兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
夜の十一時少し前、うっかりと寝かけていた俺はセドリックに叩き起こされて半分寝かけながらフラフラと玄関ホールへ向かった。
玄関ホールにはドラコとハリーとハーマイオニーが不安そうな顔で立っていて、俺を見つけた途端ほっと目元を緩め駆け寄る。
「ノア!遅いから心配したよ」
「あー……眠い」
「僕の腕に掴まるか?」
「んー」
こくり、と頷きドラコの腕に掴まり目を閉じる。ハリーは「ずるい」とか呟いていたが眠いならドラコのもう片方の手を借りればいいんじゃないかな。
半分寝かけているとフィルチが現れ、手に持っているランプで俺たちを照らしてなんかごちゃごちゃ言いながら扉を開けた。
ドラコに引かれ、ハリーに支えられつつ真っ暗な校庭を歩く。あー、外かぁ、風が気持ちいいなぁ。
「フィルチか?急いでくれ。俺はもう出発したい」
突然ハグリッドの大きな声が聞こえ、夢の世界に落ちかけていた意識を覚醒させ目を擦れば、いつの間にか禁じられた森のそばまで来ていたようだ。
ハグリッドと一緒ならそれほど酷い罰則ではないと思ったハリー達がほっと胸を撫で下ろした途端、フィルチが憎々しげにハリー達を睨み嫌らしく笑う。
「あの木偶の坊と一緒に楽しもうと思ってるんだだろうねぇ?坊や、もう一度よく考えた方がいいねぇ。君たちがこれから行くのは、森の中だ。もし全員無傷で戻ってきたら私の見込み違いだがね」
その言葉にハーマイオニーが小さく悲鳴を上げ、ドラコは俺の腕を握る力をさらに強めた。
「森だって?そんなところに夜行けないよ……それこそいろんなものがいるんだろう?狼男だとか、そう聞いているけど……」
「そんなことは今更言っても仕方がないねぇ。狼男のことは、問題を起こす前に考えとくべきだったねぇ?」
暗闇から現れたハグリッドはファングをすぐ後ろに従え、大きな石弓を持ち肩に矢筒を背負っている。どう見ても楽しい罰則ではない、とハリー達は考え体を震わせ固まった。
「大丈夫だって、俺も一年生の時セブルス先生と罰則で夜の森に入ったけど、別になんともなかったぜ?」
「ほ、本当に?」
「そうそう。それにハグリッドは森を熟知してるし、ダンブルドアが死ぬかもしれない罰則を許可すると思うか?」
あくまでハリー達を脅して恐怖に慄く様子を見たいフィルチは俺の言葉に舌打ちをしたが、俺の言葉を否定することはない。夜の森は危険であり、散々脅したとしてもフィルチも俺たちが死ぬとは思っていないのだろう。
ハリー達もダンブルドアが許可した罰則なら、と顔に浮かべていた恐怖を少しだけ緩めた。
「よーし。それじゃあよく聞いてくれ。ノアは危険じゃねぇっちゅうが、夜の森は危険だ。俺たちが今夜やることもな。みんな軽はずみな行動はしちゃいかん。しばらくは俺についてきてくれ」
ハグリッドが先頭に立ち、その次に俺が、ハリーとハーマイオニーとドラコは俺の背に隠れるようにして森のはずれまで向かった。
ランプを高く掲げたハグリッドは、暗く生い茂り木々の奥へと消えていく獣道を指差した。
「あそこを見ろ。地面に光ったものが見えるか?銀色のものが見えるか?──ユニコーンの血だ。二週間前に、傷つけられたやつを保護した。幸い傷は深くなかったが……。また、何者かに酷く傷つけられたユニコーンがこの森の中にいる、みんなで見つけるんだ。もし助からないなら……苦しまないようにしなきゃならん」
ハグリッドの声は苦渋に満ちていた。苦しまないように、安楽死させなければならない事を伝えるのが辛いのだろう。
「もし……もし、ユニコーンを襲った奴が僕たちを先に見つけたらどうするんだい?」
「俺やファングとおれば、この森に棲む奴らは誰もお前らを傷つけやせん。道を外れるなよ。よーし、二組に分かれて別々の道を行こう。じゃあ──」
「僕はノアとがいい」
「僕もだ!」
「わ、私もっ!」
すぐにハリーが挙手し、負けじとばかりにドラコとハーマイオニーも挙手をする。ドラコは初めて会った時に俺の強さを知っているからわかるけど、ハリーとハーマイオニーの前ではそんなに魔法使ってないはずだがこの人気っぷりだ。
「うーむ……」
「俺は誰と一緒でもいいけど」
「そうか……じゃあ……先にハリーとハーマイオニーは俺と。ファングとマルフォイがノアと、どうだ?後で組み替えすりゃええ」
不服そうな顔をしたハリーとハーマイオニーをハグリッドは宥める。俺と組めなかったハリーとハーマイオニーは残念そうにしていたが、それでもハグリッドと一緒ならと考え直し頷き、ドラコは安堵した顔で俺のローブをしっかりと掴んだ。
「もしユニコーンを見つけたら緑の光を打ち上げる。もし困ったことがあったら赤の光だ。ええな?じゃ、気をつけろよ──出発だ」
ハグリッドの言葉に、ハリー達は緊張した面持ちで頷く。俺の足元で尻尾を振りながら「遊ぼ遊ぼ!」とはしゃぐファングの頭を撫でつつ、俺とドラコは右の道を行き、ハグリッド達は左の道へと向かった。
「静かだなぁ」
森の中は奇妙なほど静まり返っていて、俺たちが草を踏み締める音だけが響いた。
いつもならもう少し野鳥や魔獣の鳴き声や気配があるが、森にやってきた招かれざる者を警戒して身を潜めているのだろう。
ルーモスで杖先を照らしつつ、銀色の血痕を探して追う。うーん、あんまり大量じゃないな。原作では死んでるはずだけど……なんとか生きてくれていたら助けられるんだけどな。
昔助けた可愛いユニコーンを思い出しつつ、どんどん森の奥へと進む。クィレルに寄生しているヴォルデモートの気配とかするかなって思ったけど、やっぱ距離があったらイマイチわからないな。
「ま、待ってくれ!」
「んー?」
「進むのが早すぎる!も、もっと慎重に……」
「大丈夫だって、何があってもちゃんと守るからさ」
「う……た、頼む…」
ドラコはしっかりと俺の腕にしがみつき、元々青白い顔の血の気を更に無くしながら不安気に辺りを見回している。一応ドラコもルーモスで杖先を光らせているが、やっぱただのルーモスじゃかなり心許ない光しかなくて数メートル先は薄暗い闇だ。
前を照らしていたら足元が薄暗くて俺に掴まっているドラコは何度か木の根や石に足を取られ躓いてるしなぁ。
「もうちょっと明るい方が歩きやすいよなぁ。雲、取っ払うか」
「は?く、雲?」
「月明かりがある方がいいだろ?」
そう言いながら杖を空に向け、左から右へと勢い良く薙いだ。
その瞬間、ざわりと木々が揺れ空に浮かんでいた雲は透明で巨大な手に払われたようにして拡散した。満月よりは若干欠けている月が顔を出し、木々の隙間から月明かりが落ち地面と俺たちを照らす。
「よし、これで歩きやすいだろ?あんまり強い光出すと変なのが寄ってきそうだし」
空を見上げて唖然としていたドラコは、ゆっくりと俺を見て瞬きをし、「すごい」と掠れ声で呟いた。
「……こんな魔法、知らない……空を割るだなんて、それこそ伝説上の……」
「俺は世界最強なんでね。──さ、行こうぜ」
十分な月明かりのおかげで道にところどころ落ちている銀色の血が見えやすくなり、俺たちはそれを追って森の奥へと足を進める。これ、なーんか既視感があるなぁ。
なんだったか、と考えながら行く手を遮るように生い茂っている低木の葉に向かって杖を振り、その場をどいてもらいながら進み続ける。
「うわ」
唐突に、俺たちの目の前にぽっかりと空き地が現れた。
真ん中に少し小さめの湖があり、中央に白い岩が生えるように立っている。湖面は月の光を受けて銀色に輝いていて、思わず声を上げてしまうほど幻想的な光景だった。
「こんな場所が……綺麗だな」
ドラコも今まで怯えていたのが嘘のように目の前の光景に魅入り、一歩踏み出す。
「たしかに、めちゃくちゃエモい感じ」
「エモ?」
エモいっていうか映えそうというか。
湖に近づき、湖面を足先で蹴り上げ舞い上がった水の粒をダイアモンドダストのように輝かせる。うわーなんかいい感じの曲のムービーみたい!
やけに静かなドラコを振り返って見てみれば、目を見開き口をぽかんと開けたままの表情で停止していた。
森の奥でヴォルデモートでも見たのか?と思い振り返るが、その奥に人影やそれらしい嫌な気配はない。
「どうした?」
「ノ──ノアだよな?」
「は?」
「う、美しすぎて、昔見た宗教画に書いてあった聖女か女神かヴィーラかと……」
なんとも幻想的な空間に、輝き舞う雫、月の光を浴びつつ、それを見て微笑む世界最強の
「まぁロケーションは最高だからな。……あ!そうだ、写真撮ってくれよ」
こんな映える場所、滅多にない気がする!写真に撮って今度の写真集に載せれば俺に魅了される人が3倍には増えるだろう!
手をぐるりと回転させ、カメラを取り出しドラコに手渡す。受け取ったドラコは慌ててぶんぶんと首を振った。
「しゃ、写真だなんて撮ったことがない!」
「大丈夫だって、被写体は俺だぜ?適当に撮っても一級品だから」
「そっ……それもそうか」
とんでもない自画自賛だったが、ドラコは納得して落ち着きを取り戻しカメラを珍しそうに眺めボタンに触れていた。
あーマルフォイ家って、写真館とかで撮られることはあっても自分で家族写真とか撮らなさそうだよなぁ。こんな小さなカメラ、初めて触ったのかも。
「右上のボタン押せば撮れるから。宗教画みたいに撮ってくれよ?」
うーん、ホグワーツの制服でもいいけどなんかちょっと場違いか?幻想的なロケーションだし、白ワンピとかにしちゃお!
湖に向けて一歩踏み出し、そのまま湖上を歩く。とんとん、と制服を軽く叩けば分厚く体の線を隠すローブは絹のような真っ白なワンピースに変わった。
「うっ……」
「ヘイカメラマン!頼むぜ!」
「あ、ああ」
中央にある白い岩のところまで行き、登って適当にアンニュイな表情とポーズをする。ドラコはレンズ越しに俺を見てごくりと生唾を飲み込み、指を震わせながら色々な角度からシャッターを押した。
「美しい!」
「当たり前だろ?」
「ノア、水面にもう一度立ってくれないか?──そうだ!ああ、やっぱりここから──いや、もっと下からだな──この角度で──次は岩に座って膝下まで湖の中に入れてみてほしい。──もう少し──そう。片足は上げてくれ──膝に手を乗せて──ちょっとあの木が邪魔だな。バランスが……ノア、あの木を切れないか?──ちょうど月が──」
ぶつぶつと呟き時には地面の上を這うようにしながら、はたまた足を膝まで湖の中に突っ込みながらドラコは写真を撮りまくった。
「いやーまじでめちゃくちゃ撮ってくれるじゃん、俺は──」
「喋るなら右上の方を向いてくれ」
「……イエッサー」
2、3枚パシャパシャって撮ってもらうだけでよかったのに、ドラコはとんでもないスピードで連写し、服が汚れるのも全く気にしていないようだった。ファングだなんて飽きてしまって木の根元で鼻ちょうちんぶら下げて寝てしまっている。
撮影会が30分をすぎた頃、少し先からガサガサと草を踏む音が聞こえた。
ドラコは俺の写真を撮ることに夢中になり、全く気が付いていない。ファングは流石に鼻ちょうちんを割って目を覚ましたようだが、尻尾を振っているところを見ると敵ではないのだろう。
「──ノアか?」
「やっぱりハグリッド達か」
「……何しとるんだ?」
「写真撮影!」
茂みを掻き分け現れたのはハグリッドとハリーとハーマイオニーで、ハグリッドの巨体の影に身を潜めていた二人は俺たちが無事なのを見て──緊張し続けて表情が固まったのか──ぎこちなく笑った。
ハグリッドは写真撮影をしている俺とドラコを唖然と見ていたが、顔を手で覆うと大きなため息をこぼす。
ハリーはすぐにハグリッドの後ろから出てきてドラコの周りに散らばる写真に飛びつき目を輝かせながら大歓声を上げた。
「うわー!これ欲しい!」
「僕が撮ったんだ!その権利は僕にある!」
「こんなにあるんだ、一枚くらいいいじゃないか!」
「いいや駄目だね。全部僕のだ!」
緊張感のかけらもなくぎゃいぎゃい言い合うドラコとハリーは置いといて。流石にハグリッドが来た後でこの撮影会を続けるつもりはなく服を元に戻して彼らの元に近づく。
「いやー最高のロケーションだったから、ついつい」
「遊びじゃないんだぞ!全く、森の中は危険だとあれほど──」
ハグリッドは呆れ半分、怒り半分で俺とドラコを睨みながら肩にかけていた弓矢を抱え直し、ふーと長い息を吐いた。
「そっちはなんもなかったか?」
「そっちは、ってことは。ハグリッドの方は何かあったのか?」
「怪しい物音がしたが……姿は見えんかった。あんな物音ここで聞いたこともねぇ……ケンタウルスはこっちに来んかったか?」
「誰とも会ってないし、何にも見てないなぁ」
ケンタウルスと会うイベントなんてあったっけ?ハリーがこの後ケンタウルスに助けられるだけだと思っていたけど。やっぱ原作の細部は忘れちゃってるなぁ。
ハグリッドは俺とドラコを見て怪我一つない事を確認し、今度はハリーと俺とファングを組ませた。
ポケットの中に落ちた俺の写真達を必死に詰め込んでいたハリーとドラコは、彼らの中でどんな取り決めがあったのかわからないがとりあえず和解したらしい。
満足気なドラコは当初の目的をすっかりと忘れていたようだったが、緊張しぎこちない表情のハーマイオニーを見てようやく罰則を思い出し表情を引き締めた。
ドラコとハーマイオニーは視線を交わし、少しだけ心細そうに俺とハリーを見つつ、ハグリッドの決定に文句を言う事なくついて行った。
「ドラコとハーマイオニーって。なんかまだよそよそしいよな」
「んー……そうかな?まあ、確かに二人で喋ってることはあまりないかな。ロンとドラコはクィディッチの話で盛り上がる時もあるけどね。それにしても、本当に綺麗だなぁ……天使様みたい……」
「だろ?俺ってばどんな服着ても完璧!」
「うん……今日からこの写真に祈るよ……」
「え、毎日祈ってんの?」
「当たり前でしょ?」
「……」
ハリーとそんな事を話しながら森の更に奥へ進む。俺の事はともかく、ハリー達は俺の知らぬところで順調に交友を深めているらしい。まだドラコがハーマイオニーに壁を作っているのは、やはりスリザリン生──マルフォイ家としての立場がそうさせているのだろう。
いつかその壁が崩れたならいいと思うが、こればかりは難しいし、ドラコも前にそう言っていたしなぁ。
そんな緊張感のないおしゃべりも、木の根元や草の影に点々と付いていた血の量が多くなるにつれ少なくなっていく。
ハリーは痛ましいものを見る目で木の根元に大量に付着している飛び散った血を見下ろし、唇をぎゅっと噛んでいた。
樫の古木の枝が絡み合うその先に開けた土地が見え、雲一つない空に浮かぶ月がスポットライトのように地面を──倒れているユニコーンを照らしていた。
「見て……」
ハリーは震える声で俺に囁いた。
純白に輝くユニコーン。その長くしなやかな脚は倒れてその場に投げ出され、真珠色に輝くたてがみは暗い落ち葉の上に散らばっている。
太い喉からは銀色の血がとろとろと流れ出て、その脇腹は微かに上下して──上下?
「──生きてる!」
ハリーが息を呑んだが、俺は気がつけば飛び出していた。
ユニコーンのそばに膝をつき、ぱっくりと割れた肉に掌をあてる。えーと、確か──確か、レイブンクローからもらった魔導書にめちゃくちゃ凄い回復魔法があった。それを
その本には長々とした呪文が書いてあったが、俺の力はそんなものを使わなくとも俺が願う通りに回復魔法を繰り出す。
ぽう、と青白い光が俺の掌から溢れて──うわ、めっちゃ疲れる何これ──傷口へと吸い込まれる。
「ノ……ノア?大丈夫、なの?」
「まかせろ。俺は世界最強の魔法使いだぜ?」
とか言いつつ視界の端が点滅してきたが、力を奮い起こして治癒し続ければ傷口は塞がり、今まで虫の息だったユニコーンの呼吸は一定になり、氷のように冷たかった体は少し暖かくなってきた。
ここまで治療すればもう大丈夫だろうと、手を離して一息つく。とりあえずこの場にハグリッドを呼ばないと──えっと、緑の光だったよな?と思いながら立ちあがろうとしたその時、ズルズルと滑るような異音が聞こえた。
「何の音──」
その音にハリーも気付き、音のした方を振り返った途端ハリーは凍りついた。
鬱蒼とした木々の隙間、月の光が届かない深淵の向こう側で、何かがじっと立ちこちらを見ていた。
──いやいや!お前もう来るなよ!姿見られたらやばいんじゃね?あ、この落ちてるユニコーンの血欲しかったのか!?
「──うぐぅっ!!」
「まあそうなるよなぁ」
ハリーが苦悶に満ちた表情で呻き、よろめいて俺にしがみつく。脂汗が浮かんだ額を押さえているところから、傷痕に激痛でも走っているのだろう。
俺の呟きはハリーには届かなかったのだろう。ハリーは膝をつき、歯を食いしばり呻きながら「逃げて」と俺に向かって呟く。
ズルリ、とその影がハリーと俺に近づきかけたその時、俺たちの真上を何かが飛び越え影に向かって突進した。
鋭い蹄の音、その生命力溢れる肉体に怖気ついたのか──争う力も残っていないのか──影はサッと姿を消し森の奥へと消えた。
明るい金髪にプラチナブロンドの胴体を持つ、美しいケンタウルスは影が消えた後もその場を警戒するように何度かぐるぐると回った後、俺とハリーの元へと戻ってきた。
「怪我はないかい?」
「ないよ」
「ええ……ありがとう……」
影がいなくなり、ハリーの激痛も治ったのだろう。ケンタウルスに引っ張り上げ立たせてもらいながらハリーは額をさすりながら影が消えた辺りを恐々と見た。
「あれはなんだったの?」
「亡霊みたいなもんじゃね?」
ハリーの問いにケンタウルスは答えず、サファイアのような青く澄んだ瞳でハリーの傷痕をじっと見つめた。
「ポッター家の子だね?それに、きみは──」
ケンタウルスは俺をじっと見つめ、胸に手を当て目を細め微笑んだ。
「きみが現れてから、冥王星の輝きが変わった。私の名はフィレンツェ。きみの名前は?」
「ノア・ゾグラフ」
「ノア……ああ、やはりきみか。その名は至る所で聞くよ。──死の淵に立つユニコーンを助けてくれてありがとう。
さあ、早くハグリッドの元へ戻った方がいい。いま、この森は危険だ。特にポッター家の子、きみはね。私の背に乗れるかい?その方が早いから」
ケンタウルス──フィレンツェが前脚を曲げ、体を低くしてハリーが乗りやすいようにしながら言う。馬に乗ったことがないのか、ハリーは少し遠慮がちにたてがみに掴まり、その背に乗った。
「俺はいいや。このユニコーンを連れて戻らなきゃだし」
「でも、ノア……さっきのがまた戻って来るかもしれない。危ないよ」
「さっきのが戻ってきて気絶してるユニコーンを襲ったら助けた意味ないだろ?──ほら、フィレンツェ。さっさとハリーを連れて行け。俺はハグリッドの小屋に向かうから」
ハリーが何かを言う前にフィレンツェは頷き、前脚を高く上げて物凄いスピードで茂みの中へ突っ込んだ。ハリーの小さな悲鳴と、もう一つ別の蹄の音がハリーとフィレンツェの元へ向かうのを聞きながらまだ気絶しているユニコーンの体を撫でる。
「……落ちてる血、消しとこうかな」
浮遊呪文でユニコーンを浮かせて、銀色の血溜まりを消失させる。
元来た道を戻り、啜れそうな血だけをあらかた消した後、俺はユニコーンを引き連れてハグリッドの小屋の裏へと姿くらましをした。