兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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61 生かすべきか

 

 

ヴォルデモートに寄生されたクィレルはハリーに触れることができず、触れた箇所から爛れべろりと皮膚が捲れた。

クィレルの激痛の叫びに被せるようにしてヴォルデモートの「殺せ」コールが響く。

ハリーはなぜだかわからないがクィレルは自分に触れられないのだと知り、魔法を使わせないために無我夢中でクィレルにしがみつく──ついにクィレルの腕が落ち、ヴォルデモートはこれ以上クィレルに寄生しては自分の身も危ないと彼から抜け出しゴーストとも霞とも言えぬ姿で飛び去った。

 

腕や顔が崩壊する激痛に膝をつき叫ぶクィレルはもうハリーを見ていない。ハリーは額の傷痕が焼けるように痛み、そのままふっと意識を飛ばし冷たい床に倒れ込んだ。

 

 

ノアは少し離れたところでそれを見守りつつ、原作通り進んだことに安堵する。

自分が来るまでも無かったかもしれない。トロールが気絶していなかったのは予想外だったが、ハーマイオニーとハリーが力を合わせればなんとかなったかもしれない。

とりあえず気絶してしまったハリーを医務室に運ばなければ──そう考えノアは自身にかけていた透明化を解きポケットに両手を突っ込みながら息も絶え絶えに喘ぐクィレルと、気絶しているハリーに近づいた。

 

それと同時に後ろから誰かが駆け寄ってくる足音が響き、ノアが驚き振り返れば丁度ダンブルドアが駆け込んできたところだった。

 

 

「ハリー!」

「あ、ダンブルドア先生。……あー、そうか」

 

 

そういえば、ダンブルドアがこの後すぐ来たんだっけ?なら俺がハリーを助けなくても良かったなぁ。とノアは内心で呟く。

ダンブルドアの鋭い視線がクィレルとハリーを見てすぐにノアを射抜いた。

 

 

「ノア、なぜここに」

「ハリーの様子を見に来ただけですよ。もうヴォルデモートは逃げちゃいましたね」

 

 

ノアはくい、とヴォルデモートが消えた方を顎で指す。ダンブルドアはぐっと表情を険しくしてそちらを睨んだが、すぐにハリーに駆け寄り深刻な怪我がないか確認し、大きく安堵の息を吐いた。

 

 

「あっ──ぐ、う、ダ、ダンブルドア!た、たっ、助けてくださいっ」

 

 

クィレルは息も絶え絶えに、現れたダンブルドアに縋る。顔は半分が酷い火傷で覆われ、じわじわと綺麗な皮膚を侵し、まだ無事な方の目がぎょろぎょろと動き、床を這いながら必死に慈悲を請う。

 

しかし、ダンブルドアは冷たい目でクィレルを見下ろしゆっくりと首を振った。

 

 

「愚かな。──君を救う事はもうできん、全てが遅すぎる」

「そ、んな──」

 

 

クィレルの目に絶望がうつる。肘から先を失い、粉塵のように崩れていく中、クィレルは突っ立っていたノアを見た。

 

 

「ノア──ノア、助けて──」

「うーん」

 

 

短くなった腕を伸ばし、クィレルはずりずりと這い寄った。クィレルは元々自分への評価に不満があったとはいえ、一人で誰も見つけ出すことができなかったヴォルデモートを見つけ出し、言葉巧みに洗脳されいいように扱われてしまった。最後はゴミのように捨てられた男の結末が虫ケラのように哀れで、かといって本来の流れを大きく変えていいものかと──ノアは僅かに首を傾げ悩んだ。

 

正直生かすメリットは大きくないし、クィレルに思い入れもない。ただ──。

 

 

ノアは目線を合わせるためにしゃがみ込み、膝に腕を置き顎を手のひらで支える。

目を覆いたくなるほどの光景にも、ノアは少しも顔を歪めることなくただの映画を見るかのような表情を浮かべていた。

 

 

「ノア──頼む──お願い、します──」

「うーん」

「し、死にたくない──死にたく──」

「ノア、離れるのじゃ」

 

 

ダンブルドアはノアに鋭い声を投げかける。

クィレルの頬の一部が崩れたが、その下にあるはずの歯は見えなかった。もう奥の方まで崩壊しているのだろう。クィレルは口を僅かに動かし、割れたガラス玉のような目を向ける。

白く濁る右目からは煙が上がり、無事な方の左目からは血の混じった涙が流れた。

視線を逸らしたくなるほどの悍ましい光景を前に、ノアはいつも通り美しく微笑んだ。

 

 

「俺に忠誠を誓うのなら」

 

 

ノアの言葉にクィレルは、小さく頷く。

助けてもらえるのなら、死なずに済むのならなんだって良かった。もう痛みも感じない──ただ体から命が抜けゆくのを感じ、後頭部の後ろがチリチリと燃えるような音をあげているだけだ。

 

ノアはこの場では異様なほど美しい微笑みを見せ、その大きな目を細めた。

 

 

「クィリナス・クィレル、言っただろ?あなたの恐怖も、憂いも、すべて払ってあげるって」

 

 

美しい声が聞こえる。

様々な音がぼやけ耳鳴りがするクィレルの耳にも、その声だけはクリアに聞こえた。

ノアは焼け爛れるクィレルの頬に手を伸ばし、そのまま撫でるように手で目を覆った。

 

漆黒の闇がクィレルを包み──そのままクィレルは、痛みのない世界へと落ちていった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

所変わって校長室。

校長席には苦い表情をしたダンブルドアが座り、机の上にある止まり木では不死鳥フォークスが眠そうに瞬きをしている。

歴代校長の肖像画にはカーテンが引かれ物音ひとつしていない。

俺は校長席の前の肘掛け椅子に座り、俺とダンブルドアの間では気絶したクィレルがべしゃりと床に這いつくばり倒れている。

 

 

「……まさか、あのような状態の者を回復させるとは」

「いやー俺ってやっぱ最強だからなんでもできるんですよね。流石にクィレルは地獄に片足突っ込んでたんでめちゃくちゃ疲れましたけど。俺ってば最強な上に半死者を救うとか天使じゃないですか?」

 

 

ダンブルドアは俺の軽快なジョークにもピクリとも笑わなかった。

めちゃくちゃ疲れたのはマジなので、俺は大きなため息をつきながら椅子に深く背を預け、足元に転がっているクィレルを見下ろす。

 

崩壊し塵芥となっていた腕は修復する事ができた。けどちょーっと元の腕じゃなくて酷い火傷の痕が残り皮膚がボコボコしてるし引き攣れてしまっている。顔の半分にも火傷痕があり、焼けていた右目は閉じることができないのかうっすらと開いている。チラリズムしている目は真っ白に見えるが、黒目どこいったんだ?燃えちゃったのかムーディの義眼みたいに一周してるのかな?

 

 

「……クィレルをどうするつもりかね?」

「え?アズカバンに行くんじゃないんですか?色々企んでたし、ギリギリ死者は出てないですけど」

 

 

普通に法の元で裁かれるのだと思っていたが、ダンブルドアは目をすっと細め暫く無言で長い白髭をゆっくりと撫でたあと、深く頷いた。

 

 

「そうじゃな。そうする他あるまい。──ノア、きみはどこまでわかっていたんじゃ?」

「男の娘は秘密を着飾って美しくなるんですよ!」

「初耳じゃのう」

 

 

そりゃほんとはウーマンウーマンだから。と内心で呟きながら立ち上がる。もう夜も遅いし、クィレルを治したせいでめちゃくちゃ疲れてるし、さっさとベッドにダイブして十二時間くらい寝たい。

 

ダンブルドアもこれ以上俺に何かを聞き出すのは無理だと判断したのか、ゆっくりと立ち上がり扉の方へと向かった。

 

 

「俺が今日あそこにいた事は秘密にしてくださいね。──あ、クィレルは俺と魔法契約を結んだんで、俺を裏切る事はありません。それと、もし今回賢者の石を守った事でハリー達が加点されるのならそれはそれでいいんですけど。サプライズのために学年度末パーティでばばーん!……とか止めてくださいよ。今首位のハッフルパフ生が悲しむんで」

 

 

ダンブルドアは少し驚いたように目を見開き、「ふむ」と低い声で頷いた。絶対そのつもりだったな……ハリーを喜ばせて、逆境から救うつもりだとはいえハッフルパフ生は純粋なんだからやめてくれ。

 

 

「じゃ、おやすみなさーい」

 

 

ダンブルドアが押し開いた扉を通りながら言えば、ダンブルドアは俺が螺旋階段を降り始めてから「ノア」と声をかけた。

まだ何かあるのか?いい加減寝たいんだけど、と思いつつ振り返る。

 

 

「何ですか?おやすみのキスは一億ガリオンくらいしますよ」

「おお、それはわしには手が届かん額じゃのう」

 

 

珍しく、ダンブルドアは俺のジョークに乗りつつ半月眼鏡の奥の目を細め、あの独特のキラキラとした眼差しで俺を見下ろした。

 

 

「ノア、君が人を思いやる心と哀れ慈しむ心を持つ事を、わしは嬉しく思う。……おやすみ、良い夢を」

 

 

にこりと微笑み、ダンブルドアは扉を閉めた。想像もしなかった言葉に目を瞬かせ、頬を掻く。暫く螺旋階段の途中でその言葉を反芻した後、俺は軽い足取りで階段を駆け降りた。

 

 

 

 

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