兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

68 / 180
68 アズカバン!

 

 

夏休みも後二週間ほど、あれからモデルの仕事を何件もこなし、後はハロウィンとクリスマスに向けたお菓子のパッケージ写真の撮影が数件、雑誌の表紙の撮影が一件。ようやく終わりが見えてきた。……最後の一週間くらいはのんびりできそうだな。

次の撮影まで時間があり、事務所で嫌々ながら宿題をしているとメイソンと他の社員が言い争っている声が遠くから聞こえてきた。

珍しいな、なんて思いながら羽ペンを置き、小声で──それでも熱を持ちながら話し合っている彼らの会話をこっそり盗み聞きする。

 

 

「──これはまたとないチャンスですよ!」

「わかってるさ!でも、危険すぎる。流石にノアにそんなことさせられない」

「しかし──」

「何の話?」

「あっ!ノ、ノアさん!」

「ノア……えーっと……」

 

 

俺の名前が出てきて話の内容が気になって声をかけてみれば、名も知らぬ社員の男は手に持っていた羊皮紙を握りつぶしながら飛び上がり、メイソンは困ったように笑った。

 

 

「ノアを新曲のジャケットに使いたいっていうバンドがあってね、すっごく有名な人たちではあるんだけど……」

「彼らは最近イギリスでも人気が出てきてるんです!元々はアメリカのグループなんですけどっ!絶対絶対、ノアさんの名前をアメリカで広げるチャンスだと思うんです!」

 

 

男はメイソンの言葉を遮り、顔を真っ赤にして鼻息荒く力説した。その勢いに目を瞬かせ首を傾げれば、男は「眩しい!」と叫び手で目を押さえた。

 

 

「ジャケ写くらいいいんじゃねぇの?」

「彼らの要求がね……その……吸魂鬼(ディメンター)とノアとの共演なんだ」

「吸魂鬼と?」

 

 

吸魂鬼は魔法界では忌避され出会ったら直ちに逃げ出せと言われている。なにせ吸魂鬼を退けるには守護霊魔法しかないが、大人でもその魔法を使えない者が多いのだ。ただ幸福な気持ちを吸われるだけならまだしも、吸魂鬼にキスされてしまうと魂を取られ抜け殻状態になってしまう。

そんな吸魂鬼との共演は、確かにぶっ飛んでいるが──。

 

 

「野生の吸魂鬼と?」

「いや、アズカバンの」

「まじでか」

 

 

メイソンは苦笑しながら「流石に、危険すぎるよ。勿論すっごいチャンスなんだけどね」と残念そうに首を振る。

いや、アズカバン?そんなの──。

 

 

 

 

──数日後。

 

 

 

「流石に寒いな!」

 

 

俺はアズカバン刑務所の前に立っていた。

イギリスから少し離れた北海の真ん中にある小島、そこに建つ巨大な建物の壁は海からくる潮風で風化してぼろぼろになっている。

真夏だというのにこんなに寒いのは、この場所を守っているのが吸魂鬼だからだろう。

 

 

「うっ──嫌な感じだ……ノア、大丈夫かい?」

「寒いだけで全く無問題」

 

 

ぐっと親指を立てて笑えば、メイソンは青白い顔で力なく笑った。

「行こう」と呟き、メイソンは俺を守るようにしながら杖を持ってゆっくりと門へ向かう。門前に今日一緒にジャケ写を撮るバンドマン達が身を寄せ合い立っているのが見えてきた。

彼らはいわゆるデスメタルというジャンルの歌を歌っていて、リリースされた曲を試しに数曲聞いてみたが、それはもうやばい歌詞ばっかりだった。三つの許されざる呪文なんて可愛いもので、なんとヴォルデモートやグリンデルバルドを暗喩する言葉をいれていた。英国人が聞いたら即座に曲を消して罵るのは間違いなしだ。──アメリカ人だからあんまりヴォルデモート怖くないのかな?

 

しかし、そんな彼らも吸魂鬼が出す悍ましさには本能的に恐怖してしまうのか、メイソンと同じように顔色が悪い。

 

 

この仕事を成立させるために、メイソンは何枚も契約書にサインしなければならなかったそうだ。吸魂鬼はアズカバンの看守であり、魔法省が管理している。とはいえ吸魂鬼に仕事への熱意や約束事を守ろうとする気持ちは一切無く、彼らはただ人間を餌としか見ていない。つまり、アズカバンに足を踏み入れた後は何があっても自己責任というわけだ。

 

 

「メイソンは守護霊魔法使えるんだろ?」

「うん、まあね。……そういえば、魔法省から一人来てくれてるんだ。魔法省の職員が同行しないと吸魂鬼に襲われるから」

「へえ?なら大丈夫そうだな」

 

 

そもそもメイソンが守護霊魔法を使えなくても、俺は間違いなく使えるだろうから無問題ではある。

 

バンドマン達は俺を見て少しだけ元気づけられたらしく、気を奮い起こしながら深呼吸し門の前に立った。

メイソンが杖先でちょん、と門を突けば、門は錆びついた音を上げながらゆっくりと開く。途端に凍える冷気が溢れ出て皆を包み込み、彼らは肩をすくませ背中を曲げながら恐々と門を過ぎ整備されていないガタガタの石床を歩く。

 

 

「本当に来るとは。……命知らずと言うか、無謀と言うか……」

「ああ!スクリムジョールさん。今日はよろしくお願いします」

 

 

アズカバンに続く黒い扉の前に立っていた人は俺達を見て呆れ返った眼差しを向けため息をついた。メイソンは彼を見てほっと表情を緩めるとすぐに名刺を渡し、手を差し出す。

スクリムジョール。と呼ばれた男はメイソンと握手しながら縮こまったバンドマンを冷たい目で一瞥し、そのまま後ろにいる俺を見た。

 

 

「君が……私はルーファス・スクリムジョール」

「ノア・ゾグラフです」

 

 

その男はライオンの立髪のような黄褐色の髪に痩せた体。気難しいそうな顔をしていて眉間に深い皺が刻まれている。

スクリムジョール……スクリムジョール……って、──ああ!

 

ルーファス・スクリムジョール。将来魔法大臣になる人だ!ヴォルデモートに拷問されて死んじゃう人だな。確かハリーとは険悪な関係になってたけど、最後までハリーの情報を漏らすことがなかったとか。今はまだ闇祓い局長だっけ?……それくらいしか知らないけど。

 

 

「くれぐれも私のそばを離れないこと。滞在時間は長くて一時間。囚人への接触は厳禁だ。餌を捕られたと思って吸魂鬼が襲いかねない。……吸魂鬼達にこちらの道理は通用しない、忘れるな」

 

 

スクリムジョールの言葉にメイソン達は真剣な顔をして頷いた。「それでは、行こう」とスクリムジョールが俺たちに言い、先導する。みんなが杖を手に持ち緊張しながら進む中、俺はキョロキョロと辺りを見回しながら進む。

 

外もなかなかに寒かったのに、薄暗いアズカバンの中はさらに極寒だ。腐敗臭と排泄臭の嫌な匂いが漂っているし、そこかしこで呻き声や支離滅裂な言葉や狂った笑い声が混じり呪詛のように流れている。さらに小蝿もぶんぶんと飛んでいてかなり劣悪な環境のようだ。

 

囚人達はほとんど正気を失っているのか、壁にぐったりともたれかかっている者が多い。ぼろぼろのベッドと、汚いトイレだけがある狭い牢屋で、すぐそばを俺たちが通り過ぎてもぴくりとも動かなかった。

 

うーん、シリウスとかベラトリックスとかどこにいるんだろ?やっぱ極悪人だし、最深部とかなのかな?

アズカバンに入る機会なんてもう無いだろうし、数年後会う前にちょーっと、一目見てみたいなぁ。

 

 

「──止まれ」

 

 

突然、スクリムジョールが鋭い声で俺たちに命令した。ぴたり、と足を止めたメイソン達はすぐに杖を構える。

呻き声や呪詛の声に混じり、嗄れ掠れた声が闇の奥から聞こえてきた。それは徐々に大きくなり、それに伴って気温もぐっと下がる。

 

 

「吸魂鬼……でっか」

 

 

三メートルはありそうな細く長い体。一応人の姿形をして黒いローブのようなものを纏っているが、体はゆらゆらと浮遊しローブから見えている皮膚は腐敗して灰色の瘡蓋のような物で覆われている。

 

 

「騒ぐな、じっとしていろ。──囚人以外には、手を出さん」

 

 

現れた五体の吸魂鬼はスクリムジョールの前をふわふわと漂っていたが、しばらくするとふわりと横にずれて牢屋の中にいる囚人の正気──残り滓のような幸福感を吸いだした。

 

スクリムジョールは視線で俺たちに「行くぞ」と合図を送り、歩みを進める。メイソン達は怯えたような顔で幸福感が吸われている囚人を見ながらその後に続き、俺もすぐにその後を追いかけた。

 

──いや、追いかけようとした。

 

 

「たましい」

「は?──うわっ!」

 

 

ノイズ混じりの聞き取りにくい声が聞こえ、振り返る。

囚人の幸福感を吸っていた筈の一体の吸魂鬼が、俺のすぐ後ろにぴたりと張り付くようにして立っていた。

待て待て!!俺、ホラー映画とか苦手なんだよ!!めちゃくちゃびびったわ!

 

吸魂鬼は俺に向かって手を伸ばす。「ノア!」とメイソンが焦ったように叫び、杖先から銀色の光を放った。颯爽と現れた銀色のイタチは吸魂鬼の腹あたりに突撃し、俺に手を伸ばしていた吸魂鬼は吹き飛ばされた。

──しかし、いつの間に近づいたのか俺の周りを四体の吸魂鬼が包囲している。

 

 

「しこう」

「たましい」

「ゆいいつ」

「ちから」

「連想ゲームかっつーの!」

 

 

吸魂鬼はぼそぼそと呟きながら俺の幸福感を奪おうと──いや、魂を奪おうと深く被ったフードを脱ぎ、暗くぽっかりと空いた口を露出させる。

 

 

「俺の魂が欲しいなら絶世の美女になって出直しな!──エクスペクト パトローナム!」

 

 

ポケットから杖を抜き、吸魂鬼に向かって突きつける。飛び出した銀色の光は辺り一面を真っ白に変えてしまうほど眩しく、吸魂鬼達は堪らず悲鳴にも似た鳴き声を上げながら飛び去った。

 

 

「……何だこれ?」

 

 

現れたのは、銀色の何かだった。輝く光を放ちながら吸魂鬼を蹴散らすと俺の隣に並び甘えるように頭を擦り付ける。

二メートルくらいの大きさで、鹿っぽいけどなんか鱗のようなものがある。パッと見わかる動物じゃ無いってことは、魔法生物かな?

 

 

「──麒麟……」

 

 

長らく声を出していなかったような、そんな嗄れた声が檻の向こう側から聞こえてきた。視線を向ければ、さっきまで幸福感を吸われていた囚人が体を起こし、じっと俺の隣に立つ守護霊を見つめていた。

おや、この囚人は他の奴らと違って正気を失って無さそうだな。痩せ細ってるし、汚れまくってるからかなり長い間ここに居るんだろうけど……意思の籠る視線だけはしっかりとしてる。うーん。前髪がめちゃくちゃ長くて誰かよくわからないなー。檻の前にネームプレートもないし。

埃と油まみれになっていてベタついている前髪の隙間から、灰色の目が俺を射抜く。にこ、と笑いかけてやれば、囚人は驚きに目を見開いていた。

 

 

「ノア!だ、大丈夫!?」

「もちコース!」

 

 

慌てて駆け寄ってきたメイソンに、怪我一つないし、幸福感も吸われてないぜ!と言う意味を込めて親指を立てながら言う。

 

 

「も、もち?……えっと、この麒麟の守護霊はノアが出したんだよね、麒麟なんて……聞いたことがない……」

「それよりも、こんなに幼い年齢で守護霊魔法を使えるだなんてな……」

 

 

メイソンとスクリムジョールは信じ難いのか、俺の隣にいる麒麟の守護霊と俺を何度も見比べていた。吸魂鬼を蹴散らせばすぐに消えてしまうはずの守護霊だが、なぜか俺にずっと寄り添っていて消える気配がない。そのおかげで、足元や内臓から凍えるほどの冷気が軽減されているけど。

 

 

「俺って最強の魔法使いなので!麒麟かー……図鑑に書いてあったな、そういえば」

 

 

こんな見た目だった気がする。と思いながら麒麟の顎下を撫でれば、麒麟は深くお辞儀するように頭を下げて足を折り、そのままふっと消えた。

 

 

「──よし!撮影会と行きますか!」

 

 

メイソンもスクリムジョールもバンドマン達も、銀色の麒麟を唖然と見ていたが、俺の一声に当初の目的を思い出し少し狼狽えながらも頷いた。

 

 

 

撮影会は空いている牢屋で行われた。

俺の服装は至ってシンプルな白のワイシャツに真っ黒の半ズボンに黒のサスペンダー。首元には深紅の大きなリボン。

王座のような豪華な肘掛け椅子が中央に置かれ、椅子の周りには数体の吸魂鬼が立ち並び、バンドマン達はその後ろで背を向けている。

俺は豪華な椅子に座るだけだ。小物も無く、メイクも最低限しかしていない。バンド側からの注文は「手に入れようとした途端に死に繋がる絶対的な美を見せつけて欲しい」である。──えーと、ここはベニスじゃないけど、まぁそれなら俺しか適任はいない!

 

アズカバンに大人数で来るわけにもいかず、メイソンが慣れない大きなカメラを使いパシャパシャとシャッターを切る。俺は脚を組んだり、椅子の上で胡座を組んだり、いろいろなポーズをしつつゆらゆらと動いてしまう吸魂鬼に止まるよう命じていた。

 

 

「だから動くな!ステイ!止まって!」

「しこう……たましい……」

「こわれかけのレディオか!お前達はおれを見ていればいい、いいか?動くなよ?ふりじゃないからな」

 

 

吸魂鬼は知性がある、とはいえそれほど高度な知性を持っているわけではないのかすぐにふらついてしまう。

椅子の横にいる吸魂鬼が俺に手を伸ばしてきたからその灰色の手をぱしんと払い「ダメだって」と伝えれば、ぶつぶつと文句のような言葉を吐きながら手を引っ込めた。

 

 

「……吸魂鬼と会話するだなんて、前代未聞だよ……」

「言ってなかったか?俺は知性さえあればどんな生き物とも話せる世界最強の魔法使いなんだぜ?」

 

 

吸魂鬼の言葉を話している俺に、メイソンは唖然としながら呟いていた。目の前で見ても信じられないのだろう──メイソンだけじゃなくて、見守っているスクリムジョールも難しい表情をして黙り込んでいる。

 

 

 

 

しばらくして撮影も滞りなく終わり、吸魂鬼達は俺を名残惜しそうに何度も振り返りながらそれぞれの持ち場へ戻った。

バンドマン達はイメージ通りの写真の出来上がりに満足そうに頷き、俺に羨望の眼差しを向ける。──彼らにとっては、悍ましい闇の生物と話すことができる俺は聖人のようなものなのかも、しれない。

 

 

「時間だ。──その前に」

 

 

腕時計を見ながらスクリムジョールは呟き、俺の前に進み寄った。何か用なのかと首を傾げ背の高い彼を見上げれば、スクリムジョールは眉間の皺を緩め「ごほん」とわざとらしく咳をこぼしローブの内ポケットから小さな色紙を取り出す。

 

 

「ノア・ゾグラフ。──サインをいただけないかね?」

 

 

真っ白な色紙と、羽ペンが差し出される。

一瞬きょとん、としたがすぐに受け取り「もちろん!」と大きく頷いた。どう見ても堅物っぽいのに、俺のファンなのか!

 

 

「スクリムジョールさんへ、でいい?それともルーファス?」

「な──名前の方で」

「オッケー!……よし、っと!ツーショも撮りますか?」

 

 

慣れた手つきでサインをして色紙を返しながら聞けば、スクリムジョールは少年のように目を輝かせ頷いた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。