兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
翌日にはミセス・ノリスが何者かに襲われ石化したという話が広まっていた。
壁に書かれた文字はフィルチが何度消そうと擦っても薄まる事はなく、学校中の生徒たちがそれを一目見ようと三階の廊下へと足を伸ばしたほどだ。
誰が継承者なんだろうか、と皆がこそこそと話し出すのに三日もかからなかっただろう。
勤勉な生徒や、ホグワーツの歴史に詳しい生徒は秘密の部屋がなんなのか、後継者とは何を意味するのかを知っている。
ホグワーツの創設者であるサラザール・スリザリンは純血のみがホグワーツに入学し、魔法を学ぶ事を良しとし、マグル生まれには資格がないと考えていた。しかし他の三人は魔力を持つ者全てに平等に接するべきだと考え、他の創設者と議論し結局、スリザリンがホグワーツを去ったのだ。
その時にスリザリンは自分の継承者のみが開くことができる秘密の部屋を、ホグワーツの中に隠したという。継承者が封印を解き、その中の恐怖を解き放ちそれを用いて学校から相応しくないものを追放する。──ま、こっちは噂とか伝説の類として囁かれているだけで本気で信じている人は少ないらしい。
まだミセス・ノリスの話題が冷めないとある日の授業終了後、夕食までまだ時間があり小腹が空いた俺とセドリックはホグワーツの試練をクリアして手に入れた秘密の部屋で菓子をつまみつつゆっくりと過ごしていた。
途中でフレッドとジョージもやってきて、籠の中にある菓子をばくばく食べだした。
次のホグズミード行きはいつだろうか。まぁ抜け道使って行ったらいいんだけど。だなんて雑談していると、急にジョージが「そういやさ」と話を切り出す。
「実はノアが後継者だったりして」
「……はあ?」
ジョージのいきなりの発言に、割とでかめに「はあ?」と言ってしまった。
「だから、ノアが後継者?」
「ちょーっとやりすぎだけど──我らの敵は間違いなくミセス・ノリスだった!」
「……秘密の部屋が何かわかってるのか?」
ジョージとフレッドの突拍子もない言葉に、怪訝な顔で言えば二人は当然のように頷く。
「わかってるさ。ここのことだろ?」
「ホグワーツの秘密の部屋だしな」
ジョージの後にフレッドもクッキーを頬張りながら賛同する。
なるほど。二人はここが秘密の部屋で、それを引き継いだのは俺たちだから──まあ実質的なリーダーが俺である事は間違いないし──俺が、後継者だと思ったのか。
「んじゃ、俺の敵ってのは?」
「そりゃあ君のヘイターさ」
「そこまで独裁的モデルやってねーよ」
ソファに寝転び、しっとりとしたフィナンシェを食べながら言えば、フレッドは「ま、君のヘイターなんて聞いた事ないけどね」と楽しそうに笑った。
「で?実際のところはどうなんだい?」
「セド、秘密の部屋の説明頼む」
「え?えーっとね。ホグワーツ創設者の──」
長く説明するの面倒で、セドリックに丸投げしてみたら勤勉なセドリックはやはり秘密の部屋がなんたるかを正しく理解していたようで、フレッドとジョージに説明し始めた。
「ふんふん」と聞いていたフレッドとジョージは「マグル生まれを排除する」という言葉に顔を顰め理解不能だとばかりに首を振った。
「マグル生まれを排除する?まだそんな思想を持ってる奴がいるなんてな!」
「そんなの君の過激派が知ったら……後継者は間違いなく水中人とお友達にならなきゃいけなくなるな」
「もしくは暴れ柳に飾られるな」
「でも、本当に誰がスリザリンの秘密の部屋を見つけたんだろうね」
セドリックはマドレーヌを食べながら呟く。フレッドとジョージも「スリザリンの秘密の部屋はどんな部屋なんだろうな」と話題をすぐ変えるあたり後継者よりも部屋の方が気になっているようだ。
試しに「スリザリンの秘密の部屋、あると思うか?」と聞いてみれば、三人は同時に頷いた。
「もちのロンだぜ」
「創設者四人の試練の部屋があったくらいだからね」
「むしろ全員一室ずつ作っていてもおかしくないな」
ここは創設者四人が作った隠し部屋。
創設してから一千年あまり、誰にも破られる事のなかったこの部屋を知っているセドリック達は、当然のようにスリザリンの秘密の部屋もあるのだろうと信じているようだった。
たしかに、スリザリン以外も部屋作ってそうだよなぁ。魔法族の家って見た目と中の空間が全く異なったりするし、隠し部屋が普通にあるらしいし。
この試練の部屋の鍵は年齢と試練で、スリザリンの部屋は蛇語。他の創設者の部屋があるとすれば、創設者由来の何かが関係あるのか──ま、実際に部屋があるのかどうかわからないけど。
「ここも見つけたことだし、スリザリンの秘密の部屋も探してみないか?」
フレッドがニヤリと笑いながら言う。ジョージは口笛を鳴らし乗り気だが、セドリックはやや消極的だった。
「スリザリンの秘密の部屋の中にはとんでもない怪物がいるらしいよ。その怪物を使って、継承者が嫌う者を排除するんだってさ」
「おや、セドリックは怖いのかい?」
「……ダンブルドアでさえ、ミセス・ノリスの石化を解けなかったのを忘れたのかな?」
ジョージのからかいに、セドリックはにっこりと笑ったままクッキーを半分に折る。
ジョージとフレッドは顔を見合わせ、降参とばかりに肩をすくめた。
「ダンブルドアでも解けないのはやばいな」
「ノア、君でも無理だったのかい?」
「んー?あー……試してないけど、石化のアンチ魔法知らないからなぁ。俺は最強だけど、知らない魔法は使えない。ってか、ダンブルドアが知らないって事は存在しないんだろ。魔法を一から作るのも……面倒だし」
「マンドレイク回復薬が出来上がるのを待つのが手っ取り早いってことか」
フレッドとジョージは頷き、「まだまだかかりそうだなぁ」と残念そうにぼやく。
どうやらミセス・ノリスが石化した事を知った無類の猫好きのジニーがかなり落ち込んでいるらしい。早く回復薬ができて、ジニーが元気になればいいと思っているんだろう。──間違いなく猫云々じゃなくて、その日の記憶が無くて沈んでるんだろうな。
「部屋が見つかるにしろ、継承者が見つかるにしろ……早く解決して欲しいよ。ノアのファンが一定の距離を保って尾行してくるの、微妙にストレスなんだよね……」
セドリックがやや憂鬱そうな遠い目をしながらため息をつく。
俺にとっては常に誰かから見られてる事が普通で、そんなに気にしていないが、ミセス・ノリスの一件から俺のファンの一部が親衛隊となり、一定の距離を保ちストーカーしている。
あの文章はスリザリンの秘密の部屋の事で、純血思想のスリザリンの継承者だ、と悟ったファン達は、俺に何かあったら許せないとばかりに四六時中──なんなら朝、ハッフルパフ寮の前から待っているのだ。
「マグル生まれってさ、実際そんなに多くはないよな」
「そうだね。ホグワーツでは十人もいないんじゃないかな」
今ホグワーツに通っていて知ってるキャラは五人程度しかいない。セドリックも十人もいないという認識だし、フレッドとジョージも「もともと珍しいからな」と言う。
確かに、マグルから何十人も魔法使いや魔女が生まれたら、魔法族の秘匿性はここまで守られていないだろう。えーと、マグルとスクイブが結婚して、何世代か後に隔離遺伝的に魔力を持っている子が産まれるんだっけ。
って事は、俺──ノア・ゾグラフも何世代か前は魔法族と関わりがあったのか。
「もう何にも起こらないといいね」
そうセドリックが締めくくり、話題はクィディッチの事に変わった。
フレッドとジョージも本気でスリザリンの秘密の部屋を探そうという気はないらしく、マグル生まれに対する侮辱行為が禁忌となった今、それほど大きなことも起こらないだろうと継承者の事も気にしていないようだった。