「永久にサービスさせてくれ!」といって杖を振り、すぐに俺の机の上にティーセットと茶菓子を置いた。
「さて、そろそろ来るかなー?」
鰯の群れの中に突っ込んだサメのごとく、俺の周りには人はいない。誰だって俺の空いている席に座りたくてうずうずとしているが、それぞれが牽制し合い、俺をうっとりと眺めている。
そんな中、人の壁の奥からぬっとハグリッドが現れ、目の前の人の壁など少しも気にすることなく押し退けつつ──押された人はよろめき悪態を吐きかけたがハグリッドのあまりの大きさに唖然として身を縮こまらせていた──俺の対面側にどっしりと座った。
「よう、久しぶりだな。悪いな、ちぃっと遅れちまった」
「大丈夫、ファンサービスしてたら時間経つの早いしな」
「ノアの人気はすげぇからなぁ」
ハグリッドは笑いながら俺たちの周りに円を描くように群がる人たちを見る。その人たちは「ノアと親げに話すこの大男は誰だ!」という険悪な目でハグリッドを睨んでいたが、ハグリッドは少しも臆することなく皿の上に乗っていたクッキーを摘んだ。
「よし、んじゃあ──そろそろ行くか」
「うん、きっと待ってるからな」
ハグリッドは楽しそうに笑い頷いた。
ーーー
ダーズリー一家とハリーは海の彼方に浮かぶ大きな岩山の上には建てられた、見窄らしい小屋の中に居た。
外では轟々と唸る風が吹き荒れ、大粒の雨が窓を叩きつける。小屋は絶えず軋み悲鳴を上げ、今にも吹き飛びそうだ。──事実、部屋の中だが傘を差した方がいいのではないかと思うほど雨漏りが酷い。
何故、彼らがこんな辺境に来ているのか。
それは単純明快──ハリーに夥しい量の手紙が届いたからだ。普通の手紙なら問題無かったのかもしれない。だが、配達方法はフクロウが運んでくるという到底普通ではないものであり、おじであるバーノンは差出人を見た瞬間、その手紙を暖炉の中に投げ入れた。
手紙は一通だけで収まる事はなく、ハリーがどこに逃げても、どのホテルに泊まっても彼が受け取るまで、手紙は届けられてしまう。手紙を諸事情により受け取らせたく無いバーノンは怒り狂い、こんな場所まではるばるやってきたのだ。
こんな辺境、さらに外の天気は嵐──ともなれば流石に手紙の配達はないだろう。そう思い、寒さに震える息子や妻の心の内を知らずにただ1人バーノンだけが上機嫌だった。
夜がふけるにつれ、嵐はますます激しさを増した。小屋が小さく揺れ、ギシギシガタガタととんでもない音が響く。今にも小屋は飴細工のように壊れ、荒れ狂う海の中に投げ出されるのではないかと、ハリーは思った。
この小屋には居間と寝室があるだけで、ベッドは一台、ソファは一つしかない。
ベッドはダーズリー夫妻が身を寄せ合って使い、黴臭いソファは息子のダドリーが占領している。
この家の中で歓迎されず、友好的な関係を築いていないハリーは床の上でボロく薄い毛布にくるまり──正直、毛布を譲ってくれた事だけでも有り難い──体を丸くしながら懸命に寒さに耐えていた。
──明日、いや、あと数分で11歳になる。そうすれば、僕は魔法の事を言えるんだ。それまでは内緒だって、ノアと約束したから。11歳になったら、あいつらに知ってるんだぞと伝えて、手紙を受け取るんだ!きっと、あれはノアの言っていたホグワーツ学校からの手紙だ!
ハリーは自分の蛍光文字盤付きの腕時計を見ながら、その文字盤がすべてゼロになる時を待っていた。
その時をハリーは何よりも心待ちにしていたのだ。ノアと共にホグワーツ魔法学校というところに行く事を──ハリーはノアがホグワーツに行ってしまったこの2年間、毎日毎日心待ちにしていた。
早く11歳になり、ホグワーツから手紙が届きますように。そう、ハリーは毛布に包まり指を組み、毎日毎晩自身にとっての神であるノアに祈っていた。
毎日ノアに向けて長文の手紙を書き、毎回「早くホグワーツに行きたい、ノアと過ごしたい、早くここを出たい、ノアに会いたい」と書き連ねた。
ノアの返事は「後一年半だ!」だとか「まぁまぁもうすぐさ!」という素っ気ないものだったが、ハリーはノアからの手紙が短文であっても返事が届く事が何より嬉しかった。
手紙のやりとりは、おそらく、300通は有に超えているだろう。数えた事はないが、ノアからの手紙は──勿論、すべて段ボール箱に入れて大切に保管してある。
──ノア、早く一緒にホグワーツで過ごしたいな。
そう、ハリーが思った瞬間、時計は0時0分を示した。──ハリーは11歳の誕生日を迎えたのだ。
よし、バーノン達に言ってやる!とハリーが起きあがろうとした時。
バーーーンッ!!
突然、爆発的な轟音と共に小屋が揺れ、ばらばらと天井から塵芥が降ってきてしまい、ハリーは唖然とし何も言えなくなった。
大砲を打ち鳴らしているかのような音に、ダドリーは跳び起き「なに?大砲?どこ?」と寝ぼけた声を上げる。
すぐにバーノンがライフル銃を持ち部屋に駆け込み、後ろから顔を蒼白にしているペチュニアが体を震わせながら現れた。
「誰だそこにいるのは!こっちには銃があるぞ!」
バーノンが叫び、一瞬の空白があった。
しかし、扉は先ほどと比べ物にならぬ轟音を立て、蝶番もろとも吹っ飛び、部屋を猛スピードで横切り壁に激突しバラバラに砕けた。
戸口には嵐をバックに見た事もないほど巨大な男が立っていた。
ボウボウと長い髪と荒々しい口髭に隠れて殆ど顔を見る事はできない。しかし、黄金虫のような小さな黒い瞳だけが、キラキラと不思議に輝いていた。
こんな、大きな人間見たことがない──ハリー達は唖然としてその大男を見上げた。
「この小屋の扉、ボロすぎねぇ?」
突然、この場に似つかわしくない、美しい声が響いた。
その声に引き寄せられるように、ハリー達は視線を下におろし、大男の後から顔を覗かせ──ノアを見た。
「ノア!?」
「や、ハリー!」
ノアは大男の横からするりと身を滑り込ませると、唖然としたままのハリーの前に立ち、にっこりと笑う。
何故、ノアがこんなところにいるのか、まったく状況が理解できないハリー達は言葉を無くし、ただ、いつもの通り美しいノアを見つめ──とりあえず頬をつねった。
「夢だわ」
「そうだ、ノアがこんなところに、こんな大男といるわけがない!美女と野獣にもほどがあるぞ!これは夢だ、うむ」
「なーんだ、夢か!良かった!」
ペチュニア、バーノン、ダドリーはこれが馬鹿馬鹿しい夢である事を願い、思い切り現実逃避をしながら目をぎゅっと閉じ──恐る恐る開く。
しかし、目の前の光景は変わらない、つねった頬は痛い、つまり、夢ではないのだ。
ノアは困ったようにダーズリー一家に笑いかけ、ポケットの中から杖を取り出した。
「ごめんなぁ夢じゃないよ。──ペチュニアさん、バーノンさん。俺って、魔法使いなんだよね」
粉々に砕けた扉を一瞥することなく杖を振るえば、砕けていた扉はテレビを逆再生するように戻り、元の枠に戻りバタンとはまった。
「いやはや……お茶でもいれてくれんかね?ここまでくるのは骨だったぞ。少しあけてくれや、太っちょ」
「え?近くまでパッと来たじゃん」
「あー……まぁな」
大男が疲れたような声で言いながらくたびれたソファに座る。ダドリーは金切り声を上げ叫び、逃げ出すとペチュニアの後ろに隠れた。
「ハグリッド、先に自己紹介しなきゃ俺たちは不審者だぜ?」
「おお、そうか。──ハリー!久しぶりだなぁ、俺と最後に会ったのは、まだ赤ちゃんの時だったなぁ……顔は父親そっくりだな、──目は、母親似か。俺はルビウス・ハグリッドだ」
ハグリッド、という男は優しく小さな目を細めてハリーに笑いかける。
なんとか正気に戻ったバーノンは、震えながらライフルの先をハグリッドに向けた。
「今すぐ帰れ!家宅侵入罪ですぞ!」
「黙れダーズリー」
ハグリッドは長く太い腕を伸ばし、バーノンの手からライフルをひったくると、そのまま銃身を飴細工のようにぐにゃりと曲げてひとつ結びにした。
バーノンは悲鳴を上げ──間違いなく、人の力ではない──ペチュニアとダドリーと共に部屋の隅に退散し、びたりと壁に背中をつけ身を寄せ合った。
「ハリーや、誕生日おめでとう。渡したいもんがある──どっかで俺が尻に敷いちまったかもしれんが、味は変わらんだろ」
ぽかんとしてハグリッドを見つめるハリーに、ノアはにっこりと笑いかけハリーの背中を押しハグリッドのすぐそばまで近づけた。
ハリーは渡された箱を受け取り、低い机の上に置いて震える指で箱を開けた。中には大きなチョコレートケーキがあり、上には緑色の砂糖で『ハリー 誕生日おめでとう』と書かれていた。初めて見た、自分の誕生日ケーキだった。
「よし!誕生日パーティーだ!」
ノアはくるくると杖を回す。
ハリーのすぐそばに大きくふかふかとした真っ赤な──まるで王様が座るような豪華な王座が現れ、ハリーが驚いて目を瞬かせていると、今度は部屋の中にミラーボールが現れ部屋を極彩色で染め上げ、狂ったように回転し、どこからともなくテンポの速い陽気な音楽が流れた。暖炉には煌々とした炎が灯り、部屋の中を暖かく癒している。
いつのまにかチョコレートケーキは金色の皿の上に乗り、そばには豪華なティーセットが並んだ。
「誕生日に相応しい天気に変えよう!」
天気を、変える?
ハリーが呆然としたままその理解が及ばぬ言葉に首を傾げていると、ノアは杖を外に向けて軽く振った。
途端、ハリー達がいる小屋を中心に雷雨の雲が消えた。
あれほど荒れ狂っていた海面は、不気味なほど静まり返り優しく凪ぎ、空には満点の星あかりに輝いている。
「……は?」
一気に静かになり──陽気な音楽は響いているが──ハリーのその唖然とした声はよく響いた。
ノアは気にせず杖を天井に向ける。──途端に、天井が無くなり、満点の夜空が見えた。
「こんなもんかな?──ハリー!ようやく11歳だな!おめでとう!」
満面の笑みのノアに、ハリーは混乱していたが、とりあえず「あ、ありがとう」と掠れた声で呟いた。