兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
12月を迎え寒さがいよいよ本格的になってきた。少し前にあったハッフルパフ対レイブンクローのクィディッチの試合は、セドリックがすぐにスニッチを捉え、ハッフルパフが勝利した。年が開ければグリフィンドール対ハッフルパフの決勝戦が行われる事だろう。いやー実質、俺の守りが完璧だから勝利を掴めるかどうかはセドリックにかかっているといっても過言ではない。プレッシャーがあるだろうが、頑張ってほしいな。
去年までクリスマス休暇は孤児院に帰っていたが、それもハリーに会うため──というか、契約を破るわけにはいかなかったからであり、今年からは戻らずホグワーツで過ごす事に決めた。
セドリックは俺が残ると聞いて少し悩んでいたようだが、やはり親の元へ帰りたい気持ちが強くクリスマス休暇は家へと戻ってしまった。
ホグワーツでは常にセドリックと行動していたため、隣にセドリックがいないのは何だか不思議な感覚だったがその分フレッドとジョージと過ごし、時々ハリー達と雪が積もる校庭で雪合戦をして楽しく過ごしていた。
クリスマスの日の夕食にはいつもよりも豪華な料理が並び、教師達もいつもより酒を飲み楽しげに話す。腹が満たされた幸福と、こっそり飲んだ赤ワインで思考がふわふわとする中俺は静かな自室に戻り心地よい夢の中へと落ちていった。
クリスマスの次の日、セドリックがいないうちに俺はバジリスクのバジルがいる秘密の部屋へ向かい、レイブンクローから受け取った大きな本を読んでいた。
書かれている理論は難解で言い回しが独特であり酷く分かり難いものばかりだったが俺は理論がわからずとも魔法を使う事ができるチート能力を持つ。
「……死体を操る魔法。死へと誘う魔法。魂の本質を変える魔法……うーん。やべーのばっかだな」
書かれている魔法の多くは脅威的な物が多く、今なら闇の魔法と呼ばれる事に間違いはなさそうだ。当時は──1000年前はそのあたりの整備は進んでなかったのかもしれない。
いくつか今でも試せそうな魔法を試してみれば問題なく発動して──秘密の部屋はちょっと何本が巨大な柱が崩れたり、スリザリンの銅像の腕がもげてしまったが、それもレパロでとりあえず直しといた。
「魂を分離する魔法……ホークラックスか?……いや、ちょっと違うな……」
一番最後のページにあったのは、魂を分離する魔法が書かれていた。身勝手な殺人という罪深い行為により、人の魂は傷つき知らぬ間に分離する。
この本に書かれているのは殺人ではなく、魔法により人の魂を分離する方法だ。分離した魂は死体に入れることにより、もう1人の自分の記憶と思想を持つ個体が出来上がるという。
分離したとき、魂は元の個体との繋がりは消える。本体が死んだとして、その別れた魂は果たして自分だと言い切れるのだろうか。と長々とした説明文の最後に殴り書きされていた。
「よく似た別人だろうなぁ。パラレルワールド的な」
同一の世界に同じ魂を持つ別人がいる。それはもうおとぎ話のような、前世で100回くらい見た小説の設定のような話だ。……いやまぁ異世界転生チート能力なんて、俺の存在が二次小説みたいなもんだけど。
小さく苦笑して本を閉じ、カバンの中に押し込んで俺の体に擦り寄るバジルの体を撫でた。
次の日はかなりめんどうくさかったがフレッドとジョージとクリスマス休暇に出された宿題を終えるためにほぼ一日中隠し部屋で過ごした。夜遅くになんとか終わらせる事ができ、見回りの教師に見つからないよう透明化魔法をかけ、半分寝かけていたフレッドとジョージの腕を引きグリフィンドール寮まで引きずって行った。
送り届けたあと、ハッフルパフ寮へと戻る。意外と距離があるんだよなぁ、ホグワーツって生徒数の割に無駄に広いし。
足音を立てないよう歩いていたら後ろから人の走る小さな音が響いた。見回りの教師かと振り返ったが──音は近づいてきているが、姿は見えない。
首を傾げそのまま何もない空間を見ていると、腹のあたりにどん、と見えない何かがぶつかってきてめちゃくちゃビビった!
「うっ、だ、誰かいるの?」
「ハリーか?なんだ、びびった……足音だけ聞こえるとかホラーじゃねぇか……」
「ノア?」
何もない空間からハリーの姿が現れ、不安げに俺を見つめる。そうか、透明マント!ダンブルドアから貰う時期って今頃だったかな。
透明マントをかぶるハリーと、透明化している俺は互いに気づく事が出来ず衝突してしまったらしい。
俺は自分にかけている魔法を解き、ぼんやりとしたハリーの目を見た。
「こんな夜遅くに探検か?」
「ううん。──僕の家族が見れる鏡があって……僕、いかないと」
ハリーは平坦な声で呟くと、俺の脇を通り振り返る事なく廊下を進む。
ああ──みぞの鏡か。いつもなら「ついてきて!」って言うのに、よっぽど心を囚われているんだな。
俺はどうしようかと迷ったが、消えてしまったハリーの足音を頼りにその後をついていった。心と思考が鏡の中に映る家族で支配されているハリーは、教師に見つかる事など考えていないのか不用心なほどに足音や扉の開閉音を立てている。
たどり着いた埃っぽい部屋の中央で、ハリーは透明マントを外しじっと座っていた。
殆ど瞬きする事なく、ただ一心に鏡を──家族を見つめている。
部屋の端に乱雑に置かれた机の一つにダンブルドアが腰掛け、ハリーの小さな背中を物憂げな瞳で見ていた。俺は今透明化の魔法をかけていない。俺の存在に気付いている筈だが、気にしていないのか無視しているのかのどっちかだな。
「ハリー、また来たのかい」
ダンブルドアの朗らかな声に、ハリーは勢いよく振り返り目に見えて狼狽した。ダンブルドアだけでなく俺がいることにも全く気づかなかったのだろう。
夜に出歩いているのがバレて怒られる、と思っているようだが、ダンブルドアの視線は優しく物腰も柔らかい。
「ぼ、僕、気がつきませんでした」
「透明になると不思議と近眼になるんじゃのう」
ダンブルドアは微笑み、机から降りてハリーと一緒に床に座り、鏡を見上げながら諭すように語りかけた。
「君だけじゃない。何百人も君と同じように、みぞの鏡に虜になった」
「先生、僕、そういう名の鏡だとは知りませんでした」
ダンブルドアとハリーの会話を邪魔するわけにはいかないだろう。
俺は扉の近くの壁に背中を預け、何故この鏡が危険なのか、何を映し出すのかという説明を聞いていた。
みぞの鏡。本人の心の奥の望みを映し出す鏡。
その願いは実現可能なもの、不可能なものに関係なく映し出す。──だからこそ、人は魅了されてしまうのだ。
「ハリー。この鏡は明日よそに移す。もうこの鏡を探してはいけないよ。たとえ再びこの鏡に出会う事があってももう大丈夫じゃろう。夢に耽ったり、生きるのを忘れてしまうのはよくない。それをよく覚えておきなさい。さぁて、その素晴らしいマントを着て、ノアに寮まで送ってもらいなさい」
「はい……」
ハリーは立ち上がり、一度鏡を見つめた。
「あの、ダンブルドア先生。質問してもよろしいですか?」
「勿論いいとも。今までのも質問だったがね。もう一つだけ許そう」
「先生ならこの鏡で何が見えるんですか?」
「わしかね?厚手のウール靴下を手に一足、持っているのが見える。靴下はいくつあってもいいものじゃ。なのに今年のクリスマスにも靴下は一足も無かった。わしにプレゼントしてくれる人は本ばかり贈りたがるんじゃ」
ハリーは不思議そうに目を瞬かせる。
そのまま、俺を見た。
「ノアは?」
「ん?……さあ、なんだろうな」
ここに来たのは、みぞの鏡を一度見てみたかったからだ。タイミングとしては今がベストだろう。ゆっくりとハリーとダンブルドアの脇を通り過ぎ、鏡の前に立つ。
「ああ……そうか……」
そこに映っていたのは幼い俺だ。
ああ、あの制服。懐かしい、中学の時の学ランだな。あー、ハリポタのでかい本を、抱えて嬉しそうにしてる。
そうだ、この鏡は正しい。
俺はハリー・ポッターの世界が大好きだった。憧れてた。こんな素晴らしい世界に行く事が出来ればどんなにいいだろうかと空想し、焦がれていた。
そして今も、心の底では──。
「──手に入らない物だ」
「え?」
「帰ろう、ハリー。俺はもう眠い」
「う、うん……」
もう、俺が夢中になったハリー・ポッターの世界は存在しない。俺がここに来てから、この世界はハリー・ポッターによく似た別の世界になってしまったのだから。
何か言いたげな目をするハリーに、俺は何も説明をしなかった。