兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
その日の夜10時少し前。俺はセドリックに「探検に行ってくる」と伝え──セドリックは呆れ混じりに行ってらっしゃい、と送り出した──自分に透明化の魔法をかけたあと、待ち合わせしている大広間近くの階段へと向かった。
そこには身を寄せ合うようにしてハリーとロンとドラコ──そしてハリー達の予定になかっただろう怒り顔のハーマイオニーと怯えているネビルがいた。
俺が足音を立てずハリーの肩を叩けば、ハリーは声無き悲鳴を上げ勢いよく振り返る。
「やぁ、俺だよ」
「なんだ!ノアか、びっくりした!」
「ノア様も一緒なら怖くないや!」
「今、透明じゃなかったか?」
ハリー達はあからさまにホッと胸を撫で下ろし、警戒しながら辺りを見渡す。ハーマイオニーだけはネビルの後ろで怒ったような顔をしていたが、俺と目が合うと頬を赤らめ視線を彷徨わせた。
「きみは誰かな?」
「あ、私──私、ハーマイオニー・グレンジャーです」
「そ、ハーマイオニー、俺はノア・ゾグラフ、よろしく」
「は、はい。ノアさん、私あなたを知ってからずっとずっと尊敬していました!沢山の魔法を使えるんですよね?さっきのは目眩し術ですか?あっあっ!そ、それとそのファンです!写真集買いました!握手してくださいっ!」
顔を真っ赤にして一言で言い切ったハーマイオニーは手のひらを服で吹いた後震える手を俺に向かって差し出した。
くっ……かわいい!既に美少女の片鱗がある!ふわふわな髪も、最高!
とは言わずに「ありがとう、応援よろしく」と完璧な笑みを浮かべながらいい、そっと手を握ればハーマイオニーは電流が体の中を走ったかのようにびくびくと震え感極まる目で手を見つめた。
「ああ……!この手、も、もう洗いたくないわ!」
「おい!もう少し声を落とせよハーマイオニー!」
感激のあまりなかなかに大きな声量になっていたハーマイオニーを、ロンは嫌そうな目で睨み、「しーっ!」と唇に人差し指を当てた。
「そうだ!ノアさん、この人たちを止めに来てくれたんですよね?よかった!この人たち、夜に探検だなんて馬鹿な事をしているんです!」
ハーマイオニーは必死さを滲ませながら俺に訴えたが、俺が笑っている様子に──失望したかのように表情を硬らせた。
「俺もその馬鹿な事をしにきたんだ」
「そ、そんな!嘘ですよね?そんな人だったなんて……!」
「ハーマイオニー。僕の大切な人を馬鹿にするな」
「そうだ!ノアはいつも校則なんて気にしない誇り高き減点王だって兄貴達が言ってた!」
「それは褒め言葉として受け取っていいのか?」
言葉を震わせるハーマイオニーに、ハリーは静かな苛立ちを見せ低い声で呟き、ロンは何故か自慢げにそう言ったが、そんな言葉でハーマイオニーが黙るわけもなく「あり得ない!退学になるわよ!」と小声で叫んだ。
「オーケー、ハーマイオニー。もし教師に見つかりそうになったら、俺がみんなに透明化魔法をかけて隠してやるから」
「そんな──でも──」
ハーマイオニーはまだ不満そうな顔をしていたが、俺がさっきまで透明だったのをしっかりと目撃していたため黙り込んだ。このまま文句を言っても誰も自分に賛同することはない、それなら黙って着いていき何かあれば俺に隠される方が良いと理解したのだろう。
「あまりここに固まるのも良くないな──どこに行くんだ?」
「トロフィー室だ」
俺の言葉にドラコが小声で返し、「こっちだ」と俺たちに向かって手招きする。身を低くして暗がりを通り、俺たちは4階にあるトロフィー室へと向かった。
トロフィー室には壁に沿ってトロフィー棚があり、月の光を浴びて納められているカップや盾、賞杯が暗がりの中で瞬くように金銀に輝いていた。
「僕に見せたいものって?」
「ああ──少し待て」
小声で聞くハリーにドラコはトロフィー棚に向かいいくつかのトロフィーを通り過ぎ、その中からひとつの盾を取り出すと部屋の中央にある机の上にそっと置いた。
この盾を見せたかったのだろうか?グリフィンドールチームが優勝したと細い金文字で彫られているが、盾を見せるためだけならば、危険をおかしてこんな夜中に来なくても日中に見せれば済むはずだ。
ハリーたちも同じことを思ったのか、怪訝な顔をしてその盾とドラコを見比べる。
しかし、ドラコは何も言わずにトロフィー室にひとつだけある細長い窓を指差した。
その先には薄い雲に覆われた満月が浮かび、何があるのだろうかと興味深く見ていた俺たちの前で満月が顔を出す。
「うわ──」
「す、すごい──」
満月の明るい光が白い筋となり、それは机に置いた盾に降り注ぐ。
盾が白く輝いたかと思うと、その中から溢れるように半透明の小さな影が現れ宙を舞った。
「これ──決勝戦の再現か」
半透明の小さな選手たちが箒に乗り空を駆け巡る。呆然としてその光景に目を奪われたハリーは、ひとりの影を見つけはっと息を呑んだ。
「まさか──あの人──」
「そうだ。この試合はジェームズ・ポッターが選手だった時の試合だ。……この仕掛けは上級生に聞いて知っていたんだ。数日前に君の父の名が書かれているこの盾を見つけて──君に見せようと思って」
ドラコは空を飛ぶ選手たちを羨ましそうに目を細めて見ていた。ハリーは驚きと──おそらく、感極まり何もいうことが出来ず、呆然と見たことがない自分にそっくりな黒髪の少年を目で追っている。
「こんな仕掛け知らなかったな」
「20年間、決勝戦のみ記録として残されるんだ。満月の光がないと作動しない魔法がかかっているらしい。──ちょうど今日は満月だからな」
目の前で繰り広げられていた試合が終わり、選手たちはかすみのように消えた。
キラキラと光るその残滓を見ていたハリーは、暫く無言だったがゆっくりとドラコを振り返る。
「──本当に、ありがとう、ドラコ」
心からの感謝の言葉に、ドラコは少し目もとを緩め優しく微笑んだ。
「ねえねえ、ノア様の決勝戦のもあるんじゃない?見たいな!」
「うわ!本当だ、去年のを探そうぜ!」
そんな想像もしなかったドラコとハリーの友情を深める驚きと感動のシーンをぶち壊したのはネビルとロンの声だった。
しかしハリーも乗り気でありすぐにジェームズが映っていた盾を躊躇いなく元の棚に戻すと去年の記念盾を探す。
「ハリー、いいのか?お父さんのやつもっと見てもいいんだぜ?多分何試合か出てるだろうし」
「え?良いよまた今度くればいいんだし。僕が知らないノアの姿があるなんて耐えきれないから!」
あっけらかんと言うハリーに、俺は亡きジェームズに気まずさと申し訳なさを感じて苦笑した。
ハリーたちが盾を探し出した時、隣の部屋からガタリと物音がして五人は飛び上がった。ぴたりと動きを止め息を殺し俺に縋るような視線を向ける五人に、俺は頷き指を振る。
ハリーたちに透明化魔法をかけた直後、見回りにきたのだろうフィルチの声が聞こえてきた。
「物音がしたぞ。──いい子だ、さあ、部屋の隅を探しておくれ……」
透明化をかけたのはいいが。これでは誰がどこにいるかちょっとわからないな。
どう逃げるか、と思っていると入ってきた扉の反対側の扉が独りでに開いた。誰かがここから逃げ出したのだろう。俺は暫く待ってからその後をついて行く。フィルチがこの扉を通れないように、魔法で鍵をかけておくか。
俺が扉を閉ざしたその直後、廊下に整然と並んでいた鎧のひとつが急に揺らめき押し殺したような悲鳴が聞こえ──がっしゃんと凄まじい金属音をたてて倒れた。
「──何やってるんだ!」
「だ、だって見えないんだもん!誰かに躓いちゃった!」
ハリーの焦ったような声とネビルの半泣きの声が聞こえ、腕を左から右にぱっと薙ぐように振るえば何も無かった空間にハリーたちが現れる。
ロンにしがみついて倒れていたネビルと、顔を蒼白にしたハリーとドラコとハーマイオニーが、ようやく互いの姿を見ることが出来て視線を交わした。
「大人数の透明化はちょっと無謀だったな」
俺の言葉を聞く前にハリー達は既に走り出していて、フィルチから逃れるために全速力で扉を通り、次から次へと廊下を駆け抜ける。
途中で怪訝な顔をして俺たちを見る絵画達に「しー」と唇に人差し指を当てて黙っているように言えば、彼らはにっこりと笑って頷いた。
四階の廊下の1番奥までたどり着いたハリー達だったが、その突き当たりの扉が開かないことに焦ってドアノブを何度も回し力任せに押したが扉は軋むことも開くことも無かった。
「どうしよう、ノア!」
「落ち着けって、フィルチは──」
「どいて!──アロホモラ!」
トロフィー室からこっちにくる扉は魔法で閉めたからフィルチは来ないよ。と伝える前にハーマイオニーがハリー達を押し退け、鍵を軽く杖で叩き魔法を唱えた。
かちり、と小さく鍵が開く音がした途端ドアがぱっと開き、ハリー達は折り重なって雪崩れ込む。
「早く!」
「何をしているんだ!」
「あー……」
必死な形相のハリーとドラコが俺の腕を片方ずつ掴み勢いよく扉の向こうに引っ張ると、ばたんと扉を閉める。ハリー達は扉に耳を付け、フィルチの足音がしないかと耳を澄ました。
なるほど。決闘が無くてもやはり世界は正しい形に修正しようとするのか。
俺は扉に耳をつけ続けるハリー達から離れて、俺を不思議そうに見下ろすケルベロスを見上げた。今まで眠っていたケルベロス──えーと、フラフィー?フラッフィー?だったかな?──は、寝起きで思考がまとまらないのか、それとも誰から食べようか悩んでいるのか俺たちを噛み殺そうとはしない。
「フィルチはこっちにこなかったのか?」
「──助かった……何?ネビル、引っ張らな──」
ぴたり、とハリーの言葉が不自然に止まり、ドラコ達は後ろを振り返る。息を止めた彼らはその数秒後には部屋を飛び出しバタバタと廊下を疾走し、その足音はついに消えた。
涎をだらだらと垂らし、ぐるぐると唸っていたフラッフィーににこりと微笑みかければ、フラッフィーは唸るのを止め6つの目を瞬かせた。
「やあ、俺はノア・ゾグラフ」
「──僕たち、フラッフィー。うわぁ、言葉がわかるの?」
「すごいやぁ」
「初めて見たぁ」
想像の100倍くらい可愛い子どものような声が3つの口から溢れる。そうか、体はひとつでも頭は三つあるし、それぞれの口が話せるのか。
手を伸ばせば普通の犬がするように俺の手に甘え、撫でていれば心地よさそうに目を細めごろんとひっくり返りすぐに腹を見せる。
「よーしよしよし」
「ノアの手、気持ちいいよぉ……」
「グッボーイ!」
「くぅーん……」
甘えながら子犬のようにきゅんきゅんと鳴くフラッフィーは、尻尾をぶんぶんと振り三つの口から舌を出したまま恍惚とした表情を見せる。いやぁ、ちょっとよすぎてヤバい顔になってるな。白目剥いてるし──よだれがやばい。
「フラッフィーはなんでここにいるんだ?」
「ぅん?えーと……ハグリッドに、ここに人が来たら噛み殺せって言われたから!」
「あっ勿論、ノアは噛み殺さないよ」
「だって、すっごく気持ちいいもん」
「撫でられるの好きなんだな?」
「撫でるのも気持ちいいけど、ノア、君の全てが気持ちいいんだ」
「心地良いんだよ」
「ママのおっぱいみたいだ」
おっぱい、とは。
フラッフィーは口々にそう言うと、俺の体に鼻頭を擦り付け、言葉にならない甘え鳴きをする。
誰にでも愛されるチート能力のおかげなのか、本当にどんな魔法生物でも俺にメロメロ状態であり、危険なケルベロスも俺にとっちゃ可愛い子犬ちゃんになってしまう。
フラッフィーは撫で続けているとすぴすぴと寝息を立てて眠ってしまい、俺は起こさないようそっと部屋の奥にある隠し扉へと向かった。
「──ドキドキの探検の始まりだ」
俺は躊躇することなくその扉を開け、奈落の底のようにくらい穴へと飛び込んだ。
翌朝。欠伸を噛み殺しながらハッフルパフ寮を出た途端ハリーとロンとドラコに捕まり──ハリーは勢い余って俺を抱きしめた──口々に「無事で良かった!」と小声で叫ばれたのだった。