兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
夏休み中はバジリスクのバジルのご飯を持っていくことができない。まぁ超低燃費だから数年食べなくても無問題だが、それでも目覚めてから定期的に牛の肉とか豚の丸焼きとか食べてたし、そのスパンに慣れて空腹は感じてしまうだろう。
というわけで。
学校が始まって初めの土曜日の、夜。
俺は予め用意していた七面鳥の丸焼き四羽分を鞄の中に入れ、自身に透明化魔法をかけてバジルの元へとやってきていた。
バジルは俺に会えて嬉しそうに舌をちろちろさせ、七面鳥をぺろりと丸呑みした。
流石の俺でもバジリスクの目を見てしまうと多分、死ぬだろう。だから安全のためにバジルの目には某術師最強の問題児先生のような黒いアイマスクをつけている。サングラス、とかも考えたんだけど、うっかり見たら石になっちゃうしなぁ。
さて、今年は秘密の部屋が始まる年のはず。
確か一番初めの事件はハロウィンの日で、犠牲者はフィルチの愛猫ミセス・ノリスだったはず。その後は、えーと。グリフィンドールのゴーストの殆ど首なしニックと、ハッフルパフの……そうそう、ジャスティン。その後コリン。最後にハーマイオニー……だよな?
ジャスティンは俺と同じマグル生まれのハッフルパフ生でハリーと同学年だ。マグル生まれの生徒は俺が魔法界でどれだけ有名なのか、入学するまで知らない者が殆どだ。……ハーマイオニーみたいな例外はあるとして。
同じマグル生まれのハッフルパフ生。満点の知名度と完璧な美貌、さらに魔法も優秀。そんな俺のことをジャスティンはマグル生まれの誇りだのなんだの語っているのを談話室で聞いたことがある。俺に直接言いにこないのは、俺の熱狂的なファンだから畏れ多くてできないらしい。
ってか、純粋なマグル生まれってそんなに多くないんだよなぁ。俺、ハーマイオニー、コリンとその弟、ジャスティン……他に誰かいたかなぁ。
そんなことをぼんやりと考えながら、バジルのぽっこりと膨らんだ腹に背中を預けつつ、その巨体を見上げる。
「バジルー」
「何だ?」
「バジルはさ、マグル生まれについてどう思う?」
「どうでも良い」
「え?そうなのか?」
てっきり穢れた血なんてブッコロ!って言うと思ったが、バジルはあっさりと本気でどうでも良さそうに答えた。
「ああ。今までの主様は純血のみが魔法族であるとし、マグル生まれを穢れた者としてこのホグワーツから排除したがっていたが……マグル生まれも、純血魔法族も、魂に差はない。ただ──」
「ただ?」
バジルは顔を下ろし、俺の肩に顎を乗せると甘えるように擦り付く。
「ノア。お前の魂だけが至高なのだ。永い時を生き、何百、何万というヒトの魂を感じたが。……ただ、ノア、我が主だけが唯一特別だ。それゆえに、生まれの血など……どうでも良い」
「なるほどな」
よかった。後々この可愛いバジルちゃんが、俺がマグル生まれだと知って懐いてくれなくなったら悲しいもんなぁ。
今後のためにはある程度原作に沿わせなければいけない。……とはいえ、ぶっちゃけ秘密の部屋編は全カットでもそれなりに物語は進みそうではあるけど。本物のヴォルデモートが来てるわけでも無いし。
それでも全カット全クリアしたとして、その後の問題がいくつかある。
その一、ダンブルドアがリドルの日記の存在を知らないことになる。
リドルの日記を知らないと言うことは、分霊箱の存在が一つ知られないままになってしまう。
ダンブルドアはヴォルデモートの肉体は死んでも魂は生き延びている事に当然気づいてるし、分霊箱についてはリドルの日記が明るみに出てこなくとも察してるだろうから大丈夫なはず。
そのニ、ハリーとジニーの最大の接近がなくなる。この一件からハリーはジニーがロンの妹であり、守った大切な女の子、みたいな深層心理が芽生える気がするんだよなぁ。ハリジニを確定させるためには絶対に必要だろう。
その三、バジリスクの毒で分霊箱を破壊できるという話や、ホグワーツでの最終決戦の時にバジリスクの牙探しに行ったりするのがまるっきり無くなる。毒付きグリフィンドールの剣も生まれなくなってしまう。……ま、俺が後々分霊箱とバジリスクの毒のことを伝えてもいいんだけどなぁ。
その四、無事生存したリドルの日記をどうするか問題。……これ壊さないとヴォルデモートは不死なんだよなぁ……。
「……やっぱ、原作沿いしかないか」
バジルの顎の下を指で撫でながらつぶやいた。
あ、でもバジル──バジリスクの死はできたら回避しよう。最終決戦あたりでホグワーツの戦力になりそうだし。何より生存してるバジリスク、素材の価値がやばい!バジリスクさえ生きていれば今まで製造不可能とされていたやばい薬も作れるようになるし。
よし、そうと決まれば俺が存在する事により、世界がちょっとズレてしまって、そのちょっとのズレが原因でバジルが誰かを殺したらやばいから俺が近くにいない時はバジルの目にカラーコンタクトでもつけさせようかな。
「バジル、もし俺以外に蛇語を話して、バジルに人を殺させようとする奴が現れたらとりあえず従うふりをしてくれ。ま、バジルの目にコンタクト入れるから殺傷能力は無くなるんだけど」
「コンタクト?」
「あー……うっすいガラスみたいな……」
そうか、魔法界にはコンタクトはないのか。
ガラス、と説明するとバジルは言葉にならない「しゅー」という呻き声をあげた。
「我の目には……鱗が被っているが」
「え?……そういや蛇って瞼ないんだっけ」
そういえば、蛇は瞼が無い代わりに透明な鱗が目の上にあって保護してるとか聞いたことがある気がする。
なら、コンタクトじゃなくてその目の部分の鱗を色付きに変えたらいいかな?
「よし、んじゃその鱗を色付きに変える。ちょっと視界が黒っぽくて見難いかも」
「それは構わない。そもそも我の視力は弱い」
「そうなんだ?ならいいや」
よく舌をちろちろさせてるし、なんか匂いとかを感知してるのかな?ペット器官?かなんか蛇にはあったし、もしかしてバジリスクにも同じような器官があるのかもしれない。……そもそもこの地下は真っ暗だし千年もの間で視力が退化していてもおかしく無いな。
バジルはしゅーと言いながら頭を下げた。バジルの目を覆う黒い布の間に手を入れ、そっと目がある部分を撫でる。
「うわ、つるつる」
「む……」
眼球の弾力ではなく、透明なガラスを触っているようなそんな肌触りだった。触れたまま色を変える魔法を唱え、目を撫でる。
「よし……んじゃ、試してみるか」
両目とも鱗を色付きに変化させた後、その辺に落ちている石に向かって指を振り小さなウサギ変化させる。
ウサギはきょとん、としたまま鼻と耳を動かして俺を見上げた。
バジルの目を覆う布を外せば、バジルはゆっくり顔を上げウサギを見下ろす。ウサギはその目を見てびくりと震えると、そのままこてんと倒れた。
「んー?……お!ちゃんと石化してるな」
倒れたウサギはよく出来た石像のように固まっていた。叩いてみれば コンコン と無機質な音が返ってくる。
実験は成功だ。これでバジルがその辺を散歩しても、リドルの命令に従っても生徒が間違って死ぬことは無い。リドルもリドルでバジリスクの目を見ることはできないはずだから、目の鱗の色が違うなんて気付かないだろう。
「ま、俺といる時は布は必須なんだけどな。……ん?」
指を振り固まったウサギを消し、バジルの目を再度覆ったその時、天井の方から異音が響いた。
バジルもその音に気付き、舌をちろちろさせながら上を見る。この地下の天井はかなり高く、どこから音がしたのかイマイチわからない。かなり遠い感じはしたけど。
「なんだろ」
「……ノア、この部屋への入り口を誰かに伝えたのか?」
「え?言ってないけど」
「今の音は……入り口が開く音だ」
いつも、ノアが来る時もあんな音がする。とバジルは続けながら警戒するような唸り声を出す。
この場所を知ってるのなんて、俺か──トム・リドルしかいなくね?
「……よし、隠れようぜ」
俺はにやりと笑い、バジルの体をぽんぽんと叩く。バジルはすぐに頭を下ろし、俺が登りやすいようにしてくれた。慣れた動作でバジルの頭の上に登れば、バジルは体をくねらせスリザリンの巨大な石像の元まで行き、するすると登って開きっぱなしだった口の中に入った。
口はバジルの体がすっぽりと入るとぱくんと閉じてしまい、真っ暗闇になってしまう。あんまり明るくしすぎるとスリザリンの鼻の穴や目がピカーって光ってめちゃくちゃおもしろいことになりそうだからちょっと止めておこう。
蝋燭の灯り程度の小さな光の玉を出し、口の中を照らす。……なるほど、この先がパイプになっててホグワーツ中に張り巡ってるんだな。
待つこと数十分。ぎぃ、と扉が開く音がして軽い足音が広い地下に響いた。
「スリザリンよ。ホグワーツ四強の中で最強の者よ。我に話したまえ」
高い女の子の声がした。うわー!ジニーの声かこれ!ジニーは見たことあっても顔真っ赤にして逃げ出すから声を聞いた事ないんだよなぁ。
スリザリンの石像の口がぱかりと開く。バジルは「どうする?」というように小さく しゅー と声を出した。指で「降りよう」と示せば、バジルは頷きするすると降りる。
地上にはジニーが居た。
手には黒い日記を持ち、視線は地面に向けている。
「スリザリンの意志を引き継ぐ者の帰還だ。我に従え!──さあ、僕に首を垂れろ!」
自信満々で、堂々と告げられた言葉。バジリスクの目を見れたならばふんぞり返って見下してる事だろう。
「断る」
バジルはバッサリと断った。
「……は?」
ジニーの口から呆気に取られたような、そんな声が漏れてそのまま顔が上がる。おい俺がバジリスクの目を隠してなきゃ即死だぞ!!
ジニー……いや、リドルはぽかんとしたまま顔を上げた。
「ははっ!」
顔はジニーだけど、その間抜けな表情をリドルがしていると思うと面白すぎて笑える!
ちょっと笑いつつ、暗い地下を照らすために手を振り光の玉を出現させた。一応、リドルがなんか攻撃してきてもいいように警戒はしとかないとな。
リドルは眩しそうに目を細めていたが、一瞬驚いたように息を呑んだ。うん、ジニーの頬が髪のように赤くならない。間違いなく中身はリドルだな。
「迷子の迷子の子猫ちゃんー?」
「……は……」
「あなたのお家はここですかー?」
そんな美声の歌声に、リドルは にゃんにゃんにゃにゃーん とは答えてくれなかった。