兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
一日の授業が終わり、夕暮れ色に染まる空を見ながらハグリッドの小屋へ向かう。扉をノックすればすぐに中から足音が響き、ハグリッドが素早く扉を開けた。
「待っちょったぞ!さあ、ちぃと見てくれんか?」
「ちょっ──」
やけに急かすハグリッドは俺の背中をぐいぐいと押す。あまりに力が強くて床の段差に躓きよろめきながら小屋の中に入れば、むわっとした熱気が俺を包み込んだ。
あまりの暑さに「あっつ!」と悲鳴を上げ俺の周りに冷却魔法をかけながら押されるままに部屋の中央へと進む。
部屋の大きな木の机の上には古い毛布があり、その上に真っ黒な体の中型犬ほどの大きさのドラゴンがいた。
「元気が無くてなぁ、飼育方法は間違ってないはずなんだが……ノアは、ドラゴンとも話せるんだろう?ちぃと話して欲しいんだが……」
ハグリッドは心配そうに眉を下げ、大きな手で壊れ物に触れるようにドラゴンの頭を撫でた。目を閉じていたドラゴンは少し目を開けオレンジ色の目でハグリッドを見たが、すぐに目を閉じ力なく毛布の上に頭を下ろした。
なるほど、確かに元気が無さそうだ。
「確かに弱ってるっぽいな。……やあ、俺はノア。君の名前は?」
ドラゴンと目線を合わせるためにしゃがみ込めば、ドラゴンは小さな耳を動かし顔を上げた。
「ぼく、ノーバート」
「元気が無いな?どうした?」
「ぼく……ぼく……」
ノーバートは体を起こし体よりも大きな蝙蝠の羽に似た羽を広げふわりと体を浮かせると俺の胸の中に飛び込んできた。──なんだか、ハグリッドからの嫉妬の視線を感じる!
「ぼく、ここは嫌なの……空が見たい……飛びたい……」
ノーバートは悲しげな声でそう訴えた。こんなに小さな──といっても中型犬くらい大きいが──子どもでも、ここが自分の居場所ではないと本能的に理解しているのだろう。このドラゴンの生息域がどこなのかは知らないが、間違いなく小屋ではなく森や、岩山なんだろうな。
「ハグリッド、このドラゴンの生息域は?」
「山岳地域だな」
「そうか……この子は──ノーバートは、空が飛びたいらしい。多分、自分に合う環境に帰りたいんだろう」
「なっ──そんな!」
ハグリッドは俺の言葉にかなりショックを受けたようで呻き、悲しそうに眉を下げた。
俺の腕に抱かれているノーバートをそっと受け取ると、力なく翼を動かし窓の外を見ようとするノーバートの頭を撫でる。
「ノーバート、お前さんは──」
「外、出たいよぉ」
ノーバートは悲しげに鳴き、ハグリッドの太い指に頭を擦り付ける。ハグリッドも本心ではドラゴンをここで飼い続ける事はできないとわかっているはずだ。魔法生物に詳しく、その生態を守ろうとしているハグリッドは、ドラゴンを健全に飼うにはこの小屋は狭すぎると理解している。
「やっぱり──自然に返すしかないのか」
「その方が、互いにいいと思うぜ」
涙声で呟くハグリッドに答えながら小屋の中をぐるりと見渡す。
ノーバートの世話に必死なハグリッドの小屋の中は荒れていて、ブランデーの空き瓶や鶏の羽がそこら中の床の上に散らかり、相棒であるファングの毛並みはややボサボサとしていて不満そうに空になった餌入れを前足で引っ掻いていた。
「ハリーに言われたんだ。ロンの兄貴に──チャーリーに預けたほうがええってな。俺も本当は……そうした方がええって、わかっちょる……」
俺は背伸びをして小さな黒い目に涙を溜め、声を震わせるハグリッドの背中をぽんぽんと慰めるために叩いた。
その後、ノーバートをチャーリーに預ける事に決めたハグリッドはそれまでの短い時間をノーバートへたっぷりと愛情をかけて過ごしていた。
ノーバートを天文学の塔の頂上まで連れていくのはハリーとハーマイオニー、そしてドラコが請け負う事となった。ロンは2日前にノーバートに手を噛まれてしまい、残念だというべきか幸運というべきか、医務室で寝泊まりしている。
本当ならば飼い主のハグリッドがそうするべきなんだろうが、あの巨体を持つハグリッドが夜中に一人コソコソと塔に行く事は難しい。一度試しに俺が透明化魔法をハグリッドにかけてみたが、やはり半分巨人の血が入っているハグリッドに魔法は効きにくいのか数分しかもたなかった。
ここに来て問題が一つ浮かんできた。
ハリーとドラコは仲がいい。つまり、ハリーを裏切って教師にドラゴンの事を言うことはないだろう。確か原作ではこの件が見張りの教師に見つかり禁じられた森での罰則を受ける事になったはず。そこで死にかけのユニコーンと、その血を啜る人影を見る事になる。確かそんな流れだった気がする。
世界の修正力が働いたとしても、流石にこのイベントは起こらなくなりそうだ。
いや、このイベント無くてもよかったっけ……?でも、これで初めてヴォルデモートの存在に気付くんだったような。
「うーん……」
「どうしたの?」
寮の自室のベッドの上で唸っていると、セドリックが首を傾げながら「ノアが悩み事なんて珍しいね」と言いながら宿題をしていた手を止めた。
「まぁな。ほら、今日ドラゴンをロンの兄貴に渡すだろ?うまく行くのかなーって」
「ああ……そういえば、今日か」
セドリックはカレンダーを見て納得したように頷く。
ハグリッドがドラゴンを飼っていると知っているセドリックは、本当に大丈夫なのかと毎日心配していた。このままではセドリックが正義感から魔法省の動物課に密告する可能性があったため、ドラゴンはきちんと然るべき場所に送る予定だとこっそりと教えた。
セドリックは呆れつつも、ホグワーツにずっとドラゴンがいるわけじゃないのならとそれ以上ドラゴンについては何も言わなかった。
「うまく行くでしょ。ノアもついていくんだし」
「うーん……」
そう、ノーバートを逃すために俺も一緒に行く事になっている。
だからこそまずいのだ。俺が行くということは、間違いなく完璧に彼らはノーバートを逃し、罰則を受ける未来が無くなってしまう。
人の死以外で未来をあんまり大きく変えすぎると、俺の知らないところでハリーが死なないかな、というのが俺の悩みの種だ。いや、だって流石に寮違ったら四六時中ハリーの行動は把握できないしなぁ。透明マントを被られてしまえば俺でも見通せないし。……ムーディの魔法の目を作ればいけそうだけど、あれぎょろぎょろして気持ち悪いからなぁ。
「……ま、何とかなるか」
「何とかなるよ。それよりも月曜日提出の宿題はやったの?」
セドリックの言葉に、俺は指を振って鞄の中から白紙の羊皮紙の束を取り出し肩をすくめて笑った。
セドリック的にはノーバートよりも月曜日の宿題の方が重要な問題だと考えているらしく、眉をきゅっと吊り上げた。
その日の深夜少し前、すっかり夢の世界に旅立っているセドリックを起こさないようにこっそりと部屋を抜け出した俺は自分に透明化魔法をかけ、ハリー達との待ち合わせ場所へ向かった。
ハリーとハーマイオニーとドラコは透明マントを被り、ハグリッドからノーバートを引き取っているだろう。流石に透明マントの中に四人入ってノーバートを抱えるのは不可能だから、俺は玄関ホールでこうして彼らを待ち、何かあったら助ける──と、ハリー達は思っているのだ。多分。
しかし、互いに透明になり、見張りの教師に見つからないように足音を立てずに進んでいたなら待ち合わせしても見つけることができるのだろうか。
冷たい石壁に背中をつけてぼんやりとしていると、少し離れた場所にパッと人が現れた。
「──ノア?」
突然現れたのはドラコで、不安げにしながら辺りを見渡し、小声で俺の名前を呼んだ。
「や、ドラコ」
透明化を消して姿を現せば、ドラコはびくりと肩を振るわせたがすぐにぱっと明るい安堵の笑顔を見せ、俺の元に駆け寄る。
「よかった!どこにいるのかと思って」
「あいつらは?」
「すぐそこ──」
「──誰です!?」
ドラコが入り口を指差した途端、遠くから鋭い声が聞こえた。振り向いたその瞬間、俺とドラコを輝く光が貫く。あまりの眩しさに顔の前に腕を掲げ、憤怒が滲む強い足音を響かせる人を見る。隣にいるドラコは、喉の奥で小さく叫び縋るように俺の服を掴んだ。
「ゾグラフ!マルフォイ!こんな夜中に寮を抜け出すなんて……!」
「今晩は、マクゴナガル先生」
タータンチェックのガウンを着て頭にヘアネットを被ったマクゴナガルは顔を真っ赤にして怒りながら俺たちに詰め寄った。にこっと笑ってみれば、一瞬怒りを忘れたのかマクゴナガルは息を呑んだが──すぐに首を振り眉を吊り上げる。
「一体こんなところで何をしているのですか!」
「えーと。逢引き?」
「なっ──!」
俺の言葉に呆気に取られたのはマグゴナガルだけでなくドラコもそうで、口をわなわなと震わせながら一瞬で顔を赤く染めた。
「じょ、冗談はそこまでです!こんな夜中に彷徨くなんて──罰則です!さらにスリザリンから20点の減点、ハッフルパフから50点の減点です!」
「そんなっ!」
20点もの減点をドラコは経験した事がないのだろう、蒼白な顔をして叫んだが、俺はまあ300点減点されたこともあるし、まぁそんなもんかと思っただけだ。俺の方が減点点数が多いのは、おそらく俺がドラコより歳上で──まぁ、誑かしたとでも思われているのだろう。
少し離れたところで人の小さな足音が聞こえた。間違いなく透明マントで隠れているハリーとハーマイオニーが、俺とドラコを助けるのは不可能と判断しハグリッドの元へと向かったのだ。うーん、まあとりあえず原作通りになってる、のか?
「今すぐスネイプ先生とスプラウト先生にお目にかからねばなりません!」
「っ……!」
「はーい。ドラコ、真夜中のデートはまた今度な」
とりあえずドラゴンを逃すつもりだったとは言えないため、ちょっと危険な夜のデートでした。という設定を貫こうとして言っただけだが、マクゴナガルは「本当だったのか」と言わんばかりの目で俺を見て、ドラコは顔を真っ赤に染めて震えていた。