兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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74 腹の探り合い

 

ノアはリドルを見下ろし、微笑みながら首を傾げた。さらり、と髪が流れ周りの明かりに照らされ夜空に浮かぶ星のように輝く。

リドル──見た目はジニーである──の反応を待っていたが、リドルは固唾を飲みじっと見上げてくるだけだった。

原作を大きく変えないでおこう。そうノアは決意したばかりだったが、リドルと会えるかもしれない、というとんでもないレアイベントの発生についつい好奇心が止められなかったのだ。

 

今年も学年末あたりにはハリーの生存を確認するためにこっそり秘密の部屋についていき、リドルVSハリーの戦闘を……いや、実写版トム・リドルを見ようと思っていたノアは、まさか原作二年目が始まってすぐにリドル──見た目はジニーだが──ご対面イベントが発生するとは思わなかったのも、事実。

 

てっきり、ハロウィンまでは平和だと思っていたのに、とノアは内心で思う。

 

 

「子猫ちゃん、なんでこんなところに?」

 

 

ノアは警戒し反応を返さないリドルに向かって、もう一度声をかける。一応、ノアはこちらから敵意はないとにこやかに対応したつもりだったが、この秘密の部屋の中、暗い地下、隣には巨大なバジリスク──警戒しない方が無理だと言えるだろう。

 

 

「え……っと。……あなたこそ、何故ここにいるんですか?」

 

 

リドルは警戒を解かぬままであったが、一応自分にも敵意はない、と示すために杖先を地面に向ける。勿論、手から離してポケットに入れるなんてことは、不可能だったが。

 

 

「夜のお散歩」

「……そうですか」

 

 

ノアはにっこりと笑う。リドルは視線を少し逸らしわざとらしく辺りを観察しつつ、脳内でこの状況をどう判断するか思考していた。

 

 

──この目の前の男は、おそらくノア・ゾグラフだろう。日記にジニーが書いていた、誰よりも美しい魔法界ナンバーワンのモデル。世界中を魅了しホグワーツ生の殆どがファンクラブに入っている。ノアと話すことができたらどれだけ幸福だろうか。……とか、書いていたな。日記は文字からの情報しか得られないからどんな顔なのかと思ったけど。たしかに見たことないほど美しい男ではある。

……それに、ここに居るということは蛇語を話せる?まさか、僕以外のスリザリンの子孫?傍系だとしたら有り得る、か。……ノアは、ハッフルパフ生だったはず。まぁ、スリザリンの子孫だといえスリザリンに組分けされない可能性もあるか……。

ホグワーツから穢れた血を一掃し、ダンブルドアを失脚させるにはバジリスクの力が必要だ。だが、僕の姿を……このジニーの姿を見られた今、何か不審な事があればすぐにこの男に疑われてしまうだろう。この男は、何の意図でこの場所にいるんだ?

 

 

リドルはノアのことを、ジニーを通して知っていたがそれも断片的な情報だけだ。

最高級の絵画のように美しいだとか、ファンクラブ同士の牽制が恐ろしいだとか、誰にでも優しいノアは世界中を魅了するために生まれてきたのだとか、美貌だけで世界の統率者になれるだとか、ノアが入学してからハッフルパフは寮対抗杯を二百年以上ぶりにとったのだとか、クィディッチの腕も最高級で無失点キーパーなのだとか。

それはノアを褒め称える情報のみで、ノアがどのような思想を持ってるのか、どんな人生を歩んできたのか、マグル生まれなのか、純血なのか──などは一切書かれていなかった。

それに、リドルはまさかノアとこうして対面することなど夢にも思っていなかった。ジニーが書き連ねるノアの賞賛やらノアとの妄想やらなど、一切興味はなく突っ込んで聞こうとは思わず、適当に相槌を打っていたのだ。

 

 

リドルはノアの真意を探るべく、少し不安そうな表情をつくり辺りを見回す。それを見たノアは、もしリドルの存在を知らなければこの表情に騙されただろうな、と思った。──それほど、自然で違和感のない、怯え不安げにする少女の表情だった。

 

 

「あの……」

「ん?」

 

 

リドルは不安そうな表情を作り、ノアとの距離を詰める。きゅっ、とノアの胸元のローブに縋りつき上目遣いに見上げ、目を潤ませた。その手は微かに震えていて、まさに庇護欲そそる少女そのままである。

中身がリドルだと知っているノアは完璧な演技に笑いそうになるのをなんとか堪え、首を傾げた。

 

 

「どうしたのかな?子猫ちゃん?」

「──この言葉がわかるのか」

 

 

吐息を感じるほどリドルは近づき、絶対零度の声で囁く。

隠し持っていた杖をノアの背中に押しつけ、何か不穏な動きを見せたならいつでも呪いが貫くぞ、と示した。

しかし、ノアは全く怯えることも、驚くこともなく目を細め楽しげに笑うと、フードからこぼれている赤い長髪を一房掴み、指先で弄んだ。余裕を感じさせる蠱惑的な微笑に、リドルは息を詰まらせる。

 

 

「ハニートラップはかけるほうなんだよなぁ。──さて、子猫ちゃん、君の名は?」

「……!」

 

 

ノアが間違いなく蛇語を理解し話している様子に、リドルは目を見開いた後、彼の胸元から手を離し後ろに下がる。

その目には疑いと、僅かな期待が見え隠れしていた。

 

ここでジニー・ウィーズリーを名乗らなくとも問題はない。寮や学年が異なるこの女のことなど、この男は知る由もないだろう。

 

リドルは適当な名前を名乗ろうと口を開きかけたが、何かを言う前にノアが動いた。

 

 

「俺に名前、教えてくれよ。──お願い」

 

 

開いた距離を詰めるべく、ノアは一歩近づく。

その声はいつものノアの声よりも少しだけ低く、それでいてぞくりとするほどの甘さを含んでいた。耳が痺れるような、脳が揺らされるような、体験したことのない奇妙な感覚。

何故か、その願いを叶えなければならない。そうリドルは思い、ノアの美しい目を見ながらかすかに口を開いた。

 

 

「ヴォル──」

「え?」

 

 

リドルの口は間違いなく「──デモート」と続くべく開いていたが、ノアが反応した事により閉ざされ、その先の音は出なかった。

 

 

──なんでこの名前を言ってしまったんだ!

 

 

偽名を伝えるつもりだった。だが、何故か口から溢れたのは自身を示す唯一の言葉だった。その名前に驚愕したのはノアではなく、間違いなくリドル本人だろう。

 

 

ノアは、世界一の魔法使いである。

ノアは、誰よりも強大な力を持つ。

ノアは、全てを魅了し心を揺らす。

それ故に、ノアの心からの願いは服従の呪文に近い。

 

勿論、力のある魔法使いや服従の呪文に抵抗力のある者には効果は半減するだろう。それでも、今ノアの目の前にいるのは魔法界に不幸と死をもたらすヴォルデモート卿ではなく──闇の魔法使いの片鱗があるとはいえ、十六歳のトム・リドルなのだ。

世界一の魔法使いの強制めいた呪いを、自分が世界で最強の魔法使いであると自負し油断しているリドルは防ぐことができなかった。

 

動揺し、困惑しながら口を押さえるリドルに、ノアはきょとんとしていたがすぐに花がふわりと開くように笑った。

 

 

「ヴォル、って呼べばいいのか?」

 

 

甘く囁く声に。リドルは「まあ、結果的にこの女とは別の名前になったし、困ることはないか」と自分を納得させた。

当時、一片の証拠も残さずダンブルドアをも騙し出し抜いたリドルにしては、その考えは浅はかなものだったが、リドルには不思議と焦燥感はなかった。

 

 

「……はい。……あなたは、ゾグラフ──」

「ノア、でいいよ」

「……ノア。ここは……創設者であるスリザリンの秘密の部屋ですよね。その、蛇は……バジリスクですか?」

 

 

リドルはノアの横で大人しく控えているバジリスクを見上げた。バジリスクの目を見ても石化したり、死ぬことがないのはその目を黒い布が覆っているからだ。

間違いなく、この男がバジリスクの殺傷能力を抑えているのだ。そうリドルは考え、なぜそうしているのか聞きださなければならないと思う。

もし、自分の考えとノアの考えが異なっていたら。その時は、たとえ蛇語を扱えるスリザリンの子孫だとしても消えてもらわなければならない。

 

ノアは顔を上げ、バジリスクの顎下を撫でる。 バジリスクはしゅーと鳴きながら舌をちろちろと出し、甘えるようにノアの肩に擦り寄った。

 

 

──バジリスクのこんな姿、初めて見た。……見たくなかった。

 

 

そう、リドルは内心で呟く。

その黒々とした巨大。強く比類しない能力。荘厳な姿のバジリスクとは乖離の激しい──まるで大きな犬のように甘える姿に、リドルは五十年前に見たバジリスクとは別の個体かと一瞬思ったほどだ。

 

 

「ん。そうだな。バジリスクのバジルだ。ペットにしたんだ、可愛いだろ?」

「ペッ……」

 

 

可愛くもないし、伝説級の存在をペットにするな!変な名前をつけるな!──そう突っ込みたい気持ちをグッと堪え、リドルはバジリスクを見上げる。

バジリスクもバジル、だなんて名前で呼ばれることにまんざらでもないのか嬉しそうに『我が主は最高の主だ』なんて頷いていた。

 

最高の主。バジリスクがそう言うのなら、やはりノアはスリザリンの意志を引き継いでいるのだろうか。

リドルは暫く黙った後、こっそりと杖を握り直した。

 

 

「……目の布は?」

「流石に直視すると死んじゃうから」

「……ノアは、スリザリンの意志を……?」

 

 

かなり、深みのある言葉だった。

ノアは視線をバジリスクからリドルに移し、すっと目を細める。僅かに首を傾げれば、それに沿って銀髪がさらりと流れノアの顔に影を作った。

 

 

──さて、どーしようかなぁ。

 

 

ノアはじっとリドルを見ながら考える。

 

リドル──えっと、ヴォルだな。ヴォルって呼んでなきゃうっかりリドルって言っちゃいそう。──ヴォルは、今ジニーという傀儡の中にいる。ジニーのように簡単に操れる人間を探すのは苦労するだろう。日記の存在が広まってダンブルドアにバレたら一発アウトだし、きっと、ジニーを捨てたくはないはず。かと言って俺を無視することはできない。俺がスリザリンの意志を引き継いでるんならまぁ利用しようとか、悪事がバレたら俺のせいにしようとか思ってそう。

んで、もし俺がヴォルの望む思想じゃなければ……ま、殺すつもりなんだろうなぁ。殺される気は全くしないけど、原作通り進まないのも困るし……。よし、ヴォルに倣って演技派俳優になってみるか!

 

 

暫く迷った後、ノアはリドルから視線を外すとバジリスクの体を撫でた。

その目は憂いを帯びているようにも、何かを憎んでいるかのようにも見える暗い目をしていて、リドルは彼の目から真意を読み取ろうと、その横顔をじっと見つめる。

 

 

「あー……。俺は、スリザリンの意志がどうこうなんてのは考えていないんだ」

「……」

「ただ、俺には蛇語を話せる能力があって、この地下を見つけ出すことができた。俺にはその気になればなんだって思う通りにできる力も、魅力もある。それに、バジル──バジリスクも、歴代の主人よりも俺の方が好きなんだって言ってくれてる」

「……そうですか」

「だから──」

 

 

ノアはとん、と足先で床を蹴った。

その途端、ノアの体はふわりと浮きバジリスクの頭上まで上昇する。バジリスクの上に悠々と跨ったノアは円を描くようにぐるりと大きく右腕をまわす。

 

ごう、と緑色の炎がノアの指に合わせて地面を舐めるように這い、燃え盛りリドルとノアを包囲した。その炎は不思議とこの距離であっても熱くはなく、ただ二人を不気味な色で照らす。

炎はゆらめきながらさまざまな魔獣の形を取り、リドルを威嚇するように猛々しく駆け回る。リドルはその蠢く炎を横目で一瞥したが、すぐにノアを見上げた。

 

無風にも関わらず、ノアの髪はゆるりと揺らめき、美しい灰青色の目は凶悪さを見せる輝きを放つ。

 

 

「俺は特別で、俺はなんだって望んでいいんだ。……でもこの世界で楽しく過ごすためには、いらない奴が多いだろ?この世界に相応しくないやつがたくさんいる。ある程度、芽は摘んどかないとな。まぁ、結局、やる事はスリザリンの意志に近いのかもな。……さて、ヴォル」

 

 

ノアはくるりと手のひらを回し、杖を出現させた。その杖先は、リドルへと向いている。

 

 

「お前はなんのためにここにきたんだ?スリザリンの意志を、彼の最後の望みを聞くためにきたのか?狭い城の王になるために?それとも──俺の秘密を知り、ここで死ぬためか?」

 

 

誰にでも優しく、愛され、明るく人気者のノア・ゾグラフの闇。もし外にこの思想が知られたら流石のノアも反感を買う可能性があるだろう。口止めのために殺す。そう告げるノアの表情は、まるで喜劇を見ているかのように楽しげだった。

 

 

──ノアがスリザリンの意志を引き継いでいないのは残念だったが、思想は自分とかなり近い。どうやら、嘘はついていないようだ。

自分の力を絶対的な物と信じているのは傲慢さではなく、確かな能力があるからだろう。揺るぎないカリスマ性と底見えぬ力。何より好ましい選民思想を抱いている。とりあえず、様子見してみようか。いい気にさせて、操ってやろう。僕なら出来る。それに、面倒になったら殺せばいい。

 

 

リドルは感情を読ませない表情でじっとノアを見上げていたが、ふっと笑うとポケットに杖を差し込み、空いた右手を差し出した。

 

 

「……ノア、あなたと世界を正すために」

 

 

ノアはその一言に一瞬面食らったような顔をしたが、すぐに笑うとバジリスクの頭から羽のように軽くふわりと飛び降り、リドルの前に立つ。

 

 

「じゃあ、とりあえずこの狭い世界を変えてみるか!」

 

 

ノアはリドルの手を繋ぎ、明るく無邪気に笑った。

 

 

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