兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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72 夜中の出会い

 

自由時間も終わった夜の九時過ぎ、フードを深く被った少女は足音をなるべく立てぬよう慎重に、それでいて素早く廊下を駆けていた。こんな時間に寮を抜け出しているのが見回りの教師や監督生に知られたら面倒臭いことになる。減点は当然の事、罰則だってあり得るだろう。

しかし、それでも少女は寮を抜け出さねばならなかった。愛しい恋人との密会のためではなく、夜のホグワーツ探検ではなく、早くもホームシックにかかり親の元に帰りたくなったわけでもない。

 

 

「……、……」

 

 

廊下には所々松明がかけられ、真っ赤な火が風もないのに揺れている。足もとは暗く、充分とは言えない明るさだったが、ここでルーモスを使って辺りを照らす事は出来ない。

 

少女は躓かないように注意しながら三階の女子トイレの前に立ち、苔と黴が生え一層暗く陰鬱そうな扉をじっと見つめた。

そっと扉に耳をつけ、その奥から泣き声がしないかどうかを確かめる。──どうやら大丈夫そうだ。

 

人一人が通れる程度、薄く扉を開けて、少女は暗いトイレの中へ入る。

 

 

廊下と比べてトイレの中は不快な湿気が肌にまとわりつき、どんよりと重い空気が漂っている。

何も突然尿意を催してトイレへと来たわけではない。少女にとってここは通過点ではなく、殆ど目的地なのだ。

少女は個室に入る事はなく、薄汚れた手洗い台へと向かう。水垢で汚れ元の輝きが一切ない蛇口を指先で撫でると薄く微笑んだ。

 

「──開け」

 

 

その声は、まるで蛇の掠れた鳴き声のようだった。

 

その言葉に反応して蛇口が白く輝き、音を立てて回り始めた。次の瞬間には手洗い台が沈み込み床の中へと潜る。手洗い台が消え去った後には太いパイプが──ちょうど、大人一人が滑り込めるほどの大きさのパイプが剥き出しになった。

それはまるで、闇が口を開けて獲物を待っているかのようだったが、少女は全く気にせず闇へ体を滑り込ませた。

 

湿ったパイプの中を滑り降りた先には広い通路があり、少女はようやく杖を振り辺りを照らす。少女の燃えるように赤い髪がこの不気味な通路の中で光を反射しちらちらと輝く。

ルーモスの明かりでも通路の奥まで照らす事はできなかったが、少女は迷う事なく足を進めた。

 

曲がり角をいくつか曲がった後、通路は突然終わりを迎え黒い扉が現れる。そこには二匹の蛇が絡み合った彫刻があり、エメラルドの美しくも怪しい目が少女を無機質に見下ろしていた。

 

 

「開け」

 

 

少女の言葉に応えるように、絡み合った蛇は離れ、扉が開かれる。

少女は笑みを深め、懐かしいその場所へと踏み込んだ。

 

扉の向こうには細長く奥へと伸びる部屋があった。左右には蛇が絡み合う彫刻を施した石の柱が何本も高く伸び、暗闇に吸い込まれ見えない天井を支えている。

怪しい緑がかった幽明のような火がぽつぽつと浮かび部屋の中を薄く照らしていた。

 

左右一対になった石柱の間を通り、最後の一柱の前に立つ。中央には天井に届くほど巨大な石像があり、それを見上げ少女は目を細めた。

 

 

「スリザリンよ。ホグワーツ四強の中で最強の者よ。我に話したまえ」

 

 

少女は石像に向かって話しかける。

石像の──サラザール・スリザリンの巨大な石の口が、ゆっくりと動いた。石像の穴が広がり、その奥に蠢く影を見つけ、少女は笑みを深めながらも視線を合わせぬよう目を伏せた。

 

この先にいるのは、凶悪であり、それでいて愛しいバジリスクだ。バジリスクの目を直視すると、生き物は死んでしまう。

 

 

ずるり、と滑る音が聞こえ、少し遅れて床の上に何かが落ちる振動が足に伝わる。

 

 

「バジリスクよ、我が下僕よ。スリザリンの意志を引き継ぐ者の帰還だ。我に従え!」

 

 

堂々と、自信満々に少女は言った。

 

外見が異なるとはいえ、この少女の魂は今、僕の魂に覆い尽くされている。蛇語を話せるのが何よりもの証拠だ。──間違いなく、今回も僕に従うだろう。そして今度こそ、このホグワーツから穢れた血を一掃し、正しい場所へと戻す。生徒を殺し、憎きダンブルドアを失脚させる!

 

少女はバジリスクがいるだろう場所へと手を伸ばす。噛むはずがない、きっと、首を垂れるだろう。過去のように。

 

 

「さあ、僕に首を垂れろ!」

「断る」

「……は?」

 

 

バッサリ、はっきり断られた衝撃で、少女──いや、トム・リドルは人生で一度も発したことがないほどの間抜けな声を出し、反射的に顔を上げてしまった。

 

バジリスクの口先が見え、そして──。

 

 

まずい。

 

 

瞬時にそう思ったが、反射的な動きを理性で止める事はできずそのままバジリスクを見上げた。

 

 

 

──死ぬ。

 

 

しかし、リドルは死を回避した。

一瞬、息を止め、ごくりと唾を飲み込む。遅れて冷や汗が一筋流れ、顎からぽたりと落ちた。

 

 

バジリスクの目には黒い包帯のようなものが巻かれていた。

黒光りする鱗が艶かしいバジリスクの頭の上には一人の人間が乗り、こちらを見下ろしていた。薄暗い部屋では、その人が男か女かはわからない。ただ、人間のシルエットをしているのは確かだった。

 

あまりの現実味のない状況に、リドルの思考は上手く動かない。

なぜ、ここを知っている?なぜ、バジリスクの上に乗っている?この人間は、誰だ。

蛇語を使える?同胞か?それなら殺すのはまずいか?いや──姿を見られた。誤魔化しきれるか?なんとかしなければ、この機会を逃すと、いつまた意識を得られるかわからない。

 

 

緊張と警戒を隠すことのないリドルを見下ろし、その人は楽しげに笑った。

そして、指揮者のようにさっと指を振れば、白い光の玉がそこかしこに現れふわふわと眩い光を放つ。薄暗い部屋は一気に明るくなり、リドル達を照らした。

いきなりのことに、リドルは眩しそうに目の前に腕を上げ、目を細め、照らされたその人を見上げ──驚愕で言葉をなくした。

 

明るい場所で見るその人のあまりの美貌に、一瞬目を奪われたのだ。

 

それは瞬きするほどの僅かの時間だったが、それでも人を見て目を奪われるなんて経験は初めてであり、リドルは強く杖を握りなんとか冷静であろうとした。

 

その人は、ふわりと優しく──楽しそうに笑った。

 

 

「迷子の迷子の子猫ちゃんー?」

「……は……」

「あなたのお家はここですかー?」

 

 

その人──ノアは歌うように言うと、バジリスクの頭を軽く手で叩く。バジリスクはノアの意図をくみ、床へと頭を下ろした。

ノアは軽い足取りで地面へ降り立つと、バジリスクの顎を撫でながら驚愕のまま動けないリドルを見下ろした。

 

 

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