兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
夏休みはまじで殆ど毎日事務所にいき、そこからいろんな撮影所へ向かって撮影したり売り込みしたりお偉いさんと会ったりしていた。
ハリーからはほぼ毎日手紙が届けられ、途中からウィーズリー家に居るから会いに来れないか?と聞かれたが残念ながらそんな余裕は一切なかった。
ってか今年はセドリックにも会えなかったしなー。まあ、仕事も仕事として大切だから仕方がない。
「今日はダイアゴン横丁の書店で、新しい写真集の記念サイン会だよ」
「あーそういえばあるって言ってたなぁ」
「うん。本に限りがあるし、ノアの手を傷つけるわけにはいかないから限定100人の抽選にしたんだけど……倍率、すごいよ」
「1000倍くらい?」
メイソンが用意した服に着替えつつ聞いてみれば、メイソンは真面目な顔で「桁が全然足りないよ」と言ったため、俺は少し苦笑しつつセドリックが暴動が起こると予言したのも、ありがち間違っていなさそうだと考える。
……そういや昨日ホグワーツから新しい教材リストが届いてたっけ。
「ちょっと早く行って、来年の教材買ってもいいか?」
「うん!えーと、サイン会は今日の二時から四時までなんだ。あんまりギリギリに行くと人が凄いから……──今すぐの方がいいかも。
それと、認識阻害眼鏡もつけて、帽子もかぶってね」
「オーケー」
時計の針は十時を指している。確かに早く行かないと──ってか今でもファンが並んでそうだ。抽選に外れたとしても、俺を生で一目見ようと出待ちしてそうだし。
メイソンは箪笥の中からグラス部分が丸く、青とピンク色のグラデーションがおしゃれなファッションサングラスと、今の綺麗めカジュアルな服に合うシンプルな黒いキャップを取り出した。
俺がノア・ゾグラフだと知っている人が見れば俺の存在をしっかりと把握できるが、この眼鏡をかけていればバレにくいのだ。──まぁそれでも顔見知りにはバレるんだけど。
「ダイアゴン横丁まで送っていくよ。あ、買い物に付き添った方がいいかな?」
「いや、大丈夫だ。一時間もかからないと思うから漏れ鍋で待っててくれるか?」
「うん、わかった。万が一バレて、何かあったら魔法を使うことを躊躇わないでね!世の中には変態が多いから!」
確かに俺を攫いたい人は星の数ほど多いだろう。まあ、負ける気なんてないけどな!
特に危険な目に会ってもないし、ただの撮影会ばかりだから俺が魔法を使う事は殆どなくて、メイソンは俺が世界最強の魔法使いだとは思ってない。……世界最高のモデルだとは本気で思っているようだけど。
「あ、そうだ。一番倉庫にあるやつ、カバンの中に突っ込んで持ってきてくれねぇ?」
「え……どれを?」
一番倉庫、と言われてメイソンは少し顔をこわばらせて目に見えて狼狽えた。
「全部♡」
拡張魔法がかかっている鞄がある事は知っている。普段はめちゃくちゃ長い特注ドレスとかを何着も詰め込んで撮影所に持って行っているからな。
俺の言葉にメイソンはひくりと口先を引くつかせ、動揺しながらもすぐに近くにいたスタッフに倉庫の物を全てを入れるように伝えた。それを聞いたスタッフも青い顔をして狼狽えていたが、この事務所の中では社長と俺の次にメイソンは立場が高い。彼に言われたならば拒絶する事はできない──ってか、俺のお願いを拒絶するスタッフなんて誰一人としていないんだけどな。
準備が終わり、見た目は普通の黒い肩掛けショルダーバッグを持って、俺はメイソンの付き添い姿くらましによりダイアゴン横丁の人気が少ない路地へと連れて行ってもらった。
気をつけるようにと再三繰り返したメイソンと別れた後、俺は軽く手を振りダイアゴン横丁にある店──ではなく、ノクターン横丁へと向かった。
もちろん新年度の教材を買いたかったのも本当だが、贔屓にしている魔法薬材料店の店主からそろそろ黒紫水晶の雫が無くなりそうだから補充して欲しいって手紙が来てたんだよなぁ。
あれもいい小遣い稼ぎになるし、レア材料が入れば律儀に連絡くれるし、それを買えばセブルスに何か頼み事をするときに円滑な交換材料になるし!
まさにWin-Winの関係性だと言えよう。
ノクターン横丁の石畳はところどころ欠けているし、妙な物が落ちていたり見たこともない虫か小型魔法生物がさわさわと壁を這っている。
すえたような悪臭をなるべく吸い込まないように服の袖で鼻を覆い、目当ての店へと小走りで向かった。近くに大人がいればパッと魔法使って空気を正常化させるんだけど、今日は珍しくボロ衣を纏った浮浪者一人もいないんだよなぁ。
前回訪れた時よりも店前に掲げられている看板は薄汚れカビが大量発生し、もう何屋なのか文字が判断できないほど黒くなってしまっている。埃やら汚れでくぐもった窓ガラスの向こうで薄らと青い光が見えるし、多分店は開いているだろう。
汚れているドアノブを掴むのも嫌で、仕方がなく足でまだ綺麗な──綺麗に見えるところをちょいと押し開ければ、薬草独特の濃い匂いが重々しく漂ってきた。
「おーい、タイショーやってるー?」
「……おぉ、ゾグラフさん!お待ちしておりましたぞ」
居酒屋のように声をかけてみたが、割とすぐに返事があり店主の老人がひょこりと店の奥のカウンターから顔を出してにたにたと笑いながら俺に向かって手を挙げた。
「久しぶり。雫を補充しに来たぜー」
「ありがとうございます。……とっておきの材料をご用意しておりますぞ。これは間違いなく、ここ五十年で最高の物じゃ。まぁ値段もそれなりじゃが……問題はないでしょう」
店主は予め俺用に準備していた材料を幾つかカウンターの上に置いた。何かの石、何かの羽、何かのよくわからない部分──ぶっちゃけ一つ一つ丁寧に説明されてもその価値は全くわからなかったが、まあいいか!
「全部買うよ」
「ありがとうございます」
にんまりと笑った店主は品々を何かの動物の皮でできた袋に入れ、空いたスペースに黒紫水晶をことりと置いた。
「黒紫水晶2クオートと交換で、どうでしょうか?」
「はいはい。余った分は瓶詰め頼むぜ?」
店主がずっと上機嫌なところをみると、この取引は多分店主の方が得をしているのだろう。ま、減るもんじゃないし、そんなに大きな得ではないはずだ。あまり儲けすぎて俺という最高の客の機嫌を損ね、手放すわけにはいかないだろうし。
水晶を両手で握り、用意されたボウルの上に掲げる。そのままいつものように魔力を込めて雫をぼたぼたと大量に出して、取引は滞りなく終了した。
「はー。流石に疲れるなぁ、毎度のことだけど」
「生きているのが不思議なほどですけどねぇ」
「俺みたいな最高最強の魔法使いになれば水晶を泣かすなんて余裕だぜ?」
「いやはや。あなた様に泣かされる女は多そうですなぁ……」
……いや、一人だって泣かした事ないけど?俺に会えた嬉し泣きなら何千人レベルだが、店主が思ってるようなゲスい事は何もしてないぜ??
「あ、そうだ。曰く付きの物ってここで買い取ってくれる?」
「曰く付き?──どのようなものですかねぇ?」
ノクターン横丁に来たもう一つの目的を思い出し、興味深そうにする店主の前に鞄を置き、口を開いた。
覗き込んだ店主はまじまじと見た後「此処では買い取れませんなぁ」と身を引いた。
「ボージン・アンド・バークスがここらでは一番でしょうな。ダイアゴン横丁の方に戻り、右に曲がって五軒目ですぞ」
「やっぱり?行ってみるわ」
「今後とも、ご贔屓に」
両手を揉みつつ深々と頭を下げる老人に軽く手を上げて返事をし、皮袋を鞄の中に突っ込んで店から出る。
ボージン・アンド・バークスかぁ。前までは行ったことあるけど、店内に入ったことはないんだよなぁ……キャビネット棚買ったらどうなるんだろ。